異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第12章 王都へお出かけ

第80話 ラツィオへお出かけ

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 サラは無事試験に合格した。税金の申告も無事に終わった。翻訳のお仕事も順調だし仕事量も程々。
 つまりはまあ平穏な日々だ。
 そんなある日の夕食中。

「ちょっと皆でラツィオに行かないか?」

 ミランダからそんな提案があった。

「何かあるのでしょうか?」

「あのスキー場用のゴーレムを作って貰っている工房からお誘いが来たんだ。以前フィオナが提案した実用的かつ面白いものが出来たので是非来てくださいだとさ」

「どれくらいの完成度なのかな」

「そこまでは書いていない。でも自信がある感じだ。今後の国の状態を変えるかもしれないとまで書いている」

 なるほど。よくわからないけれど面白そうだ。

「でもアシュも行って大丈夫でしょうか」

「そろそろ魔法武闘会の件もほとぼりが冷めて来ただろ。偽チャールズ・フォート・ジョウントも最近は出ていないしさ」

 偽チャールズ・フォート・ジョウントは2件目の犯行の後はなりを潜めている。その辺の行動原理は今ひとつ俺にはわからない。
 ただあの事件の後、国が特別監査を行った結果穀物等の値段が下がった。今はその結果にある程度満足しているのかもしれない。

「ナディアさんは大丈夫かな?」

「私は普通にしていればあまり目立つ方では無いですから。それに休暇届も出ていますし誰かに会ったところで問題は特にありません」

 ふむふむ。

「なら行こう。サラもラツィオははじめてだろ。だからある程度は観光しような」

「それもいいですわね。ラツィオなら色々案内出来ますわ」

 うんうん。

「なら決定だ。オッタ―ビオ商会に手紙を出しておくよ。向こうはいつでもいいと言っているけれどさ。一応手紙を先に出しておくという事でさ。ちょうど1週間6日間後、来週3の曜日あたりでどうだ?」

 基本的に俺達の予定はミランダが管理している。
 例外はサラだ。4月からはじまる学校関係があるし友人等との約束等もあるかもしれない。

「サラは大丈夫でしょうか。もしその日に用事があれば遅らせるなりしますけれど」

「大丈夫です。次の学校の予定はもっと先ですから」

「なら決定だ」

 よしよし。

「楽しみですわ。久しぶりのラツィオですし」

「だな。でもフィオナの提案したもの、出来ていれば色々画期的だぞ。まずはアシュに見て貰って意見を色々聞きたいところだな」

「どんな物なんだ?」

「まだまだ秘密だよ。どれくらいの完成度かもわからないし」

 うーむ、気になる。取り敢えず楽しみな事が出来た。

 ◇◇◇

 そんな訳で6日後。俺達はラツィオのヴァルレ公園へと移動した。

「確かオッタ―ビオさんの工房はこの近くだよな」

「そうそう。割とすぐだよ」

 場所を知っているミランダとフィオナ先導で歩いていく。

「ここはどの辺なんですか?」

「ここはラツィオのヴァルレ公園で、その川がラツィオ中心部を流れるチベル川です。ここから王宮や正教会のある中心地区まで歩いて3半時間20分くらいですわ」

 テディがサラに現在位置を説明。
 川沿いを歩くこと少し、木材業者や運送業者、資材業者の並ぶ一角に工房があった。周りの巨大な建物と比較すると比較的こぢんまりとした建物だ。
 開けっぱなしの入口からフィオナが声をかける。

「おはようございます。梟《イービス》商会です」

「いらっしゃいませ。親方が奥で待っています」

 フィオナに続いて俺たちも中へ。
 中は広いというか奥がずっと続いている。手前側が一般向けの工房兼ショールームという感じだ。
 一般的な鉱山作業用ゴーレムとか農業用馬型ゴーレム等がおいてあり、若い人が作業をしている。

