異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第12章 王都へお出かけ

第82話 次世代の乗り物

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 テディはフィオナや俺ほど操縦について考えていなかったようだ。いきなり急発進、そして急減速、その後急カーブとひととおりやらかした。

 ただ運転席が先頭のヤバい場所だから危険運転をすれば自分が真っ先にアウト。だからなのかその後は大人しい運転へと変わったけれど。
 無事に工房まで戻ってきて馬無し馬車を停車。あの試作スペースへと戻る。

「どうでした? この馬無し馬車は」

「今までの馬車が要らなくなるよね。速いし手間がかからないし誰でも乗れるし」

 フィオナの台詞に全員がうんうんと頷く。

「何か改良した方がいい点はありますでしょうか」

「うーん。僕は画期的だしこれが出来ればいいなとしか感じなかったけれどさ。アシュ、何かあるかな」

 いきなり意見を求められた。どうせ聞かれるだろうと思っていたから頭の中でまとめた事を言ってみる。

「素人なのでゴーレムについてや馬車についてはあまり詳しくありません。ですから参考程度に聞いて下さい。
 まずは操作者席の位置です。御者席ではなく客席1列目が適していると思います。せめて前輪より後ろの方が曲がる時に自然な感じに動いてくれるのではないかと。他にも万が一衝突事故が起きたら御者席では危ないですしね。ですので今の御者席の部分は機械部分か荷物入れにして、操作者席は客席1列目にするのがいいかと。

 次に後ろの車輪です。カーブを曲がる際、今までの馬車と比べて段違いに速い速度で曲がれる分、不安定になりやすいです。ですから後ろの車輪はもっと太くするか、もしくは同じ車輪を片側2個ずつ使用するかした方がいいと感じました。
 あとは同じく曲がる際の安定の為、出来れば重心をもっと低くしたいところです。座席の位置を下方向ギリギリに下げた方がいいのではないかと。横風などにも強くなりますから。馬車の改造では難しいかもしれないですけれど」

 つまりはまあ、日本にあった自動車的な感じだ。他に何かないかと考えて思い出す。

「あとは鏡です。左右の前に車体の横方向の後ろを見る事が出来る鏡があると、車体がどのくらい端にいるかがわかりやすいと思います。
 それ以外となると……強いて言えば伝達回転数の比の変更でしょうか。今は街中で試したから速度がでませんでしたが、郊外で平地ならもっと速度を出したい場合もあると思います。その為にも出来れば伝達回転数の比を変更できる変速機があればさらに良いかと思います」

 そこまでやると動力源は別としてちょっと古いマニュアルミッションの自動車だ。ただゴーレムは前進の他に後退も出来るからバックギアはいらない。
 クラッチも魔法で回転数合わせを記述しておけば無くても大丈夫かな。ゴーレムはアイドリングは必要ないから。

「変速機ですか」

「こんな感じです」

 伝達軸と出力・入力軸からなる2段変速の模式図を簡単に描く。

「この軸を左右に動かしてギア比を変えます。こっちが繋がっている場合はこのギアで動いて、逆にこっちが繋がっている場合はこっちのギアで動くようにします。無論変速する場合は回転数をあわせる必要がありますが、その辺の制御は俺よりオッタ―ビオさんの方が詳しいでしょう」

 オッタ―ビオさんは頷く。

「なるほど、そうすれば速く走りたい時と力強く走りたい時双方に使えますね」

「この軸を更に複数にして、4段、5段と増やしてもいいのですけれど、ゴーレムは比較的力と速さの融通が利くので2段あれば充分だと思います」

 オッタ―ビオさんは紙にささっとイラストを描いて提示する。

「つまりこんな感じでしょうか」

 イラストは改良された馬無し馬車を前面と側面から見たものだ。運転席を客席1列目に変更。後輪がダブルタイヤ。座席が全体的に低い位置。サイドミラー装備。変速ギア。
 俺が言った意見が全て反映されている。

「かなり馬車と違うものになりますね。でも馬無し馬車は馬車とは違うものだから設計の時点でも相違点がかなり出る。なるほど、よくわかりました」

「あと、今の時点でこの馬無し馬車は大体いくらくらいになるのでしょうか」

 これはテディだ。どうらかなり気に入ったらしい。欲しいぞオーラがにじみ出ている。

「これは馬車を購入して改造した試作品ですから値段はまだつかない状態です。工賃無し、取り寄せた馬車や使用したゴーレムの部品代だけでおおよそ正金貨20枚2千万円程度でしょうか。
 ですがまだまだこれは次の世代の乗り物には足りない。その事が今日わかりました。ですがおかげであるべき姿が見えた気がします。夏までには次の段階の試作品を作るので楽しみにしていて下さい」

「今のままでも充分馬車より便利だし売れると思いますけれど」

 ミランダの台詞にオッタ―ビオさんは頷く。

「ええ。確かにこのままでも実用になるでしょう。しかし最初に出したものはその後の基準スタンダードになります。つまりこのまま出せば、馬無し馬車の基準はこの程度という事になってしまう。そうすればこの程度という出来の代物が溢れてしまう事でしょう。
 幸いこの馬無し馬車はこの工房でのみ使っている技術をいくつか使用しています。ですので真似される恐れはありません。だからもう少しだけ時間をかけてある程度納得がいくものを送り出したいのです」

 うーむ、良心的なものづくり屋だ。そう俺が思った時だ。

「実はつい最近、反省する出来事があったのですよ。この前の魔法武闘会、私は新しい理論で開発したゴーレムで臨みました。この青いゴーレムですね。自分では様々な状況を考え、ナディアさんの龍召喚以外なら勝てると自信を持っていました」

 おい待ってくれ。その件をここで持ち出すか! まさか俺がチャールズだと気付いていないよな。
 オッタ―ビオさんは淡々と続ける。

「結果はまあ、ご存知かもしれませんが完敗です。未だに相手のチャールズさんがどうやって私のゴーレム達を反対方向へ向けたかはわかりません。ですが反対方向を向いた際どうするべきか、私は考えておくべきだった。自分が知らない出来ない事は相手も出来ないと当たり前のように思っていた。だから反対方向を向く可能性を無視してしまった。
 ですのでこれから作るものはありえない可能性まで含めて出来得る限り考慮して対策して作ってやりたいのです。あの敗北は私にそんな当たり前の事をあらためて気付かせてくれました。
 このゴーレムも、頼まれた登山ゴーレムもそういう訳でより手をかけて、自分で納得がいくものとして世に出したいのです。無論完全なものというのは神でもない限り創造できないでしょうけれども。
 登山ゴーレムはまあほぼ作り終え、あとは夏の試験を待つだけですけれどね」

 何か色々申し訳ない。無論そんな事を言えないけれど。取り敢えずオッタ―ビオさんがくそ真面目な人だという事はわかった。
 ナディアさんが頷く。

「私もまさか龍の召喚が無効化される事態なんて想定していませんでした」

 待ってくれナディアさん。この話題をこれ以上続けないでくれ。俺が非常に恥ずかしくなる。

「ナディアさんは騎士団はどうされたのですか」

「少し自分を見つめ直そうかと長期休暇を貰っています。今は旧知を頼ってここの商会にお世話になっているところです」

「そういう機会も時には必要でしょうね。それにしても騎士団から出版企画業とは随分と思い切った事をなさったものです」

「今の仕事の方が面白いですね。新しい知識が身につきますし自分的にもあっている気がします」

「それはよかったですね」

 ……何かもう俺、穴があったら入りたい。
 恥ずかしすぎる。
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