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第14章 2年目夏のバカンス
第97話 愚痴を言える相手
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「国王の一存で動かせる範囲じゃないと」
「認めたくはないけれどね。国王の一存で動かせる範囲にも限界がある。最近人口が増えた分穀物価格も上昇気味だしね。だからこそ収穫して出回る時期になるとため込もうとする動きが出てくるんだ。
全ての領主がという訳では無いけれどね。ヤミ税率で領民から搾り取るなんて事までやっている貴族までいる。開拓して増えた領地を国に申告しないなんてまだ可愛い方さ。
官僚諸君も下の方は真面目にやってくれているんだけれどね。貴族身分の駄目な管理職が邪魔する状態だ」
今日の陛下はため息が多い。
「それでも陛下が即位した後の改革で大分ましになったのでは」
「制度はほとんど変えていない。基本的な部分だけ原則論にもどしただけさ。
でもこのままでは今の状態が限界だ。この国の政治システムが制度疲労を起こしているのだろうね。国王である僕がそう言うのも問題だけれどさ。世襲が何代にも渡った結果、統治が権利じゃなくて義務だってことをわかっていない領主が多すぎる」
「ですから問題のある貴族を取り潰したり降格させたりすれば」
殿下の強硬論に陛下は肩をすくめる。
「確かに僕が王位についた当初に多少やったけれどね。あれは劇薬だ。めったにやるものじゃない。
それに国王の権威行使も本来は法律によるべきだろう。さもないと無法状態になってしまう。
それでも国が良くなればまだいいけれどさ。実際は領主による領民の不法な扱いが増える結果になったりする訳だ。ああいう輩は自分に都合のいいようにしか物事を解釈しないからね」
殿下の強硬論に陛下はそう反論してまたため息をつく。
「あまり無理はしないで下さいよ」
「出来る事はしないとね。偽チャールズ君にせっつかれているようだからさ。貴族連中は早く捕まえろと言うけれどね。自分達の事を棚にあげて」
更にため息をついて、ふっと自嘲的な笑みを浮かべる。
「悪いね、言ってもしょうがない事を言ってしまった」
「愚痴くらいならいくらでも聞きますけれどね」
「なら毎日でも」
「流石にそれは遠慮します」
「残念ながら僕が愚痴を言える相手はここにいる皆さんくらいだからね」
「はいはい」
少しだけ調子が戻ったかな、陛下も。
「そう言えば8月にロンバルドの奥の方にある山岳リゾートへ行くのだけれど、なんでもリゾート開発の方にも関わったらしいよね」
おい待て陛下。話が飛んだと思ったら何故そんな方向へ。しかも身に覚えがある。その件は……
「まさかバルマンのリゾートですか」
「ああ、確かそんな名前だった。流通の関係で話し合いにね行くのだけれどね。何でも画期的な温泉施設が出来たらしい。今年の冬には新しい遊び方も出来るようになるらしくてさ、その施設で使う最新技術も見せてもらう予定だよ」
おい待て陛下。
「知っていて言っているんですよね」
「まあね」
陛下め認めやがった。
「別に君達を監視していた訳じゃない。山岳リゾートの件は本当に流通についての会談だ。
ため込む連中がいるなら流通を改善してどこの領地にも安い品が行き届くようにすればいいだろう。商業ギルドや新興系の大手商会と話し合ってそんな仕組みを作ろうとしている訳だ。たまたま幹事になってくれた商会が会場として推したのがバルマンのリゾートさ。
更に言うとそこでのデモンストレーションの為、ラツィオのゴーレム工房が新型の馬無しゴーレム車で新設備を運び込むそうだ。
ちなみに僕も旅行日程を短くするために新導入の高速ゴーレム車を使う。君達が使っているものと基本的には同型さ。便利そうなので早速国王庁でも購入した訳だ。
どっちにも君達が関わっているというのも何なのだけれどね」
なるほど、これも穀物の値段安定の件に関わっている訳か。それにしても何だよな。
「本来は翻訳屋なんですけれどね、うちの商会は」
「でもうらやましいな、僕としては。そうやって自分の技術で世界を広げていけてさ。僕の仕事なんか最近は苦情処理ばかりだ。嫌になるよ本当に。
