異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
59 / 176
第9章 冬休みはリゾートへ

第56話 冬のリゾート計画

しおりを挟む
 魔法武闘会騒動があったにも関わらず、仕事そのものにはかなり余裕がある。俺が武闘会に備えてあらかじめある程度仕事をやっておいたというのも理由のひとつ。
 でもどちらかというとミランダが仕事量を調整してくれているおかげだ。夏頃の酷い状態に懲りたおかげだろうか。

 花の名前ノメンフロッスシリーズはついに第15冊目、『フィリカリスⅢ』まで俺の担当する訳は終了した。あとはテディの仕事だがこちらも順調。予定通り最終巻が来年3月までには無事刊行となりそうだ。

 またフィオナ担当の医学書追補版も需要が多そうな難病系統はほぼ終わった。今後は医療現場等からの依頼に応じて少しずつ増やしていく予定になっている。次に出版を希望する症状とか部位とかの要望は既に多数来てはいるのだけれども。

 あと児童書が1冊まもなく仕上がる。定番『エルマーのぼうけん』を訳したものだが、これはなんとナディアさんが校正から仕上げまで担当だ。
 試しにやってもらおうという事でお願いしたのだが、俺が見た限りではなかなかいい感じ。

「そういえば元文学少女だって陛下が言っていましたね」

「自分で本を作る側になるとは思いませんでしたが、なかなか面白いですね」

 テディの負担も減ったしいいことずくめだ。
 サラの試験勉強も順調。

「既に基本が完全ですから教えるのも楽ですわ」

「中等学校3年の時の僕より出来がいいかな」

 なんてテディやフィオナが言っている位だし。
 なおサラの第一志望はゼノアにあるリビエール領立の中央高級学校だそうだ。

「ここから通いやすいですし、校風も一番あっていそうです」

 確かにそれはいいかもしれない。この家から領立中央高級学校までは300腕600m程度と近いし。学校のランクも国立ゼノア校と並ぶ名門だ。

 そんなある日の夕食時。

「さて、この冬こそ優雅なリゾートを楽しみたいと思うが、皆どうかな?」

 ミランダからそんな提案があった。

「いいね、それ」

「賛成ですわ」

 フィオナとテディはすぐにそう反応。

「勿論ナディアさんとサラも一緒だからな。念のため言っておくと」

「いいのですか」

「当然ですわ」

 サラの疑問はあっさりテディに肯定される。

「どのような事をするのでしょうか?」

「前回は海沿いの別荘を借りて、2泊3日で泳いだり貝をとったりしたよ。でも今回はどんな予定なのかな」

 基本的にこういった事の采配は全てミランダの担当だ。他にこういった事に使える伝手を持っている者がいないから仕方ない。前回は海辺の豪華別荘だったけれど今回は何処だろう。

「その前に一つ確認するけれどさ。アシュの魔法でここの全員を移動させる事は出来るよな」

「6人程度なら大丈夫だと思う。試した事は無いけれど」

 今までの感じと魔力消費から見て問題ないだろう。

「なら場所を発表する前に試してみよう。全員起立、っと」

 ミランダの号令で全員立ったところで俺は呪文を唱える。

「空間操作! 遠隔移動、対象この部屋内の全員、場所スタリエーノの丘。起動!」

 おなじみ足元の感覚が消えて落下するような感覚。特に問題なく魔法は起動した。一瞬後足裏に枯葉のざくっとした感触、夜空に光る月と星。

「凄いです。こんな魔法があるんですね」

「確かに凄いけれどちょい寒いよな。戻ろうか」

 はいはい。再び魔法を起動して食堂へ。再びミランダのターンとなる。

「この魔法を使えば移動の時間と経費は無視できる訳だ。そして寒い時期はやっぱり暖かい処に行きたい。でもどうせなら雪のように冬ならではのものも味わいたい。そう思わないか?」

「確かに思うけれどさ。それって矛盾していないかな?」

「ふふふふふ、矛盾しているかは別として、今の私の意見に反対な人は挙手!」

 誰もいない。しかしだ。

「そろそろ種明かしをして欲しいですわ」

 テディの意見にミランダ以外の全員がうんうんと頷く。

「実はさ。ロンバルドから夏は北へ馬車で1日。冬は途中で馬車からソリに乗り換えて同じく1日の距離にバルマンという場所があってさ。夏涼しくて温泉も出るというのでリゾート地を造ったそうなんだ。でも夏だけじゃ利益が少ないという事でさ。冬でもリゾートとして楽しめる何かがないかと相談を受けたんだ」

 何か怪しい気配がしてきたぞ。

「参考までに依頼してきたのはどなたですの」

「クレモナ商会の会頭からの依頼というかお願いだ。クレモナ商会は傘下にアワコダ社がある関係で結構世話になっていてさ。考える代わりに冬になって営業休止中のテルメ館と、直結する大型宿泊棟を好きに使っていいそうだ。交通費として往復の馬車貸切代相当の小金貨4枚と食費やその他経費として小金貨5枚を補助、更に出て来たアイディア次第で追加報酬をつけてくれる約束だ」

「テルメ館を自由に使えるのは面白いけれど、雪山の中ではあまり面白い事は出来ないよね」

「だよな。でもテルメ館を自由に使えるだけでも面白いかなと思って」

 いや待てフィオナとミランダ。それはそれなりに面白い事が出来るかもしれない。でもそれには色々準備が必要になる。
 それにだ。

「地形を少しいじったりするのは大丈夫か?」

「あの辺の地権は全てクレモナ商会がおさえているそうだ。だから山を削ったり木を切ったりも自由だな。何か思いついたか、アシュ?」

「出来るかどうかはわからないけれどさ。あと現地の地形図とかはあるか?」

「あるぞ。建物配置も入った現地周辺の詳細な地図も受け取って来た」

 準備がいい奴だ。最初から俺の知識を酷使するつもりだったな。
 でも雪遊びはちょっとやってみたい気がする。温泉なんてのも楽しみだ。だからここは話に乗ってやろう。

「色々と道具を作っていく必要があるかな。地形次第だけれどさ」

「現地はなだらかな斜面の谷間。建物は一番下から尾根側ちょい上ったところにある。あと馬車道、冬はそり道だけれどしっかりまで現地にあるそうだ。あと近くの高い山まで歩道を整備して夏のリゾートでは観光できるようにしているって言っていたな。冬は雪が積もっているから歩けないだろうけれど」

 よし、なら色々出来る可能性が高いな。
 幸い急ぎの仕事は何もない。ならしっかりと準備をしておいてやろう。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...