異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第15章 便利なゴーレム

第111話 ゴーレムへの魔法教育?

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 本日は休養日。だから夕食は久しぶりに俺の担当だ。
 本日のメニューは魚介類をたっぷり使わせてもらう。朝方こっそりカーモリの市場へ行って買い出してきた成果だ。
 魚だけでは無くウニもたっぷり用意してある。牡蠣はシーズンではないらしく売ってなかったけれど。

 きゅう、きゅう。例によって足下で控えているミニ龍2頭が訴えはじめた。魚は久しぶりだからかいつもより圧力を感じる。

 きゅう、きゅううう。2頭とも上目遣いでこっちを見ている。
 仕方ない。刺身の端部分を2つに切ってやると羽をパタパタさせて首を伸ばす。
 これに負けるなとナディアさんには言われているんだけれどな。そう思いつつ右手と左手でそれぞれニアとマイアに刺身を与える。 

 視界の向こう側にはご飯を炊いているグルーチョ君。奴も魔法を使えれば便利なのだけれど。

 うちの自律型ゴーレムは今のところ魔法を使う事が出来ない。だから水とか火のついた木炭とかをあらかじめ用意する必要がある。正直言ってこれは不便だ。
 自分で操作するタイプのゴーレムは確か魔法を使えるから、ゴーレムそのものが魔法を使えないという事は無い筈だ。どうにかならないのか、フィオナに後で聞いてみよう。

 きゅう、きゅうう。また下から訴える声が始まった。
 サラはいつもはどうしているんだろう。そう思いながら強い意志で魚をさばく。あんまりやると人が食べる分までなくなるから。
 でもまあ……端くらいはいいか。

 ◇◇◇

 そんな訳で本日の夕食は豪華全のせ海鮮丼。毎度おなじみ巨大丼に酢飯を2合程度入れ、表面の3分の1に生ウニが載り、残った部分にマトウダイ、スズキ、しめさば、玉子、コチ、ボラ、カラスミがぎっしり載っている代物だ。
 お代わり用の酢飯と刺身も無論用意してある。

 なお俺用とジュリア用はご飯の量が半分だ。そうしないと食べきれなくなる恐れがあるから。
 夕食ではまずサラ達の話になった。

「学園祭の話というのは決まったのかな」

「ええ。ラーメンとつけ麺のお店に決まりました」

「候補は麺、サンドイッチ、クレープ、フルーツドリンク。圧勝」

「他のクラスとの差別化とボリューム感ですね」

「圧倒的に美味しい。腹も膨れる」

 サラとジュリアの説明で何となく経緯が想像できた。

「でもラーメンだと器が必要ですよね。それは回収するのでしょうか」

「使い捨ての素焼きの丼が100個で小銀貨1枚1,000円で入手できるそうです。その辺は学園祭用として学校の購買部が注文を取って一括購入してくれます」

 サラがテーブル下に潜り込んでいるニアに刺身を与えつつこたえる。学校側も協力してくれるのか。それはなかなか気がきいている。

「何か僕らの学校より楽しそうだよね」

「学園祭の毎年開催は私達も目指したのですけれど」

「国立はその辺厳しいよね」

「ここゼノアという土地柄もあるんだろうな」

 でっかい港を持った交易の街だしな。商売に対して寛容というか学生のうちにそれくらい体験しておけというか。そんな雰囲気もあるのだろう。

「学園祭は10月の何日だっけ」

「10月最初の1の曜日から6の曜日までです」

「ならかなり麺もスープも作らないとね」

「一日前の休養日に麺帯とスープをある程度まとめて作ってしまう予定です。あとは客足をみながら作ればいいかなと思っています」

「スープを炊く匂いも客寄せに重要。だから当日も作り続ける」

 匂いも客寄せの方法論か。俺の足元にやって来たミニ龍に玉子焼きをやりつつ、確かにそうだなと納得する。

「絶対行きましょうね」

「恥ずかしいです」

「客は歓迎」

 間違いなく全員行くだろうなと思う。何やかんや言って2人がどうやっているか気になるし。

「忙しくて大変ならグルーチョ君達の貸出もするからね。3人とも麺を作れるから」

 だからフィオナ、ゴーレムを料理に使うのは目立ち過ぎだ。そう思って、そして思い出した。

「そう言えばフィオナ、グルーチョ君達は魔法を使えないのか? せめて水魔法と火魔法が使えれば随分と便利になると思うけれど」

「そう、それも課題の一つなんだ。魔法を使えれば用途が一気に広がるしね。
 でも今のところ教え方がわからないんだよ。実際にゴーレムの前で使ってみせたけれど覚えてくれなかったし」

