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第10章 犯人は俺じゃない
第69話 俺の指名手配
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俺にとっては魔法武闘会以来のラツィオ。つまりほんの半月前程度。
しかしミランダやフィオナにとっては3月にゼノアへ引っ越して以来になる。
「俺は図書館でゆっくりしているからさ、多少は他を回ってきてもいい。時間になったら飯も適当に食るからさ」
「わかった。まずはお仕事の方をして、それから少しあちこち回ってくる」
2人を見送って俺は国立図書館へ。
この辺は勝手知ったる場所だ。かつて学校の寮から図書館まで通った道だから。
しかし何か以前と風景が違う気がする。何故だろうと思って、そしてふと気づいた。人々の服装だ。
この季節なら普通なら毛皮や革の茶色っぽい服を着ている人が多いはず。なのに今年は黒い服が多い。しかも今まであまり見かけないデザインだ。何故か見覚えがあるような気がするけれど……
あっ、気づいてしまった。この格好、俺が魔法武闘会に出ていた時の格好にそっくりだという事に。
もちろん厳密に同一といういう訳では無い。服は形を似せた黒色のチュニックに黒色ズボン。材質も冬らしく羊毛や牛革だ。綿が主体の俺のジャパニーズ黒子スタイルとは異なっている。
しかし頭に帽子代わりにかぶっているモノの形が頭巾と同じ形。服装も全体的には色も含めてよく似た形。だから結果的に似た雰囲気となってしまっている。どうやら怪しい流行が出来ているようだ。
確かにチュニックは動きやすいし頭巾形の帽子もこの季節は暖かいだろう。そういう実用性で流行ったんだろうきっと。俺の方針としてそう思い込むことにした。
さて、久しぶりのラツィオの図書館。規模はゼノアの国立図書館と同じくらい。ただ建物がよく言えば雰囲気がある感じで悪く言えば古くさい。でもまあ本の多さは相変わらずで楽しい。
さて、今日は読みまくるぞ。早速文芸の棚に向かって本のチェックを開始する。
やはりゼノアの図書館と少し蔵書というか品揃えが違うようだ。よしよしよし……
◇◇◇
「アシュ、アシュ」
うるさい今いいところだ。
「アシュ!」
指でつつかれてはっと気づく。本から顔をあげるとフィオナの顔。
「相変わらず夢中になると周りが見えないよね」
否定できないのが悲しい。
「それより出来るだけ早く移動するぞ。説明は後だ」
何だろう。読みかけの本は取り敢えず買い取って図書館を出る。
『気をつけろよ。移動魔法に少しでも感づかれたらまずい。あと移動場所はゼノアの家の事務所で頼む』
わざわざ伝達魔法、それも個別秘話伝達で言ってくるあたり何かある。
街中に入り勝手知った街の入り組んだ路地に入って周辺を確認。誰もいないし見ていないな。
確認と同時に移動魔法を起動する。あっさりと誰もいない事務所に到着だ。
「何があったんだ、一体」
「チャールズ・フォート・ジョウント特例C級冒険者が全国手配になっている」
何だそれ。
「俺は犯罪行為とかはしていないぞ」
ミランダは頷く。
「それはわかっている。何せ大抵うちの誰かと一緒にいるからな」
「何故に手配になっているんだ?」
「打ちこわしだ。その辺は後で話す。取り敢えずその前に私とフィオナでクレモナ商会へ行ってくる。ゴーレムの件での確認事項があるからな。アシュは外に出ないで待っていてくれ。1時間もかからないから」
何が起こっているのだろう。非常に不安だ。
俺=チャールズ・フォート・ジョウントという事を知っている者はごく少ない。うちの家の皆さんの他は陛下、ロッサーナ殿下、陛下秘書官のヴィットリオさんだけの筈だ。
そして俺が犯罪を働いていると判断したなら陛下が動くはず。現状何もないという事は陛下はギルド手配になっているチャールズ・フォート・ジョウントの正体が俺ではないと判断しているのだろう。俺自身を捕らえられなくてもテディやミランダ達には手を回せる筈だから。
