異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第15章 便利なゴーレム

第114話 疲労の原因

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 俺の本来の仕事は本の取り寄せと翻訳である。
  ① スティヴァレで売れそうな本を日本から取り寄せて
  ② 日本語からスティヴァレ語に翻訳して
  ③ テディ達に渡して仕上げて貰う
のが本業だ。

 しかし最近はあまりお仕事に集中できていない。陛下の運命を変えるとかゴーレムに魔法を覚えさせるとか。
 確かにそれも重要だ。しかし本来の仕事をしなければ飯が食えなくなる。そうしたら俺だけでなく計7人の生活に支障をきたしてしまう訳だ。

 そろそろおろそかになっていた本業に取り組むべきだろう。そう思って仕事の計画表を取り出す。ミランダが作って各自に渡してくれる奴だ。

 ジュリアの漫画関係は仕事に必要な分は訳して渡してある。イティハーサもベルばらも、おまけの群集心理もギデオンも。
 しかも彼女は仕事が早いからかなりの部分まで描き上げている。既に出版社に年内出す分は完了しているほどだ。
 もっと訳して渡してくれと本人は言っているが、新しい漫画を読みたいとか新しい表現を知りたいという理由なので特に急ぐ必要は無い。

 サラのレシピ関係も大丈夫。既に今年分がほぼ終わりかけている状態だ。

 フィオナの学問書関係も今のところ手出しするものは無い。革命関係をたっぷり渡したので当分ネタは尽きないだろう。医学書関係も追補版をこの前完結させたばかりだ。

 ナディアさんの児童書はこそあどの7からがまだ訳していない。ただまだナディアさんは5を仕上げている段階だ。だからあまり急ぐ必要も無いだろう。

 問題はテディの青春小説・恋愛小説。そろそろ新作を訳さないとまずい。今はテディ手持ちの2冊を訳している状態だが、これもまもなく終わりそう。
 しかもテディは定期的に新しい本を渡さないとご機嫌斜めになる。つまり今俺がやるべきなのはテディに渡す小説の選定と翻訳だ。

 しかし俺はこの手の小説については詳しくない。ぶっちゃけ俺が知っている本は種切れ状態だ。

 仕方ない。週刊読書人とか本の雑誌とかダ・ヴィンチとかを取り寄せて調べるとするか。魔法で『テディが喜びそうな小説』という指定をして召喚するという手もあるけれど、かなり魔力を消費しそうだし。

 そんな訳でドサドサと本関係の雑誌や新聞を召喚してひたすら読みふける。決してこれは趣味じゃないぞ、仕事だぞ。そう自分に言い訳をしつつ。

「アシュ、アシュ」

 今忙しい。

「アシュノールさん」

 俺は小説選定中だ。正直苦手な作家も多いんだよなこの分野。

 俺は現代風俗風の描写が入り過ぎたものやお涙頂戴系は嫌いだ。相手が死んでお涙頂戴なんてパターン過ぎて許せない。
 あと批評家にしか受けないゲージツ的美しさとかもパスだ。恋愛小説にはそういったのが多い事もあってかなり厳しい目で見てしまう。