 マッドゴーレム1体程度なら大人ならだいたい誰でも魔法でも呼び出せる筈だ。わざわざ購入するのにはどんな利点があるのだろう。歩きながら説明をささっと斜め読み。

 ふむふむ。
  ① その都度呼び出すより大幅に魔力が節約できて
  ② マッドゴーレムより遙かに軽くて丈夫で
  ③ 力が強く動きも比較的素早い
 そんな利点があるのか。

 値札を見ると安いものでも1体正金貨1枚100万円といいお値段。しかし鉱山労働等では危険な場所でも人の代わりに入れるし安全かつ便利だよな。人より小柄でも力は数倍以上あるし。
 そんな事を思いながら奥へ。
 カーテンで仕切られた一角の手前でフィオナが再び声をかける。

「おはようございます。梟《イービス》商会です」

「どうぞ」

 カーテンをくぐって中へ。ここからは試作や特注物を作っているようだ。
 あの登山モノレール用の試作品もある。いかにもという軌条の上にのっていることからも間違いない。
 魔法武闘会で見た青いゴーレムが更に奥に並んでいるのも見えた。

 だが今回のメインはそれらでは無いようだ。どう見ても昨年夏から増え始めた新型馬車にしか見えない物。
 その前に見覚えのある男が立っていた。オッタービオさんだ。

「フィオナさん、ミランダさん。そして梟《イービス》商会の皆さん、お待ちしていました。当工房の主宰、オッタービオと申します」

 良くある木工所や鉄工所等の工房の代表とは大分違う、どちらかというと学校の理系の先生的な雰囲気の人だ。年齢もせいぜい40歳くらいだろう。そしてかなり腰が低い感じ。武闘会の時の印象とはかなり違う。

「それでこれがあのゴーレムですか」

 フィオナの問いにオッタービオさんは頷く。

「ええ。これが最新型実用ゴーレム、馬無し馬車です」

 彼はそう行って馬車の周りを歩きながら説明を開始する。

「『ゴーレムは人型や動物型である必要はないのでは』。フィオナさんに言われた時はっとしました。そうか、ゴーレムはもっと自由な形になれるのかと。
 ご存じの通りゴーレムは基本的に鈍重です。重い荷物を引っ張る用途ならまだしも乗り物としては到底実用的な速度にはならない。
 しかし人型や動物型ではないゴーレムならこの速度問題を解決できるかもしれない。そんな訳でフィオナさんやミランダさんと話し合って、注文を受けた登山ゴーレムと平行して開発したのがこちらです」

 馬無し馬車、つまり自動車か。
 オッタービオさんは馬車の後輪を示す。そこには蒸気機関車のような車輪に動力を伝える棒が見えた。

「この部分が従来のゴーレムなら足に相当する部分です。ここの前後運動で後輪を動かすことによりこの馬無し馬車は進みます。腕部分は下に入っていて見えませんが、左右に舵を取る動きに対応させています。
 試乗したところ標準的な魔力があれば起動可能で、4頭立て馬車以上の速さで動く事を確認しました。これなら充分に馬車の代用になるでしょう。どうです、試乗してみませんか」

「いいのでしょうか」

 乗りたいぞオーラをギンギンに発して真っ先にテディが尋ねる。

「ええ。ここにあるのは展示用試作機で、試乗用は既に用意しています。実はこのアイディアをいただいた皆さんに真っ先に乗っていただいて、意見を聞こうかと思っていたのです。
 さあ、どうぞこちらへ」

 これはなかなか面白い。自動車が出来たら一気に便利になるぞ。そう思いながら俺も皆について更に奥へと進む。

 組み立て場所や製品倉庫みたいな場所を抜けるとガレージのような場所に出た。中央、裏口近くに1台の馬無し馬車が停まっている。どうやら9人乗りの小型貨客用馬車を改造したもののようだ。
 ベースはサスペンション装備の最新型。だが御者席に取り付けてあるはずの舵やブレーキにあたる部分が見えない。
 これはどうやって運転するのだろう。
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