異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第15章 便利なゴーレム

第119話 ジュリアの応援要請

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「それでは行ってきますわ」

 9時40分にテディが出て、事務所は俺とナディアさんだけになる。
 ナディアさんは児童書の翻訳仕上げ作業中。俺はテディへ渡す恋愛小説の翻訳作業をやっている時だった。

 ポーン、ポーン、ポーン……。右耳すぐ横位の空間からそんな音が聞こえる。
 何の音かはすぐわかった。この前渡した携帯電話に付けた呼び出し音だ。

「だれだ?」

「ジュリアです」

 予想外だった。てっきりミランダあたりだと思ったのだけれど。

「どうした?」

「ごめんなさい。応援貸し出し要請。客が多すぎて手が足りなくて困っている。ゴーレム最低2体と寸胴鍋1つを至急借りたい」

 ゴーレムそのものはそこまで珍しい代物ではない。農作業や鉱山、船着場等で普通に使われている。自律行動が出来るゴーレムが珍しいだけだ。
 だから料理を手伝わせてもだれかが操作していると思われれば特に問題はない筈。なら貸し出してもいいだろう。とっさにそう判断する。

「わかった。他に必要なものはあるか」 

「キッチンの巨大まな板と麺棒」

「わかった。出来るだけ早く行く」

 わざわざ頼んでくるぐらいだから相当に困っているのだろう。 

「ごめんなさい。おねがいします」

 空間が閉じて通話が切れる。
 仕方ない、用意するか。

「応援要請に出かけてくる」

「急いであげてくださいね」

「はいはい」

 事務所から廊下に出て階段をのぼる。ちょうど2階廊下を掃除中だったジュディーちゃんが見えた。

「ジュディ、掃除中断。俺について来い」

 キッチンへ向かう。グルーチョ君が静止状態でいるのを確認。

 巨大まな板と麺棒、寸胴鍋2つを自分の自在袋に入れて、
「グルーチョ、俺について来い」
と命令する。

 これで忘れ物は無いな。いやジュリアはゴーレム、最低2体と言っていた。ならパフィーちゃんも連れて行こう。
 パフィーちゃんは普段フィオナの寝室にいる。いちいち階段を上って連れてくるのは面倒なので取寄魔法アポート一発。出て来たパフィーちゃんに命令。

「パフィー、俺について来い」

 これで大丈夫だ。

 空間操作魔法で学校の近くで人目が無い場所を探す。
 学校内、校舎の裏側にちょうどいい場所があった。ここでいいかと移動魔法を発動。サラやジュリア達の模擬店がある教室は確か正面入口からすぐだった筈だ。

 ぐるっと校舎を回ると賑やかな場所が視えた。あの辺が正面入口だな。 ゴーレム3体を引き連れて校舎内へ。

 中はかなり人が多い。というかこの長い行列は何だろう。そう思いつつ左右を確認。

 ここだな。ジュリア作成の看板がある。
 ただ問題は行列だ。どうやら長い行列はこの店に入る為のものらしい。流行っているというか凄いなこれは。
 でも行列に並ぶ訳にもいかないので店の前にいた生徒らしい女子に声をかける。

「すみません。ジュリアに頼まれていたものを持ってきたんですけれど」

「あ、こちらです」

 話は通じたようだ。お客さんが並んでいる入口とは別の入口に案内される。

 中は調理場所のようだ。教室を半分に区切った区画で20人以上の生徒が水まわしをしたり粉をこねたり、麺を切ったりとガンガンに動いている。
 まだ学園祭は始まったばかりの筈だ。なのに既に修羅場的な雰囲気すら漂っている。

「アシュノールさん、ごめんなさい」

 ジュリアが飛んで来た。

「話は後だ。寸胴鍋と麺棒とまな板は何処に置こうか」

「そこの空いている処に出して欲しい」

 自在袋からグッズを取り出す。

「それじゃゴーレム3体預けるぞ。グルーチョ、ジュディ、パフィー、俺からの任務解除。以後はジュリアに従え」

「ありがとう。弁解は後でする」

 確かに忙しそうだ。

「わかった。それじゃ夜な」

 サラの姿が見えないけれど食事スペースの方かな。そう思いつつ俺は教室を後に。

 それにしてもだ。このラーメン屋の列凄くないか。
 本日は平日だ。しかも学園祭が始まってまだ半時間30分も経っていない筈。なのに既に50人近く並んでいる。
 なお並んでいるのは半分が生徒で半分が大人だ。大人は教師や俺みたいな休みを任意にとれる自由業だろうか。

