異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第11章 お仕事な日々

第76話 児童書選び失敗

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「サラ、大丈夫ですよね」

 1月27日朝8時過ぎ。サラが試験の為に家を出たのはついさっきだ。

「学校への道は俺よりわかっているし成績的にも問題ないだろ」

「それはわかっているのですわ。でも何か心配で」

 おいおい。
 
 本日は第6曜日、つまり休養日でお仕事は基本的にお休み。ナディアさんと俺とで朝食や弁当を少し早めに作って、ミランダ以外で朝食を食べて、サラにお弁当を持たせて玄関まで見送って、リビングに戻ってきた状態。

 なおミランダはまだ就寝中。彼女は仕事の無い日は前日がどうであるかに関わらず朝は遅い。リゾートの後はその傾向が一段と強まった。

 別に調子が悪い訳でもないし支障がある訳でも無い。先々週の休養日は一応起こしに行ったのだ。
 そうしたらベッドの中から逆襲され教育上良くない結果になった。以来放っておくことにしている。 

「サラの受験が終われば大分平穏になるね」

 フィリカリスⅢもゾロも医学書追補版も昨日全て終了。ミランダが出版社へ持って行った。
 次に訳す児童書も個人的にはある程度召喚してあらすじも書いてある。全員揃ったら会議にかけてどれを訳すか選ぶ予定だ。そのうち次に訳す小説も探さなければならない。

 ただその作業はあと1月たってからでも間に合う。医学書追補版も今回分でリクエストが多い症例はほぼ網羅した。無論個別のリクエスト対応はあるけれど、それはそこまで手間がかからない。
 つまりお仕事は一段落の状態だ。

「そろそろサラ、学校に着いたでしょうか。運悪く馬車と事故なんて事は無いでしょうか」

 はいはい。空間操作魔法で確認してみる。ここを出た時間からサラの足取りをたどってと。

「もう学校に着いている。今は筆記用具を確認中」

「大丈夫ですよね」

「大丈夫だって」

 これはフィオナだ。

「サラは高級学校受験前の僕よりよっぽど優秀だよ。テディが気にしなくても大丈夫だと思うな」
「そうなんですけれどね、どうしても気になるんです」

 テディの気持ちはわからないでもない。本人以上に気になってしまうものなんだろう。
 まあテディ本人も自覚はしていると思う。なら気分をそらせてやるのが一番いいかな。

「ならサラには悪いけれど次に翻訳する児童書の検討会をはじめていようか。フィオナ、ミランダを起こしてきて」

「ミランダは眠いと色々手癖が悪いからなあ。出来れば遠慮したいな」

 俺以外にも手癖が悪いのか。困った奴だまったく。
 でも女子に対してはどう手癖が悪いのだろう。聞いていいのか悪いのか……

「何なら私が起こして来ましょうか」

 ナディアさんの申し出にテディが首を横に振る。

「申し訳ないからいいですわ」

「大丈夫です。これでも起きない子を起こすのは慣れていますから」

 ナディアさん、行ってしまった。

「大丈夫かな、ナディアさん」

 何やらテディやフィオナが心配している。

「参考までにどう手癖が悪いのか聞いてもいいか?」

「聞かない方がいいと思いますわ」

 テディからそんな答えが返ってきた。

「見境ないもんね、眠いときのミランダは」

 うん、これ以上聞かないことにしよう。百合百合な話になりそうな気配がした。
 しかしそれならナディアさんは大丈夫なのだろうか。

 そのまま12半時間5分程度が経過。そろそろヤバいだろうか。3人で顔を見合わせたところでナディアさんが戻ってきた。

「もうすぐこちらに来るそうです」

 いつもと同じ雰囲気だ。
 大丈夫だったのだろうか。ミランダもナディアさんには何もしなかったのだろうか。聞きたいけれど聞くことが出来ない。
 きっとテディもフィオナも同じだと思う。表情を見ればわかる。

 微妙な緊張感の漂う中、ミランダ本人が部屋にやってきた。いつもの休日とは違い、一応外にも出ることが可能な服をきちんと着ている。髪も一応ではあるが整えてはいるようだ。
 何だ、いつもの休日のミランダじゃない。何が起こったんだ。

