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第10章 犯人は俺じゃない
第70話 もう1人の被疑者
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「確かに冬になってから小麦粉の値段が上がったしな。苦しめられている庶民からすれば応援こそすれ非難する奴は少数だろ」
露天風呂でも偽チャールズ・フォート・ジョウントの話題になる。
「小麦粉だけで無く米や大麦も値段が上がっています」
「穀類は全般的に平年並みかそれ以上の出来だった筈だ。だから値段が上がるのは他に理由がある。この事件で明らかになった通り買い占めや売り渋りのせいだけれどな。前々からそんな噂があってグードリッジさんも怒っていたんだ。商道徳にあるまじき事をしている連中がいるって言って」
買い占め等がある事は少なくともその筋には前々から気づかれていたようだ。
「でもブレスタイン伯爵家だけがやっている程度なら、国全体の穀物相場が上がる程じゃないよね」
「もちろんそうだ。他にも同じ事をしている奴がいる筈さ。貴族なり商家なりで。どこの家が買い占めているとか、そういう噂は結構ある。でも証拠は無い。ブレスタイン伯爵家なんかは領内統治を含め他にも色々やらかしていたようだけれどさ」
「ブレスタイン伯爵家に同情する余地は無いと言っていい訳ですね」
なるほど。そういう状況なら容疑者は俺の他にもう1人いる。俺とほぼ同じ魔法を使いこなすことが出来て、かつ買い占め等の行為が仕事の支障になる人が。外見偽装の魔法を使えば目立つ金髪を隠す事も可能だろう。
うーむ、考えれば考える程あの人が犯人のような気がしてきた。
しかしそれをこの場で言うわけにもいかない。本人に確かめる方法も無いしな。今の段階では黙っておこうと思う。
「でもそれならまだ事件は続くのかな。自称チャールズ・フォート・ジョウントによる襲撃は。相手が貴族か商会かはわからないけれどね」
フィオナがとんでもない事を言った。しかしミランダは頷いて肯定する。
「可能性はあるな。今回の事件は明らかに警告だ。一番酷かったブレスタイン伯爵家を見せしめとした、他に買い占めをやっている連中への警告。だからその辺を悔い改めて方針転換しなければまた事件を起こすんじゃないか」
「それはそれでいい気味だと思いますわ」
襲われている側に同情の余地はない。テディだけでなく皆さんそう思っているようだ。
「ただ偽チャールズにとっては大変じゃないのか? そういった悪徳貴族だの商会だのは警戒体制を強化するだろ、間違いなく」
「もしアシュが犯人のチャールズ・フォート・ジョウントだったら、警戒態勢が強化されて警備が100人位増えた程度で犯行が困難になるでしょうか?」
テディも俺が思っているのと同じ人物を犯人と予想しているようだ。ならあえて正直に答えてやろう。
「多少面倒になるとは思うけれどさ。困難というまでにはならないかな」
「そうですね。アシュノールさんなら問題ないと私も思います」
ナディアも陛下の移動魔法は知っているからな。その辺の台詞に含みがあるような気がする。
「まさかアシュノールさん、本当に犯人では無いですよね」
おいサラ待ってくれ。
「俺は違うぞ。まあ証拠はテディ達の証言しか無いけれどさ」
「妻の証言は証拠として採用されないと聞きますから」
おいおいやめてくれよサラ。冗談で言っているのはわかるけれどさ、表情や口ぶりで。
「まあ審判は心理魔法でやるから証言なんてほとんどいらないけれどね。ところでミランダ、もし次に襲われるとしたら何処だと思う?」
フィオナの台詞にミランダは頷く。
「悪評の高さからするとエルドヴァ侯爵家、アレドア伯爵家、ネブロディ商会ってところかな。次点としてボノゴレン商会。テーヴェレ侯爵家、スベイ伯爵家、ミノガサル商会ってところか。もし次に襲われるなら間違いなくこの中のどれかだろう」
具体的な名前が次々に出てくる。
「僕もだいたい同意見かな。ただ僕はボノゴレン商会が一番危険だと思うけれどね」
「その辺は商家的な見方と民衆的な見方の差かな」
「そんな事まで把握していますの?」
「一応調べたんだ。僕とミランダで」
どうやって調べたのだろう。噂話を聞き込んだりしたのだろうか。俺が本を読んでいる時間内に。
