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第9章 冬休みはリゾートへ
第64話 昼食とその次と
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初級者用スタート地点まで滑ってやっと一安心。
ボーゲンでのんびり滑って降りている途中、皆がテルメ館の方へ集まっているのが見えた。だから下まで滑り降りずにトラバース気味に斜面を横切り皆の方へ。急斜面である程度鍛えられたのか、怪しいパラレルで何とか滑って無事到着。
「よっ、アシュも無事到着か」
「そろそろ露天風呂も作っておこうと思ってね」
なるほど、そういえばそろそろスキー終わりの時間だ。
「場所はできるだけ室内の浴槽に近い場所がいいよな」
「そうですね。あと浴槽から手を伸ばして雪に触れられる場所がいいですわ」
「ならテルメ館裏の非常口付近かな。あそこは熱めの浴槽のすぐ脇だろ」
「見てみましょうか」
皆でテルメ館脇を歩いて予定地へ。
「ここの扉の前だな。平らだしちょうどいいだろう」
「スキー場の中から下部分や反対側の山、町へ続いている谷間が見えてなかなかいい感じですわ」
「ならここに決定だね。アシュ、資材の取り寄せお願い」
おいよっと。取り寄せ魔法で木材や帆布を取り寄せる。
「それじゃまず、雪に穴を掘ればいいのか?」
「設計の段階で工夫してね、そのまま組み立てれば自立するようにしたんだ。水が入っても大丈夫な程度には頑丈に出来ている筈だよ。それじゃまずこの形の木材12枚を並べるから皆手伝って……」
ここからはフィオナの指示通り動く。
木材にはそれぞれ穴が開いていたり他の木材を組み合わせる溝や切り欠きがあったりと加工されている。
「今思うとあの木材屋、こんな加工をしたのに随分と早く出してきたな」
「ほとんどの木材が規格サイズをちょっと加工するだけにしておいたからね。この程度プロの木材屋さんなら1枚数秒で加工するよ。熱魔法で焼き切ったりしてさ」
そういうのも熟練の技だよな。普通は熱魔法を持っていてもそんな細かい加工をそんな早さで出来ないし。規格サイズを暗記して全部早く加工できるよう設計したフィオナも大概だけれど。
3半時間もかからない程度でそれらしい浴槽が完成。大きさは大体幅3腕奥行き2腕程度。
「結構大きいな」
「規格木材のサイズにあわせたからね。それに小さいと冷めやすくなるから」
なるほど。
「最後はお湯を入れれば完成か」
「自在袋で入れればいいでしょうか」
「いや、それは俺がちょうどいい魔法を持っているから大丈夫だ」
テルメ館内の浴槽の適当な場所とこの浴槽の何処かを空間操作魔法で直結してしまえばいい。
無論放っておけばそのうち歪めた空間が元に戻ってお湯が流れなくなる。でも念入りに繋げておけば1日くらいは持つだろう。明日も使うならまた魔法をかけ直せばいい。
外は寒いから熱めの浴槽からお湯をとってくればいいか。向こうの浴槽からあふれるより少しだけ低い位置にお湯をとる入口をつくり、この浴槽と直結させる。ふわっと湯煙をたててお湯が流れ込んできた。
「これで昼食後にはお湯もたまるだろ。ぬるかったら魔法で加熱すればいいし」
「便利な魔法だね。これって移動する魔法と同じような感じかな」
「同じ魔法だな」
「残念、それじゃ僕は使えないね」
「陛下に広めるなと言われているしさ。悪いな」
「仕方ないね」
フィオナは頷く。
「それじゃご飯を食べてこようぜ」
「そうですね」
俺たちはホテルの方へ向かう。
◇◇◇
どうせスキー後は疲れているだろう。そう思ったから昼食も朝食時に作って自在袋に入れてある。本日はサラ作成の新作メニューだ。
「すぐ食べる事ができるあたたかいメニューという事で、今日は丼物3種類です。お好きなものを1人2個取って食べて下さい。結局は皆で分け合いになると思いますけれど」
ミニサイズの牛丼、親子丼、かつ丼がそれぞれ4つずつ、合計12個程出て来た。
「これって海鮮丼と同じような食べ物かな」
