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第8章 熱闘・魔法武闘会
第50話 第三回戦とその後と
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翌日朝。ナディアさんと一緒に闘技場へ。昨日と同様、闘技場の会場真横の控え場所でしばし待つ。
「龍2頭は家に置いてきたけれどいいんですか」
時間潰しと緊張緩和のため、ナディアさんにそんな会話を振ってみる。
「ええ。こうすれば家の方で何かあればニアかマイアから連絡がきますし、いざとなればこちらに召喚する事も可能ですから」
なんと。
「こんなに離れていても大丈夫なんですか」
「問題ありません。ただ1回戦の後、チャールズさんにお会いするまでの間は普段とれていた連絡が全く取れなくなりましたけれど」
あの時は時間停止状態の閉鎖空間に入れてしまったからだろう。それにしてもこんな遠距離でも連絡がとれるとは便利だ。まあそうでもなければ召喚魔法って成り立たないけれど。
召喚系の魔法もきっと空間操作の一種なのだろう。ナディアさんにはそういった認識は無さそうだけれど。
さて。
「話はかわりますが、今日の相手のヴィンセントさんはどんな感じですか。早撃ち系の魔法使いって聞きましたけれど」
本日の本題を聞いてみる。
「ええ。別名がそのまま『早撃ちヴィンセント』といって、とにかく早く多く魔法を撃ってくるスタイルです。同等の早さで抵抗をかけるのは困難です。ですけれど魔法そのものはそれほど威力が無く特殊な魔法もないので、避けながら高威力の魔法で応酬すればチャールズさんならそれほど難しい敵ではないと思います」
俺は高威力の攻撃魔法なんて持っていないのだけれどな。ある程度撃たせて避けた後、空間操作魔法で場外を狙うとするか。
待てよ、もう少し面白い方法もある。空間操作魔法の応用だけれども。
『それではチャールズ選手、入場してください』
2回目となると少しは慣れた。青い端から六角形の会場に上り、礼をして昨日と同じ位置につける。
相手のヴィンセントさんも反対側のほぼ同じ位置。双方が自分の入場した端寄りという、魔法メイン同士でよくあるパターンだ。
『試合開始のカウントダウンを始めます。10、9、8……』
俺は空間操作魔法をある応用状態にして溜めておく。
『1、試合開始!』
『空間操作! 時流操作、対象俺、加速10倍。起動!』
訓練の時とは逆に俺だけ10倍加速できる魔法をかけた。相手の魔法が見える。最初が熱線、そのちょっと後が雷撃だ。
『熱魔法、熱線抵抗!』
『雷魔法、雷撃抵抗!』
唱えながら極力ゆっくり目に一歩踏み出す。何せ現在の俺の速度は常人の10倍。その事を悟られないよう、極力動きだけはゆっくりと。
早撃ちのヴィンセントなんて二つ名を持つだけある。10倍速モードの俺から見てもそこそこいいテンポで攻撃魔法を撃っている。
でも所詮いいテンポ程度だ。今の俺なら抵抗が間に合わないという事は無い。
極力ゆっくりを意識しつつ、10歩くらいの距離まで近づく。相手に余裕がなさそうなのが見て取れる。
大変申し訳ないが俺はチート魔法持ちなのだ。ずるいと言われそうだが王命により勝たせて貰おう。
『風魔法、大風抵抗! 風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃抵抗! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、熱線抵抗! 熱魔法、爆裂、実行!』
抵抗しつつ相手以上の速度で攻撃魔法を仕掛ける。2発目の水撃に対する抵抗《レジスト》が間に合わなかった。
ヴィンセントさんは後方へ飛ばされ、闘技場の壁へ叩きつけられる。あれくらいなら治療魔法ですぐ回復するだろう。問題ない。
『勝負あり。勝者、チャールズ・フォート・ジョウント選手』
俺は礼をして会場を後にする。
「チャールズさんはあんな早撃ちも出来るんですね」
