異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第18章 思わぬ敵

第142話 次の作戦

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 痕跡は途中で完全に消されていた。
 ガラクタだの岩だのを無作為に取り寄せたり転送したりして、空間の歪みが追えない状態になっている。
 明らかに故意だ。

 念の為国内の様々な場所にも飛んで走査してみた。
 うちの別荘を含めてだ。
 でも発見できない。
 国内でも俺が想像出来ない場所、または国外に飛ばしている可能性だってある。
 今の俺の魔法では発見できない。

 失敗した。
 まさか陛下がこんな手をうってくるとは思わなかったのだ。
 俺が甘かったと言われても仕方ない。
 まさか未来視対策までしていたとは思わなかった。

 きっと今回殿下を転送するかどうかは俺の行動次第だったのだろう。
 直前までやるかどうか決めずにいて、俺が追えるようなら実行しない。
 逆にチャンスだと判断したら実行するように。
 そうしておけば未来視で視ることが出来なくなる。
 いずれにせよ完全にしてやられた訳だ。
 我ながら情けない。

 別荘のリビング改め事務所に戻る。
「どうですか。殿下は見つかりましたでしょうか」
 既にテディ達も状況を把握しているようだ。

「すまん。見つからなかった。途中で空間を荒らして歪みを追えなくしてあった」
「まさかロッサーナ殿下に手を出してくるとは思いませんでした」
「私が気づくべきでしたわ。陛下の計画ではいずれ殿下は邪魔になるでしょう。それに危険な場に殿下をおいたままにするとも思えません。ですから殿下を遠ざける事は予期しておくべきでした」
 誰も俺を責めない。
 その事が余計に俺の気を重くする。

「でも陛下の事だからロッサーナ殿下を危ない場所へは移動させないだろう。だから心配する事は無いんじゃないか」
 確かにミランダの言う通りだ。
 本来ならば。

 だが俺とテディ、ナディアさんの間ではひとつの計画があった。
 陛下の計画をつぶすため、ロッサーナ殿下を使う計画だ。
 陛下がたとえ無理やり悪政を行って革命に持ち込んだとしよう。
 それでもロッサーナ殿下がいれば平和裏に権力移譲させる事が可能だ。

 殿下は現在王位継承権第一位。
 だから現陛下がいなくなれば殿下が継ぐことに不自然な面は無い。
 それを利用してロッサーナ陛下に政治体制を変革して貰うつもりだったのだ。
 こうすれば現陛下は陛下の座を降りるだけで済む。
 この程度の政変ならスティヴァレで何度もあった。
 現陛下に至ってはクーデターに近い形で政権を掌握した事だし問題はない筈。

 だがその計画はここで破綻してしまった。
 まさか陛下がこんな手に出るとは思わなかったからだ。
 確かナディアさんが以前聞いた陛下の計画では、ロッサーナ殿下は俺達が預かる筈だった。
 まさか陛下、俺達の計画を察知して……

『こうなったら仕方ありません。以前からの計画の事を皆さんにお話ししましょう』
 テディから伝達魔法で俺とナディアさん相手にそんな台詞が入った。
 確かにそうだな。
 今回の件の意味と、今後の計画。
 どちらもこの件を話しておかないとわからないだろう。

『そうですね』
『だな』
 テディ、ナディアさん、俺は合意する。

「申し訳ありません。今まで言わなかった事があります。実は……」
 テディが陛下のシナリオ、そして破綻してしまった俺達の計画について話し始める……

 ◇◇◇

「そんな訳だ。今まで皆に言わなくて申し訳ない」
 俺達3人は頭を下げる。

「仕方ないよ。陛下の命令に関する事だしね。しかも陛下はアシュと同じ魔法を使えるし」
「だな。だから今すべきなのは聞いた事を踏まえて、今後どうすべきか予想と対策をする事だ」
 フィオナやミランダの言う通りだ。
 でも申し訳ない気持ちはやはり残る。

