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第14章 2年目夏のバカンス
第93話 自動ゴーレムはアンドロイドの夢を見るか?
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「そう言えばこの前お渡ししたゴーレムはどうでしょう? 改造はうまくいきましたでしょうか?」
フィオナは頷く。
「そうですね。見て貰った方が早いかな。アシュ一つ頼んでいい?」
「何だ?」
「家から持ってきて欲しいものがあるんだ。僕の部屋にゴーレムが3体いると思うんだけれどどれでもいいから1体いいかな。ちょっと重くて僕の取寄魔法では無理なんだ」
「わかった」
それくらいなら簡単だ。俺の取寄魔法は空間魔法を覚えたせいかかなり強力だから。
あっさりと小型ゴーレムが目の前へと出現する。見た限りでは特にどこか改造したようにも見えない。
「見た限りではそのままに見えますね」
オッタ―ビオさんの目にもそう見えるようだ。フィオナは頷く。
「改造したのは中身です。どんな改造かをちょっとお見せしようと思います。
ところでそこの工具箱をお借りしていいですか」
「どうぞお使いください」
オッタ―ビオさんがそう言ったのを確認して、フィオナはゴーレムの方を見る。
「グルーチョ、向こうにある赤色の工具箱を持ってきて」
ゴーレムが頷いて左へと旋回。そのまま歩いて行ってしゃがみ、工具箱を両手で抱えて立ち上がり、ぐるっと回ってフィオナの前へと持ってくる。
「よしグルーチョ、工具箱を僕の前に置いて、元の場所へ戻って」
ゴーレムは言われた通り工具箱を置いて、そして元の場所へ戻って静止した。
「こんな感じです。まだ簡単な事しか出来ないですけれどね」
ちょっと待ってくれ。今の動作と通常にゴーレムを動かす動作と何処が違うのだろう。ゴーレム魔法をほとんど使った事がない俺にはよくわからない。
しかしオッタ―ビオさんは理解したようだ。
「まさかとは思いますが。今の言葉だけでゴーレムを操作しているのでしょうか」
「ええ」
フィオナは頷く。
「このゴーレムは自動で動くゴーレムの研究用です。今はまだ簡単な命令しか出来ません。でも将来的には命令ひとつで自律的に動くようにしたいんです。まだまだ知識を蓄える必要がありますけれど」
おい待ってくれ。それってアンドロイドとかそういう物を作ろうとしているんじゃないよな。そもそも何がどうなっているんだ。
オッタ―ビオさんも疑問に思ったらしい。
「どうやってそれを実現させているのでしょうか。その方法が思いつきません。もしよろしければ教えて頂いてよろしいでしょうか」
「以前いただいたゴーレム制御用の魔法陣入り魔法水晶を使っています。あの魔法水晶に以前本で持ってきた命令言語の記述方法で命令を書き込んで組み込んだのが改造部分です。
僕が工夫したのはその命令文部分です。この命令文にはゴーレムの基本動作以外に、新たに経験したり教えられた事を自動で書き加えるよう記述してあります。そうやってゴーレムが経験から命令文を追加していく事によって、より様々な状況に適応できる自動ゴーレムができあがるんじゃないかという発想です」
つまりPythonで自己学習型のプログラムを組んで、ゴーレムに入れた訳か。もちろん原理その他は現代日本等でやっていた人工知能とは違うだろう。それでも充分にぶっとんだ研究というか開発だ。
「つまり命令を聞いて自動で動くゴーレムですか。もし命令が実行できなければ学習して次は出来るようにするという仕組みの」
「そうですね。学習する部分を記述するのが難しかったですけれど、何とか動いています。まだ大した事は出来ないですけれどね」
オッタ―ビオさんがいる前だがちょっと気になった事を聞いてみる。
「まさかこのまま学習を続けて自立思考させたりとかまで考えていないよな」
「思考というものをどう記述すればいいか、僕もまだわからないんだ。だから今やっているのは、
① 僕が命令した作業を
② ゴーレムが自分の経験から判断して最適な方法で処理する
という動作がどこまで完璧に出来るかを追求する作業だよ」
流石にブレードランナーみたいな世界はまだまだのようだ。それでもかなり高度な研究である事は違いない。自分で学習して進化するゴーレムなんて、少なくとも今のスティヴァレでは想像している人もいないだろう。
「私ではとても思いつかなかった発想です。それで今、このゴーレムはどれくらいの事が出来るのでしょうか?」