 なるほど。

「なら夕食の片づけが終わったらグルーチョ君を借りてもいいか」

「勿論だよ」

「それでグルーチョ君に何かを教える時はどうすればいい?」

「人に対するのと同じで大丈夫だよ。例えば名前を呼んだ後、『これから魔法を使うから覚えるように』と指示するとかさ」

 自然言語理解まで出来るとは恐ろしいゴーレムだ。前世ではその辺、結構大変だった気がしたけれど。
 きっと魔法の方が科学よりも融通が利くのだろう。魔法の条件記述からして自然言語を使える。だから認識を数式化するなんて事をしなくてもいいし。

 ◇◇◇

 夕食の片づけといってもグルーチョ君がいれば簡単だ。
 清拭魔法で皿やカトラリー類を綺麗にした後、
「グルーチョ、あと宜しく」
と声をかけておけば彼が全てを元の場所へと片づけてくれる。

 いつもはその後に、
「片づけ終わったら僕の部屋ね」
とフィオナが命令を追加するのだが、今日は俺が魔法を教えられるか実験する予定。

 だから、
「グルーチョ、片づけが終わったらリビングへ来てくれ」
と命令しておく。

 俺の部屋ではないのはまだ時間が早いからだ。それに今日はテディの日だから、俺の部屋へ行ってしまうと夜モードになってしまう可能性もある。

 そんな訳で片付けが終わるのをリビングで待つ。なおリビングには俺以外にもテディやフィオナがいる。
 テディは、
「アシュが寝室へ行くまで暇ですから」
と読書をしていて、フィオナは、
「どうやって魔法を教えるのかな」
と待ち構えている状態だ。

 俺はゴーレムに魔法を教える為の準備中。
 具体的には、
  ① 高校物理の教科書と副読本を図書室から持ってき該当の場所を開いておく
  ② テーブルの上に水が入ったマグカップを置く
という作業だ。

 ちょうど準備が終わったところでグルーチョ君がキッチンからやってきた。リビングに入ってきて3歩歩いたところで静止する。

 日本ではロボットに人間と同じ動歩行をさせるのにも結構大変だったんだよな。ゴーレムは普通に歩行してしまうけれどさ。そんな事をふと思いつつ、作業を開始。

「グルーチョ、これから温度について教える。温度とは物が温かい、熱い、冷たい等の状態を示す指標だ。
 物の温度はその物を構成している分子の乱雑な並進運動エネルギ―の平均値にあたる。分子とは……」

 つまり物理学的に温度と熱を定義して認識させ、その上で熱を操作する事を魔法として教え込もうという作戦だ。

 普通の人は簡単な魔法を使用する為に原理だの方法論だの考える事は無い。使えるのが当たり前だと思っているから使えるのだ。だから実際にはそれを実現する方法論がとんでもなく難しい取寄魔法アポートも使えてしまう。

 だがゴーレムには『当たり前』という認識が通用しない。だからその辺を厳密に定義して教え込もうと思った訳だ。

「……さらに温度を指標として使用する場合の値を次のように定義する。水が凍り付く温度を0度、水が沸騰している状態の温度を100度。あとはそれに従い……」

 ついでに温度を摂氏で定義してしまう。厳密には気圧で融点や沸点は変わるけれど実用上はそう問題ないだろう。

「……以上のように物を構成している分子の乱雑な併進運動エネルギーを操作する魔法を熱魔法と定義し、併進運動エネルギーの平均値を上げる方向を加熱または温度を上げる、平均値を下げる方向を冷却または温度を下げると表現する。また指標として温度を指定した場合、加熱または冷却によって物質の温度をその指定された温度にするものとする」

 かなり長い説明だったけれど、グルーチョ君は理解してくれただろうか。それでは試してみよう。

「グルーチョ、熱魔法。そこのマグカップ内の水を加熱、90度に」

 確かに魔法の気配を感じた。どれどれ、カップの上に手をかざしてみる。
 しっかり熱気を感じた。成功だ。

「グルーチョ、熱魔法。このカップ内の水を冷却、マイナス10度に」

 あっさり凍り付いたのを確認。

「すごいアシュ! なるほどこうやればゴーレムにも魔法を教えられるんだね」

「でもアシュでないと無理ですわ」

「でも熱はいいとして、水魔法はどうやって覚えさせるのかな?」

 それも考えてある。空気中の水分を集める方法だ。この場合大量の水を出す為には換気が必要だから、先に風魔法を教える必要があるけれど。
 でもついでだからやるとしよう。

「グルーチョ、次は風魔法について説明する。風とは空気が……」
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