異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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幕間 開演の準備

第132話 危険な賭け

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「バジリカタ付近住民によるスベイ伯爵家領主館打ち壊しか。ここからもそれほど遠くない場所だな」
 翌朝朝食後。
 皆さん陛下が持ち込んだ号外を読んでいる。

「遅かれ早かれスベイ伯爵家は襲われると思ったけれどさ。偽チャールズじゃなくて住民に襲われたか」

「スベイ伯爵家の警備兵は壊滅状態のようです。衛視庁では足りなくて第二騎士団が出動したようですけれど、どうなるのでしょうか」

「第二騎士団は近衛騎士団や第一騎士団と違って庶民出身者が主体です。現地で問題を起こすとは思いません。問題は国がどう対応するかですね」
 なるほど、それで陛下は仕事に追われていた訳か。

「僕としてはこっちの方が大問題だよ。オッタービオさんが魔法武闘会で使ったゴーレム、これグルーチョ君達の魔法水晶をコピーして戦闘動作を憶えさせた奴だよきっと。こんな用途に使わせるつもりじゃなかったのに」

 ミランダが顔をしかめる。

「それって戦闘用ゴーレムとして実用になるのか」
「敵を見分ける事が出来る命令を受ければね。もしくは戦闘範囲を指定してその範囲内全ての人間に攻撃をかけろとか」

「まずいですね。ただでさえゴーレムには魔法が効きにくいですから」
 ナディアさんはそう言った後、何か魔法を使ったようだ。
「いますね。いつもの工房に」
 どうやらオッタービオさんの所在を確認した模様。

「直談判してくるよ」
 フィオナが立ち上がる。
「私も一緒に行きましょう」
「私も行こう」
 ナディアさんとミランダも同行するようだ。

「ならこっちの片付けはしておきますわ。終わったら直接ゼノアの方へ帰って来て下さいな」
「わかった。でもテディは無理するなよ」
「まだ今の状態で無理するもないですわ」
 そんな訳で残された俺も片付け班だ。
 
「それじゃボートと釣り竿をしまってくるから」
「釣り竿はこの別荘でいいのではないでしょうか。ボートは整備するでしょうからゼノアの1階がいいでしょうけれど」
「わかった。サラとジュリアはテディと家の中の方よろしく」
「わかりました」
「了解」
 そんな訳で俺は色々置きっぱなしにしてある砂浜へ。

 ◇◇◇

 釣り竿を別荘の倉庫にしまい、船と潜水ゴーレムをゼノアの1階倉庫へ魔法輸送。
 船からゴーレム部分を取り外し更に念入りに清拭魔法をかけておく。
 今回のゴーレムは海水対応だしこれで問題ないだろう。
 前は海水対応でないパフィーちゃんを使ったので、それでも錆がでたりして大変だった。
 3回ほど錆をとった後、高温で水分を飛ばした油を薄く塗布してやっと錆びなくなったけれど。

 ゼノア1階、玄関から見て右側が倉庫だ。
 本来は事務所用で、今の事務所より少しだけ狭いがそれでもかなり広い。
 だが俺達の人数ではこっちの事務所スペースは必要ない。
 だから倉庫代わりにしているのだが物が大分増えてきた。
 ゴーレム船だのゴーレム水上バイクだの、ボディボードだのスキーセットだの。
 だからこの機会に物が多くなった倉庫を整理。
 
 清拭魔法でほこりを払ったりしているとテディ達が戻ってきた気配がした。
 厳密には戻ってきた魔法を感じたというべきだろうけれど。
 ここの整理もこの程度でいいか。
 倉庫を出て2階のリビングへ。

「どうだった、別荘の方は」
「これで問題ない筈ですわ。浴槽もとりあえず一度お湯を抜いて乾かしてあります」
「でも夕方にはまたお湯を入れますけれどね」
「使わないともったいない」
 まあテディ達ならそうだろうと思うけれど。