そうなっていないと言う事は心配しなくていいだろうという事だ、きっと。それでも不安になるのは仕方ない。
でも待てよ、ギルド手配になっている犯罪者としておかしな点がある。ラツィオで見た俺と似た服の流行だ。
もしチャールズ・フォート・ジョウントが普通に犯罪者として手配されているのなら、あの恰好が流行る訳は無い。意識して犯罪者に似た格好をしているという事だからな。
本当は情報収集に行きたい。しかし俺自身で行くわけにもいかない。だから家の中で身を潜めて待っている。
時間が過ぎるのが随分長く感じた。本を手に取ってみるが読書に身が入らない。
何度もため息をついた頃、ようやく玄関の扉が開いた。とっさに魔法で気配を確認する。大丈夫、ミランダとフィオナだ。
「用件は全て済んだ。それじゃ移動頼む」
「わかった」
移動魔法で温泉リゾートのホテルへ。
部屋には既にテディ、ナディアさん、サラの3人が戻っていた。
「お疲れさまでした。どうでしたでしょうか」
「いいニュースととんでもないニュースがある。そういう感じだな」
どこかで聞いたような台詞だ。
「それではやや遅いですがお昼ご飯にしましょうか。アシュノールさん達はもう食べましたでしょうか」
「俺はまだ」
「私達もまだだな」
「それなら全員一緒ですね」
サラがテーブルにお皿とカトラリーを並べ始める。今日はクリームパスタとサラダのようだ。
食べながらミランダが説明を始める。
「まずはいい方の話から行こうか。登山ゴーレムの件、クレモナ商会及びオッタ―ビオ・ゴーレム工房双方でOKだ。冬のうちにゴーレム工房で試作品を作り、雪が溶けたらここに軌条を敷設して夏頃に試験をする事になった。双方にそこまで話をつけて了解をとっておいたから、あとは商会と工房の方で話し合って事業を行う事になる」
この件についてはいい話でかつ予定通りだ。だから全員うんうんという感じで聞いている。
「次の件、オッタ―ビオさんにアシュが翻訳した制御の本を渡したところ、一方的に教えて貰うのでは申し訳ないという事でお返しをもらった。ゴーレム制御用の魔法陣入り魔法水晶を3組だ。通常のゴーレムにこの魔法水晶を組み込むと自動化できるらしい。技術的な事についてはフィオナが詳しく聞いてきたから興味があれば後で聞いてみてくれ。
あとフィオナからオッタ―ビオさんにある提案をした。この件についてオッタ―ビオさんも非常に興味を持ってくれた。これは今は秘密だが将来的に面白い事になるかもしれない」
何だろう、提案って。秘密というけれど気になる。
しかし俺にとって重要な話はきっと、これからはじまる悪い方の話だ。きっと俺が指名手配された話の詳細が出てくるのだろう。
「さて、それじゃ悪い方の話だ。
ついこの前の魔法武闘会でアシュがチャールズ・フォート・ジョウントという偽名を使って実質的に優勝したのは皆知っている通りだ。
ところがそのチャールズ・フォート・ジョウントがスティヴァレ全国の衛視庁及び冒険者ギルドで指名手配になっている。罪状はブレスタイン伯爵家における貴族不敬罪及び建造物侵入及び強盗。具体的にはブレスタイン伯爵家公邸に夜間に侵入、見張りを全員倒した挙句金庫をぶち壊し、中身の金銀等をごっそり奪い、更に公邸内に侵入して書類等を奪って逃走したそうだ」
おい待て。
「俺はやっていないぞ」
「犯行は15日夜10時過ぎ。その日のその時間、アシュはテディとフィオナと私が一緒だった。少なくとも夜中0時まではさ。だからアシュが犯行出来る筈はない。
ただ犯人がチャールズ・フォート・ジョウントだという証拠もいくつかあるらしい。まずは格好だな。魔法武闘会の時と同じような黒ずくめ上下で顔も同じように布で隠していたそうだ」
「でもその恰好では誰かはわからないのでは?」
サラの台詞にミランダは頷く。
「まあな。だから第二の証拠だ。犯人は伝達魔法で名乗ったそうだ。『私はチャールズ・フォート・ジョウント。不正にあだなす者だ』とさ」
おいおい。
「伝達魔法では本人かどうか、男性か女性かすらわかりませんね」
ナディアさんの台詞にミランダは頷きながら続ける。