僕も国王なんてさっさとやめたいところなんだけれどね。現状では放り出す事も出来ない。
もしもやめたら冒険者にでもなろうかなと思っているんだけれどね。荷物運びと魔法戦闘だけは得意だからさ。
これでも赤龍退治をした事だってあるんだ。まあ現場を見つけたのは偶然だけれどね。ストレス発散ついでに空間操作魔法をガンガン使って倒させて貰った」
赤龍退治と聞いて思い当たる事がある。
「そう言えばチャールズ・フォート・ジョウントは赤龍退治でC級冒険者になったという設定ですよね」
「あれは僕が倒した時の実績そのものさ。せっかくなので記念として冒険者ギルドに頼んで作って貰った訳だ。名前と実績だけで個人データ無しの冒険者カードをさ。ギルドのお偉いさんには怒られたけれどね。仮にも陛下が何と危ない事をしているんですかって」
怒られるのは当然だ。そういったいきさつであの冒険者カードを作ったのなら。
「それじゃチャールズ・フォート・ジョウントって本当は陛下の偽名だったんですか」
「元々はそうだね。でもせっかくだから有効活用しようと思ってアシュノール君に譲った訳だ。そのおかげで副産物もいくつか出来たけれどね。今回の義賊とかさ。
何はともあれ僕は僕の出来る範囲で今のお仕事をするしかない。さしあたって今はたまりにたまった愚痴を吐き出しつつうまい飯でも食べて気分転換をするべきだろう。という訳で今度はこのカツいただくよ」
陛下の3杯目はデミカツ丼のようだ。ちなみに1杯目と2杯目は海鮮勝手丼だった。
それにしても大丈夫だろうか。ワインも瓶2本目が半分くらい空いているし。
「そろそろ胃袋的にご飯は減らしたほうが良くないですか」
「丼ものはご飯の量がある程度無いと美味しくないと思うんだよ。多少食べ過ぎても魔法でどうにかなるしね。
だいたい国王ともなればパーティも仕事のうちだからさ。食べ過ぎ飲み過ぎはいつもの事。おかげで胃腸は鍛えられているんだ」
本当になんだかな、この陛下は。
でもさっきまで愚痴っていたように、仕事が大変なのも確かなのだろう。ストレスだってあるだろう。
俺もそんな仕事したくないしな、絶対に。
だから少しはまあ、大目に見てやってもいいかなと思う。俺にとっては微妙に迷惑な存在だけれどさ。
「認めたくはないけれどね。国王の一存で動かせる範囲にも限界がある。最近人口が増えた分穀物価格も上昇気味だしね。だからこそ収穫して出回る時期になるとため込もうとする動きが出てくるんだ。
全ての領主がという訳では無いけれどね。ヤミ税率で領民から搾り取るなんて事までやっている貴族までいる。開拓して増えた領地を国に申告しないなんてまだ可愛い方さ。
官僚諸君も下の方は真面目にやってくれているんだけれどね。貴族身分の駄目な管理職が邪魔する状態だ」
今日の陛下はため息が多い。
「それでも陛下が即位した後の改革で大分ましになったのでは」
「制度はほとんど変えていない。基本的な部分だけ原則論にもどしただけさ。
でもこのままでは今の状態が限界だ。この国の政治システムが制度疲労を起こしているのだろうね。国王である僕がそう言うのも問題だけれどさ。世襲が何代にも渡った結果、統治が権利じゃなくて義務だってことをわかっていない領主が多すぎる」
「ですから問題のある貴族を取り潰したり降格させたりすれば」
殿下の強硬論に陛下は肩をすくめる。
「確かに僕が王位についた当初に多少やったけれどね。あれは劇薬だ。めったにやるものじゃない。
それに国王の権威行使も本来は法律によるべきだろう。さもないと無法状態になってしまう。
それでも国が良くなればまだいいけれどさ。実際は領主による領民の不法な扱いが増える結果になったりする訳だ。ああいう輩は自分に都合のいいようにしか物事を解釈しないからね」
殿下の強硬論に陛下はそう反論してまたため息をつく。
「あまり無理はしないで下さいよ」
「出来る事はしないとね。偽チャールズ君にせっつかれているようだからさ。貴族連中は早く捕まえろと言うけれどね。自分達の事を棚にあげて」
更にため息をついて、ふっと自嘲的な笑みを浮かべる。
「悪いね、言ってもしょうがない事を言ってしまった」
「愚痴くらいならいくらでも聞きますけれどね」
「なら毎日でも」
「流石にそれは遠慮します」
