異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第15章 便利なゴーレム

第108話 気晴らしのドライブ

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 革命をコントロールするという目的が決まった。それでもいつもの仕事が変化する訳ではない。
 たとえばフィオナが書いた革命についてのレポートを読んで、
「もう少し革命が成った後の事後処理についても記載しておいた方がいいかな。血みどろの処刑劇なんてあったら嫌だしさ」
なんて提案したりするのも方法論だ。

 また革命、それも事後についての本を集めて調べていたりもする。
 だがこれは基本的にいつもの業務、つまり次の本を探す作業と一緒にやっている。なので日本語を読めない皆さんに気づかれる事は無いだろう。

 その過程で『群集心理』なんて本を訳したりもした。ちなみにロベスピエールが主人公格の漫画版の方だ。
 訳した後にジュリアに投げたら面白がってくれたので、これも何とか出版まで狙う予定だ。ミランダも乗り気なのでまず大丈夫だろう。

 ただジュリア、忙しい。現在の梟《イービス》商会で一番働き一番稼いでいる気がする位に。
「仕事出来るのは休みのうち」
といって頑張ってくれているけれど何か申し訳ない。
 
 また俺達の作戦とは別として、テディもナディアさんもそれぞれいつものお仕事で忙しい。恋愛小説も児童書も国立図書館や他社のスケジュールに既に記載済みだし。

 結果として夏休み期間なのに忙しい日々が1週間続いた。そしてリゾート終了後2度目の第6曜日、つまり休養日。ついにミランダが切れた。

「せっかくの夏休みなのにこれじゃ煮詰まるだけだ。今日くらいはぱーっと気分転換に行こうぜ」

 全員を無理やり連れだして、ゴーレム車を出し、フィオナにこそこそと何かを告げてドライブに出かける。ドライブという概念はスティヴァレにはまだ無いけれど。

「何処へ行くんだ?」

 ミランダに聞いてみる。

「今まで行こうと思っていたけれど行かなかった処だ。なあフィオナ」

「そうだね。行こうと思っていたけれど忘れていたよ」

「アシュノールさんの魔法のほうが早い」

 ジュリアの身もふたもない台詞にミランダは肩をすくめる。

「移動する過程を楽しむ事も時には必要だろう。そう思わないか」

 確かに車を走らせて感じる夏の風が気持ちいい。
 ゴーレム車は街を出て北へ向けて走る。このまま行くと峠を越えてアレサンダーラ、そしてミランへ続く道だ。

「アレサンダーラまでだと馬車で1日がかりの距離だぞ」

「そこまでは行かない。このゴーレム車なら1時間程度の場所だ」

 そうは言ってもこのゴーレム車、馬車と比べると論外に速い。4頭立ての馬車でも歩く程度まで速度が落ちる峠への上り坂を平地での馬車より速い速度で走る。

「速いですよね、このゴーレム車」

「まだまだ余裕はあるよ。ただ道を外すと崖だったりするからね、安全の為に速度を落としているだけ」

 何馬力位あるんだろうな、このゴーレム車。見かけは馬4頭より絶対力が無さそうなのだけれど。

「風が涼しくなってきました」

 確かにそう言われればそんな感じがする。

「高さがあるからかな」

「ですね。山の方が海辺より涼しいし寒いですから」

「気持ちいい」

「そうだね」

 そんな感じで低い峠を越えて山の中を走ること約1時間。ゴーレム車はそこそこ大きな川沿いに到着した。
 
「ここは何処でしょうか」

 サラやナディアさん、そしてジュリアは知らないだろう。でも俺を含めて最初から一緒の4人はここを知っている。

 来たことは無い。しかし図面では見たことがあるし話も聞いている。
 川の一部をせき止めて回している大型水車は5基。当初より増やしたようだ。そして水車の軸が繋がっている小屋から背後の丘に伸びている太いパイプ。

「去年の初夏、私がゲオルグ商会に頼まれてさ。アシュに相談した事ががあるんだ。水利の無い丘の上に畑を作るにはどうすればいいかって。
 現地は雨が少ない場所だから放牧くらいは出来るけれど麦でも水が不足する。それに人間の生活用水がそもそも足りない。水利があるのは台地状の場所の下を流れる川だけ。でも領主は何とかここを畑として開拓したい。そんな依頼が回りまわった結果、うちに知恵を貸してくれという話になったんだ」

 ミランダの説明を聞きながら俺は思い出す。
 あの当時はまだゼノアで仕事を立ち上げたばかり。ミランダも顔つなぎの為に色々な場所へ顔を出していた。
 そのおかげで翻訳と関係ないこんな事まで請け負ってしまったのだ。今ではいい思い出だけれども。

