機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第36章 お役目のない学園祭

189 秋の始まり

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 学生会が学園祭の書類に埋まる頃、俺は研究室で黙々と文章作成に勤しんでいた。
 俺だけではない。等々力、高井戸、恩田も机を並べてうめきながら文章を書いている。

 この部屋内で現在、一番有能さを見せつけているのは世田谷だ。
 自分の書く部分こそ少ないが、杖の性能比較のための実験、俺達が書いたものの英訳、ラフ絵を清書して説明用のイラストにする等の作業を一手に引き受けてくれている。

 家庭事情のせいか英語ペラペラ。
 お絵かきもペンタブ使って軽々上手にこなす。
 攻撃魔法科筆頭だけあって、同じ威力で同じ魔法を連射したりという疲れる比較実験も、余裕かつ楽々と可能。

 世田谷がいなければ、きっと論文や資料作成に数倍の時間がかかったろう。
 この面では感謝してもしきれない。

 さて、研究室にも新しい学生が入ってきた。
 魔技大の3年生である。

 魔技大は3年後期で研究室配属が決まるので、入ってくるのはこの時期になる。
 入ってくる時期は遅いけれど、実際には俺達より1年上の学年な訳で、当然うちの高専から編入した学生も入ってくる可能性がある訳だ。

 そしてやはりと言うか、俺と恩田にとっては無茶苦茶馴染みのある先輩がその中にいた。
 通称『器用貧乏』、魔道具の設計から甘味作成までそつなくこなすが常に報われない悲しき男、創造制作研究会OBの玉川数人先輩である。

「ハローエビバディ。また会えるとは嬉しいぜ」

 という言葉の割に今日も疲れている。
 もっとも俺は、疲れていない玉川先輩を今まで見た事が無いのだが。

「今回は何故そんなに疲れているんですか」

「一般教養の第1希望にも第2希望にもくじ引きではねられた。なのでさっき教務に聞いて、まだ空いている処を求めて探し回った。第6希望でやっとコマを埋められた。もう疲れた。死む……」

 相変わらず、天性の報われなさを発揮しているらしい。
 まあ取り敢えず健在なようで何より……かなあ。

 他に入ってきた3年生は、男1人女3人。
 こちらは高専からではなく、普通に大学1年から組だ。

 ぱっと見では魔法使いでは無さそうな感じだ。
 まあ魔法工学は、魔法を使えなくても研究できる。
 それに魔技大に来るからには魔法に理解あるだろうし、優秀でもあるのだろう。

 今は同じ研究室というだけで、一緒に取り組む事等は特に無い。
 しかし来年魔技大に入ったら、世話になる可能性は高い気がする。
 なのでまあ、お互い上手くはやっていこうと思う。
 実際はあまり接点が無いのだけれど。

 ◇◇◇

 木曜日、午後7時過ぎ。金曜と違い、部屋にいる人数は少ない。
 居住者以外でいるのは、詩織ちゃんだけだ。

 これくらいの人数だと、何か家族って感じがする。
 まあ由香里姉と香緒里ちゃん以外は、血のつながりはないけれど。

「由香里姉は卒業単位は大丈夫ですか」

「ん、余裕よ余裕。もう専門幾つかしか残っていないしね」

 既に大学院も決まっている。

 相変わらず優等生ぶりを発揮しているようだ。

「そう言えば香緒里、学祭終われば第一次の研究室希望調査でしょ。何処か決めた?」

「まだです。一応調べてはいますけれど」

「しっかり調べた方がいいわよ。下手すれば院までお世話になるんだから。修と同じというのじゃなくて、ちゃんと自分で適性とか志望とか考えないと」

「由香里先輩はどうして決めたれすか」

 ジェニーが尋ねる。

「ジェニーと同じだと思うわよ。氷系魔法だと、選択できる研究室は1つしか無いわ。攻撃魔法科で研究室を選べるのは肉体強化系位よ」

「そうれすね。補助魔法科も、医学系なら選択肢は多いのれすが」

 補助魔法科は、4年になる時点で所属研究室は決定している。
 そしてジェニーの専門は、レーダー魔法を中心にした感知系。
 研究室は事実上1つしか無い。

「美南ちゃんみたいに他の科の研究室って荒業もあるけどね。だったら余計に事前準備が必要だけれども」

「私はロボットを作りたいですよ」

 3年生が参戦してきた。

「ロボット系の研究室は2つあるぞ。魔法生体工学か魔法制御工学系か」

「スーパーロボット系やリアルロボット系は無いですか」

「そんな物は無い」

 ゲームじゃないんだから。

「参考までに修、魔法工学科はどんな研究室があるの」

「今の時点では魔法基礎工学、魔法基礎理論、魔法情報科学、魔法制御工学、魔法制御科学、魔法生体工学の6つかな。うち魔法基礎理論は他の学科と共通で、実際は攻撃魔法科の主管。ただ魔法工学科自体が魔法学内では学際的な学科だから、他の学科の研究室に行くのも例年何人かいる。ジェニーのところも1人行ったと思うけれど」

「箱根先輩れすね。メカ強い人がいると何かと助かるれすよ」

「という訳で、選択肢はその気になればほぼ全学科の全研究室ってのが実態。過去には補助魔法科医学系に行った例もあるらしいし。無論他の学科に行くなら、ある程度事前に話を通しておいたほうがいいけどさ」

「良くも悪くも選択肢はよりどりみどり、って感じね」

 由香里姉は頷く。

「で、リアルロボット系はどれがお薦めなのですか」

「聞くなら俺より適任者がいるから後に紹介してやる。女装男子だけどな」

「オスカーさんなら、この前飯奢ってもらったですよ」

 オスカーさんとは魔法制御工学研究室所属で俺の親友、上野毛君の女装時の仮名だ。
 まあ常に女装しているのだが。
 上野毛め、既に青田刈りの毒手を詩織ちゃんに伸ばしていたか。

「一緒に人工女性ファティマを作らないか誘われたので、どっちかというと巨大電気人形ゴティックメードの方が作りたいと返事しておいたのです。それでもいいから宜しくと言っていたのです」

 有望な4年生にコナかけるのは多いけれど、3年まで手を伸ばしていたか。
 まあ俺も3年の時には既に新地先生に誘われていたしな。

 そう思って気づく。
 よく考えたら香緒里ちゃんは、学科面では現4年魔法工学科の筆頭。
 何処かの研究室に誘われていてもおかしくは無い。
 というか思い返すと、香緒里ちゃんに対してのそういうモーションを幾つか目撃したような気がする。

 その事を香緒里ちゃんに聞こうとして、そして俺は考え直す。
 今それを言わないというのは、それなりに何か理由があるのかな、と。

 なら今は聞かないのが賢明なのだろう。
 だから俺はこの件は、あえて今回はこれ以上聞かない事にした。

「そう言えば修は大学の転入試験、大丈夫なの」

「一応推薦枠には入っているので大丈夫かと……」
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