「その辺はまあ秘密という事で」
なんてナディアさんと話しながら係員の後をついて第一控室へ。
「今日はこれで帰られるんですか」
「いや、どうせ出てくるだろうからちょっと待とう」
案の定係員が去ったと同時に空間が歪む。陛下の登場だ。
「やあ、今回はずいぶんえぐい戦い方をしたね。早撃ち相手に早撃ちで挑むとはさ。あれじゃヴィンセント君、泣いちゃうよ」
「陛下!」
慌てて膝をつくナディア。
「ナディア、アシュノール君と私だけの時はそう畏まらないでくれ。お忍びというかプライベートモードだからさ」
「はっ」
「それもいいから」
まあ元が騎士団の魔法使いだからな。むしろ俺の態度の方が国王陛下を前にしている場合は異常なのだろう。
でもまあその辺は関係性という奴だ。それを陛下自身も望んでいるようだし。
「このままだとアシュノール君、容赦なく優勝してしまいそうだね。企んだのは僕だけれどさ、正直皆ちょっと不甲斐ないかな」
「申し訳ありません」
こら陛下ちょっとは考えて物を言え。ナディアも俺に負けた1人だぞ。
「でもこれからもこう勝てるとは限りませんよ。ヴィンセントさんは詠唱速度特化型だったから対処しやすかっただけですから」
「確かにそうかもしれないけれどね。ソニア辺りならアシュノール君も結構苦労すると思うし。容赦なくやるなら勝てるとは思うけれどね、今のように相手の技を見せてから圧倒する方法は無理かな」
ふむふむ。
「やはりソニアさんって強いんですか」
「あの子は色々な引出しを持っているからね。今日みたいに1つの対策だけでは無理だね」
なるほど。
「ただ決勝戦の相手がソニアになるかどうかはわからないけれどね。僕でも実力が見えない相手もいるし」
どういう事だろう。
陛下は俺と同じように未来視を使える。この大会と出場選手については俺より情報が多い分見えている筈だ。それでもそう断言できないという事は……
「要注意の選手がいるんですか」
「アシュノール君ではなく、まずソニアにあたる相手にね」
つまり強いと太鼓判を押されているソニアさんよりも強いかもしれない選手がいる訳か。トーナメント表で俺より先にソニアさんに当たる場所に。
「まあ未来なんて確実な形で視えるものじゃないしね。だから僕らは必要な材料を積み上げていかなきゃいけない。より良い未来を確定させるためにね。
ところでナディア。どうだい、向こうの家は?」
「良くしてもらっています。ご飯も美味しいですし、本もいっぱいあって」
「確かナディアは元文学少女だったって言っていたよね。ならあの家、ちょうどいいかな。あと今度暇な時に僕も一度遊びに行こうと思う。皆さんにご挨拶もまだだしね。妹は2回ほどお邪魔したらしいけれど。ケーキが美味しかったって言っていたな」
おいおい。面倒だから来ないでくれ、という本音はやはり国民として言えない俺だ。
「そろそろ時間かな。それじゃまた」
いつも通り陛下は姿を消す。 ふうっ、とナディアが息をついた。
「失礼ですが、陛下とアシュノールさんはどういう関係なんでしょうか」
そう言われると俺も困る。
「俺にもよくわからないですね。いつも突然現れて、良く分からない面倒ごとをお願いされる立場というのが正直なところです」
「でも陛下にとっては数少ない味方できっと友人のつもりなのでしょうね」
そう言えば一昨日、ナディアを引き取れと言われた時に言っていたな。その辺を引用して返答してみる。
「『妹の友人の亭主でも、まあ味方のうち』ですよ」
「でも陛下には妹殿下の他には、部下と敵しかいないですから」
なるほど、考えてみればそうなるのかもしれない。
妹殿下は王妃がもと女中と階級が低く、また既に死亡している為後ろ盾となる有力貴族がいない。しかし他の王弟王妹その他王族は皆有力貴族が後ろ盾になっている。
そして有力貴族は改革でかなり力を失った。故に国王陛下にとっては表面はともかく敵対的な勢力には違いない。そして王宮から王家一族と有力貴族をのぞけば他は部下だ。