海鮮丼は既にうちの定番メニューの一つだ。
「アシュノールさんが知っている世界では、炊いたご飯の上におかずを載せて食べるものを丼と呼ぶそうです。ですから広義には同じ種類ですが、今回の丼は温かいメニューとなります」
皆さん妙に真剣に選んでいる。どうせ分け合って食べるんだろうし深く考える事は無いのだが。そう思いつつ俺は取り敢えず手近なところにあった牛丼とかつ丼を選ぶ。
ちなみにかつ丼は卵とじタイプでは無くデミかつ丼。卵とじタイプもサラにレシピを教えてあるけれど、他の丼と少しでも違う味にしようという事でこっちをチョイスしたようだ。お好み焼きのように父の実家のある岡山県名物にこだわった訳じゃない。本当だ。
なおデミグラスソースは我が家のお好み焼き用ソースに水飴や冷凍トマト、牛骨出汁等を混ぜて作ったサラオリジナルな逸品。かつて家のキッチンで試作に付き合った俺も大満足な出来だ。
1人取ると後は無くなるのが早い。あっという間に全員が2個取った。見た限り同じ丼2個という悲しい人がいないようで一安心。
さて、まずはやはりデミかつ丼からだろう。うん、やはり間違いなく美味しい。このソースの甘辛具合と濃厚さが最高だ。
カツも揚げたてを自在袋に入れたのでサクサク。思わず一気に食べそうになるけれど、何とか理性で抑えて半分で一度止める。
次は牛丼。これもなかなかいい感じ。いわゆる某牛丼屋風と違いタマネギをしっかり煮込んでいるタイプ。
だがこれがいい。すき焼きに似ているが微妙に一線違う場所にいる、やはり牛丼という味だ。
スティヴァレには醤油が無いので魚醤を使っているが臭みは全く感じない。むしろ魚介の深い味が混じっていい感じに出来上がっている。
「僕の方はかつ丼が無かったから交換するね」
フィオナに食べかけのデミかつ丼と同じく食べかけの親子丼が交換された。
ああ、俺の岡山風デミカツ丼が……。まあ親子丼を食べていないしいいとするか。
牛丼も半分まで食べたところで一度止めて、今度は親子丼へ。同じ甘辛でも明らかに牛丼とは違う味と汁になっている。コクの方向性が違う感じだ。卵のとろーり具合もいい感じ。
やはりサラが作るとどれも美味しい。
親子丼を完食したところで俺の胃袋は容量いっぱいになった。
「アシュがお腹いっぱいという顔をしているからこれも僕が頂くよ」
フィオナがすかさず残った牛丼をキープする。実際お腹いっぱいだからいいとしよう。
今日の3種類の丼、どれも美味しかった。けれど俺の好みで言えばやっぱりデミかつ丼が一番かな。
でもあのデミグラスソースでデミ親子丼なんてやっても美味しいかもしれない。今度サラにリクエストしてみよう。
「サラ悪い。この丼ってお代わりは無いのか?」
ミランダの台詞に俺以外が期待の目でサラの方を見る。俺の分まで食べたフィオナさえもだ。
「確かに他にも丼を用意しています。ですが今食べてしまっていいのでしょうか。お風呂用の大きなお盆とレモン水や果実酒と一緒に用意しているのですけれど」
そう来たか! そこまでは俺も気付かなかった。
「そうか、それなら仕方ないな」
納得する奴もいるけれど更に喰意地が張った奴もいる。
「参考までに教えて欲しいけれど、用意してある丼は3つのうちどれかな?」
勿論この質問はフィオナだ。
「いまの3つとは違う丼を3種類用意しています。温泉にあう丼がわからないので、それぞれ方向性は全く違いますけれど」
皆さんの目線が飢えた獣状態だ。しかしちょっと待って欲しい。
「そうすると朝食を作る時間で、朝食の他に違う丼を6種類も作った訳か」
全然気づかなかったし、そもそもそんな時間あったのだろうか。
「一気に作れば問題はありません。この丼という料理は盛り付けに時間がかかりませんから。ご飯を炊く時間があれば丼の上のものは全部作れます」
驚異的な手際の良さだ。
でも風呂に入りながら食べる丼か。ちょっと俺の想像力では何がいいかなんてわからない。そもそも俺、今じゅうぶんにお腹いっぱいだし。
あと気付いたのだけれど、温泉に入りながら食べるって、丼のようにがっちり食べるものだっただろうか。酒と少しの肴という感じではなかっただろうか。
