機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第36章 お役目のない学園祭

194 魔法実演会、という名の宴会

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 木曜日は、雨だった。
 コスプレ人口も外でのお祭り騒ぎも、ぐっと減る。
 きっと学生会にも実行委員会にも、つかの間の平和が訪れていることだろう。

 しかし何故か、新地研究室は異常に騒がしかった。
 三田さんがある理由で詩織ちゃんグレムリン友達フレンズを呼び込んでしまったからだ。
 以降面倒なんで、詩織ちゃん以下をまとめてグレムリンズと呼んでおこう。

「まずは軽くファイアストーム!」

「おーっ!」

 パチパチパチ。炎を纏った渦巻きが、ゆっくりと研究室内を進んでいく。
 無論威力は相当に調節されているけれど。

「アイスウォールで防御ですわ。ついでにクールミスト!」

 台詞とともに出現した氷の壁と霧が炎の竜巻を食い止め、消し去った。

「おーっ!」

 パチパチパチ。
 しかし微妙に疑問が生じたところで、愛希ちゃんが理奈ちゃんに突っ込んだ。

「ひとつ質問なんだけれど、クールミストって攻撃魔法か?」

「風呂上がりに気持ちいい涼しい霧のシャワーですわ」

 愛希ちゃんと理奈ちゃんによる、掛け合いながらの魔法披露。
 要はグレムリンズによる魔法の実演会である。

 リアル魔法にそれ程馴染みがない三田さんが、詩織ちゃんに魔法を色々見せてくれるよう頼んだのがきっかけだ。
 それに詩織ちゃんが、愛希ちゃん理奈ちゃん美雨ちゃん沙知ちゃんに、何故か上野毛まで招集。
 その結果が今やっている魔法実演会という訳だ。

 この研究室は工場としても使うため、壁や天井に耐魔法処理をしているし広さも結構ある。
 なのでこういった催しをするには、困った事に最適だ。

 なお室内には三田さん春日さん目黒さんの他に、3人の知り合いらしい女子大生5人。他に研究室にいた玉川先輩、俺、世田谷という感じだ。
 ちなみに等々力と恩田は上野毛を見て速攻で逃げた。俺も逃げたかったが世田谷に捕まった。

「いざという時に収拾つける人がいないと不味いでしょ。それに長津田さえ確保しておけば多少備品や部屋を壊しても直してもらえるし」

 おいおいおい、後半部分に本音ダダ漏れだ。

 なおグレムリンズへの報酬は食べ放題と飲み放題。
 なのでゼミ会議用のテーブル上には、清涼飲料水やチューハイや食べ物等がわんさか。
 魔法の紹介も、もはや宴会芸のようになっている。

「次は修先輩!例の女性お持ち帰り魔法やって下さい!」

 総合司会を何故かやっている沙知ちゃんが、俺を指名した。

「まさか長津田、そんな事まで……」

 勿論俺に心当たりはない。

「待て世田谷、何かの間違いだ。綱島何だよ、その女性お持ち帰り魔法って!」

「あのふらふらにして立てなくなる奴です」

 ああ、あの三半規管揺らす奴か。言い方が悪いぞ。

「あと誰か被害者役1名、酒とオトコに強いと自信ある方!」

「よーし、私行っちゃうよ!」

 ほろ酔いモードの三田さんが参戦。

「あと、倒れると危ないので誰か解除役をお願いします」

「はいはい」

 目黒さんが出てきた。

 ちなみにここまでで、俺の意志は誰も聞いていない。
 何故か司会進行している沙知ちゃんが、勝手にやっている。

「では修先輩、必殺お持ち帰り魔法、どうぞ!」

 やるの? まあ、やるけどさ。
 この距離なら特に難しい事は無い。魔法で一撃。

 ただでさえほろ酔い気味の三田さん、あっさり倒れる。とっさに支えた目黒さんごと、見事に倒れる。
 ただ障害物の無い方向だったので、怪我等は無い。

「ははははは、世界が回る回っているぞ~っ。ぐーるぐる」

「やらせじゃないよね。酔っ払いだし」

 目黒さん、不審気?