「アシュノールさん! アシュノールさん!!!」

 うっ! 背後から左手を取られいきなり極められた。ギブ! ギブと思って気付く。

「ナディアさんですか」

 見るとテディも俺の横に立ってこっちを見ている。

「本当にアシュは読書中は周りに気づかないですわね」

 それはテディもだろと言いたいが今の状況では言えない。

「ごめん、それで何か……」

 尋ねるまでもなかった。テディでもナディアさんでもない、ここの住民でない誰かさんがいる。

「やあ、話には聞いていたけれど本当に気付かないんだね、読書中は」

 一応誤解は解いておこう。

「読書ではなく仕事中です。この次取り寄せる本を何にするか選定している最中でした。ところでどうされましたか、陛下」

 そう。陛下が何故か来ている。何故だろうと思って、そして徐々に脳みそが今までの状況を思い出して……
 そうか。

「もう気付かれたんですか。早いですね」

「何に気づいたかはわからないんだけれどね。何か早急に話を聞いた方がいい事が起こったようなんでやってきた訳だ」

 陛下は空いているミランダの席に勝手に腰掛けてこっちを見る。

「それで一体何をしたんだい。ゴーレム車や登山ゴーレムなんてものじゃない、未来の選択肢が場合によっては激変する何かを手に入れたようじゃないか」

 なるほど、そういう風に気付くのか。

「つまり未来視で先が見えなくなったんですね」

「そういう事さ。どうも一度ここを訪れないと駄目らしくてね。それで慌ててやってきたって訳だ」

 仕方ない。俺は空間操作魔法で階段掃除中のゴーレム、ジュディーちゃんを取り寄せる。
 出現してすぐ掃除を開始しそうなジュディーに命令。

「ジュディ、掃除中止。命令まで待機」

 ジュディーちゃんは動きを止める。

「やらかしてしまったのはこのゴーレムです。正確にはこれを含むゴーレム3体ですが。これらはいまやったように指示をすれば自動で動く自律型のゴーレムですが、つい出来心で空間操作魔法をおぼえさせたらおぼえてしまったんです」

 陛下は一瞬わけがわからないという顔をする。

「ゴーレムが魔法をおぼえたってどういう事だい?」

 やってみせた方が早いだろう。

「こういう事です。ジュディ、移動魔法でナディアさんだけを図書室へ移動させてくれ。了解したら実行して頷いてくれ」

 ナディアさんがふっと姿を消した。ジュディがゆっくり頷く。
 3数える程度後、ナディアさんが本棚の向こう側から姿を現した。
 さらに5数える程度の沈黙。

「今のはつまり、このゴーレムがアシュノール君の命令にしたがって、移動魔法を実行したという事か」

「ええそうです。ゴーレムに魔法を覚えさせる実験でついどんな難しい魔法でも覚えられるのか試した結果、こうなってしまいました」

 再び沈黙が10数える程度場を支配する。

「そもそも自律型ゴーレムって実用になっていただろうか」

「まだ研究中です。その過程で魔法を覚えさせる実験をした訳です」

 本日は間が多い。
 確かに自律型ゴーレムというだけでも今までありえなかった代物だ。それが空間操作魔法を使うというのだから理解に苦しむのも仕方ないだろう。

「何か頭痛がする。事態が異常すぎて思考がついていかない」

「たまたま実験結果がこうなってしまっただけで、不幸な事故です」

「何か悪意を感じるな」

「陛下に対しての悪意はありません」

「まあそうだろうけれどさ」

 陛下はため息をつく。

「まさかこんな冗談みたいな代物を見る事になるとは思わなかった。頼むからこのゴーレムの存在と機能は公にしないでくれ。ここのメンバーが使うのは仕方ないが、それ以外に対しては一切秘密だ。頼むからロッサーナにも言わないでくれ。今後面倒な事になる」

「そのつもりです。ただ空間操作魔法を除く自律型ゴーレムについてはオッタ―ビオさんの協力を得てやっている状態ですけれど」

「空間操作魔法についてだけ秘密を厳守してくれればいいよ。正直この扱いを間違うと世界の破滅が起きそうだ」

 陛下の台詞は冗談ではないだろう。俺が試しに未来視を使い『この技術を無作為に広める』選択肢を選んだところ、数十年先の雰囲気が真っ暗になったから。

「それだけでいいですか」

「どうせここの面子に使用禁止と言っても無理だろう。そもそもアシュノール君がいることだしさ」

 陛下はため息をもう1回つく。

「それじゃ保秘だけは頼むよ。僕は今、仕事中に抜け出してきた状態で長居が出来ないから詳細説明その他は後にする。それじゃ失礼」

 陛下は立ち上がり、次の瞬間ふっと姿を消す。帰ったようだ。
 再び訪れた沈黙が妙に居心地悪い。だから俺はわざと明るく言ってみる。

「まあ陛下に説明する手間が省けてよかったな、今回は」

「何か陛下に同情したい気分です」

 あれナディアさん。でもまあナディアさんは基本的に陛下の忠臣だから仕方ない。

「今回ばかりは私も同意見ですわ」

 あれテディまでそんな事を。

「仕事の最中だったようだし陛下も疲れているんだろうな」

「確かに疲れるでしょうね」

 ナディアさんとテディにため息をつかれた。
 いや待ってくれ。俺は陛下を助ける為にゴーレムに空間操作魔法を教えたんだ。それなのにこれじゃ俺が悪いみたいじゃないか。俺としては非常に不本意だ。

「あとフィオナさんが魔道具用に魔法水晶を持ち帰ったらどうするんですか」

「別にここのメンバー以外に空間操作魔法を広げなければいいだけだろ。陛下もそう言っていたし」

 二人に更に盛大なため息をつかれた。それでいて俺の台詞についての否定は無い。
 解せぬ。
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