更に言うと陛下は一時皇太子から外され幽閉されていた。故に学校時代の友人も少ない又はいないという訳だ。
そう考えると陛下も大変だし可哀そうだとは思う。だからと言って俺にこんな役目が振ってくるのはどうかと思うのだけれども。
まあ俺も国民の1人だから国王陛下の命令には従うけれどさ。命令というかお願いが、今までのところは。
なんだかなと思うけれど仕方ない。当面は面倒な友人位のつもりでやらせてもらおうと思う。
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「こんなに離れていても大丈夫なんですか」
「問題ありません。ただ1回戦の後、チャールズさんにお会いするまでの間は普段とれていた連絡が全く取れなくなりましたけれど」
あの時は時間停止状態の閉鎖空間に入れてしまったからだろう。それにしてもこんな遠距離でも連絡がとれるとは便利だ。まあそうでもなければ召喚魔法って成り立たないけれど。
召喚系の魔法もきっと空間操作の一種なのだろう。ナディアさんにはそういった認識は無さそうだけれど。
さて。
「話はかわりますが、今日の相手のヴィンセントさんはどんな感じですか。早撃ち系の魔法使いって聞きましたけれど」
本日の本題を聞いてみる。
「ええ。別名がそのまま『早撃ちヴィンセント』といって、とにかく早く多く魔法を撃ってくるスタイルです。同等の早さで抵抗をかけるのは困難です。ですけれど魔法そのものはそれほど威力が無く特殊な魔法もないので、避けながら高威力の魔法で応酬すればチャールズさんならそれほど難しい敵ではないと思います」
俺は高威力の攻撃魔法なんて持っていないのだけれどな。ある程度撃たせて避けた後、空間操作魔法で場外を狙うとするか。
待てよ、もう少し面白い方法もある。空間操作魔法の応用だけれども。
『それではチャールズ選手、入場してください』
2回目となると少しは慣れた。青い端から六角形の会場に上り、礼をして昨日と同じ位置につける。
相手のヴィンセントさんも反対側のほぼ同じ位置。双方が自分の入場した端寄りという、魔法メイン同士でよくあるパターンだ。
『試合開始のカウントダウンを始めます。10、9、8……』
俺は空間操作魔法をある応用状態にして溜めておく。
『1、試合開始!』
『空間操作! 時流操作、対象俺、加速10倍。起動!』
訓練の時とは逆に俺だけ10倍加速できる魔法をかけた。相手の魔法が見える。最初が熱線、そのちょっと後が雷撃だ。
『熱魔法、熱線抵抗!』
『雷魔法、雷撃抵抗!』
唱えながら極力ゆっくり目に一歩踏み出す。何せ現在の俺の速度は常人の10倍。その事を悟られないよう、極力動きだけはゆっくりと。
早撃ちのヴィンセントなんて二つ名を持つだけある。10倍速モードの俺から見てもそこそこいいテンポで攻撃魔法を撃っている。
でも所詮いいテンポ程度だ。今の俺なら抵抗が間に合わないという事は無い。
極力ゆっくりを意識しつつ、10歩くらいの距離まで近づく。相手に余裕がなさそうなのが見て取れる。
大変申し訳ないが俺はチート魔法持ちなのだ。ずるいと言われそうだが王命により勝たせて貰おう。
『風魔法、大風抵抗! 風魔法、大風、実行! 水魔法、水撃抵抗! 水魔法、水撃、実行! 熱魔法、熱線抵抗! 熱魔法、爆裂、実行!』
抵抗しつつ相手以上の速度で攻撃魔法を仕掛ける。2発目の水撃に対する抵抗《レジスト》が間に合わなかった。
ヴィンセントさんは後方へ飛ばされ、闘技場の壁へ叩きつけられる。あれくらいなら治療魔法ですぐ回復するだろう。問題ない。
『勝負あり。勝者、チャールズ・フォート・ジョウント選手』
俺は礼をして会場を後にする。
「チャールズさんはあんな早撃ちも出来るんですね」
「その辺はまあ秘密という事で」
なんてナディアさんと話しながら係員の後をついて第一控室へ。
「今日はこれで帰られるんですか」
「いや、どうせ出てくるだろうからちょっと待とう」
案の定係員が去ったと同時に空間が歪む。陛下の登場だ。