「なら目黒先輩も、どうぞ!」

 司会からの指示だけれど、やるの? やるけどさ。

「うわうあうわあああ、確かにこれ目が回る。これは確かに立てなはははは、面白いわ」

 短めのスカートでのたうち回るのはやめて欲しい。

「雨の初寝坂のあの魔法、本当に出来るんだ……」

 あ、何かNGワードが出てきた。

「あれは、あくまでフィクションですから本気にしないで下さい」

「なお著者は綿密なる取材の上、執筆しております」

 こら著者つなしまさち!誤解を招く表現はやめろ!

「それにしても天気が悪くて残念ね。晴れていたら、詩織ちゃんのフリーフォールが楽しめたのに」

 その名の魔法は初耳だ。

「何ですかそれは」

「上空500mに出て、100m位自由落下するのです。なかなか楽しいのですが今日は雲があるので出来ないのです」

 そんな危険な遊びをしていたのか。まあ詩織ちゃんにとっては危険じゃないのだろうけれど。

「ではここで、世田谷先輩による闇魔法使用の怪談をお楽しみ下さい」

 沙知ちゃんは先輩でも容赦なく指名。

「えー、やるのー」

 そしてノリノリで前に出る世田谷。

 同時に辺りが、すっと暗くなり重くなる。
 ただ電気を消したのとは異なる感覚。全ての光が塗りつぶされ、そして暗闇に身体が押しつぶされるような感覚。
 その中で世田谷の声だけが聞こえる。

「昔々、まだ聟島が特区で無く、自然保護もあまりうるさく言われていない頃のお話です。ここ聟島は、ヤギの楽園でした……」

 ◇◇◇

「そして自然保護の名目で惨殺されたヤギたちの恨みは、今でもこの聟島に残っているのです。そう、ほら、あなたの後ろにも……」

 唐突に背後に気配を感じる。振り向くと何かがぼんやり見える。
 目を凝らすとそれは形をとって迫ってくる。2本の角を伸ばしたヤギの骸骨が、カタカタ骨を震わせて迫ってくる……

「ギャー!」

 ふっと部屋が明るくなる。元の研究室だ。

「どうもありがとうございました」

 普段通りの表情で、世田谷が戻ってきた。
 話自体はたいして怖い話ではない。しかし演出が、あまりに怖すぎる。
 俺は3度目で免疫がついている筈なのだけれど、それでもやっぱり心臓に良くない。
 免疫なしの女子大生連中はまだ固まっている。

「じゃあここで雰囲気を変えるために、玉川先輩、鉛筆からダイヤモンド製造してみて下さい」

「えー、あれ、疲れる……」

「はいここで諦めて! オスカーちゃんにもルビー作ってもらいますから」

 沙知ちゃんは学生会に関係ない先輩にも容赦なくそう言って、玉川先輩に鉛筆1ダース、上野毛にサビの出た何かのアルミニウム部材を渡した。

「それでは皆でカウントです。皆でいかないとリビングデットやオスカーちゃんがちゃんと作ってくれませんよー。さあ10から行きます、はい、10,9……」

 ダイヤとルビーと聞いて女子大生連中が生き返った。
 カウントが進んでゼロ!の声と同時に玉川先輩と上野毛の手元が白く輝く。
 そして。

 上野毛の手元には見事な赤い宝石、そして。

「疲れた。研磨その他は長津田に任せた」

 玉川先輩から投げ渡された黒い鉱石みたいなものを、俺は受け取る。
 審査魔法で見ると、確かにダイヤモンドが生成されていた。
 まあ仕方ない。魔法で一気に加工研磨する。

「ほい、ブリリアンカット済み」

 一番席から近くて、まだしっかりしている春日さんに渡した。

「えー、これ、本物?」

「モース硬度計どっかの研究室にない?」

 大騒ぎだ。
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