「市場でも買い占めの噂は流れていると思うぞ。サラ、どうだ?」
サラは頷く。
「ゼノアの市場で聞く噂では、ボノゴレン商会がテーヴェレ侯爵家やレヴィルランド伯爵家と結託して値をつり上げているということです。それにスベイ伯爵家やクロノア子爵家も加担しているという内容の。でもあくまで噂です」
「噂が全て真実という訳じゃない。ただ事実が含まれている場合も往々にしてある訳だ。そういう意味ではこの先どうなるか、見物と言えば見物だな」
つまり襲われる余地も背景もそれなりにあった訳だ。そして襲われる側に同情の余地は無い模様。商会側の知り合いが多そうなミランダから見てもだ。
それでも気になる事もある。
「ミランダが取引している商会は大丈夫なのでしょうか」
俺が思ったのと同じ疑問をテディが口にした。
「全くもって問題ない。ああいうのに関わるのは昔から古い貴族とくっついている連中ばかりでさ。利権にあぐらをかいた商売をしていて他からも嫌われているんだ。ああいう連中と付き合ったら頭が腐るとうちの親父も言っていた位だし」
ミランダは当然という顔でそう答えて、そして続ける。
「だからアシュがその気になれば偽チャールズ・フォート・ジョウントを押さえるのは簡単だ。さっき言ったあたり、更に絞ればネブロディ商会かボノゴレン商会あたりを来週あたりまで張ってみればいい。もし犯行が続くようなら1月以内に会えると思うぞ。お勧めはしないけれどな」
その台詞に疑問を感じたので聞いてみる。
「なぜ貴族家じゃなくて商会を張るんだ?」
「その方が一網打尽に出来るからさ。貴族家の襲撃では基本的にその貴族家とせいぜいその相手の商会くらいしか証拠を出せないけれどさ。商会を襲撃すれば関わっている貴族家の証拠も一網打尽に出来る可能性が高いだろ」
確かにミランダの言う通りだ。
「でもお願いですからそういう真似はしないで下さいね」
俺は頷く。
「そういう行動は得意じゃないからさ」
「なら僕らとしては興味を持ちつつ関わらない事かな。当座の方針として」
「それが無難だと思いますわ」
皆さん同意見のようだ。
ただ俺としては犯人、偽チャールズが気になるのは確かだ。
まさか本当に陛下の仕業じゃないだろうな。俺と同等な魔法を使える存在は他にいないと思うのだけれども。
露天風呂でも偽チャールズ・フォート・ジョウントの話題になる。
「小麦粉だけで無く米や大麦も値段が上がっています」
「穀類は全般的に平年並みかそれ以上の出来だった筈だ。だから値段が上がるのは他に理由がある。この事件で明らかになった通り買い占めや売り渋りのせいだけれどな。前々からそんな噂があってグードリッジさんも怒っていたんだ。商道徳にあるまじき事をしている連中がいるって言って」
買い占め等がある事は少なくともその筋には前々から気づかれていたようだ。
「でもブレスタイン伯爵家だけがやっている程度なら、国全体の穀物相場が上がる程じゃないよね」
「もちろんそうだ。他にも同じ事をしている奴がいる筈さ。貴族なり商家なりで。どこの家が買い占めているとか、そういう噂は結構ある。でも証拠は無い。ブレスタイン伯爵家なんかは領内統治を含め他にも色々やらかしていたようだけれどさ」
「ブレスタイン伯爵家に同情する余地は無いと言っていい訳ですね」
なるほど。そういう状況なら容疑者は俺の他にもう1人いる。俺とほぼ同じ魔法を使いこなすことが出来て、かつ買い占め等の行為が仕事の支障になる人が。外見偽装の魔法を使えば目立つ金髪を隠す事も可能だろう。
うーむ、考えれば考える程あの人が犯人のような気がしてきた。
しかしそれをこの場で言うわけにもいかない。本人に確かめる方法も無いしな。今の段階では黙っておこうと思う。
「でもそれならまだ事件は続くのかな。自称チャールズ・フォート・ジョウントによる襲撃は。相手が貴族か商会かはわからないけれどね」
フィオナがとんでもない事を言った。しかしミランダは頷いて肯定する。
「可能性はあるな。今回の事件は明らかに警告だ。一番酷かったブレスタイン伯爵家を見せしめとした、他に買い占めをやっている連中への警告。だからその辺を悔い改めて方針転換しなければまた事件を起こすんじゃないか」
「それはそれでいい気味だと思いますわ」
