異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第12章 王都へお出かけ

第81話 馬無し馬車試乗会

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「まずは私が操ってみます。皆さんは後ろにお乗りになって下さい」

 オッタービオさんが扉を開けた手前の馬車にごそごそと乗り込む。
 この馬車は御者席の他に客席が3列ある。一番前が2人、2番目3番目が3人掛けの客席定員8名。
 今回は2人ずつ3列に乗った。俺は2番目の席で隣はナディアさん。なお前席はテディとサラ、後ろがミランダとフィオナだ。

「それでは走らせます。金属性魔法、ゴーレム操作、アイオリア、起動」

 そうか、俺はやっと舵やブレーキが操縦席にない理由を理解した。
 一般的なゴーレムと同じように魔法による思念操作方式。だからその辺の機構も全てゴーレム側に仕込んであるのだろう。
 発進したところ馬車より加速感を感じる。

「馬車よりも速く感じますわ」

「加速は普通の馬車よりいいですね。低い速度での力があるようです」

 操作しながら会話も出来るようだ。

 このあたりの道は結構広い。場所柄大きな荷物を大型馬車で運ぶ事が多いからだろう。

「速度は町中なので抑えています。平地なら普通の四頭立て馬車よりやや速いくらい、坂道には強くて平地における四頭立て馬車と同等程度にはのぼります」

 ギア比がやや低めなのかなと思う。ギア比というよりこの場合は動輪サイズというべきだろうか。

「ゴーレム部分がどうしても重くなるので、やや大きめのこのサイズの馬車をベースににしました。ただ後ろの車輪の負荷が大きめなので、その辺に注意して操る必要があります」

 本当は速度の事も考えてもう少し大きいタイヤを開発して貰うべきなのだろう。今は一般的な馬車を改造しているからこの状態なのだろうけれど。
 とりあえず後輪はダブルタイヤにするべきだろうか。そうすれば少しは負荷に強くなる。

 四つ角を左に曲がる。回転半径は馬車と比べるとかなり小さい。
 馬がいない分全長が短いのが効いているのだろう。一番前が御者席のみで前輪がかなり左右にきれるのも理由のひとつだ。

「せっかくですから何処か市内で行きたい場所はありますか?」

「すみません。それでは川沿いに上流側へ行って、ファルネジ通り、ヴィットリノ通りと回って宮殿広場から凱旋通りを戻る形でお願い出来ますか」

 おいおいテディ、それはラツィオの一般観光ルートだ。言わないけれど。多分サラに一通り見せてやりたいのだろうから。

「わかりました。何でしたら途中で運転を交代しましょうか?」

「初めてでも運転は大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。馬車より小回りが効きますから。曲がる時に交差点の真ん中を通るつもりで操れば問題ないです」

「なら僕が試してみたいな」

 フィオナが名乗りを上げた。

「わかりました。それではポーリオ広場で一度交代しましょう」

 おいおい大丈夫かと思う。ポーリオ広場って割とすぐそこだ。そこからだと全コースの4分の3をフィオナが運転することになる。

「アシュの感想も聞きたいから途中で変わってね」

 おっとそう来たか。

「はいはい」

「私もやりたいですわ」

 テディはまあやりたがるだろう。そういう人だから。
 そんな訳で川沿いに500腕1km程度走った広場で馬無し馬車は停まる。

「金属性魔法、ゴーレム操作、アイオリア、終了」

 そう言ってオッタ―ビオさんは御者席から降車した。そのままフィオナと入れ替わる。

「ここに書いてあるのが起動と終了の呪文ですか」

「ええ。アイオリアというのはこのゴーレムの名称です」

 どうやら起動と終了の呪文が操縦席に書いてあるらしい。なかなか親切な仕組みだ。無論こうなっているのは試乗車だからだろうけれど。

「金属性魔法、ゴーレム操作、アイオリア、起動」

 フィオナがそう言った後、馬車はゆっくりと動き始めた。

「なるほど、歩くつもりで指示してやればいいんだ」

「そうですね。ただ幅と後ろの長さがあるのでそれだけ注意していただければ」

 どうやら比較的運転は簡単なようだ。フィオナに代わっても危なげない。
 交差点で徐行してゆっくり曲がってとお手本のような運転で馬無し馬車は走る。

「この速度ならかなり余裕がある感じですね」

「ええ。街中では速度が出せませんが、性能的にはこの倍以上は出せますから」
 フィオナの台詞にオッタ―ビオさんが頷く。

「そこが古代遺跡公園ですわ。今から1千年前、ラツィオが都市国家として成り立った頃の建物が残されています」

 前ではテディがサラに観光案内をしている。

 馬車はターナー交差点を曲がったところで停止。

「金属性魔法、ゴーレム操作、アイオリア、終了」

 そう言ってフィオナが御者席からおりる。

「今度はアシュ、やってみて」

「わかった」

 御者席に乗る。
 馬がいない状態の馬車の御者席というのは独特な雰囲気だ。目の前にある手すりが馬無し馬車の先頭部分。
 何かにぶつかったらと思うとちょっと怖いな。前に運転手保護の何かが欲しいところだ。
 手すり下に貼ってある紙記載の起動呪文を読む。

「金属性魔法、ゴーレム操作、アイオリア、起動」

 おっと、自分が立っているような感覚がもう一つ脳裏に浮かんだ。これがきっと馬無し馬車の操縦用なのだろう。

 ゆっくりを意識して歩き始める。自分の視界の方で馬車が進み始めた。
 なるほど、これは確かに運転しやすい。自動車や自転車と比べるとよっぽど簡単だ。

 宮殿前広場を通り抜け、次の交差点を右へ曲がる。おっと内輪差、内輪差。できるだけ大回りするように曲がるのがコツのようだ。

 曲がって出た凱旋通りは広めで人通りも少ない。だから少しだけ加速してみる。
 うん、時速10離20km程度なら余裕がある。この倍くらいは簡単に出そうだ。

 ただ改良点も幾つか思い浮かんだ。
 まず感じるのは運転席の位置。馬車は御者席が先頭で、この部分の車体は1人乗り用に中央に狭まっている。
 これは馬を御する為の構造だ。前に馬がいるならこのままで御者席が前後の中心になるので運転しやすい。

 でも馬無し馬車の場合は御者席が一番前だ。前方の見晴らしは最高だが曲がり方が不自然に感じる。せめて前輪上程度まで運転席を下げ、馬車の幅を感じやすくした方がいい。あと衝突時の為に運転席の前に空きスペースがあった方がいいだろう。

 つまり乗車位置を全体に後ろに下げればいいのか。現在テディ達が座っている2列目をそのまま運転席と助手席とすれば。それより前は荷物入れか何かにして。
 
 バックミラーも出来れば欲しい。後ろというより左右の確認の為に。

 カーブを曲がる時に後ろが若干不安な感じだ。この馬無し馬車は馬車よりカーブを速く曲がる事が出来る。その分不安定さを感じるのだ。
 まず後ろのタイヤをダブルにするかもう少し太いものにする必要がある。更に重心を下げる為、座席をもっと低い位置に動かせれば動かしたい。
 そんなところだろうか。

 道が広いうちに左端に寄せて馬無し馬車を停める。

「金属性魔法、ゴーレム操作、アイオリア、終了」

「さて、今度は私の番ですわ」

 テディと交代だ。
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