異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第5章 微妙に休まらないバカンス

第28話 悶々とした夜

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 皆さん疲れてぐったりと眠っている。まあ仕方ない。遊び過ぎたのだ。
 遊ぶための海なんて俺は初めて。テディ達もそんなに経験は無いだろう。

 やたら塩辛く目に入っただけでもけっこうしみる海水。腰ちょっと上までつかっているだけで波でふわっと身体が浮く感触。よく見るとあちこちにいる色々な生き物。

 傍から見ると海に浸かったりちょっと泳いだり歩いたりするだけ。しかしそれが無茶苦茶楽しい。
 つい全員暗くなるまで遊び惚けた。

 その後風呂で結構酷い日焼けに気づいて全裸で治療魔法をかけあったり。『他に誰もいないしいいよな』とそのまま裸族化して俺が目を覆いたくなったり。その状態で夕食というとんでもない事を決行されたり。
 挙句の果てにはそのまま全員で同じ巨大ベッドの上で寝てしまった。

 さて、俺は3人程ぐっすり眠れそうな状態では無い。
 別に体力をセーブしていたからではない。実際は結構疲れているのだろう。でも眠れない理由があるのだ。

 今日の午後は3人に水着だの全裸だの色々見せつけられた訳だ。でも正直エロい事は俺からは何もしていない。
 寝室でも疲れで皆さんあっさり眠ってしまった。しかも『疲れた』とか『他に誰もいないしいいよね』とか『皆さんそうなら私も試してみますわ』とか『新鮮な解放感ですわね』とかで、未だに全員全裸だ。

 それがその気になれば触れるし抱けるし同じベッド上にいる。色々丸見え状態で。
 俺がどういう状態か察してくれ。悶々状態で疲れマラギンギンなのだ。

 勿論3人とも俺の嫁みたいなものだし、このままヤっても文句は出ないだろう。しかし意識の無い状態に突っ込むというのはやっぱりどうかと思う。かと言って『やらせろ!』と起こすような度胸、俺には無い。

 間違いなくハーレム状態なのにお預け状態。これははっきりいって苦しい。こんな状態で眠れる訳が無い!

 仕方ない、どこかで自己発電しぬいてこよう。そして別の部屋のベッドを使わせてもらおう。この部屋に戻ったのでは抜いて賢者モードになってもじき解除されてしまう。

 テディの柔らかい大きな胸はいつも通りとして、ミランダの抱き心地のいい大きさの身体が魅せる曲線とかフィオナの丸っこいお尻とかもうヤバくてしかたない。尺取り虫のようにベッド足元方向へ移動してなんとか脱出。
 なお3人と違って俺は裸族ではない。男には危険な時ほど隠したい代物があるのだ。まあパンツにガラパーといういい加減な寝間着スタイルだけれども。

 忍び足で寝室を出て廊下を歩き、途中キッチンで水を飲んでちょっと落ち着いて、そして風呂場へ。作業のごとくさっさと抜いて痕跡を流しついでに風呂で身体を洗い直して一息。更にちょい温度低めのお湯で身体を流してやっとすっきりした。

 しかしすっきりしたのはいいが目が覚めてしまった。このままでは眠れそうにない。ちょっと散歩でもしてくるか。

 ◇◇◇

 俺は裸族ではないので服をちゃんと着る。まあ下着とガラパーだけだけれども。
 風呂場から外へ。思った以上に外は明るい。ちょうど満月近い月が出て煌々とあたりを照らしている。

 海面に浮かぶ波に月の光が反射して見たことがない景色だ。これは明日辺り3人に見せてやりたいな。そう思いつつゆっくり階段を降り、砂浜へ。

 砂浜は思った以上にいい感じだった。黒っぽい岩と白い砂浜。それらが月に照らされていい雰囲気だ。
 明日は絶対3人を連れてこよう。そう思った時だ。

 階段の上の方から人の気配がした。誰かが起きてきたかな。そう思って振り向いてみて気付く。
 テディでもミランダでもフィオナでもない。あの3人ならこの距離でも気配とか魔力の感じで分かる。
 なら誰だ一体。ここは私有地の筈なのに。