襲われている側に同情の余地はない。テディだけでなく皆さんそう思っているようだ。
「ただ偽チャールズにとっては大変じゃないのか? そういった悪徳貴族だの商会だのは警戒体制を強化するだろ、間違いなく」
「もしアシュが犯人のチャールズ・フォート・ジョウントだったら、警戒態勢が強化されて警備が100人位増えた程度で犯行が困難になるでしょうか?」
テディも俺が思っているのと同じ人物を犯人と予想しているようだ。ならあえて正直に答えてやろう。
「多少面倒になるとは思うけれどさ。困難というまでにはならないかな」
「そうですね。アシュノールさんなら問題ないと私も思います」
ナディアも陛下の移動魔法は知っているからな。その辺の台詞に含みがあるような気がする。
「まさかアシュノールさん、本当に犯人では無いですよね」
おいサラ待ってくれ。
「俺は違うぞ。まあ証拠はテディ達の証言しか無いけれどさ」
「妻の証言は証拠として採用されないと聞きますから」
おいおいやめてくれよサラ。冗談で言っているのはわかるけれどさ、表情や口ぶりで。
「まあ審判は心理魔法でやるから証言なんてほとんどいらないけれどね。ところでミランダ、もし次に襲われるとしたら何処だと思う?」
フィオナの台詞にミランダは頷く。
「悪評の高さからするとエルドヴァ侯爵家、アレドア伯爵家、ネブロディ商会ってところかな。次点としてボノゴレン商会。テーヴェレ侯爵家、スベイ伯爵家、ミノガサル商会ってところか。もし次に襲われるなら間違いなくこの中のどれかだろう」
具体的な名前が次々に出てくる。
「僕もだいたい同意見かな。ただ僕はボノゴレン商会が一番危険だと思うけれどね」
「その辺は商家的な見方と民衆的な見方の差かな」
「そんな事まで把握していますの?」
「一応調べたんだ。僕とミランダで」
どうやって調べたのだろう。噂話を聞き込んだりしたのだろうか。俺が本を読んでいる時間内に。
「市場でも買い占めの噂は流れていると思うぞ。サラ、どうだ?」
サラは頷く。
「ゼノアの市場で聞く噂では、ボノゴレン商会がテーヴェレ侯爵家やレヴィルランド伯爵家と結託して値をつり上げているということです。それにスベイ伯爵家やクロノア子爵家も加担しているという内容の。でもあくまで噂です」
「噂が全て真実という訳じゃない。ただ事実が含まれている場合も往々にしてある訳だ。そういう意味ではこの先どうなるか、見物と言えば見物だな」
つまり襲われる余地も背景もそれなりにあった訳だ。そして襲われる側に同情の余地は無い模様。商会側の知り合いが多そうなミランダから見てもだ。
それでも気になる事もある。
「ミランダが取引している商会は大丈夫なのでしょうか」
俺が思ったのと同じ疑問をテディが口にした。
「全くもって問題ない。ああいうのに関わるのは昔から古い貴族とくっついている連中ばかりでさ。利権にあぐらをかいた商売をしていて他からも嫌われているんだ。ああいう連中と付き合ったら頭が腐るとうちの親父も言っていた位だし」
ミランダは当然という顔でそう答えて、そして続ける。
「だからアシュがその気になれば偽チャールズ・フォート・ジョウントを押さえるのは簡単だ。さっき言ったあたり、更に絞ればネブロディ商会かボノゴレン商会あたりを来週あたりまで張ってみればいい。もし犯行が続くようなら1月以内に会えると思うぞ。お勧めはしないけれどな」
その台詞に疑問を感じたので聞いてみる。
「なぜ貴族家じゃなくて商会を張るんだ?」
「その方が一網打尽に出来るからさ。貴族家の襲撃では基本的にその貴族家とせいぜいその相手の商会くらいしか証拠を出せないけれどさ。商会を襲撃すれば関わっている貴族家の証拠も一網打尽に出来る可能性が高いだろ」
確かにミランダの言う通りだ。
「でもお願いですからそういう真似はしないで下さいね」
俺は頷く。
「そういう行動は得意じゃないからさ」
「なら僕らとしては興味を持ちつつ関わらない事かな。当座の方針として」
「それが無難だと思いますわ」
皆さん同意見のようだ。
ただ俺としては犯人、偽チャールズが気になるのは確かだ。
まさか本当に陛下の仕業じゃないだろうな。俺と同等な魔法を使える存在は他にいないと思うのだけれども。
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