でも皆さん楽しみにしているからそんなツッコミはしない方が正解だろう。きっと、多分。
ボーゲンでのんびり滑って降りている途中、皆がテルメ館の方へ集まっているのが見えた。だから下まで滑り降りずにトラバース気味に斜面を横切り皆の方へ。急斜面である程度鍛えられたのか、怪しいパラレルで何とか滑って無事到着。
「よっ、アシュも無事到着か」
「そろそろ露天風呂も作っておこうと思ってね」
なるほど、そういえばそろそろスキー終わりの時間だ。
「場所はできるだけ室内の浴槽に近い場所がいいよな」
「そうですね。あと浴槽から手を伸ばして雪に触れられる場所がいいですわ」
「ならテルメ館裏の非常口付近かな。あそこは熱めの浴槽のすぐ脇だろ」
「見てみましょうか」
皆でテルメ館脇を歩いて予定地へ。
「ここの扉の前だな。平らだしちょうどいいだろう」
「スキー場の中から下部分や反対側の山、町へ続いている谷間が見えてなかなかいい感じですわ」
「ならここに決定だね。アシュ、資材の取り寄せお願い」
おいよっと。取り寄せ魔法で木材や帆布を取り寄せる。
「それじゃまず、雪に穴を掘ればいいのか?」
「設計の段階で工夫してね、そのまま組み立てれば自立するようにしたんだ。水が入っても大丈夫な程度には頑丈に出来ている筈だよ。それじゃまずこの形の木材12枚を並べるから皆手伝って……」
ここからはフィオナの指示通り動く。
木材にはそれぞれ穴が開いていたり他の木材を組み合わせる溝や切り欠きがあったりと加工されている。
「今思うとあの木材屋、こんな加工をしたのに随分と早く出してきたな」
「ほとんどの木材が規格サイズをちょっと加工するだけにしておいたからね。この程度プロの木材屋さんなら1枚数秒で加工するよ。熱魔法で焼き切ったりしてさ」
そういうのも熟練の技だよな。普通は熱魔法を持っていてもそんな細かい加工をそんな早さで出来ないし。規格サイズを暗記して全部早く加工できるよう設計したフィオナも大概だけれど。
3半時間もかからない程度でそれらしい浴槽が完成。大きさは大体幅3腕奥行き2腕程度。
「結構大きいな」
「規格木材のサイズにあわせたからね。それに小さいと冷めやすくなるから」
なるほど。
「最後はお湯を入れれば完成か」
「自在袋で入れればいいでしょうか」
「いや、それは俺がちょうどいい魔法を持っているから大丈夫だ」
テルメ館内の浴槽の適当な場所とこの浴槽の何処かを空間操作魔法で直結してしまえばいい。
無論放っておけばそのうち歪めた空間が元に戻ってお湯が流れなくなる。でも念入りに繋げておけば1日くらいは持つだろう。明日も使うならまた魔法をかけ直せばいい。
外は寒いから熱めの浴槽からお湯をとってくればいいか。向こうの浴槽からあふれるより少しだけ低い位置にお湯をとる入口をつくり、この浴槽と直結させる。ふわっと湯煙をたててお湯が流れ込んできた。
「これで昼食後にはお湯もたまるだろ。ぬるかったら魔法で加熱すればいいし」
「便利な魔法だね。これって移動する魔法と同じような感じかな」
「同じ魔法だな」
「残念、それじゃ僕は使えないね」
「陛下に広めるなと言われているしさ。悪いな」
「仕方ないね」
フィオナは頷く。
「それじゃご飯を食べてこようぜ」
「そうですね」
俺たちはホテルの方へ向かう。
◇◇◇
どうせスキー後は疲れているだろう。そう思ったから昼食も朝食時に作って自在袋に入れてある。本日はサラ作成の新作メニューだ。
「すぐ食べる事ができるあたたかいメニューという事で、今日は丼物3種類です。お好きなものを1人2個取って食べて下さい。結局は皆で分け合いになると思いますけれど」
ミニサイズの牛丼、親子丼、かつ丼がそれぞれ4つずつ、合計12個程出て来た。
「これって海鮮丼と同じような食べ物かな」
海鮮丼は既にうちの定番メニューの一つだ。
「アシュノールさんが知っている世界では、炊いたご飯の上におかずを載せて食べるものを丼と呼ぶそうです。ですから広義には同じ種類ですが、今回の丼は温かいメニューとなります」
