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第15章 便利なゴーレム
第117話 通信機器の再現
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ミランダとフィオナが帰ってきたのは翌日の夕食直前だった。
「いやあ、いい仕事をしてきた」
ミランダはご機嫌。
「でも疲れたね」
フィオナは言葉通り疲れ切った様子だ。
「どうだったのでしょうか」
「食べながら話そう。やっぱり家での食事が一番美味しいしさ」
「それは同感だね」
本日の夕食はポトフ、白身魚のフリッター、サラダ。ミニ龍2頭がテーブルの下でおこぼれを狙っているのはいつも通りだ。
「まずは私から話そうか。描画ゴーレムの商品化についてだ」
ちなみにゴーレムが描画できる事は既にサラとジュリアにも伝えてある。
「確かにこれは商品になるだろうという話で向こうと一致した。ただオッタービオさんとしては描画に適した仕様のゴーレムを再設計したいそうだ。具体的にはにじみにくい紙とインクをある程度収納してさっと取り出せる機能なんかをつけたいらしい。だから具体的な商品化については冬以降になるだろうという話だ。
売り出し価格は試作してからだが力作業を想定しない分従来のゴーレムより安く、小金貨8枚程度にするつもりだと言っていた。儲けは5割ずつで話がついた」
初期の写真機と考えればこの値段は妥当だろうと思う。
「あと描画ゴーレム用のインクと紙の話もエドメ商会としてきた。ゴーレムの件は秘密にして、とりあえずこういう色で速乾性のインク、にじまなくて保存性の高い紙が欲しいんですと言う形でさ。研究資金としてちょこっと投資した。向こうも乗り気だったから冬頃、ゴーレムが出る前までには結果が出てくれるかなと思う。
私の話は以上」
ちょこっと投資っていくらくらいだろう。その辺はミランダやフィオナに全部任せているから心配しなくてもいいだろうけれど。
「次は僕からかな。
描画ゴーレムの件はミランダの言った通りだから省略するよ。複写した後に移動魔法を使えなくした魔法水晶は無事渡して、そのかわりというかミニゴーレム6体を受け取って来た。現物はこれだよ」
フィオナはポケットに仕込んだ自在袋から大きめのスマホ位の何かを取り出す。
「随分薄くて小さいな」
「魔法水晶を入れられるギリギリの大きさにしたんだって。持ち運び用だけれど頭と胴体、四肢もあるんだ。ゴーレムとして成立するぎりぎりを狙って作ったと言っていたよ」
確かによく見るとでっかい頭部分と胴体部分にわかれているように見える。二頭身のテルテル坊主を平らにつぶしたような感じだ。手足も確かにある。よく見ないとわからないけれど。
「ゴーレムはもともと人型や動物型の物にかりそめの魂を入れて動かす技術ですから。そういった形から外れたものをゴーレムとして認識させる技術は難しいと聞いていますわ」
「だよね。だから普通は出来る限りゴーレムは人や動物に近い形にするんだ。違う形でも大丈夫なんじゃないかって考えるのはアシュ位のものだよ、本当に」
そうだったのか。俺はそんな事はじめて知った。とすると以前俺がモノレール型ゴーレムを考えた時、手足無しで考えていたのは素人で知識がないからこそだった訳か。
今頃になって恥ずかしくなった。今更白状するのはもっと恥ずかしいから誰にも何も言わないけれど。
それにしてもこのゴーレム、本当にスマホサイズだよな。通話くらいできそうだと思って、そしてふと気づく。
俺達のゴーレムの魔法水晶は空間操作魔法が使えるんだよな。なら空間操作魔法を使って遠方の人と会話する事も可能だろう。声が通る程度の短絡空間を耳元と口元に作ってやればいい。移動魔法より遥かに楽な筈だ。
よし。
「フィオナ、メダルの複製をするのはちょっと待ってくれ。覚えさせたい魔法を思いついた」
「どんな魔法でしょうか」
フィオナでは無くテディが俺に尋ねる。
「遠くの人と自由に話せる魔法だ。話さえ出来ればわざわざ移動魔法を使わなくても済む場合もあるだろ。そういった時に便利な魔法だ」
電話と違って双方が機械を持つ必要は無い。しかしそれ以外は電話と似たような機能の代物だ。これがあれば何かと便利になる。
「便利だなそれは」
まっさきにミランダが食いついた。
「それって簡単に出来るのか?」
「移動魔法と同じ系統の魔法だからさ。移動魔法が使えるゴーレムなら簡単だな」
「そうか……」
ミランダはがっかりした様子。
「どうかしたのか、ミランダ」
「いやさ。もしその機能が量産できればとんでもなく便利になるなと思ったんだ。描画ゴーレムと比べても段違いに需要が多そうだしさ。でも移動魔法とセットなら広げる訳にもいかないよな」