「まだ出来る事は部屋の整理整頓くらいまでですね。散らかった本や道具類をしまうべき場所に納める作業までです。あとは今のように見える範囲のものを指示された言葉から推察して取ってくるまででしょうか。これだけでも自動で出来るまでに2月かかっています。だからこの研究も気の長い作業になると思いますけれどね」
「それで将来どんな事が出来るんだ?」
ミランダも興味を持ったようだ。
「色々だね。例えば鉱山での採掘作業、今は1機のゴーレムを動かすには1人の操作担当が必要な状態だよね。
でもこのタイプのゴーレムが出来れば、命令するだけでゴーレムが勝手に鉱山の中へ入って穴を掘り、採掘してくれるようになるんだ。操作する人は必要なくなる。
もっと身近な例だと家庭用にも使えるよ。掃除も洗濯も調理も材料等を置いて命令するだけで全部やってくれる。もちろん自分で色々考えて作業するメイドさんにはかなわないけれどね。単純作業は全部任せる事が出来る訳だ。
そんな感じで人がする作業を代わりにやってくれるようになる訳だ。簡単な命令をするだけで自動的にね。まあそこまで完成させるのはまだまだ先になるとは思うけれどさ」
まさに自動人形だな。先は長いけれど実用になれば一気に生活が変わるだろう。
命令で済むような単純労働は全てゴーレムに任せられる訳だ。実用化できれば現代日本よりも進んだ技術だよな、本当に。
「面白いです。まさに私が思いつけない、ここで内容をお聞きしても実際にどう命令文を書けばいいか想像もできないような研究です。このゴーレムをお渡した甲斐がありました」
「ただ実用になるにはかなり時間がかかるとは思いますけれどね。何せ2か月でまだまだこの程度ですし」
「いえ、ここまででもとんでもない成果です。私はあの魔法水晶を使っても、せいぜい魔法武闘会で動かしたあの程度までしか出来なかった。まさか口頭での命令を理解して自律的に動くゴーレムなんて考えもしなかったです。しかも自己学習して出来る事がどんどん増えていくという。
もし手伝えることがありましたら何でも言って下さい。ゴーレムのハード的な部分なら何でも用意しますから」
「ありがとうございます。まだこのゴーレムで当分は大丈夫だと思います。もしまた研究が進みましたら連絡しますから」
「是非お願いします。いや今日はいいものを見せて貰った」
通りの向こう側から黒色のゴーレム車が近づいてきた。先程試乗した8人乗りと全く同型だ。
俺達の前で止まり、中から先ほどポロコフ君と呼ばれた若い男が降りてくる。
「こちらが梟《イービス》商会さん用のゴーレム車になります」
フィオナは頷く。
「そうですね。見て貰った方が早いかな。アシュ一つ頼んでいい?」
「何だ?」
「家から持ってきて欲しいものがあるんだ。僕の部屋にゴーレムが3体いると思うんだけれどどれでもいいから1体いいかな。ちょっと重くて僕の取寄魔法では無理なんだ」
「わかった」
それくらいなら簡単だ。俺の取寄魔法は空間魔法を覚えたせいかかなり強力だから。
あっさりと小型ゴーレムが目の前へと出現する。見た限りでは特にどこか改造したようにも見えない。
「見た限りではそのままに見えますね」
オッタ―ビオさんの目にもそう見えるようだ。フィオナは頷く。
「改造したのは中身です。どんな改造かをちょっとお見せしようと思います。
ところでそこの工具箱をお借りしていいですか」
「どうぞお使いください」
オッタ―ビオさんがそう言ったのを確認して、フィオナはゴーレムの方を見る。
「グルーチョ、向こうにある赤色の工具箱を持ってきて」
ゴーレムが頷いて左へと旋回。そのまま歩いて行ってしゃがみ、工具箱を両手で抱えて立ち上がり、ぐるっと回ってフィオナの前へと持ってくる。
「よしグルーチョ、工具箱を僕の前に置いて、元の場所へ戻って」
ゴーレムは言われた通り工具箱を置いて、そして元の場所へ戻って静止した。
「こんな感じです。まだ簡単な事しか出来ないですけれどね」
ちょっと待ってくれ。今の動作と通常にゴーレムを動かす動作と何処が違うのだろう。ゴーレム魔法をほとんど使った事がない俺にはよくわからない。
しかしオッタ―ビオさんは理解したようだ。
「まさかとは思いますが。今の言葉だけでゴーレムを操作しているのでしょうか」
「ええ」
フィオナは頷く。
「このゴーレムは自動で動くゴーレムの研究用です。今はまだ簡単な命令しか出来ません。でも将来的には命令ひとつで自律的に動くようにしたいんです。まだまだ知識を蓄える必要がありますけれど」
おい待ってくれ。それってアンドロイドとかそういう物を作ろうとしているんじゃないよな。そもそも何がどうなっているんだ。
オッタ―ビオさんも疑問に思ったらしい。