皆さん妙に真剣に選んでいる。どうせ分け合って食べるんだろうし深く考える事は無いのだが。そう思いつつ俺は取り敢えず手近なところにあった牛丼とかつ丼を選ぶ。
ちなみにかつ丼は卵とじタイプでは無くデミかつ丼。卵とじタイプもサラにレシピを教えてあるけれど、他の丼と少しでも違う味にしようという事でこっちをチョイスしたようだ。お好み焼きのように父の実家のある岡山県名物にこだわった訳じゃない。本当だ。
なおデミグラスソースは我が家のお好み焼き用ソースに水飴や冷凍トマト、牛骨出汁等を混ぜて作ったサラオリジナルな逸品。かつて家のキッチンで試作に付き合った俺も大満足な出来だ。
1人取ると後は無くなるのが早い。あっという間に全員が2個取った。見た限り同じ丼2個という悲しい人がいないようで一安心。
さて、まずはやはりデミかつ丼からだろう。うん、やはり間違いなく美味しい。このソースの甘辛具合と濃厚さが最高だ。
カツも揚げたてを自在袋に入れたのでサクサク。思わず一気に食べそうになるけれど、何とか理性で抑えて半分で一度止める。
次は牛丼。これもなかなかいい感じ。いわゆる某牛丼屋風と違いタマネギをしっかり煮込んでいるタイプ。
だがこれがいい。すき焼きに似ているが微妙に一線違う場所にいる、やはり牛丼という味だ。
スティヴァレには醤油が無いので魚醤を使っているが臭みは全く感じない。むしろ魚介の深い味が混じっていい感じに出来上がっている。
「僕の方はかつ丼が無かったから交換するね」
フィオナに食べかけのデミかつ丼と同じく食べかけの親子丼が交換された。
ああ、俺の岡山風デミカツ丼が……。まあ親子丼を食べていないしいいとするか。
牛丼も半分まで食べたところで一度止めて、今度は親子丼へ。同じ甘辛でも明らかに牛丼とは違う味と汁になっている。コクの方向性が違う感じだ。卵のとろーり具合もいい感じ。
やはりサラが作るとどれも美味しい。
親子丼を完食したところで俺の胃袋は容量いっぱいになった。
「アシュがお腹いっぱいという顔をしているからこれも僕が頂くよ」
フィオナがすかさず残った牛丼をキープする。実際お腹いっぱいだからいいとしよう。
今日の3種類の丼、どれも美味しかった。けれど俺の好みで言えばやっぱりデミかつ丼が一番かな。
でもあのデミグラスソースでデミ親子丼なんてやっても美味しいかもしれない。今度サラにリクエストしてみよう。
「サラ悪い。この丼ってお代わりは無いのか?」
ミランダの台詞に俺以外が期待の目でサラの方を見る。俺の分まで食べたフィオナさえもだ。
「確かに他にも丼を用意しています。ですが今食べてしまっていいのでしょうか。お風呂用の大きなお盆とレモン水や果実酒と一緒に用意しているのですけれど」
そう来たか! そこまでは俺も気付かなかった。
「そうか、それなら仕方ないな」
納得する奴もいるけれど更に喰意地が張った奴もいる。
「参考までに教えて欲しいけれど、用意してある丼は3つのうちどれかな?」
勿論この質問はフィオナだ。
「いまの3つとは違う丼を3種類用意しています。温泉にあう丼がわからないので、それぞれ方向性は全く違いますけれど」
皆さんの目線が飢えた獣状態だ。しかしちょっと待って欲しい。
「そうすると朝食を作る時間で、朝食の他に違う丼を6種類も作った訳か」
全然気づかなかったし、そもそもそんな時間あったのだろうか。
「一気に作れば問題はありません。この丼という料理は盛り付けに時間がかかりませんから。ご飯を炊く時間があれば丼の上のものは全部作れます」
驚異的な手際の良さだ。
でも風呂に入りながら食べる丼か。ちょっと俺の想像力では何がいいかなんてわからない。そもそも俺、今じゅうぶんにお腹いっぱいだし。
あと気付いたのだけれど、温泉に入りながら食べるって、丼のようにがっちり食べるものだっただろうか。酒と少しの肴という感じではなかっただろうか。
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