なるほど。
しかしだ。
「それは何とかなるよ」
フィオナがそんな事を言う。
「どうするんだ?」
「オッタービオさんに渡した魔法水晶と同じだよ。最初から機能制限を入れておくんだ。複写回数の制限とか分析の禁止、決まった方法で決まった魔法以外を使用不能にするとかね。魔法水晶の記述は夏に改良した後、暗号化してあるからね。分析不可能の命令も入れているし」
「それなら大量生産しても問題ないんだな」
「その筈だよ」
電話どころか電信もない世界に携帯電話が出来てしまうのか。しかも通話相手は電話を持っていなくても問題ないという。
でもそれだといたずら通話とか迷惑通話が出来てしまうと困るよな。その辺はやはり機能制限をつけて対処すればいいか。相手に断られたら通話不能になるような機能とかさ。
「よし。なら見本を作ってまたオッタービオさんのところに出張だな」
描画ゴーレムでファックスなんてのも可能かな。テレビ電話も可能だけれど空間直結になるので危険だからやめておくか。
何かゴーレムだけで様々な現代的機器が再現されてしまいそうだ。
最初はモノレールだったのが自動車へと発展。その件のおまけからフィオナの研究を通じてお手伝いゴーレム、描画ゴーレムこと写真機、携帯電話、そしてファックス。
とりあえず後でゴーレム君達を集めてフィオナと検討や実験をしておこう。他にも何か使える物が出来ないかを含めて。
◇◇◇
携帯電話機能を持つ通話魔法を教えるのは簡単だった。ファックス機能こと描画伝送機能も何とか出来た。このためにゴーレム同士の情報伝送魔法を開発する必要があったけれど。
「つまり空間魔法で端子同士を直結してしまうんだね」
「ああ。その為にゴーレム内部に直結できる端子をあらかじめ作っておく。そうすればゴーレムの学習内容複写と同じように出来る筈だ」
「でもそうすれば描画の情報だけじゃなくて他の情報も送れるよね。ゴーレム同士の知識とかさ」
「そうだな。うまくやれば知識のアップデートも出来るよな」
フィオナとの検討&実験は白熱し、気が付くと窓の外が明るくなり始めていた。しかしこれでかなり面白いものが出来そうだ。
「それじゃ僕はこれをまとめてから寝ることにするよ。アシュは?」
「俺はすぐ寝る。最近翻訳の仕事に集中できていないからさ。今日くらいは翻訳を頑張らないと」
「アシュがやらないと誰もやってくれないからね」
それが梟商会の構造的な欠点だ。今更どうしようもないけれど。
「いやあ、いい仕事をしてきた」
ミランダはご機嫌。
「でも疲れたね」
フィオナは言葉通り疲れ切った様子だ。
「どうだったのでしょうか」
「食べながら話そう。やっぱり家での食事が一番美味しいしさ」
「それは同感だね」
本日の夕食はポトフ、白身魚のフリッター、サラダ。ミニ龍2頭がテーブルの下でおこぼれを狙っているのはいつも通りだ。
「まずは私から話そうか。描画ゴーレムの商品化についてだ」
ちなみにゴーレムが描画できる事は既にサラとジュリアにも伝えてある。
「確かにこれは商品になるだろうという話で向こうと一致した。ただオッタービオさんとしては描画に適した仕様のゴーレムを再設計したいそうだ。具体的にはにじみにくい紙とインクをある程度収納してさっと取り出せる機能なんかをつけたいらしい。だから具体的な商品化については冬以降になるだろうという話だ。
売り出し価格は試作してからだが力作業を想定しない分従来のゴーレムより安く、小金貨8枚程度にするつもりだと言っていた。儲けは5割ずつで話がついた」
初期の写真機と考えればこの値段は妥当だろうと思う。
「あと描画ゴーレム用のインクと紙の話もエドメ商会としてきた。ゴーレムの件は秘密にして、とりあえずこういう色で速乾性のインク、にじまなくて保存性の高い紙が欲しいんですと言う形でさ。研究資金としてちょこっと投資した。向こうも乗り気だったから冬頃、ゴーレムが出る前までには結果が出てくれるかなと思う。
私の話は以上」
ちょこっと投資っていくらくらいだろう。その辺はミランダやフィオナに全部任せているから心配しなくてもいいだろうけれど。
「次は僕からかな。
描画ゴーレムの件はミランダの言った通りだから省略するよ。複写した後に移動魔法を使えなくした魔法水晶は無事渡して、そのかわりというかミニゴーレム6体を受け取って来た。現物はこれだよ」
フィオナはポケットに仕込んだ自在袋から大きめのスマホ位の何かを取り出す。
「随分薄くて小さいな」
「魔法水晶を入れられるギリギリの大きさにしたんだって。持ち運び用だけれど頭と胴体、四肢もあるんだ。ゴーレムとして成立するぎりぎりを狙って作ったと言っていたよ」
