機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第33章 詩織ちゃんの新魔法と裏切りの黒魔女

177 裏切りの黒魔女⑵

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「だから、世田谷先輩が研究室の件で事実上移籍した理由も感情も、僕はわからない訳でもないんだ。今の環境ではこれ以上自分を強く出来ない、もしもそう感じたのだとしたら」

 ルイスは一息置いた後、言葉をつなぐ。

「攻撃魔法なんてのは知識もあるけれど、それ以上に才能と魔力だ。奈津季先輩みたいなのは、めったにない例外。 だから戦法や魔力の使い方をある程度マスターしたら、少なくとも模擬戦等では学生も教官も対等だ。
 僕の風魔法みたいな使用者の多い魔法はまだいい。比較研究だの事例からの研究だの開発だの学校で取り組む内容があるから。
 でも世田谷先輩の闇魔法は、学内に他に使用者がいないし、事例も研究もほとんど無い。だからある程度抜き出た存在になってしまうと、その先をどう進めるかが難しいんだ。
 世田谷先輩はきっとその活路を、攻撃魔法科以外に求めたんだな」

「まあそうだけれど、あまり心配してもらわなくても大丈夫よ」

 ルイスがぎょっとして振り向く。
 風呂から早めに上がってきたらしい世田谷が、客間から出てきた。
 浴衣に羽織姿。つまりもう今日は帰る気が無いらしい。

「攻撃魔法研究会の方は蒲田に引き継いだし、学生会には5年の攻撃魔法科はいないでしょ。なのでこの1年は『裏切りの黒魔女』として、今までの味方さんのターゲットになってあげるわよ。そうやって精一杯しごいてあげるのが私なりの愛情かな」

 ルイスが、あからさまにいやな顔をする。

「あまり下級生を絶望に追いやらないでくれ。攻撃魔法科の全員がメンタル頑丈な訳じゃないんだ」

「逆よ。有望な相手じゃないと、手間暇かけて相手してあげないわ。味方になっちゃったけれど2年の理奈ちゃんなんて、なかなか見どころあっていいじゃない。こっちか攻めようと挑発しようと、淡々と性悪な罠を仕掛けまくるあの黒さ。それこそ味方の被害すら道具にして相手を叩きのめすあの悪さ。あれ位の相手でないと面白くないのよね」

「そうなのか」

 ルイスは苦笑いしつつ頷いた。

「あの時は、僕が世田谷先輩に落とされたのを利用して、攻勢に出た教官含む8人をまとめて退場させたんだ。あの試合のトータルはうちの負けだった。しかし双方で一番星をあげたのは理奈だった」

「あの子はえぐいわよね。本気魔法も強いのに、あえて作戦で凝る方を好むから」

 まあ何となく、俺もそんな感じはしていたけれど。

「ところで行儀悪いけど、ちょっと横になるわね。少々食べすぎたわ」

 世田谷はそう言って、正座補助用のクッションを枕に横になる。
 こいつもやっぱりトド組予備軍だったらしい。
 風呂に行く際の妙な動きは、フェイントでは無かったようだ。

「そう言えば皆、食べ過ぎは大丈夫だったか」

「被害甚大ね。鈴懸台先輩と1年女子3人と愛希ちゃんと、あと白人系2人は多分今日は再起不能かな。それぞれぬる湯とか寝湯で伸びていたけれど、動くのすらつらそうな感じだったわ。私も人の事は言えないけどね。胃袋の丈夫さと最大容量には自信あったんだけどな」

 やっぱり、予想通りの面子がトド化していた訳だ。

「魔法医専攻も何人かいるから、問題ないだろう」

 ルイスの言う事ももっともだが、うち1人は精神医療専攻希望で、本人自らトド化している。
 なんて事を思ったところで、客間の方から人の気配がしてきた。
 どうやら露天風呂から、何人か出てきたようだ。

「全員終わりかな?」

 最初に出てきた香緒里ちゃんに聞いてみる。

「まだ結構居残りがいます。多分今日は男性陣は無理です。月見野先輩がまだいるから、問題は無いと思います」

 世田谷の言うとおりのようだ。
 つまり食べ過ぎで動けない連中と、その救護兼状況観察で残っている月見野先輩という構図。

 ただ俺が用のある2人は出てきている。
 なので俺は声をかけた。

「風遊美さん、詩織、ちょっと話いいかな?」

「何でしょうか」

 2人が座卓の処にやってくる。

「詩織、さっきの話風遊美さんにしていいか。例の最強に勝つ方法」

 風遊美さんは詩織ちゃんと似た魔法を持っていて、かつ奈津希さんの事をよく知っている。
 だから一番参考になる意見を聞けると思ったのだ。
 倒れている世田谷も興味があるらしく、少し顔を動かしてこっちを向いている。
 それ以上動く余裕は無さそうな感じだけれど。

「実は、こんな感じで悩んでいるのです……」

 詩織ちゃんから、問題の説明。
 うんうんと頷きつつ聞いていた風遊美さんは、最後に大きく頷いた後。

「そうですね。奈津希の事ですから解けない問題は出さないと思います」

 そう、言いきった。

「でも色々攻めてみたけれど、どれも駄目だったのです」

 風遊美さんは頷く。

「今のままの詩織さんでは無理でしょう」

 風遊美さんは少し考える。
 そして。

「ちょっと待って下さい」

 風遊美さんはそう言って客間に入り、杖を持って出て来た。
 杖は例のヘリテージ3号だ。

 風遊美さんは杖を軽く構えると、何か魔力を放出させている。何かを試している感じだ。
 俺達は黙ってそれを見ている。
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