 初日からこれじゃ大変だよな。そう思いつつ帰ろうとしたところで。

「あらアシュ、どうしたのでしょうか」

 振り向くとテディだった。

「ジュリアに頼まれてゴーレムや鍋を届けに来たんだ。テディは?」

「ちょうど食べ終わって出て来たところですわ」

 なるほど、確かに最初の客が出てくるくらいの時間かもしれない。

「店の方はどうだった?」

「美味しかったですわ。つけ麺の黒をいただいたのですけれど。家で食べていたものと比べると少し脂が多めで麺もやや太めで、その強さが良い感じです」

 なるほど。しかし俺が聞きたかったのは味の方の評価ではない。
 
「この行列だと入るのは大変だっただろ」

「開始時間ちょうどに校門から入ってまっすぐここへ来たら大丈夫でした。でもすぐに列が伸びて行って。中も20席くらいはあったのですけれど、あっという間にいっぱいになりましたわ」

 初日の開始直後からそんな感じか。ならジュリアが応援要請をしてきたのもわかる。どう考えても間に合わないと早々に気づいてしまったのだろう。

 それにしてもこの客の入り方は異常だ。確かに食べてみれば美味しいしまた食べたくなるのもわかる。他にはないというのも売りだろう。
 でもたかが学園祭の模擬店、平日の朝からこんなに混むというのは何かおかしい気がする。
 まあその辺はジュリアが後で教えてくれるだろう。だから今はテディにその辺は話さないでおく。

「それじゃ俺は帰るからさ」

「私はもう少し見て行きますわ」

 入口のところでテディと別れ、俺は人目の無さそうな場所を探す。

 ◇◇◇

「今日はすみませんでした」

 帰ってきて早々、サラとジュリアが俺達に頭を下げる。

「予想以上にお客さんが来てしまったんです。このままでは3日分は仕込んだ筈の麺もスープも今日の午後には無くなってしまう。材料を完全に把握しているのは私だけです。なので取り敢えず私は急いで市場へ足りないものを買い出しに行って、ジュリアに厨房の方をお願いしたんです」

「皆、麺を作るのもスープを作るのも慣れていない。それに客も並び過ぎ。だからゴーレムを使って作業効率をあげるとともに調理人数を減らした。人が減った分作業場所が余った。その分食事スペースを広げて、更に調理から外れた生徒を列の整理と食堂へ投入しなおした。おかげで何とかなった」

「でもアシュノールさんをはじめ皆様にご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 2人でもう一度頭を下げる。

「いや、それはいいけれどさ。でもあの後大丈夫だった? 随分並んでいたけれど」

「ラーメンなので茹でる人数を増やせば提供時間は早く出来ます。食べる場所も増やしたのでかなり回転が良くなりました」

「パフィーちゃんがスープとタレ作り、トッピングつくりを全部担当。グルーチョとジュディに小麦粉から麺帯を作るところを集中して実施。麺を切るのと茹でるの、つけ麺を冷やすのは生徒で交代。私とサラで仕上げ作業兼ゴーレム管理。それなら食べる場所さえあればいくらでも作れる」

「スープもたれも家で作っているものと同じで、仕上げの配合だけ少し変えただけなんです。ですからゴーレム任せで大丈夫でした。
 あと調理場所を減らしてその分食事スペースを広げたのも良かったです。それで一気に回転が良くなりました」

 スティヴァレではほぼ誰もが魔法を使える。だからお湯を作るのは誰でも出来る訳だ。だから麺を大量に茹でても茹で湯の温度が下がる事は無い。
 茹でるお湯を替えるのも簡単。茹で具合は砂時計等で管理すれば問題も少ないだろう。

 時間と手間がかかる工程はゴーレムに丸投げ。最後の味を決める作業だけは経験者2人でやる訳か。確かにそれなら作る速度は早くなる。
 そうなるとネックになるのは食べる場所の広さと配膳要員の数だけ。そこに調理場から捻出した人員を投入。回収する際に清拭魔法を使えば洗う手間もいらない。

「とっさによく考えたな。確かにそれなら客もかなりさばけるだろ」

「ええ。でもここから色々追加でお借りして、しかもアシュノールさんに御足労をかけてしまって」

「それはもういいからさ」

 確かによく出来た解決策だ。しかし俺は何となく感じる。多分これは、きっと……
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