異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第7章 イベントが多すぎる

第42話 前日夜の第一回戦後~当日第一回戦直前まで

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「何か最近、アシュ、逞しくなったよね。この辺とかこの辺とか」

 フィオナに裸の脚とか肩とかつままれてぎくっとする俺。確かに魔法武闘会に備えて鍛えているからな。より速く的確に動けるように。

「体力が無いからさ。最近は毎日散歩するなり一応努力しているんだ」

「あんまり無茶はしないでね。テディが心配するから」

 ちょっと待ってくれ。この台詞って、ひょっとして何か感づいているうえでの台詞なのだろうか。

「まあ全部が全部テディに打ち明けてとまでは言わないけれどね。アシュにも理由があるだろうから」

 おいおい何か完全に感づいているだろう。しかもフィオナの口調だと最低でもテディ、下手すると全員が。
 俺はわからない事は聞いてみる主義だ。無論魔法武闘会の件は言わないけれど。

「何かおかしいところでもあったか、俺の行動?」

「アシュは割と素直だからさ、言わなくても行動に出るんだよね。今は何かに備えて身体を鍛えている感じかな。前とは違って仕事の後に必ず一人で散歩に行ったりしているし。12月最初の週の分余分に仕事をやっている最中にも関わらずね。
 ついでに言うと只の散歩じゃない事も確かだよ。もう涼しい季節なのに大汗かいていたりするし」

 うーむ、確かにそう言われればそうだ。

「僕としては特に心配はしていないよ。アシュの事だから何やかんや言ってそれなりの目算があってやっているのだろうと思うしね。ミランダは僕とテディの中間かな。心配するほどじゃないけれどちょい気になるってところ」

 なるほど。全員気付いているなりにスタンスは違う訳か。

「悪いな。隠しているようで」

「言わないという事は言えない理由があるんだろうしね。でもその場合はあくまで『何でもない』と否定しなきゃ。そうでもないと隠し事を認めている事になるよ」

「わかった。以後気をつける」

「まあその辺の素直さもアシュのいい処なんだけれどね」

 うーむ。しかし陛下に誰にも言うなと言われている。だから仕方ない。

「という事で今日の僕のお話はおしまい。アシュから僕に言う事はある?」

 うーむ、フィオナに言う事か。

「特にないよな。強いて言えば何か他に希望は無いかなくらいだな。フィオナにも色々頼んでいるしさ。特に医学書追補版はほぼ任せきりだし。もっと仕事を減らそうとか別の事をやりたいとか」

「僕は今の環境に満足しているよ。今の医学書追補版、やりがいもあるしね。調べる事が多くて知識も身につくし。
 それにさ」

 フィオナは俺にくっついてきて、そして耳元でささやくように言う。

「言動は頼りなさそうな癖に実はなかなか頼りがいがある誰かさんが大好きだしさ」

 こらフィオナ、今のは反則だぞ。そう思いつつ俺はフィオナを抱きしめる。

「ありがとう、フィオナ」

 困った事に、申し訳ないとも不釣り合いだと思っても、俺も3人が好きでたまらなかったりするのだ。勿論フィオナも。
 俺は抱きしめた腕を少し緩めて、ちょい深めのキスをして、そして…… 

 ◇◇◇

 そして翌日、12月1日。とうとうこの日が来てしまった。サラが作ってくれた美味しいパスタとサラダを食べて出発だ。
 荷物はお昼ご飯のサンドイッチとレモン水、説明資料として名目上持っていく揚水装置関連の設計図と各種資料。そしてこっそり忍ばせた黒子衣装と魔法杖。これらが入った収納袋を肩にかけ、家を出る。

 一応一通りトレーニングはした。筋力も孫悟空&仙豆方式で上げたし目を瞑ったまま行動する練習もした。詠唱無しでも空間操作魔法を使えるようにした。

 それでも基本的に俺は戦いというのが苦手だ。性格的にもそうだし実戦経験なんてのも皆無だし。学校での剣術訓練でも攻撃が下手、逃げるのと避けるのは上手く、全体としては中位の評価だった。
 でもまあ陛下のご命令、いや御願いとあればやるしかない。王妹殿下、テディ達の大事な先輩の今後に関わってくるらしいし。

