異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第13章 いろいろあります新学期

第89話 描画担当者誕生

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「ジュリアは絵が得意なんです。ですから今度、料理レシピの挿絵を手伝ってもらおうと思って」

 おっとそれは有難い。うちにはイラスト担当がいないかったから。

「どんな感じの絵を描くのでしょうか?」

「簡単なイラストも写実的な絵も両方大丈夫です。実際にジュリアに描いてもらった方が早いと思います。ジュリア、あの魔法を使ってみて」

 サラは共用の場所から主にサラとフィオナが使うにじみにくい紙と油性顔料インクを取り出す。

 ちなみに紙やインク、ペンは用途によって何を使用するかが異なる。主に文字を書く俺やテディ、ナディアさんが使うのは薄くてインクが染み込みやすい並紙で出来た原稿用紙。これに水性の染料インクを使ってやや太めのペンで書くと文字が書きやすいしインクの乾きも早い。水性と言っても速乾タイプの媒体は水よりアルコールが多めだけれど。
 欠点としては時により若干線が滲んだりする事。しかし文字を書いた後すぐ上に別の紙を重ねても裏に移ったりする事は無い。

 サラやフィオナが使うのは厚めでちょい固めの紙。インクは油性顔料インクでペンは細め。この組み合わせだと乾きにくいので最低12半時間5分は乾かす必要がある。
 その代わり細い線でも描きやすくインクが伸びやすい。滲んだりすることもない。

 さて、ジュリアさんはサラの机に座り、図やイラスト用の厚い紙と油性顔料インク、それに細いペンを手に取る。

「では簡単に」

 何か魔法を起動した気配がした。ペンを持つ手は動いていないのに紙に絵が描かれていく。
 何故だと思ってよく見て気付いた。水魔法だ。水魔法の水を操る術で、インク壺からインクを飛ばして紙に付着させている。
 インクジェットプリンタかよとも思うが、プリンタと違い紙の上の何処にでもインクを飛ばす事が出来る。細い線も太い線も思いのままのようだ。

 でも微妙な濃淡はどうやって出しているのだろう。よく見ると微細な点の集合で濃淡をあらわしているようだ。
 まさにインクジェットプリンタだな。もしくは自動スクリーントーンというか。

 6半時間10分もかからないうちにほぼB4サイズの絵が完成した。サラの席から見たこの事務所の光景だ。
 机が並んでいて、窓があり、向こう側に入口、更に奥に応接スペースがある。一見写真で撮ったかのような出来だ。

