異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第8章 熱闘・魔法武闘会

第49話 明日のセコンド

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 記者をまくのには古典的な手段を使わせていただいた。具体的には受付で『帰る』旨を申告した後、『最後にトイレに寄ってから帰るから』と言って一度中へ戻り、そこから移動魔法を起動して家に帰るという手順。

 何せ玄関から出た先にはもう見るからに記者ですという連中が出待ちしている。だから仕方なくそうなってしまった訳だ。
 第一試合、それもあっさり終わった為、朝9時半過ぎには俺の部屋に帰着。黒一色の怪しい服装からいつもの服装に着替え、事務所へ。

「ただいま」

「おかえりなさい、早かったね」

「1試合だけだからね」

 事務室にはミランダ以外の全員が揃っている。サラやナディアさんもだ。

「どうでした、試合は」

「今日の相手はナディアさんほど強くなかった。俺がチート魔法を使っているせいもあるけれどさ」

「今日の相手はアンジェロ百卒長でしたね。でしたら確かにアシュノールさんの相手にはならないと思います」

 ナディアさんは彼を知っているようだ。でも俺の相手が彼であることを何故知っているのだろう。

「トーナメント表ってこっちに置いてあったっけ」

「号外が出ていたよ」

 フィオナが号外のトーナメント表部分を広げる。名前と対戦時間が入った、俺の貰ったパンフレットとほぼ同等内容のものだ。

「仕事も余裕ペースだからさ。魔法武闘会の基礎知識や対戦相手についてナディアさんに教えてもらっていたんだよ」

「今まで興味は無かったのですが、アシュが出るとなると身近に感じられますね」

「でもアシュノールさん、魔法武闘会に出られるほどお強かったんですね」

 おいサラそれは誤解だ。

「俺は強くないぞ。ただ特殊な魔法が使えるだけだ」

「魔法も実力です」

 ナディアさんに言われるとそれ以上言えなくなる。

「それに今日の相手のアンジェロ百卒長も決して弱くはありません。騎士団でも伯爵位以上及びその子弟の中ではかなり強い方です」

「つまり全体の中ではそう強くはないって事ですわね」

 テディの口調以外は厳しい台詞にナディアさんは苦笑する。

「ただアシュノールさんがこれから先対戦する相手はアンジェロ百卒長とはレベルが違う相手になります」

 まあそうなるよな、当然。

「どんな相手になりますか」

「あくまで私が知っている相手だけですけれども」

 そう言ってナディアさんはトーナメント表を指す。

「2回戦ではそれぞれ、有力候補とそうでない対戦相手が当たっているように見えます。2回戦の第2試合で勝ち残り3回戦第1試合でアシュノールさんの次の相手になるのはおそらくこの方、ヴィンセントさんです。A級冒険者で典型的な早撃ちタイプの魔法使いになります。使用する魔法そのものは一般的なものばかりですが、無詠唱でとにかく早く多く魔法を繰り出してくるタイプです。

 次に順調にいくと4回戦・準決勝で勝ち上がってきてアシュノールさんと対戦する可能性の高い方はこの方、通称ゴーレムマスターのオッタービオさんですね。この方は通称通りゴーレム使いです。ゴーレムを複数召喚して操る事が出来る特殊な魔法を持っています。ただゴーレムは数が多くても速度が比較的遅いので、落ち着いて対処すればアシュノールさんなら問題は無いでしょう。

 そして最後、優勝戦まで上がってくる可能性の高いのはこの方、ソニアさんです。王国騎士団最強で現在は王家の護衛を担当されている方ですが、一見剣術も魔法もごく普通の使い手にしか見えません。ですがそう見えるのは最適化された動きがそう見せているだけです。私でも正直全ての動きがわかるとは言えません」

 ナディアさんにもそう言わしめる敵か。選手紹介の部分を読んでみると、皆さんなかなかに強そうだ。
 ちなみに今日の俺の相手だったアンジェロさんはこの中では雑魚扱いの模様。
 俺については『国王陛下が招いた『今までの戦士とは全く異なる魔法戦士』とはおそらく彼の事であると思われる。第一回戦でナディア選手の召喚魔法を無効化した事から召喚魔法使いとも思われるが詳細は不明』と書かれていた。

「何か頭が痛くなるな、そんな相手がまだまだいるとなると」

「でもアシュだって優勝候補でしょ」

「それにアシュノールさん、まだ私の時は全力ではありませんでしたよね」

 えっ。

「あれはあれで魔力が無くなるところまで頑張ったんだけれどな」

「あえて自分の力を全部出さないように戦っていませんでしたか」

 ナディアさんの追及が厳しい。

 確かに俺は出来るだけ空間操作魔法の本質を見せないように戦っていた。
 この魔法の利点のうち、
  〇 俺から攻撃は出来ても相手から攻撃は出来ない
  〇 相手の数秒後の姿を見る事が出来る
点についてはここにいる面子にも話していない。
 単に移動が出来て相手を移動させることが出来る便利魔法と思われている。詳細を知っているのは同じ魔法を持つ陛下だけだ。
 しいて言えばテディはある程度知っているかもしれない。彼女は陛下の魔法について伝え聞いているようだから。

 ただ俺としてもこの辺については言うつもりはない。なのでちょっと誤魔化させて貰おう。

「それはまあそれとして、明日は付き人が1人必要らしいんだ。必要というか、連絡の為にいた方がいいという感じらしいけれど。
 フィオナかミランダに頼もうと思っているのだけれどいいかな?」

「私では駄目ですの?」

 テディにそう言われてしまった。

「テディはラツィオに知人が多いだろ。謎の出場者の件、ここに結び付けられるとあまり嬉しくない。ミランダも知り合いは多いけれど、ミランダなら何処で何に顔を出していてもおかしくないと皆思ってくれるだろうからさ。フィオナはテディやミランダほど顔を知られていないし目立たないから」

「うーん、でもそれなら僕やミランダもやめておいた方がいいかな。少しでもここに関係しそうな情報は与えない方が正解だと思うよ」

 フィオナの台詞。確かにそうだ。
 かと言ってサラに頼むのも何だろう。家事と勉強で忙しいから。

「なら私が行きましょう」

 実はナディアさんに頼むという案も少しは考えたのだ。しかしそれはそれで申し訳ない気がして言わなかった。仕方ないとはいえ俺のせいでナディアさんが負けたのは事実だし。

「付き人というかセコンドでしたら、受付と案内の係員以外は誰かと会う事はありません。それに試合場で私が見られても私とアシュノールさんを結びつける人はいないでしょう」

 確かにそうだけれど、何か申し訳ない。

「魔法武闘会のシステムについてはこの中では私が一番良く知っています。ですので任せて下さい」

 うん、なら仕方ないかな。

「それでは申し訳ありませんがナディアさん、お願いします」

「お任せください」

 俺とナディアさん、お互いに頭を下げあった。
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