「悪い。ちょい朝飯だけ食べさせてくれ。何なら先にはじめていてくれてもいい。食べたらすぐに参加するから」

「でしたら朝食を持ってきますね」

「あ、いいいい。自分で持ってくるから」

 何だ今の慌て様は。ナディアさんの台詞に過剰に反応したぞ。一体何があったんだナディアさんとミランダに。
 ああ聞きたいけれど聞けない。

「それでは事務所に移動しましょうか」

「そうですね」

 ミランダを残して移動して事務所の自分の机へ。俺は召喚しておいた本を机上に出し、あらすじを書いた紙を各机に配る。
 今回候補として取り寄せたのは次の3冊、いや4冊だ。
  ○ だれも知らない小さな国 佐藤さとる著
  ○ 思い出のマーニー(上・下)ジョーン・G.ロビンソン 著
  ○ モモ ミヒャエル・エンデ著

 テディがあらすじを書いてある紙から視線を上げた。

「今回は前のお話よりもう少し大人向けに近い感じでしょうか」

「そうだな。初等学校終わりから中等学校くらいまで対象のつもりだけれど、大人が読んでも楽しめるような本だ」

 本当は他にも色々候補があったのだ。星の王子さまとか星新一セレクションとか小さなモモちゃんシリーズとか。

 しかし星の王子さまはあのイラストが無いと魅力が半減しそうだ。星新一セレクションはあの雰囲気のまま訳すのが困難そうで諦めた。
 小さなモモちゃんシリーズは個人的には好きだ。でも所々にある大人の方がむしろドキリとしてしまう部分の雰囲気や余韻が一般受けするか自信がない。
 絵本も名作は色々あるのだがイラスト描き担当がうちにはいないのでパス。

「どれも面白そうですけれど、マーニーとモモは今までの路線と少し変わる気がします。出すなら対象年齢を少し変えた事がわかるようにした方がいいかもしれません」

「この辺は僕らが読んで面白い児童書って感じだよね」

「そうですわね。私自身が読んでみたいと思います」

 確かにそうだな。

「ならもう少し児童書については探してみるか」

 更に候補が無い訳でもない。こそあどの森の物語シリーズとか。長い長いペンギンは以前訳したから北極のムーシカミーシカとか。たんたのたんけんも悪くないか。

 ついでだから召喚しておこう。
 北極のムーシカミーシカとたんたのたんけんは以前に召喚済みだ。児童書3回目の時に事前候補として召喚したから。
 だから召喚が必要なのはこそあどの森の物語シリーズ。ただ何冊出ているか憶えていないので正銀貨2枚2万円をテーブルへ出して召喚する。

「日本語書物召喚! こそあどの森の物語シリーズ。起動!」

 どどーんと本が召喚される。こそあどの森、12巻も出ていたか。
 個人的にはこのシリーズ、海賊船がピカ1だと思うんだよな。最後に何とも言えない余韻があって。
 あとは以前に出した2冊、これは図書室部分から持ってくる。

「こっちの2冊は似た感じの絵の本を訳しましたよね。あとこの部分が作者を示すなら、作者も前に訳したものと同じですよね」

 テディが北極のムーシカミーシカ、たんたのたんけんを手に取った。流石テディ、よく憶えているな。まあ児童書も2冊目まではテディが仕上げたのだから当然か。

「どうだ、どんな本が出た?」

 ミランダがやってきた。

「とりあえず候補3冊を出したけれどさ。うち2冊が今までより年齢層が高いんじゃないかという事でもう一度候補を出し直しているところ」

「どれどれ、まず最初の候補について読ませてくれ」

 ミランダがあらすじを読み始める。

「ならこの新しい候補のあらすじ、ちゃっちゃと作っておくよ。午前中いっぱいはかかると思うから、それまで会議は一度休憩にしよう」

「でも個人的にこの本、読んでみたいですわ」

 ああ、テディにお願いされてしまった。ちなみにテディが持っているのは『思い出のマーニー』だ。
 仕方ない。

「高速翻訳で良ければ明日にでもやるよ」

 俺はテディには甘いのだ。まあここの面子の誰に対しても俺は甘いのだけれど。
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