確かによく見るとでっかい頭部分と胴体部分にわかれているように見える。二頭身のテルテル坊主を平らにつぶしたような感じだ。手足も確かにある。よく見ないとわからないけれど。
「ゴーレムはもともと人型や動物型の物にかりそめの魂を入れて動かす技術ですから。そういった形から外れたものをゴーレムとして認識させる技術は難しいと聞いていますわ」
「だよね。だから普通は出来る限りゴーレムは人や動物に近い形にするんだ。違う形でも大丈夫なんじゃないかって考えるのはアシュ位のものだよ、本当に」
そうだったのか。俺はそんな事はじめて知った。とすると以前俺がモノレール型ゴーレムを考えた時、手足無しで考えていたのは素人で知識がないからこそだった訳か。
今頃になって恥ずかしくなった。今更白状するのはもっと恥ずかしいから誰にも何も言わないけれど。
それにしてもこのゴーレム、本当にスマホサイズだよな。通話くらいできそうだと思って、そしてふと気づく。
俺達のゴーレムの魔法水晶は空間操作魔法が使えるんだよな。なら空間操作魔法を使って遠方の人と会話する事も可能だろう。声が通る程度の短絡空間を耳元と口元に作ってやればいい。移動魔法より遥かに楽な筈だ。
よし。
「フィオナ、メダルの複製をするのはちょっと待ってくれ。覚えさせたい魔法を思いついた」
「どんな魔法でしょうか」
フィオナでは無くテディが俺に尋ねる。
「遠くの人と自由に話せる魔法だ。話さえ出来ればわざわざ移動魔法を使わなくても済む場合もあるだろ。そういった時に便利な魔法だ」
電話と違って双方が機械を持つ必要は無い。しかしそれ以外は電話と似たような機能の代物だ。これがあれば何かと便利になる。
「便利だなそれは」
まっさきにミランダが食いついた。
「それって簡単に出来るのか?」
「移動魔法と同じ系統の魔法だからさ。移動魔法が使えるゴーレムなら簡単だな」
「そうか……」
ミランダはがっかりした様子。
「どうかしたのか、ミランダ」
「いやさ。もしその機能が量産できればとんでもなく便利になるなと思ったんだ。描画ゴーレムと比べても段違いに需要が多そうだしさ。でも移動魔法とセットなら広げる訳にもいかないよな」
なるほど。
しかしだ。
「それは何とかなるよ」
フィオナがそんな事を言う。
「どうするんだ?」
「オッタービオさんに渡した魔法水晶と同じだよ。最初から機能制限を入れておくんだ。複写回数の制限とか分析の禁止、決まった方法で決まった魔法以外を使用不能にするとかね。魔法水晶の記述は夏に改良した後、暗号化してあるからね。分析不可能の命令も入れているし」
「それなら大量生産しても問題ないんだな」
「その筈だよ」
電話どころか電信もない世界に携帯電話が出来てしまうのか。しかも通話相手は電話を持っていなくても問題ないという。
でもそれだといたずら通話とか迷惑通話が出来てしまうと困るよな。その辺はやはり機能制限をつけて対処すればいいか。相手に断られたら通話不能になるような機能とかさ。
「よし。なら見本を作ってまたオッタービオさんのところに出張だな」
描画ゴーレムでファックスなんてのも可能かな。テレビ電話も可能だけれど空間直結になるので危険だからやめておくか。
何かゴーレムだけで様々な現代的機器が再現されてしまいそうだ。
最初はモノレールだったのが自動車へと発展。その件のおまけからフィオナの研究を通じてお手伝いゴーレム、描画ゴーレムこと写真機、携帯電話、そしてファックス。
とりあえず後でゴーレム君達を集めてフィオナと検討や実験をしておこう。他にも何か使える物が出来ないかを含めて。
◇◇◇
携帯電話機能を持つ通話魔法を教えるのは簡単だった。ファックス機能こと描画伝送機能も何とか出来た。このためにゴーレム同士の情報伝送魔法を開発する必要があったけれど。
「つまり空間魔法で端子同士を直結してしまうんだね」
「ああ。その為にゴーレム内部に直結できる端子をあらかじめ作っておく。そうすればゴーレムの学習内容複写と同じように出来る筈だ」
「でもそうすれば描画の情報だけじゃなくて他の情報も送れるよね。ゴーレム同士の知識とかさ」
「そうだな。うまくやれば知識のアップデートも出来るよな」
フィオナとの検討&実験は白熱し、気が付くと窓の外が明るくなり始めていた。しかしこれでかなり面白いものが出来そうだ。
「それじゃ僕はこれをまとめてから寝ることにするよ。アシュは?」
「俺はすぐ寝る。最近翻訳の仕事に集中できていないからさ。今日くらいは翻訳を頑張らないと」
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