「という訳で最後の証拠だ。当時ブレスタイン伯爵家公邸には魔法騎士7名と魔法兵56名余りが警備をしていた。その全員が賊を認めて魔法なり接近戦なりで捕えようとした。だがこれだけの警備要員がいたにも関わらず賊は犯行を成し遂げあっさり逃亡した。なお賊は1名であった事は証言がとれている。目撃だけではなく魔法による気配感知までされているので間違いないだろう。
これだけの実力を持つ者はチャールズ・フォート・ジョウント本人くらいしかいないのではないか。これが最後の証拠だ」
なるほど。俺なら確かに可能だ。そして普通の魔法使いには困難だろう。
「そんな訳で証拠らしい証拠は無いが、状況を鑑みて犯人としてチャールズ・フォート・ジョウントが指名手配された訳だ。だがこの事件はこれだけでは終わらない。むしろこの後の方が一般市民には受けているらしい」
なんだそれは。
「賊が奪ったもののうち書類については翌朝フロレントの国王庁公聴室に全て置かれていたそうだ。その書類によりブレスタイン伯爵が
① 国法で認められていない税率を領内に適用して税金を取り立てていた事
② 価格安定の為市場に出すべきとされていた穀類を不正に隠匿していた事
が明らかになったそうだ。
結果国王庁の監察が入る事になった。噂では領地を半分に減らされ伯爵から子爵へ降格されるだろうと言われている」
更にフィオナが続ける。
「さらにおまけがあってね。盗まれた金は近隣の小作農家や孤児院、救護院等へ配られていたらしいんだよ。ただ今までおいていたお金と混ざってしまってそれぞれいくら配られたかはよくわからない状態だって。だから回収は無理」
うーむ、なるほど。
「そんな事もあって実のところ冒険者ギルドの方はあまり捕まえる気は無いらしい。それどころか一般市民にはむしろこの義賊まがいの件が評判になってさ。チャールズ・フォート・ジョウントが魔法武闘会で着用していた黒ずくめの恰好が流行になるなんて状態だ。
でもまあそんな事があったから取り敢えずアシュは当分の間あまり外を出歩かない方がいい。フロレント以南の中部地方へも行かない方がいいな。万が一があるから」
なるほど、あの服装が流行っている理由もわかった。
これで話はほぼ終わりのようだ。
しかしミランダやフィオナにとっては3月にゼノアへ引っ越して以来になる。
「俺は図書館でゆっくりしているからさ、多少は他を回ってきてもいい。時間になったら飯も適当に食るからさ」
「わかった。まずはお仕事の方をして、それから少しあちこち回ってくる」
2人を見送って俺は国立図書館へ。
この辺は勝手知ったる場所だ。かつて学校の寮から図書館まで通った道だから。
しかし何か以前と風景が違う気がする。何故だろうと思って、そしてふと気づいた。人々の服装だ。
この季節なら普通なら毛皮や革の茶色っぽい服を着ている人が多いはず。なのに今年は黒い服が多い。しかも今まであまり見かけないデザインだ。何故か見覚えがあるような気がするけれど……
あっ、気づいてしまった。この格好、俺が魔法武闘会に出ていた時の格好にそっくりだという事に。
もちろん厳密に同一といういう訳では無い。服は形を似せた黒色のチュニックに黒色ズボン。材質も冬らしく羊毛や牛革だ。綿が主体の俺のジャパニーズ黒子スタイルとは異なっている。
しかし頭に帽子代わりにかぶっているモノの形が頭巾と同じ形。服装も全体的には色も含めてよく似た形。だから結果的に似た雰囲気となってしまっている。どうやら怪しい流行が出来ているようだ。
確かにチュニックは動きやすいし頭巾形の帽子もこの季節は暖かいだろう。そういう実用性で流行ったんだろうきっと。俺の方針としてそう思い込むことにした。
さて、久しぶりのラツィオの図書館。規模はゼノアの国立図書館と同じくらい。ただ建物がよく言えば雰囲気がある感じで悪く言えば古くさい。でもまあ本の多さは相変わらずで楽しい。
さて、今日は読みまくるぞ。早速文芸の棚に向かって本のチェックを開始する。
やはりゼノアの図書館と少し蔵書というか品揃えが違うようだ。よしよしよし……
◇◇◇
「アシュ、アシュ」
うるさい今いいところだ。
「アシュ!」