「その時にアシュが取り寄せて翻訳した資料を基に出来たのがここの揚水装置だ。もとは水車3基で設計したらしいけれどさ。今では5基で倍近い量の水をくみ上げているそうだ。

 水があるとなると雨が少ないのは天候が安定しているという利点にもなる。そのおかげでここは一気に拓けたんだ。昨年開拓するまで何も無かった場所だけれど、今では入植者が千人規模でいる。今年初めて小麦や豆、芋の収穫を終えたが品質も収穫量も上々だったらしい。

 おまけに水車で水を揚げるのが珍しいといって観光名所にもなる位さ。一度来てみたかったんだけれど時間がなくて、いつのまにか1年経っていた。
 それを今日、やっと見に来ることが出来た訳だ」

 ゴーレム車を収納袋に仕舞い、ミランダを先頭に歩き始める。
 近づくと水車それぞれはかなり大きい。直径5腕10m近くあるだろうか。それが斜め横にずらすように5基配置。
 なお水車付近の川はせき止められていて水位を保つようになっている。

「この装置の中は見る事が出来ないけれど、金属製でかなり精密な構造になっているらしい。ここで水車の回転を使って上へ水を押し上げているんだ。それじゃ上を見に行くぞ」

 おいおい登るのかよ。確かに観光用なのかパイプに沿ってのぼる歩道が出来てはいる。かなり急で丸太の滑り止めが階段のようについている状態だけれど。
 ただ高さはそこまで無い。せいぜい15腕30m程度だろうか。

 登ってみると上もまた貯水池だった。下から伸びているパイプ10本から水が吐き出されている。
 向こう側に高い場所が見えないのにパイプから水が出ている光景はなかなか違和感がある。しかもパイプそれぞれで水が出るタイミングが違うのも面白い。これは下の水車の動きにあっているのだろう。

「こんなに大量の水が上がってきているのですね」

「ああ。しかもこれ、全て水車の動力で動いていて、ゴーレムだの魔法だのは一切使われていないんだ。
 川の水量とか揚水する高さとか条件があるからここほど大規模に出来ている場所は他にはまだ無いけれどさ。それでもなかなかの光景だよな」
 
 貯水池からは水路が2方向へと伸びている。
 更にその先には畑が広がっていた。輪作を行っているようで場所によって緑だったり刈り取られていたり。
 見た限りかなり広い範囲へと水路は続いている。一番長い方向は2km単位の長さがありそうだ。幅はだいたい4半離500mくらいだろうか。
 
「出てくる水が涼しげでいいですね」

「夏はそうだな。でも冬になると水量が下がるからポンプも2基だけ動かすらしい。この川は凍らないから冬でも水車そのものは動くらしいけれど。ただ金属パイプのままだと凍るからさ。パイプに木の皮を巻いて、更に土を塗って焼いて凍らないようにしているそうだ。だから途中に見えるパイプは太いけれどここに出てくる分にはそこまで太くない」

「でも水の量は結構出ていますね」

「この広さの畑と家々分だからな。特に夏はこれくらい必要なんだろ」

 こんな風になっていた訳か。俺は図面上でしか知らなかったけれど、現地では更に工夫を重ねていたようだ。
 貯水池の開拓地側、開拓地に伸びる水路と貯水池双方が見える芝生の上でミランダは腰を下ろす。

「それじゃここで昼にしようぜ。昨日橿鳥亭ジャーイで買い出しをしておいたんだ」

 ミランダが自在袋から出してきたのはミニ丼シリーズ各種だった。親子丼、天丼、牛丼、デミカツ丼、とじカツ丼、焼鳥丼、ビーフシチュー丼と何種類も出てくる。

 橿鳥亭ジャーイのテイクアウトは日々進化している。主にミランダがうちで出た新しいメニューを横流ししているのだ。
 本当ならスパイ行為と言いたい処だ。しかし新しいメニューをテイクアウトでホイホイ買えるようになるのは俺達としても悪い事ではない。ミランダも一応サラが号外に書いてから流しているようだ。

 結果、元々パン系メニューが主流だったのが今では丼物も増えて来た。ライスはこの辺ではメジャーではなかった筈だが、今では結構売れているらしい。

「これって選ぶのが大変ですね」

「気にせず取って、ちょっと食べたら誰かと交換すればいいよ」

「そうですね」

 間接キスを通り越しているがもう俺も今更気にしない。取り敢えずデミかつ丼を真っ先にキープして口に運ぶ。
 外で食べるメシはなかなか美味しい。たまにはこうして遠出してみるのもいいものだ。
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