異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第9章 冬休みはリゾートへ

第68話 技術開発の下準備

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 翌日、昼食の後。皆が風呂へ行くのを見送って、俺は一人テーブルに向かう。

 今回風呂に皆と行かない理由はいくつかある。理由の1つは昨晩のミランダの発言で手をだしてはいけない筈の2人が気になってしかたない事。しかも昨晩ミランダと風呂であんな事こんな事した後だったりする。つまり危険なのだ。

 もう1つは休みが続いて何も翻訳しないと何か不安になる事だ。社畜とかワーカーホリックと呼ばないでくれ。前世が日本人であった俺の悲しき習性さがだ。

 だから俺は風呂には後に入ることにして、先に資料を召喚して翻訳する作業をすることにした。
 もっともこれから召喚して訳すのは出版社に出すいつもの仕事じゃない。ここを無料で使用しているお礼とこれからの交渉に必要な資料の召喚と翻訳だ。
 今回召喚するのは2種類の資料。

「日本語書物召喚! 農業用に使うような小型モノレールについて作成時に参考になるような資料。起動!」

「日本語書物召喚! 初心者でもわかりやすいプログラムの入門書。起動!」

 それぞれ小銀貨5枚5千円では少ないかと思ったがそうでもないようだ。それなりに資料や本が出てくる。

 全部訳すとそれなりに時間がかかるが、今回はその必要はない。魔法ゴーレムを使用したモノレールに必要な部分だけを訳せばいい。しかも技術文献だから訳も割と簡単だ。
 だから高速翻訳に近い状態でだだだっと訳す。

 なるほど、小型モノレールは正式な日本語では単軌条運搬機と言うのか。
 内燃機関関係はこの世界の技術の発展を歪めないため訳さない方針で行こう。逆に強度等の規格は参考になるからスティヴァレ語にきっちり訳そう。プログラムの入門書は薄い奴をあえてそのまま訳してやろう。
 そんな方針で訳していって……

 ほぼこれで完成かな。そう思った頃皆さんが風呂から上がってきた。

 こうやって見ると湯上がりの女の子ってエロいよな。火照った顔とか濡れた髪とか。言えないけれど。

「アシュ、そういえば何を訳していたんだ?」

 ちょうどいい具合にミランダが質問してくれた。

「1冊はスキー場に作る自動ゴーレム登山装置に必要になる可能性の高い資料だ。もう1冊はゴーレムの制御の参考になりそうな本。多分この2つをお土産にすればオッタービオさんはゴーレムの試作をしてくれると思うんだ。無論必要なお金は払う必要はあるだろうけれど」

「ちょっと読んでみてもいいかな」

 これはフィオナだ。

「ああ、問題ない」

「とすると明日にでもこの資料を持って交渉に行った方がいいか。本当はアシュがいてくれた方が説明しやすくていいんだけれどな」

「チャールズ・ジョウントの正体がバレるとまずいからさ、勘弁してくれ」

 何せ実際に対戦した相手なのだ。注意するに越したことはない。

「仕方ないか」

「何なら僕が一緒について行こうか。説明部分はアシュに聞いておくからさ」

「そうしてくれると助かるな」

「ならまずこの文献の訳してあるところを読んで、それからアシュに質問するよ」

「わかった」

 それでは俺も飯を食べるとしよう。皆さんは風呂で食べてきたようだから。
 そんな訳で俺は昨日テイクアウトしたものを自在袋から出して食べる。のんびりパンを食べているとフィオナから質問が始まった。

「この単軌条を山の下から上まで設置して、その上をゴーレムが動くと思っていいのかな」

 うんうん。まずは基本的な質問だ。

「そのつもりだ」

「この単軌条は前に進むだけでぐるっと1周回れるようなコースを作ると思っていいのかな」

「俺としてはそのつもりだ。ポイント切り替えとかを作ると事故の元だからさ。でもその辺の詳細についてはオッタービオさんにお任せしようと思う」

 フィオナは頷く。

「わかった。じゃあ次はゴーレムについての質問。このゴーレムには手足部分が無いけれど大丈夫かな」

 あ、そうか。そう言えばこの世界のゴーレムは人間型か動物型だった。

「何なら手や足にあたる部分を作ってもいい。どんな方法であれこの部分が回ればいいんだ。手で回してもいいし足でまわしてもいい。ただ坂をのぼる力といざという時にブレーキをかける力さえ出れば問題ない。その辺は向こうにお任せだ」

 フィオナは頷く。

「わかった。つまり人間や動物の形以外のゴーレムでもいいし形はお任せという事だね。これを夏冬兼用で動かすんだよね」

「そのつもりだ。無論雪が降るからメンテナンスも考える必要があるけれど」

「だから訳してあるのは単軌条運搬機の概要と軌条設備の構造や強度、運搬機の安全性についてがメインなんだね。動力をどうするかなんかはお任せという事で」

「そういう事」

 フィオナ、この資料をざっっと読んだだけなのに良くわかっている。

「確かにこれだと大規模に馬車道を作るより簡単だし、メンテナンスも専用魔法を作ってしまえば簡単だよね。ゴーレムのゆっくりだけれども力強い動きもちょうどいいのかな。急な坂をのぼれるしその分距離が短くなるし乗っている時間も観光だしね。維持も馬や馬車、道の維持よりよっぽど楽だと思うよ。
 それでこっちの本は何に使うつもりなのかな?」

 こっちの本とはプログラムの入門書だ。

「それはゴーレムを制御する際に参考になるかなと思ってだ。魔法で条件式を書くのも条件が複雑になると面倒だろ。だから処理の流れにそって条件を書くという方式が参考になるかなと思って訳した訳だ」

 ちなみに言語はPythonだ。初期のBASICのような行番号式の方がわかりやすいかと悩んだが、取り敢えず俺が理解出来る言語にした。

「なるほどね。このあたりの資料全部、僕用にスペア貰っていいかな。訳文は僕が複写するけれど、出来れば本そのものももう1冊」

「わかった」

 毎度おなじみ日本語書物召喚で全く同じ本を召喚する。

「ありがとう。それじゃちょっと精読するね」

 何かオッタービオさんより前にフィオナが新しい使用法を考え出しそうだ。ゴーレム制御とはまた別の使用法で。それも面白いかなと俺は思う。

 結局その夜、フィオナはこの本を読みつつメモを取ったりして考えていて、俺が寝るまでの間には寝室にやって来なかった。俺は連日の疲れでさっさと寝てしまったのだけれどさ。連日の何に疲れたかは言わぬが花という事で。

 ◇◇◇

 翌日。翻訳した本や資料の他に、スキーリゾートの地形図等も持って俺、ミランダ、フィオナは出かける。

 最初に行ったのはゼノアの我が家。まずはスキーリゾートについての中間報告とゴーレムを使用した運搬機をオッタービオさんに依頼する件について、クレモナ商会に報告をしてくるそうだ。

 この件については基本ミランダにお任せという事で俺とフィオナは家で待つ。郵便受けを確認したがやっかいな手紙等も来ていない模様。

 ミランダも1時間しないうちに戻ってきた。

「全部OKでこちらに任せるとさ。あとゴーレムの試作用代金として正金貨10枚1,000万円渡されてきた」

 おいおい。

「随分大金だな」

「ゴーレム関係は金がかかるらしいからさ。余裕を持っていけとさ」

 なるほど。

「それじゃラツィオに行くか」

「だね」

 俺は移動魔法を起動する。
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