「やあ、今回はずいぶんえぐい戦い方をしたね。早撃ち相手に早撃ちで挑むとはさ。あれじゃヴィンセント君、泣いちゃうよ」
「陛下!」
慌てて膝をつくナディア。
「ナディア、アシュノール君と私だけの時はそう畏まらないでくれ。お忍びというかプライベートモードだからさ」
「はっ」
「それもいいから」
まあ元が騎士団の魔法使いだからな。むしろ俺の態度の方が国王陛下を前にしている場合は異常なのだろう。
でもまあその辺は関係性という奴だ。それを陛下自身も望んでいるようだし。
「このままだとアシュノール君、容赦なく優勝してしまいそうだね。企んだのは僕だけれどさ、正直皆ちょっと不甲斐ないかな」
「申し訳ありません」
こら陛下ちょっとは考えて物を言え。ナディアも俺に負けた1人だぞ。
「でもこれからもこう勝てるとは限りませんよ。ヴィンセントさんは詠唱速度特化型だったから対処しやすかっただけですから」
「確かにそうかもしれないけれどね。ソニア辺りならアシュノール君も結構苦労すると思うし。容赦なくやるなら勝てるとは思うけれどね、今のように相手の技を見せてから圧倒する方法は無理かな」
ふむふむ。
「やはりソニアさんって強いんですか」
「あの子は色々な引出しを持っているからね。今日みたいに1つの対策だけでは無理だね」
なるほど。
「ただ決勝戦の相手がソニアになるかどうかはわからないけれどね。僕でも実力が見えない相手もいるし」
どういう事だろう。
陛下は俺と同じように未来視を使える。この大会と出場選手については俺より情報が多い分見えている筈だ。それでもそう断言できないという事は……
「要注意の選手がいるんですか」
「アシュノール君ではなく、まずソニアにあたる相手にね」
つまり強いと太鼓判を押されているソニアさんよりも強いかもしれない選手がいる訳か。トーナメント表で俺より先にソニアさんに当たる場所に。
「まあ未来なんて確実な形で視えるものじゃないしね。だから僕らは必要な材料を積み上げていかなきゃいけない。より良い未来を確定させるためにね。
ところでナディア。どうだい、向こうの家は?」
「良くしてもらっています。ご飯も美味しいですし、本もいっぱいあって」
「確かナディアは元文学少女だったって言っていたよね。ならあの家、ちょうどいいかな。あと今度暇な時に僕も一度遊びに行こうと思う。皆さんにご挨拶もまだだしね。妹は2回ほどお邪魔したらしいけれど。ケーキが美味しかったって言っていたな」
おいおい。面倒だから来ないでくれ、という本音はやはり国民として言えない俺だ。
「そろそろ時間かな。それじゃまた」
いつも通り陛下は姿を消す。 ふうっ、とナディアが息をついた。
「失礼ですが、陛下とアシュノールさんはどういう関係なんでしょうか」
そう言われると俺も困る。
「俺にもよくわからないですね。いつも突然現れて、良く分からない面倒ごとをお願いされる立場というのが正直なところです」
「でも陛下にとっては数少ない味方できっと友人のつもりなのでしょうね」
そう言えば一昨日、ナディアを引き取れと言われた時に言っていたな。その辺を引用して返答してみる。
「『妹の友人の亭主でも、まあ味方のうち』ですよ」
「でも陛下には妹殿下の他には、部下と敵しかいないですから」
なるほど、考えてみればそうなるのかもしれない。
妹殿下は王妃がもと女中と階級が低く、また既に死亡している為後ろ盾となる有力貴族がいない。しかし他の王弟王妹その他王族は皆有力貴族が後ろ盾になっている。
そして有力貴族は改革でかなり力を失った。故に国王陛下にとっては表面はともかく敵対的な勢力には違いない。そして王宮から王家一族と有力貴族をのぞけば他は部下だ。
更に言うと陛下は一時皇太子から外され幽閉されていた。故に学校時代の友人も少ない又はいないという訳だ。
そう考えると陛下も大変だし可哀そうだとは思う。だからと言って俺にこんな役目が振ってくるのはどうかと思うのだけれども。
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