異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第11章 お仕事な日々

第78話 合格お祝いパーティ

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 2月4日。児童書選択の会議からちょうど1週間6日が経過。

 俺としては色々とハードな週だった。
 まず昼は仕事の翻訳でとにかく忙しかった。本来のスケジュールである北極のムーシカミーシカの方は仕方ない。しかし俺の席の隣と更にその隣から、『思い出のマーニーはまだですか』という視線をちらちらと感じるのだ。

 テディとサラは好む本の傾向がほぼ同じ。そして俺はテディのお願い攻撃に非常に弱い。そんな訳でついに仕事に対して禁断の魔法を使ってしまった。

『空間操作! 時流操作、対象俺、加速十倍。起動!』

 魔法武闘会で使った10倍速モード。これなら通常10時間の仕事がなんと1時間で仕上がる。

 無論この状態で午前中の4時間仕事をしたら、俺の体感時間的には40時間ぶっ続けで仕事をしたのと同じ状態になる。腹も減るし眠くもなる。
 だから俺専用自在袋を横に置いて買い置きのパンをかじりつつ補給。眠くなるのは回復魔法でカバー。

 そんな無茶な方法でムーシカミーシカの方を1日でクリア。翌日から同じ方法で思い出のマーニー上下を2日でクリア。流石に4の曜日と5の曜日は10倍速を使わなかったが普通に医学書のリクエスト部分翻訳をこなし、残り時間は猫の地球儀の翻訳。
 昼の仕事だけでもこれだけ大変だったのだ。

 夜はまあ1日ごとの当番日と今週は4の曜日だった3人の日は変わらず。ミランダの日も今回はまだナディアさん同伴ではなく一安心。
 残り2日はゆっくり休もうとは思いつつ、ついつい夜半過ぎまで読書。火星が柿の実のように輝いていた時にはもう12時過ぎだし、リダツシロと言われた頃には外が明るくなりかけていた※。

 そんなこんなでボロボロなのだが今日は寝ている訳にもいかない。何せサラの合格発表の日なのだ。
 
 サラ自身はテディを保護者代わりに連れて8時半に家を出た。結果発表が張り出されるのは午前9時から。発表を見て、合格していた場合に書類を受け取って帰ってきて大体午前10時から11時といったところだろうか。

 フィオナとミランダは合格祝いのケーキを買いに出かけた。そして俺とナディアさんは合格祝いの昼食を調理中だ。
 ナディアさんが現在作っているのはクレープサンドのようなもの。ハムチーズといった定番からフルーツ&水飴なんて甘い物まで色々な種類。山岳地方では定番のお祝い料理だそうだ。

 俺がつくっているのはパーティ料理の定番、オードブル風盛り合わせ。現在はケ●タッキー風フライドチキンを調理中だ。お祝いだから香辛料を贅沢に使って思い通りに調理中。

 なお青と白のミニ龍が足元で『良ければお裾分け下さい』とやっている。人間の食べるものは大体食べるが特に好きなものは甘いもの系と肉類。現在は俺が作っているフライドチキンを狙っている。

 みぎゅう! みぎゅう!

 フライドチキンを揚げるたびに少し下さいと2頭とも訴える。
 これはむね肉部分だしまあいいか。半分ずつに切って皿に入れてやると美味しそうに食べた後、みぎゅっという声とともに頭を下げ、再び待機姿勢にもどる。この仕草がなかなか可愛い。

「あまり与えないでいいですから。本来食事は必要ないですしどうせ食事会の時におすそ分けを貰いますから」

 ぎゅーっ! ぎゅーっ!
 2頭の抗議の声。

「わかっていますけれどね。ついつい訴えに負けて」

「はいニアもマイアもこれで一度おしまい。リビングで待っていて」

 きゅーっ! 悲しげな鳴き声をあげて2頭がキッチンから出ていく。
 リビングへ行ったのだろうか。いや、青いのが入口から半分だけ顔をのぞかせている。

「ニア!」

 きゅーっ。中立古龍が悲しげな声をあげて姿を消した。諦めたらしい。

「あの2頭が調子に乗ると食材がいくらあっても足りなくなります。食事が必要ないくせに無限に食べますから」

「でも美味しそうに食べますよね」

「味はわかっているみたいです。食べる必要はないのですけれどね」

 本で読んだところ、神獣や魔獣は魔力や魔素を食べて生きているそうだ。
 魔獣が人や動物を襲うのはそれらが蓄えている魔力を奪う為。でも龍のような神獣ともなれば空間に漂う魔素だけで生きていける。
 しかしあの2頭を見る限り、美味しい食べ物は別腹らしい。