 国王庁の受け付けで手紙を見せて名乗る。すぐに担当と称する男がやってきた。

「それではご案内いたします」

 そんな台詞の後、建物の4階、かなり隅の方の部屋へと案内される。部屋には鎧だの武器だのが並んでいた。
 男は秘話魔法を展開してから口を開く。

「陛下秘書官のヴィットリオと申します。おおよその事は陛下から伺っておりますのでご心配なく。
 もし鎧や武器を使われるのなら、こちらにある程度ご用意してあります。もし気に入った物がなければどのような物が必要か言って頂ければ、ご用意できるものを探してまいります。
 なおこの件は私以外には陛下のみご存知です。ですからこの部屋を出る際は、その辺のご注意をお忘れなく」

 なるほど、これはありがたい。

「基本的にはこの部屋を空にするつもりですが大丈夫でしょうか」

「問題ありません。この部屋は秘書室の方でこの1週間借りた状態になっております。この部屋は魔法的に施錠状態にしておきますので、アシュノール殿と私以外の者が出入りする事もございません」

 陛下がその辺色々手を回したのだろう。相変わらず準備がいい事だ。

「会のスケジュール等についてはそちらの机上に資料として置いておきました。本日は朝11時の開会式からとなります。集合は10時ちょうど、闘技場南側入口から入って左側の待合室となります。
 私はこちらで待機しております。御用があれば何なりとお申しつけ下さい」 

「何かずっと待機して貰うのも申し訳ないですね」

「ご心配なく。待機も仕事のうちですから。ラツィオからの出張手当もついておりますし、暇つぶしの本も持ってきております」

 折角だから一通り武器や鎧等を見てみる。
 おっと、この革鎧はなかなかいいかな。色も黒だし見かけより柔らかいし何より軽い。黒子衣装の上からも合いそうだ。
 一応合わせてみるか。

「着装、俺、黒子衣装。起動」

 昨夜準備した着装魔法でささっと着替える。うん、これはこれでしっくりくるし動きやすい。
 小金貨1枚10万円分の価値は充分ある。普段使いは出来ないけれど。

「着装、俺、目の前の革鎧。起動」

 うん、サイズ感もちょうどいい。動きも不自由なところは無いようだ。
 しいて言えばずっと着ていると蒸れるかもしれない位か。その辺は魔法で適宜通風すればいいだけだ。

 武器はどれも重そうだ。魔法杖もちょい豪華すぎる。これは用意しておいた黒い魔法杖で充分だな。
 出して構えて、基本的な杖術の動きで確かめてみる。問題ない。これで行くとしよう。

「除装、革鎧、起動」

 脱いで、そして机の方へ。
 集合時間までまだ1時間程度はある筈だ。移動するのは9時半の鐘の音を聞いてからでいいだろう。
 だから用意されている資料を確認させてもらう事にする。

 資料はなかなか充実していた。単なる式次第とかだけでなく、出場者の下馬評や昨日夕刻時点での賭けのオッズなんてのまである。

 まずは開催要領から見て行こう。
 本大会の出場者は175名。出場者の資格は、
  ① 過去5年以内の魔法武闘会で第1回戦突破以上の成績を残した者
  ② 過去の大会でベスト8以内に残った者及びその者に推薦された者
  ③ 軍主催の訓練会等で優勝またはそれに準ずる成績を収めた者
  ④ 冒険者ランクが単独でB以上の者
  ⑤ その他これらに準ずる強さがあると認められた者
となっている。

 ちなみに俺は⑤で、『本年5月、単独で赤龍を討伐した実績から、本大会に出場するに足る強さがあると認める』となっている。
 勿論龍なんか討伐した事は無い。陛下がでっちあげた架空の実績だ。

 まず1回戦は生き残り戦。10人または11人が会場に入り、最後の1人になるまで戦うという方式だ。手段はなんでもありで、魔法でも武器でもその両方でもOK。

 闘技場内は保護魔法が働いているからよほどの事が無い限り死ぬことは無い。万が一腕や足がなくなっても試合終了時には完全に治療してくれるそうだ。そんな環境で全力を出してやりあって、最後に残った者が1回戦突破となる。

 そうやって16人が選出されたところで第2回戦。ここから5回戦までやって、更に3位決定戦もやって順位を決める訳だ。

 なお同じ日に連戦はしない事になっている。だから試合開催時間は1回戦がある初日と2日目が一番長く、3日目、4日目となるにつれ減っていく。しかしその分色々と熱狂度は増すらしい。俺は見たことがないのでよくわからないけれど。

 さて、どんな連中が出るのかな。そう思った処で時を知らせる鐘が半鐘で鳴った。9時半だ。

「着装、俺、目の前の革鎧。起動」

 革鎧を着こみ、更に魔法杖を出して準備OK。

「それでは行ってきます」

「お疲れ様です」

 俺は移動魔法を起動する。
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