「どうやってそれを実現させているのでしょうか。その方法が思いつきません。もしよろしければ教えて頂いてよろしいでしょうか」
「以前いただいたゴーレム制御用の魔法陣入り魔法水晶を使っています。あの魔法水晶に以前本で持ってきた命令言語の記述方法で命令を書き込んで組み込んだのが改造部分です。
僕が工夫したのはその命令文部分です。この命令文にはゴーレムの基本動作以外に、新たに経験したり教えられた事を自動で書き加えるよう記述してあります。そうやってゴーレムが経験から命令文を追加していく事によって、より様々な状況に適応できる自動ゴーレムができあがるんじゃないかという発想です」
つまりPythonで自己学習型のプログラムを組んで、ゴーレムに入れた訳か。もちろん原理その他は現代日本等でやっていた人工知能とは違うだろう。それでも充分にぶっとんだ研究というか開発だ。
「つまり命令を聞いて自動で動くゴーレムですか。もし命令が実行できなければ学習して次は出来るようにするという仕組みの」
「そうですね。学習する部分を記述するのが難しかったですけれど、何とか動いています。まだ大した事は出来ないですけれどね」
オッタ―ビオさんがいる前だがちょっと気になった事を聞いてみる。
「まさかこのまま学習を続けて自立思考させたりとかまで考えていないよな」
「思考というものをどう記述すればいいか、僕もまだわからないんだ。だから今やっているのは、
① 僕が命令した作業を
② ゴーレムが自分の経験から判断して最適な方法で処理する
という動作がどこまで完璧に出来るかを追求する作業だよ」
流石にブレードランナーみたいな世界はまだまだのようだ。それでもかなり高度な研究である事は違いない。自分で学習して進化するゴーレムなんて、少なくとも今のスティヴァレでは想像している人もいないだろう。
「私ではとても思いつかなかった発想です。それで今、このゴーレムはどれくらいの事が出来るのでしょうか?」
「まだ出来る事は部屋の整理整頓くらいまでですね。散らかった本や道具類をしまうべき場所に納める作業までです。あとは今のように見える範囲のものを指示された言葉から推察して取ってくるまででしょうか。これだけでも自動で出来るまでに2月かかっています。だからこの研究も気の長い作業になると思いますけれどね」
「それで将来どんな事が出来るんだ?」
ミランダも興味を持ったようだ。
「色々だね。例えば鉱山での採掘作業、今は1機のゴーレムを動かすには1人の操作担当が必要な状態だよね。
でもこのタイプのゴーレムが出来れば、命令するだけでゴーレムが勝手に鉱山の中へ入って穴を掘り、採掘してくれるようになるんだ。操作する人は必要なくなる。
もっと身近な例だと家庭用にも使えるよ。掃除も洗濯も調理も材料等を置いて命令するだけで全部やってくれる。もちろん自分で色々考えて作業するメイドさんにはかなわないけれどね。単純作業は全部任せる事が出来る訳だ。
そんな感じで人がする作業を代わりにやってくれるようになる訳だ。簡単な命令をするだけで自動的にね。まあそこまで完成させるのはまだまだ先になるとは思うけれどさ」
まさに自動人形だな。先は長いけれど実用になれば一気に生活が変わるだろう。
命令で済むような単純労働は全てゴーレムに任せられる訳だ。実用化できれば現代日本よりも進んだ技術だよな、本当に。
「面白いです。まさに私が思いつけない、ここで内容をお聞きしても実際にどう命令文を書けばいいか想像もできないような研究です。このゴーレムをお渡した甲斐がありました」
「ただ実用になるにはかなり時間がかかるとは思いますけれどね。何せ2か月でまだまだこの程度ですし」
「いえ、ここまででもとんでもない成果です。私はあの魔法水晶を使っても、せいぜい魔法武闘会で動かしたあの程度までしか出来なかった。まさか口頭での命令を理解して自律的に動くゴーレムなんて考えもしなかったです。しかも自己学習して出来る事がどんどん増えていくという。
もし手伝えることがありましたら何でも言って下さい。ゴーレムのハード的な部分なら何でも用意しますから」
「ありがとうございます。まだこのゴーレムで当分は大丈夫だと思います。もしまた研究が進みましたら連絡しますから」
「是非お願いします。いや今日はいいものを見せて貰った」
通りの向こう側から黒色のゴーレム車が近づいてきた。先程試乗した8人乗りと全く同型だ。
俺達の前で止まり、中から先ほどポロコフ君と呼ばれた若い男が降りてくる。
「こちらが梟《イービス》商会さん用のゴーレム車になります」
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