「こんな魔法があるんだな」

 俺は思わずそう言ってしまう。ジュリアちゃんは恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

「小さい頃絵を描こうと思った。不器用でどうしても思った通りの線が描けなかった。だから水魔法で絵を描く方法があると聞いて練習した」

「号外なんかに本物そっくりの絵が載っていたりしますけれど、あれはこうやって描くのですね」

「プロの人はもっともっと早い。私はまだまだ」

「いえ、これは素直に凄いと思います。軍の観測専門部門にいる絵描きと同等の仕上がりです」

「ありがとう」

「それでジュリアの絵を描く技術、ここでも使えるのではないかと思うんです。どうでしょうか」

 サラの台詞に大いに俺は頷く。

「ああ。絵が描けなかったばかりに訳せなかった本が色々あるんだ。勿論ミランダやフィオナにも相談しなきゃならないけれどさ」

 絵本も出来るし漫画も出来るぞ。実例を出したほうがわかりやすいかな。

「ちょっと待ってくれ。実例を出すから」

 でもすぐに思い出せる絵本なんてそう多くない。 小銀貨2枚2,000円をテーブルに出しつつ考え、結局ど定番な本を選ぶ。

「日本語書物召喚、ぐりとぐら、起動!」

 更に思いついて小銀貨2枚2,000円を追加。

「日本語書物召喚、ウォーリーを探せ、最初の日本語版、起動!」

 定番が2冊並んだ。

「こういう本は今まで訳せずにいたんだ。だから絵を描ける人がいてくれると凄く助かる」

「今の何?」

 そう言えば説明がまだだったな。

「俺は魔法で遠い世界から本を取り寄せる事が出来る。この2冊も魔法で取り寄せたんだ」

「このことは他の人には話さないで下さい」

 サラの台詞にジュリアちゃんは頷く。

「了解。見せて貰っていい?」

「ああ。存分に見てくれ」

 俺以外の全員が集まって本をめくり始める。

「文字はわからないけれど何となくわかりますね」

「ネズミ2人は友達?」

 色々話している間に俺は次に召喚する本を考える。
 今度は漫画を取り寄せようと思う。スティヴァレでも理解されそうな漫画というと何だろう。

 そう言えばイティハーサを俺用に召喚していたよな。あれなら読めるかな。聖神中央教会は多神崇拝だし問題ないよな。
 本当は漫画入門用にもっと短いものがいいのだが例として出すだけならいいか。図書室と呼ぶ本棚で区切られた一角へ行き、とりあえずイティハーサの1巻だけを手にとって事務室へ戻る。

「ただいまーっ」

 ミランダとフィオナが一緒に帰ってきた。

「おっと、何だ何だ」

 2人も覗き込んでくる。

「ジュリアさんが絵を描けるというので、ならこういう本はどうかとアシュノールさんが出したんです。これが先ほど描いて貰った絵です」

「巧いよね。まるで見たままを閉じ込めたようだよ」

「これを描けるというのは凄いよな。それで本はそれか?」
 
「あとこういう形式の本もあるぞ。これは訳さないとわからないだろうけれどさ」

 輪の中にイティハーサ1巻を入れてやる。うんうん、皆さんいい反応だ。
 漫画なら台詞分だけ訳せばいいからまだ少し楽だな。仕上げ担当が増える分俺の仕事も増えるのは仕方ない。

 ただ漫画でちょうど良くて短いのがなかなか思いつかない。なまじ絵があるだけにスティヴァレで読めそうなものが限られてしまうのだ。

 無難なところで進撃の巨人や乙嫁語りあたりかな、長いけれど。ベルばらも何とか大丈夫かな、政治的に危険かもしれないけれどさ。
 ヘルシングは好きだけれどあの雰囲気は訳せるかな。ファイブスター物語は大丈夫だろうか。ナウシカはセーフかな。AKIRAは絶対無理だろう。

「これは同じ人を探せばいいのかな?」

 フィオナはウォーリーを探しているようだ。

「そうだ」

「この異国の絵本、いいですね。文字が読めないのが悔しいですわ」

 テディはイティハーサだな。

「絵を描ける人がいるなら訳す価値もあるだろ」

「この表現形式は初めて見たな。他にもあるのか?」

 ミランダは早くも商売になりそうだと判断したようだ。

「ちょうどいい短編はなかなか思いつかないけれどさ。向こうでは結構メジャーな表現形式だから探せば結構あるぞ」

 どうしても探せなかった場合は、『1巻完結の短編、スティヴァレでも違和感なく受け入れられる漫画』で召喚するまでだ。多分かなり魔力を消費することになるだろうけれど仕方ない。

 こんな感じでジュリアは来て早々に戦力扱いとなってしまったのだった。
 なおこの時の俺はまだ気づいていない。テディの強硬なお願いで翌日、10倍速モードでイティハーサ全15巻を訳す羽目になる事を。更に家の皆さんに好評過ぎて乙嫁語り、ベルサイユのばらと連続で訳させられる事を。

 更にミランダに『まず短いのを出したいけれどいいのがないか』と言われて、
  ① いい加減な条件で召喚かけたら案の定魔力がギリギリになってぶっ倒れ、
  ② 出て来たヘウレーカを訳したらテディから女性向きをと言われて11人いるも訳す羽目になり
  ③ これらが好評でジュリアが今期の稼ぎ頭になったり
なんてのも、全然まだ気づいていない。

 気付いていれば少しは加減したのに。そう気付いた時は既に後の祭りという奴だった。
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