異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

文字の大きさ
113 / 176
幕間 俺らしくない決断

第107話 俺も友達が少ない

しおりを挟む
「ナディアさんは陛下からどこまで内容を聞いていますか?」

 ナディアさんは頷いて口を開く。

「私が受けた命令はアシュノールさん達の護衛兼監視につくところからロッサーナ殿下達を保護する事。更に革命が勃発したら貴族側が指揮する軍から国民を守る事。そして革命終結までアシュノールさん達と殿下達を保護する事です。つまり陛下の計画のほぼ全部と言っていいと思います」

「途中で陛下が崩御されても」

「ええ。陛下にとってはそれも予定の範囲内です」

 やはりな。自分を生贄にして王国制度そのものを終わらせる気だったようだ。できるだけ他には被害を出さないような形で。

「まず陛下のシナリオを教えていただけますか」

「わかりました」

 ナディアさんが説明をはじめる。

 教えてくれた陛下のシナリオは大雑把にまとめるとこんな感じだ。
  ① 君主制以外の政治体制を国民に知らせる
  ② 国民に『悪政に対して革命という手段を起こせる』と知らせる
  ③ 国王&貴族とそれ以外の国民が対立するような状態にする
  ④ 革命を起こして現体制を破壊させ、新しい制度にする。

「陛下は最初、アシュノールさんではなくソニアさんにあの魔法を教えようとしたそうです。いざという時にはロッサーナ殿下にソニアさんを付ける予定で。ですが陛下自身もあの魔法を教えられるほどの知識が無く、ソニアさんも陛下に教えられただけではこの魔法を習得できませんでした。ですので次善の策としてアシュノールさんにこの魔法を身につけるよう依頼したそうです」

 なるほど。俺が空間操作魔法を身につけさせられた件にはそういう裏話があったのか。

「それは何処で知ったんですか」

「陛下が自ら説明してくれました。私がアシュノールさんに負けた試合の後、私をこの任務につける際に。
 あの時点で陛下が考えている事のほとんどは教えていただいたと思います。革命を起こす事も。他にこの計画を知っているのはソニアさんだけだと言っていました。ソニアさんはいざという時の為、今後はロッサーナ殿下につける予定だと。

 ただロッサーナ殿下が偽チャールズ事件を起こす事は予定外だったそうです。レジーナさんを手中に入れて闇魔法を手に入れる事も。陛下は出来ればロッサーナ殿下にはそういった特殊な魔法を手に入れて欲しくなかったようですから。

 ですが今では陛下もそれらの状況を最大限に活用するつもりのようです。ですがロッサーナ殿下はその事は知りません。ただ偽チャールズ騒動の黒幕が自分だという事は陛下に気づかれたとは思っているようですけれど」
 なるほど。

「それらの情報は陛下からですか」

 ナディアさんは頷く。その瞳に涙が浮かんでいたように見えるのは気のせいだろうか。

「陛下は私をここに付けて以来、何度となく状況の説明にみえられました。そのたびに入手されているほとんどすべての情報を教えていただいています。私から情報を聞く以上にです。こんな任務をさせて済まないね、なんて言いながら」

 気にくわない。いかにも陛下あいつらしくて。

「誠実な方なのですね、陛下は」

「ええ。残念ながら最高の上司です。私にとっては」

 おそらく陛下はナディアさんは真実を言った方が動いてくれるだろうと判断したのだろう。またはそういうナディアさんだからこそこの任務につけたのかもしれない。

 まったくもって気にくわない。そういう奴は本人の意に反した結末を用意してやる。無理をしてでも。

「わかりました。何とかして国は陛下の計画通りに、被害は最小限に、そして陛下の運命は本人の予定とは違う方向に持って行きましょう。お願いしますナディアさん、力を貸して下さい。

 おそらくナディアさんは陛下の計画に俺達が気づいた時、それについて話すところまで陛下に命じられているのでしょう。ですがここからは陛下の命に背く行動になります。陛下の命令に従っているふりをしながら陛下を欺く事になります。

 ナディアさんが陛下の忠臣なのはわかっています。その上で俺はナディアさんにお願いしたい。陛下を裏切って下さいと。陛下を裏切って陛下の運命を変えて下さい。お願いします」

 俺は本気でナディアさんに頭を下げる。本当は土下座までしたいところだが、残念ながらスティヴァレに土下座というものは存在しない。実際にやっても意味がわからないだろう。
 だからただ深く深く、そして長く頭を下げる。

「頭を上げて下さい。本当は私こそお願いするべきところなのです」

 俺は頭をあげ、まっすぐにナディアさんの方を見る。

「最後にひとつだけ。今のアシュノールさんの言葉を信じていいですね。陛下の意向通り国を変えつつ陛下の運命を変える。その言葉を信じていいですね」

「ええ。それが出来るのはおそらく俺だけですから」

 我ながら大きく出たなと思う。いつもの俺なら絶対出ない台詞だ。
 でも俺は嘘を言っているつもりはない。今までに無いくらい本気だ。

「わかりました。どうか陛下をお願いします」

 ナディアさんは俺に向かって頭を下げる。先程の俺と同じように深く長く。

「わかりました。それではやるべき事の検討に移りましょう。とりあえずナディアさんは今夜の出来事も、陛下を裏切る話以外はそのままいつも通りに陛下に報告して下さい。それ以外も極力いままでと変わらないようにお願いします。その間にこちらでも作戦を進めます」

「どのような作戦でしょうか」

 これはテディだ。

「まずは情報戦です。陛下が今の時点で望んでいるのは革命という概念の周知です。ですが俺達は革命という概念とともにその正しい終わらせ方も周知させようと思います。血みどろの戦争とか一方的な裁判、断頭台の嵐とかにならないようソフトランディングさせるべきだという知識と意識を広めましょう。題材は俺が探して翻訳します」

 とりあえず革命後についての資料を調べることにしよう。東京裁判やニュルンベルク裁判のような戦争裁判も参考になるかもしれない。学問的な物以外に小説や漫画等で適当なものはあるだろうか。
 とにかく極力血を流さない方向へ世論を持って行けるような下準備をしておこうと思う。

「それ以外当面は陛下のシナリオ通り進めるつもりです。基本的に俺の思い描いているシナリオも陛下のシナリオとほとんど同じですから。ただ終わらせ方だけは断固として変えます。誰もが納得して、なおかつ二度と王政に戻らないようなやり方。それを考えなければなりません。陛下の計画以上に俺が表に出る必要もあるでしょう。

 ですがその辺はまだ先になります。まずは革命の終わらせ方について、そして内戦を起こさせない事についての周知です。学会へのレポートのような理論的な方向と小説のような感情的な方向双方から攻めていきましょう。革命という概念を広げるのと平行してやれば陛下も意図に気づきにくい筈です。
 それ以外は極力いつもと同様に。まだそれ以上をする段階ではないでしょうから。ただもし何か気づいた事があれば随時お願いします」

 当面は今までとそれほど変わらないだろう。ただしある時点から俺も色々面倒くさい事をしなければならない。
 真のチャールズ・フォート・ジョウントとして役を演じる必要も出てくるだろう。まったくもって俺らしくない。

 でも俺は諦める気は無い。俺も誰かさんと同じで友人は少ないのだ。
 現在も付き合いがある同性の友人なんて1人しかいない。その友人をこんな事で失う訳にはいかないのだ。

 あの馬鹿には格好つけて死なすより格好悪く生き延びて貰うとしよう。
 奴の為じゃない。奴の妹とその友人、そして俺自身の為だ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...