 さて、フライドチキンの次はエビチリといくか。エビはこの辺でも養殖しているので割とメジャーな食べ物。でもエビチリは初公開だろう。

 そんな感じでフライドチキン、エビチリ、エビフライ、チーズ入り肉団子、日本風焼鳥、ポテトサラダ、バーニャカウダ風サラダ等いかにもという料理を作りまくる。他には見栄えがいいカルパッチョなんかも別皿で。

 何せここの住民は皆さん大喰いだ。質も大事だが量も大事。
 胃袋無限大のミニ龍2頭までいるのだ。多すぎる絶対余る位でちょうどいい。俺もナディアさんもそれを熟知しているからとにかく色々作りまくる。

「ただいまー」

 フィオナ達が帰ってきた。家の玄関から階段経由でこっちにやってくる。

「どうだ料理の方は?」

 ミランダやフィオナとともにミニ龍2匹もキッチンを覗き込んでいるのはお約束。

「もう少しで完成かな」

「だいたい何時くらいに帰ってくるでしょうか」

「そろそろだと思います。帰る途中合格発表帰りらしい女の子達を見ましたから」 

「大丈夫だよね、サラ」

「学力的には問題ない筈だ。でも一応全部自在袋に隠しておこう。結果を聞いてから広げればいいしさ」

「だね」

 キッチンを少しずつ片づけに入る。ほぼ片付いて全員リビングに戻ったところで。

「ただいま」

 玄関が開いた気配とテディ、サラの声が聞こえた。
 何も聞かなくてもテディの気配だけで合否はわかっている。それでもあえて、2人がリビングに入って来た段階で尋ねてみた。

「どうだった、結果は」

 テディ、サラに自分で言って下さいね的な視線。

「合格です。ありがとうございました」

 良し! 絶対合格すると思っていたけれど、やはり嬉しい。

「よし、それじゃパーティの準備だ」

 全員で食堂へと向かう途中だった。

 チリンチリン。玄関の呼び鈴が鳴る。
 嫌な予感。
 ごちそうを用意したタイミングでやって来そうな奴を俺達は知っている。今日は昼間だからと思って油断していたが、良く考えたら休養日。つまり仕事はお休みの日だ。

「仕方ない。案内してくるか」

「テディとサラはリビングで待機かな。僕とアシュ、ナディアさんで準備するよ」

「お願いしますわ」

 テディ、ミランダ、フィオナ、俺の4人には共通認識がある。ナディアさんもまさかと思いつつ感づいている感じ。一方本日の主役であるサラはわかっていないようだ。

 そんな訳で俺達は食堂のセットを開始。今日は料理が多いのでテーブル3つ連結モードだ。椅子は……気配から2脚余分に必要な模様。
 大皿小皿取り皿タンブラーその他カトラリーを配置し、更にレモン水のピッチャーを3カ所に置いて準備完了だ。

「こうも色々な料理が並ぶと壮観だよね。種類も量もその辺のレストランに充分勝てると思うよ」

 俺が作ったのはケン●ッキー風フライドチキン、エビチリ、エビフライ、チーズ入り肉団子、日本風焼鳥、スティックサラダ&バーニャカウダソース&タラモ風ディップ、カルパッチョ風サラダ。
 ナディアさんが作ったのはクレープサンド各種、チーズフォンデユ、ローストビーフ、ジャガイモのフリッタータ、ミネストローネ風スープ。何処からでも全部の料理がとれるよう、それぞれ2~3皿に盛られてテーブル各所に配置されている。
 更にケーキもまだ出していないけれど用意済み。この豪華さも久しぶりだな。

「それじゃ皆を呼んでくるね」

 すぐに皆様やってくる。そして客はやはり予想通りだった。

「今日は何故にお越しでしょうか、陛下」

「サラちゃんの合格祝いだろ。ちゃんとプレゼントも用意してきたぞ」

「お兄様と私からそれぞれお祝いがありますの。ささやかなものですが受け取って頂けたら嬉しいですわ」

「それで本音は?」

「今日も美味しいものが食べられそうだから王宮を抜けようとしたらロッサーナに見つかった」

 はいはい。想定内だから今更腹もたたない。
 でも庶民の家で内々にやっているメイドの進学祝いに陛下と殿下が来るというのは、客観的に見てかなりの異常事態ではある。おかげで本日の主役が緊張しまくりだ。

「それじゃ陛下と殿下からのプレゼント贈呈から始めましょうか」

 怪しい祝賀会がはじまる。
 なお陛下からのプレゼントはペーパーナイフ、殿下からのプレゼントは高級ペンだった。どちらも王室の紋章入り。金文字で『サラ・ザビアロフ殿進学祝』なんて記してもある。
 おいおいこんなの人前で使えないだろ! まあ嬉しいけれどさ、保護者もどきとしても。

 ※ それぞれ、アシュ君好みのSFの最後に近い部分です。
   火星が柿の実:『昔、火星のあった場所』北野勇作
   リダツシロ :『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン
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