異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第15章 便利なゴーレム

第116話 魔法水晶の編集作業

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 本日の昼食はゼノア風ピザ。海鮮とハーブとチーズをどっさり載せた重いタイプのものだ。ソースとチーズだけの軽くて繊細なラツィオ風とはまるで違うがこれも美味しい。

「確かにそれは売れそうだ。しかもカラーまで出来るとなると付加価値も高い。腕が鳴るな」

 描画ゴーレムの話を聞いたミランダがピザを頬張りながら頷く。

「カラーは時間が4倍以上かかるし、インクの色や性質をまだまだ考える必要もありそうだけれどね。でも面白いことは間違いないよ」

 うんうんとミランダは頷く。

「ちょうど今日これからと明日は決まった予定は無いからさ。向こうへ行ってしっかりと商談してこよう。ところでその描画ゴーレムは技術的にはオッタービオさんのところ以外でも作れるのか」

「うーん、難しいと思うよ。制御魔法陣を組み込んだ魔法水晶ユニットはオッタービオさんしか作れない筈だしね。あとはゴーレム素体そのものの性能もあるかな。単に動くだけのゴーレムなら素人でも作れるけれど動作や制御の精度を考えるとね。魔法水晶以外の素体部分も作れる工房は限られると思うよ」

 確かにかつて学校で魔法練習で作ったマッドゴーレムは動きも遅いしコントロールもあまり細かくはできなかった覚えがある。その辺はやはりゴーレムのプロなりの何かがあるのだろう。
 翻訳がただスティヴァレ語にするだけの作業ではないのと同じようなものだ。多分きっと。

「なら最初は少量生産になるな。オッタービオさんの工房、そうでなくともゴーレム車の製造で忙しいんだろ」

「だね。でもゴーレム車の作業は主にあそこの部下さん達が専用に別の倉庫を借りてやっているようだよ。あと登山ゴーレムも量産していたかな。雪が降るまでに20機は納入するって聞いたし。
 オッタービオさん自身は夕方に品質確認をやるくらいだって。それ以外の時間はオッタービオさんはこの前とおなじ場所で研究している感じだね」

 そう言えば登山ゴーレムの事を忘れていた。もともとはあれがきっかけだったのだけれども。どうやら無事採用されたようで何よりだ。
 今年の冬はモノレールを走る登山ゴーレムに乗れるだろうか。まあミランダが今年の冬休みリゾートを何処にするかで変わるけれど。

「なら登山ゴーレムが一段落した後に生産にかかればちょうどいいな。その辺も確認しておこう」

 1人あたり3枚焼いたピザは全部無くなって昼食終了。俺は1枚食べれば十分だから1枚はフィオナ、もう1枚はミニ龍2頭にやったけれど。
 グルーチョ君が事務室で作業中なので久しぶりに自分たちで食器類を片付け、全員で事務室へ。グルーチョ君が右手をあげた状態で静止していた。

「複写が終わったようだね。それじゃ今度は編集作業をするよ」

 フィオナはグルーチョ君とパフィーちゃんを接続している金属線を外し、2体の後頭部の蓋を閉じた。

「グルーチョ、メンテナンスモード解除、静止状態。パフィー、起動、メンテナンスモード」

 何やら色々とコマンドがあるようだ。そのうちフィオナに聞いてみようかな。聞いたそばから変更とか更新とかの可能性もあるけれど。

「さて、ここからはまずアシュの作業だよ。バレるとまずい魔法の消去を頼むね」

「名前を呼んだ後、命令すればいいんだな」

「そうだよ」

 ならさっき考えておいた方法でいくとしよう。

「パフィー、これから言う知識を使用する魔法のうち、水魔法と氷魔法、取寄魔法をのぞく一切の魔法を使用禁止とする。対象となる知識は特殊相対性理論、一般相対性理論、量子論、弦理論、M理論、多元宇宙論、及びこれらの理論を使用する空間操作系魔法に関する全ての知識。以上だ。なおこの命令はゴーレムの所有者に関わらず、俺、テディ、ミランダ、フィオナ、ナディアさん、サラ、ジュリア以外は解除できないものとする」

 パフィーはおよそ20数える位経過した後右手をあげた。

「これで大丈夫な筈だ」

「なら最後は僕の作業だね。
 パフィー、今から言う命令を動作不可能になるまで記憶して遵守してね。もしも僕かアシュ、テディ、ミランダ、ナディアさん、サラ、ジュリアの誰かが命令として明示的に次の台詞を告げた場合、先程の誰かが明示的に解除するまでの間、動作の一切を停止するように。
 その台詞は次の通りだよ。『健康と美容のために、食後に一杯の紅茶』。
 今の台詞を先程いった誰かが命令として明示的に告げた場合、動作の一切を停止する。停止解除は先程の誰かが明示的に解除と命令した場合だけ。
 なおこの命令及びこの命令を使用可能な命令者は、例えゴーレム自身の所有者が変わっても持続するよ。またこの命令については一切マニュアルやヘルプ等で開示しない事。
 以上理解したら右手をあげて」

 パフィーは右手をあげる。

「何か何処かで聞いた台詞だな」

「アシュが訳した本にあった機能停止用の台詞だよ。それとも『バルス』とか簡単な言葉の方がよかったかな」

 ううむ。バルスだと崩壊しそうだからやめた方がいいよな。
 それにしても今のフィオナの命令の台詞、何の本だったかな。訳した俺がおぼえていない。出版した本ではなく、趣味で訳した本のどれかだと思うけれど。

「パフィー、機能停止」

 フィオナは再びパフィーちゃんの後頭部のパネルを開き、魔法水晶を取り替える。

「これで準備はOKかな。ミランダの方は何か用意する物はある?」

「契約関係の書類は基本的に自在袋に入れっぱなしだからさ、大丈夫だ」

「記憶水晶に入れた魔法や使用できるコマンド類をある程度マニュアルにしておいた方がいいんじゃないか。そうしないとオッタービオさんが困るだろ」

「それは大丈夫だよ。簡易マニュアル作成を命令すればゴーレムが自動的にマニュアルを記載するようになっているからね。向こうではオッタービオさんが既に同型のゴーレムを魔法水晶搭載仕様にして待っている筈だから」

 至れり尽くせりだ。

「それじゃ行ってくよ。場合によっては泊まってくるから。
 グルーチョ、僕とミランダとグルーチョをラツィオのいつもの公園まで移動魔法で移動させて」

 2人と1体の姿が事務所から消える。
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