指でつつかれてはっと気づく。本から顔をあげるとフィオナの顔。
「相変わらず夢中になると周りが見えないよね」
否定できないのが悲しい。
「それより出来るだけ早く移動するぞ。説明は後だ」
何だろう。読みかけの本は取り敢えず買い取って図書館を出る。
『気をつけろよ。移動魔法に少しでも感づかれたらまずい。あと移動場所はゼノアの家の事務所で頼む』
わざわざ伝達魔法、それも個別秘話伝達で言ってくるあたり何かある。
街中に入り勝手知った街の入り組んだ路地に入って周辺を確認。誰もいないし見ていないな。
確認と同時に移動魔法を起動する。あっさりと誰もいない事務所に到着だ。
「何があったんだ、一体」
「チャールズ・フォート・ジョウント特例C級冒険者が全国手配になっている」
何だそれ。
「俺は犯罪行為とかはしていないぞ」
ミランダは頷く。
「それはわかっている。何せ大抵うちの誰かと一緒にいるからな」
「何故に手配になっているんだ?」
「打ちこわしだ。その辺は後で話す。取り敢えずその前に私とフィオナでクレモナ商会へ行ってくる。ゴーレムの件での確認事項があるからな。アシュは外に出ないで待っていてくれ。1時間もかからないから」
何が起こっているのだろう。非常に不安だ。
俺=チャールズ・フォート・ジョウントという事を知っている者はごく少ない。うちの家の皆さんの他は陛下、ロッサーナ殿下、陛下秘書官のヴィットリオさんだけの筈だ。
そして俺が犯罪を働いていると判断したなら陛下が動くはず。現状何もないという事は陛下はギルド手配になっているチャールズ・フォート・ジョウントの正体が俺ではないと判断しているのだろう。俺自身を捕らえられなくてもテディやミランダ達には手を回せる筈だから。
そうなっていないと言う事は心配しなくていいだろうという事だ、きっと。それでも不安になるのは仕方ない。
でも待てよ、ギルド手配になっている犯罪者としておかしな点がある。ラツィオで見た俺と似た服の流行だ。
もしチャールズ・フォート・ジョウントが普通に犯罪者として手配されているのなら、あの恰好が流行る訳は無い。意識して犯罪者に似た格好をしているという事だからな。
本当は情報収集に行きたい。しかし俺自身で行くわけにもいかない。だから家の中で身を潜めて待っている。
時間が過ぎるのが随分長く感じた。本を手に取ってみるが読書に身が入らない。
何度もため息をついた頃、ようやく玄関の扉が開いた。とっさに魔法で気配を確認する。大丈夫、ミランダとフィオナだ。
「用件は全て済んだ。それじゃ移動頼む」
「わかった」
移動魔法で温泉リゾートのホテルへ。
部屋には既にテディ、ナディアさん、サラの3人が戻っていた。
「お疲れさまでした。どうでしたでしょうか」
「いいニュースととんでもないニュースがある。そういう感じだな」
どこかで聞いたような台詞だ。
「それではやや遅いですがお昼ご飯にしましょうか。アシュノールさん達はもう食べましたでしょうか」
「俺はまだ」
「私達もまだだな」
「それなら全員一緒ですね」
サラがテーブルにお皿とカトラリーを並べ始める。今日はクリームパスタとサラダのようだ。
食べながらミランダが説明を始める。
「まずはいい方の話から行こうか。登山ゴーレムの件、クレモナ商会及びオッタ―ビオ・ゴーレム工房双方でOKだ。冬のうちにゴーレム工房で試作品を作り、雪が溶けたらここに軌条を敷設して夏頃に試験をする事になった。双方にそこまで話をつけて了解をとっておいたから、あとは商会と工房の方で話し合って事業を行う事になる」
この件についてはいい話でかつ予定通りだ。だから全員うんうんという感じで聞いている。
「次の件、オッタ―ビオさんにアシュが翻訳した制御の本を渡したところ、一方的に教えて貰うのでは申し訳ないという事でお返しをもらった。ゴーレム制御用の魔法陣入り魔法水晶を3組だ。通常のゴーレムにこの魔法水晶を組み込むと自動化できるらしい。技術的な事についてはフィオナが詳しく聞いてきたから興味があれば後で聞いてみてくれ。