「残念ながら僕が愚痴を言える相手はここにいる皆さんくらいだからね」
「はいはい」
少しだけ調子が戻ったかな、陛下も。
「そう言えば8月にロンバルドの奥の方にある山岳リゾートへ行くのだけれど、なんでもリゾート開発の方にも関わったらしいよね」
おい待て陛下。話が飛んだと思ったら何故そんな方向へ。しかも身に覚えがある。その件は……
「まさかバルマンのリゾートですか」
「ああ、確かそんな名前だった。流通の関係で話し合いにね行くのだけれどね。何でも画期的な温泉施設が出来たらしい。今年の冬には新しい遊び方も出来るようになるらしくてさ、その施設で使う最新技術も見せてもらう予定だよ」
おい待て陛下。
「知っていて言っているんですよね」
「まあね」
陛下め認めやがった。
「別に君達を監視していた訳じゃない。山岳リゾートの件は本当に流通についての会談だ。
ため込む連中がいるなら流通を改善してどこの領地にも安い品が行き届くようにすればいいだろう。商業ギルドや新興系の大手商会と話し合ってそんな仕組みを作ろうとしている訳だ。たまたま幹事になってくれた商会が会場として推したのがバルマンのリゾートさ。
更に言うとそこでのデモンストレーションの為、ラツィオのゴーレム工房が新型の馬無しゴーレム車で新設備を運び込むそうだ。
ちなみに僕も旅行日程を短くするために新導入の高速ゴーレム車を使う。君達が使っているものと基本的には同型さ。便利そうなので早速国王庁でも購入した訳だ。
どっちにも君達が関わっているというのも何なのだけれどね」
なるほど、これも穀物の値段安定の件に関わっている訳か。それにしても何だよな。
「本来は翻訳屋なんですけれどね、うちの商会は」
「でもうらやましいな、僕としては。そうやって自分の技術で世界を広げていけてさ。僕の仕事なんか最近は苦情処理ばかりだ。嫌になるよ本当に。
僕も国王なんてさっさとやめたいところなんだけれどね。現状では放り出す事も出来ない。
もしもやめたら冒険者にでもなろうかなと思っているんだけれどね。荷物運びと魔法戦闘だけは得意だからさ。
これでも赤龍退治をした事だってあるんだ。まあ現場を見つけたのは偶然だけれどね。ストレス発散ついでに空間操作魔法をガンガン使って倒させて貰った」
赤龍退治と聞いて思い当たる事がある。
「そう言えばチャールズ・フォート・ジョウントは赤龍退治でC級冒険者になったという設定ですよね」
「あれは僕が倒した時の実績そのものさ。せっかくなので記念として冒険者ギルドに頼んで作って貰った訳だ。名前と実績だけで個人データ無しの冒険者カードをさ。ギルドのお偉いさんには怒られたけれどね。仮にも陛下が何と危ない事をしているんですかって」
怒られるのは当然だ。そういったいきさつであの冒険者カードを作ったのなら。
「それじゃチャールズ・フォート・ジョウントって本当は陛下の偽名だったんですか」
「元々はそうだね。でもせっかくだから有効活用しようと思ってアシュノール君に譲った訳だ。そのおかげで副産物もいくつか出来たけれどね。今回の義賊とかさ。
何はともあれ僕は僕の出来る範囲で今のお仕事をするしかない。さしあたって今はたまりにたまった愚痴を吐き出しつつうまい飯でも食べて気分転換をするべきだろう。という訳で今度はこのカツいただくよ」
陛下の3杯目はデミカツ丼のようだ。ちなみに1杯目と2杯目は海鮮勝手丼だった。
それにしても大丈夫だろうか。ワインも瓶2本目が半分くらい空いているし。
「そろそろ胃袋的にご飯は減らしたほうが良くないですか」
「丼ものはご飯の量がある程度無いと美味しくないと思うんだよ。多少食べ過ぎても魔法でどうにかなるしね。
だいたい国王ともなればパーティも仕事のうちだからさ。食べ過ぎ飲み過ぎはいつもの事。おかげで胃腸は鍛えられているんだ」
本当になんだかな、この陛下は。
でもさっきまで愚痴っていたように、仕事が大変なのも確かなのだろう。ストレスだってあるだろう。
俺もそんな仕事したくないしな、絶対に。
だから少しはまあ、大目に見てやってもいいかなと思う。俺にとっては微妙に迷惑な存在だけれどさ。
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