 俺は暗視魔法を起動する。
 サラサラという感じの長い金髪。ほっそりとしたやや小柄なシルエットに整った顔。
 俺は相手が誰か一瞬で理解した。間違いなく危険人物だ。
 一見綺麗な女性に見えるけれど女性じゃない。さらに言うとこの国でおそらくもっとも有名な人物だ。

「やあ初めまして。以前妹が世話になったね」

 どう対応すればいいか咄嗟に考える。この方は確か形式張った事は嫌うと話を聞いた事がある。敵意も感じられないしむしろ友好的だ。

 俺としては本当は見なかった事にしてささっと逃げたい処だ。
 しかし無理だろう。台詞からして俺に会いに来たのは間違いないし。事情は全く不明だけれども。
 なら出来るだけ自然に、形式張らないように対応した方がいい。

「お初にお目にかかります。アシュノール・カンタータです。陛下」

 台詞とともに無礼にならない程度に軽く頭を下げる。
 そう、彼はロッサーナ殿下の兄にしてこの国の現国王。ジョーダン3世国王陛下だ。

「面倒な儀礼はなしとしよう。以前から君と話をしてみたいと思ったんだけれどさ。出来れば妹《ロッサーナ》に気づかれたくなくてね。だから彼女たちのいない時を狙っていたんだけれどなかなか機会が無くてさ、結果的にこんな夜になってしまった。すまないね」

 確かに俺はだいたい3人の誰かと一緒にいる。だから隙がないというのはそういう意味では事実だ。
 でもまさか行動を監視されていたのではないだろうな。いくら相手が男とはいえ自家発電現場を確認されるのはちょい勘弁してほしい。

「あらかじめ言っておくと、君が30腕60m以上誰からも離れていると僕がわかるような魔法をセットしておいたんだ。いちいち監視する余裕は無いしね、僕にも」

 ちょっと安心して、いやちょっと待ったと思い直す。

「そのような魔法、陛下は遠隔地から自由に仕掛けられるんでしょうか?」

 聞いた後にぶしつけな質問だっただろうかと思う。でも好奇心が先に立ってしまったのだ。何せそんな魔法、普通に考えれば不可能だから。

 俺の日本語書物召喚魔法は遥か離れた異世界から書物を持って来る。
 でもそれは、
  ① 相手が書物という”物”であり、
  ② 自分で対象そのものを確認せず魔法で自動的に選別させている
からこそ出来る魔法だ。
 相手が、
  ① 特定の人物で、
  ② 目視出来ない距離に存在して
  ③ 相手を確認した上で条件付きの魔法を仕掛ける
なんて事は普通出来ない。
 こういった魔法は対象を目視して行うものなのだ。

「まあその辺は後で説明するよ。今回僕が来たのはその辺を含めて、君に色々お願いをする為さ。まずは一つお願いなんだけれどさ。これからは2人だけの時は変に畏まったり普段と違う言葉遣いをしたりしないで欲しいんだ。
 実際そういうのは仕事中だけでもう充分。とはいうものの僕はロッサーナと違って友達が少ない。結果的に常に国王陛下なんて口調で接される訳だ。もうたくさんだと思うのにね。だからこうやって個人的に会いに来た君くらいは妙な敬語を使わないで欲しい。正直拗ねたくなる」

 何だよその拗ねたくなるってのは。大人の男の台詞じゃ無いぞまったく。しかし友達が少ないというのは環境を考えれば理解できる。

 この陛下、国王になるまで色々あった方だからな。幽閉されたり殺されかけたりクーデター起こしたり。中等学校からはろくに通えていないし、クーデター以降の中央集権かつ国王による開発独裁体制により貴族のほとんどは敵状態だし。
 ただ友達にすると色々面倒臭そうなタイプでもある。何せ国王陛下だ。

 そんな事情と陛下に今言われた色々を考慮した結果、俺の返答はこうなる。

「前向きに検討します」

 ぷううっ。奴め思い切り吹き出しやがった。

「いや悪い。そういう冗談のセンスは僕には無いからさ」

 俺は真面目かつ最大限に無難に返したつもりだったのだが。まあいい。これでも奴は国王陛下だしその辺は大目に見てやろう。一応国内最強の魔法使いらしいし怒らせて勝ち目はない。
 今のところ危険は感じないし表面的にも実際にも友好的な感じだ。そして俺は面倒ごとは避けるし長いものには巻かれる主義なのだ。
 基本的には。
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