あとフィオナからオッタ―ビオさんにある提案をした。この件についてオッタ―ビオさんも非常に興味を持ってくれた。これは今は秘密だが将来的に面白い事になるかもしれない」
何だろう、提案って。秘密というけれど気になる。
しかし俺にとって重要な話はきっと、これからはじまる悪い方の話だ。きっと俺が指名手配された話の詳細が出てくるのだろう。
「さて、それじゃ悪い方の話だ。
ついこの前の魔法武闘会でアシュがチャールズ・フォート・ジョウントという偽名を使って実質的に優勝したのは皆知っている通りだ。
ところがそのチャールズ・フォート・ジョウントがスティヴァレ全国の衛視庁及び冒険者ギルドで指名手配になっている。罪状はブレスタイン伯爵家における貴族不敬罪及び建造物侵入及び強盗。具体的にはブレスタイン伯爵家公邸に夜間に侵入、見張りを全員倒した挙句金庫をぶち壊し、中身の金銀等をごっそり奪い、更に公邸内に侵入して書類等を奪って逃走したそうだ」
おい待て。
「俺はやっていないぞ」
「犯行は15日夜10時過ぎ。その日のその時間、アシュはテディとフィオナと私が一緒だった。少なくとも夜中0時まではさ。だからアシュが犯行出来る筈はない。
ただ犯人がチャールズ・フォート・ジョウントだという証拠もいくつかあるらしい。まずは格好だな。魔法武闘会の時と同じような黒ずくめ上下で顔も同じように布で隠していたそうだ」
「でもその恰好では誰かはわからないのでは?」
サラの台詞にミランダは頷く。
「まあな。だから第二の証拠だ。犯人は伝達魔法で名乗ったそうだ。『私はチャールズ・フォート・ジョウント。不正にあだなす者だ』とさ」
おいおい。
「伝達魔法では本人かどうか、男性か女性かすらわかりませんね」
ナディアさんの台詞にミランダは頷きながら続ける。
「という訳で最後の証拠だ。当時ブレスタイン伯爵家公邸には魔法騎士7名と魔法兵56名余りが警備をしていた。その全員が賊を認めて魔法なり接近戦なりで捕えようとした。だがこれだけの警備要員がいたにも関わらず賊は犯行を成し遂げあっさり逃亡した。なお賊は1名であった事は証言がとれている。目撃だけではなく魔法による気配感知までされているので間違いないだろう。
これだけの実力を持つ者はチャールズ・フォート・ジョウント本人くらいしかいないのではないか。これが最後の証拠だ」
なるほど。俺なら確かに可能だ。そして普通の魔法使いには困難だろう。
「そんな訳で証拠らしい証拠は無いが、状況を鑑みて犯人としてチャールズ・フォート・ジョウントが指名手配された訳だ。だがこの事件はこれだけでは終わらない。むしろこの後の方が一般市民には受けているらしい」
なんだそれは。
「賊が奪ったもののうち書類については翌朝フロレントの国王庁公聴室に全て置かれていたそうだ。その書類によりブレスタイン伯爵が
① 国法で認められていない税率を領内に適用して税金を取り立てていた事
② 価格安定の為市場に出すべきとされていた穀類を不正に隠匿していた事
が明らかになったそうだ。
結果国王庁の監察が入る事になった。噂では領地を半分に減らされ伯爵から子爵へ降格されるだろうと言われている」
更にフィオナが続ける。
「さらにおまけがあってね。盗まれた金は近隣の小作農家や孤児院、救護院等へ配られていたらしいんだよ。ただ今までおいていたお金と混ざってしまってそれぞれいくら配られたかはよくわからない状態だって。だから回収は無理」
うーむ、なるほど。
「そんな事もあって実のところ冒険者ギルドの方はあまり捕まえる気は無いらしい。それどころか一般市民にはむしろこの義賊まがいの件が評判になってさ。チャールズ・フォート・ジョウントが魔法武闘会で着用していた黒ずくめの恰好が流行になるなんて状態だ。
でもまあそんな事があったから取り敢えずアシュは当分の間あまり外を出歩かない方がいい。フロレント以南の中部地方へも行かない方がいいな。万が一があるから」
なるほど、あの服装が流行っている理由もわかった。
これで話はほぼ終わりのようだ。
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