異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
28 / 176
第5章 微妙に休まらないバカンス

第27話 怪しい別荘

しおりを挟む
 ほぼ1時間ちょうどで乗合馬車はボリアスコのターミナルへと到着。俺達同様いかにもリゾートですよという皆さまが降りていく。

「さて、場所はどの辺かな」

 ターミナルは街中の広場状になった場所。そこから四方向に道路が伸びている。

「少し歩くらしい。海沿いで馬糞が臭わない程度には距離があるって言っていた」

 確かに馬車のターミナル付近は結構臭う。まあ馬車のターミナルなんで何処でもそんなものだし、ある程度は仕方ないのだろうけれど。
 ミランダを先頭に海側へ向かって歩くこと50腕100m程度。『直進:公共ビーチ』と書かれた看板を左に曲がる。

「ビーチの方じゃないんだ」

「まあ任せておけ」

 どんな場所なのだろう。
 右へ左へと細い道を抜けて大きな屋敷らしい門の前に出た。ミランダは迷わずそこの門に手をかけ、暗号呪文を唱える。

「何か大きそうな建物だね」

 フィオナの感想に呪文を唱え終わって門を開き始めたミランダが頷いた。

「ゲオルグ商会の別荘だからな。本来はやんごとなきお客様をお迎えしたり接待したりする場所らしい」

 おいおい。

「そんな場所借りても大丈夫なのか?」

「グードリッジさんはもうこの夏は使わないって言っていたからな。貸してくれといったらあっさりOKしたよ。あの水ポンプ、もう完成して順調に水を丘の上の開拓地に流しているらしくてさ。こんな別荘で良ければと二つ返事で貸してくれたよ」

 本当にいいのだろうか。その思いは中へ入り、別荘本体を見た時に更に強くなった。何だこの立派な建物は。大きさが俺達の家以上だし壁が白いし。

 ここスティヴァレの建物は大体外壁は赤からオレンジ系統の色だ。土を壁に塗り付け表面を魔法で焼くという製法上、どうしてもそんな色になる。
 しかし上等な建物だと焼いた後、草木灰を塗ってもう一度焼いて表面をガラス質に仕上げる。そうすると白とか緑色とかの艶のある仕上げになるのだ。
 無論手間がかかるので金持ちの家くらいしかそんな事をやっていない。しかも白色に仕上がる草木灰は結構貴重品で高価な筈だ。

「立派な建物ですわね」

「貴族クラスの賓客を招いたりするらしいからな。ああ見えてグードリッジさん、手広く色々やっているし。多分あの馬車も親父経由で設計図を手に入れて作っているぞ。さっきの馬車の台車部分にゲオルグ商会の刻印があったしな。
 ただこの別荘の売りは大きさや豪華さじゃない。別荘らしく色々といい感じの施設があるらしいんだ」

 どういう事だろう。そう思いつつ、まずは中に入ってみる。

 玄関内はまあ、普通の貴族館に近い造りだ。広めのエントランスがあり、受付風のスペースがあり、階段があるという感じ。

「今回実際に使うのはこっちの場所だ」

 勝手知ったる他人の家という感じでミランダが案内する。出たのは広い海が見渡せるリビングだ。

「この窓の一枚ガラス、どれくらいするんだろう」

 フィオナがそんな事を言う。透明なガラスというのはスティヴァレでは高いのだ。

「まあその辺は豪華さにも振っている別荘だからな。でもいい眺めだろう」

「本当ですわ」

「でもこの眺めだけじゃないんだ。荷物を置いたら次行くぞ」

 落ち着く暇もなく追い立てられるように移動。食堂らしい場所とキッチンの横を通過して、そして出た部屋は……待てこれは!

「風呂ですね」

 うちの風呂より遥かに広い風呂だった。4人で入っても余裕位の浴槽が2カ所もある。

「これなら全員で入っても大丈夫ですわ」

 おいテディ待てそれは俺にはちょい厳しい。夜に色々やっているじゃないかと言わないでくれ。夜そこそこ暗い中とこんな明るく広い場所でというのは色々違うのだ。

 そしてやはり大きく透明なガラス窓の向こうは海だった。そこそこ広い階段が海、浜辺らしき場所まで続いている。

「この先はプライベートビーチになっている。あまり広くは無いらしいけれどさ。だから海で思い切り遊んでからこの風呂場で砂と潮を落としてなんて出来る訳だ。しかもプライベートビーチだからムフフな事をしても問題ない。どうだいアシュ、なかなかいいだろう」

 良すぎて大変ヤバそうだ。だから回答は保留しておく。ついでに更にヤバい事になる前にちょっと話を逸らせておくとしよう。

「取り敢えず昼食を食べてから遊ぼうか。色々買い出してあるからささっと作れるけれど」

「ならアシュの手伝い1人で、もう1人は私と寝室の整備だな。2階にちょうどいい寝室があるらしい。うちの家以上にでっかいベッドがついているそうだ」

 何だそりゃ。何用なのか思い切り問い詰めたい処だ。まあきっとナニ用なんだろうけれどさ。
 ここは行楽地にある商家の接待用別荘。そういった接待もやりかねない。

「なら今日は僕が手伝おうかな」

「なら私は寝室の方を担当しますわ」

 あっさり分担が決まる。俺の手伝いはフィオナだ。

「それじゃまず、食べ物を保存庫に入れておこうか」

「生ものとかは収納袋に入れたままの方が痛まなくていいかもしれないね」

「ならお昼に使う分だけ出せばいいか」

 調味料だのパンだの色々取り出す。
 さてそれでは調理に取り掛かろうか。今回はマヨネーズが手に入った。ここスティヴァレではマヨネーズと言わずメルカソースと言うらしいけれど。
 これで簡単にサンドイッチでも作っておこう。

「それじゃフィオナ、この鰹の切り身をオリーブオイルでじっくり煮てくれ。泡が出ない程度に。ニンニクとかハーブは適当で、まあ任せた」

「いつものオイル煮でいいんだよね」

「そう、それで」

 一方で俺は卵を魔法で一気にあたためてゆでたまごを作る。
 予定ではツナサンドと卵サンド、ハムチーズサンドを作るつもり。簡単だし美味しいしちょうどいいだろう。

 でもある程度晩飯も仕込んでおいた方がいいのかな。色々疲れる事態になってしまう可能性も否定できないから。

 収納袋に入れておけば痛んだり腐ったりする事は無い。だからピザでも何枚か焼いておくとしようか。ローストチキンやポテトサラダ等も。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...