「あとはフィオナ達か」
「問題なければいいのですけれど。あと打ち壊しの方の措置も気になりますわ」
 確かにそうだ。
 極秘裏に措置出来れば別だが、既に情報は国全体に号外紙で知られている。
 これで民衆に重罪が課された場合、一時的には同種事案を押さえ込めるだろう。
 だが国に対する民衆の離反を招き長期的にはマイナスの方向へ働く。
 
 待てよ。
 もし陛下が革命を起こさせるつもりならだ。
 あえてここで民衆に重罪を課して民心を離反させるというのも手かもしれない。
 かなり悪逆な手段だと思うけれど。

 でもそうした手段をとった場合、殿下はどう出るだろうか。
 闇魔法を使えるレジーナさんに偽チャールズ事件を起こさせ、また自らも偽チャールズ事件を1件起こした本来は理想主義的なロッサーナ殿下は。

 未来視でこれからの行方を調べようと思った時だ。
 いつもの空間の歪みを感じた。
 フィオナ達が戻ってきたようだ。

「どうだった」
「最悪だね」
 何がどう最悪なのだろうか。
 皆が集まってきたのを確認してフィオナが口を開く。

「オッタービオさんはやはり僕のグルーチョ君由来の魔法水晶プログラムを武闘会で使ったゴーレムに入れていた。それも魔法使用可能な状態の奴。本人は実戦で使えるかどうかの試験のつもりだったらしいんだけれどね」

 次はミランダが口を開く。
「だが面倒な奴が目をつけていた。近衛騎士団長のカシム伯爵だ。奴は『騎士団の精鋭の訓練のために一時借りたい』としてオッタービオさんのところから戦闘用ゴーレムを3機借りだした。確かにゴーレムは戦闘訓練にも使われ1週間後に返却された。だが実際は訓練だけじゃなかった」

 今度はナディアさんが説明だ。
「近衛騎士団本部付の魔術師にマイストロフという者がいます。戦闘向きではないので有名ではありませんが、非常に特殊な魔法を持っています。複製魔法といって、生物以外の構造物を材料がある限り精緻に複製する事が出来る魔法です。おそらく彼が戦闘用ゴーレムを複製する事に成功したのでしょう。そして複製したものを使って解析を行うのにもおそらく成功したと思われます。
 確認したところラツィオ郊外のラバッロ演習場で既に戦闘用ゴーレムが量産されつつあります。先程確認した段階では既に200機を超す戦闘ゴーレムが製造済みのようです」

「つまり戦争にも人殺しにも使える戦闘用ゴーレムが量産されている。そういう事だよ。あんなの量産されたら人間の兵隊はひとたまりもない。腕力が人間の比じゃないし金属製ゴーレムは魔法が効きにくいしね。
 厳重に管理してスティヴァレが攻められた時に使うならまだいいけれどさ。でもカシム伯はあまりいい評判を聞かない人だしね。エルドヴァ侯爵家に近い人だし」

「つまり民衆弾圧にも使いかねないって訳か」
 俺の台詞に3人とも頷く。

「もともと近衛騎士団はそういった傾向が強い組織です。幹部のほとんどが古い貴族ですから」
 ナディアさんが付け加える。
 でも待てよ。

「陛下はどうしているのだろう。気づかないとは到底思えないのだけれど」
 テディも頷く。
「そうですね。それにこのような事案は陛下は好まれないと思われます」
 確かにそうだよな。
 ならあえて放っておいているのだろうか。
 だとしたら何の為に。
 ん、待てよ。

「フィオナ、確かあのゴーレム、例の紅茶の呪文で機能停止出来るんだよな」
「そうだよ。何ならいまのうちに侵入してやっておく?」
「いや、いい。とりあえず放置でいいだろう。多分これも陛下のシナリオだ」

 これもおそらく小道具のひとつだ。
 俺はそう理解した。
 意図もなんとなく想像がつく。
 だから今のところは放置しておこう。
 危険な賭けではあるけれど。
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