「でもその前に殿下が行きそうな場所をもう一度探してみてはどうでしょうか」
「陛下の事だからテディやナディアさんが想像出来そうな場所は選ばないだろう。後で探してみてもいいけれど今はとりあえず今後何が起きるか、出来るだけ早く知って行動すべきか判断することだ」

 そうだなと思って、俺は未来視の魔法を起動する。
 この先ある程度の期間の動きははっきり見える。
 つまり陛下はこの辺のシナリオを変えるつもりはないようだ。

「まもなく陛下はロッサーナ殿下がチャールズ・フォート・ジョウントに連れ去られた事を国民に明らかにする。そしてチャールズ及びそれらに関わる者、暴動等を起こして国及び領主に反する者を断固として処断すると発表する」
 これにはおまけがあるようだ。

「更にチャールズ及び国に仇なす者を増長させているとして号外紙や書物を検閲制にする事も発表する。うちの本もこれで発禁処分だな」

「飯が食べられなくなる」
「だな」
 ふっと張り詰め過ぎていた空気が少しだけ緩む。
 ジュリアありがとう。
 その一言が欲しかった。

「そして第二騎士団にバジリカタの住民を全員魔法尋問にかけ、暴動に与した者を処刑せよという命令も下される。第二騎士団団長オイグル伯自ら王宮に出向き陛下に考え直すよう訴えるが投獄される。そして近衛騎士団長カシム伯爵が総騎士団長として近衛騎士団を率いてバジリカタに向かう。
 その結果がどうなるかまでは見えない」

 見えない理由は想像がつく。
 そこに何か結果を変化させる選択肢が存在するのだろう。

「他に俺では無いチャールズ・フォート・ジョウントが動くらしい。ラツィオ以外で出されている号外に載っているのが見える。各貴族家を荒らしては不正の証拠書類を盗んで複写し号外出版社と国王庁に送りつけるようだ。だが国王庁は取り合うなという国王命令が出ているのでそれ以上動けない」

 更に他に見える事は無いか探ってみる。
 だが……無理か。

「今の俺の知識と魔法で見えるのはそこまでだ」
「わかった」
 ミランダが頷く。

「なら陛下が何を考えているのかを想像しながら私達の作戦を立てよう。ただその前に質問だ。アシュ、この会議を陛下に傍受できないようにする事は可能か?」
 念の為この部屋内の空間をきっちり走査してみる。
 駄目だなこれは。
 正体不明な空間の歪みがそこここにある。
 陛下の仕業か俺達が移動魔法を使ったせいかはわからないけれど。

『声では無理だな。伝達魔法を使う必要があるようだ』
『それって現在も傍受されているって事?』
『いや、傍受されてもわからないという事だ』
『そういう事か』
 ミランダは頷く。

『なら今回の会議は伝達魔法を使って行うとしよう。まずはそれぞれが今アシュが見えた範囲でやるべき事の検討だな。
 例えば私がやるべきなのは号外の検閲対策だ。まあ実際は出版社各自で対策をとると思うけれどさ。念の為商業ギルドや冒険者ギルドにも協力を要請するよう動いてみるとする。あの2つのギルドは国際組織だから国の影響を受けない流通が可能だ』
 なるほど。

『俺は第二騎士団に協力を求めてみるか。近衛騎士団の今後の動向を話して、向こうに協力しないでくれと。この辺は陛下の予想の範囲内だろうが仕方ない。ナディアさん、第二騎士団の団長がいない今、話をもっていくべきなのは誰になるだろう?』

『バジリカタ臨時駐留部隊のギュンター中隊長なら面識があります。頭も悪くないですし隊長からの信頼も厚く、信用できる人物です。彼を通じて隊長に紹介状を書いてもらいましょう。私も同行します』
 バジリカタ駐留の中隊長か。
 一度魔法で動きを止めたり宿屋へ飛ばしたりしたけれどな。
 まあその行動の理由も理解はしてくれるだろうと思うけれど。

『私はロッサーナ殿下の行方をもう一度探してみますわ。ここから見るだけでしたらゴーレムを通じて魔法を使うだけで済みますから』
 テディは殿下捜索と。

『僕はもう少しこの家に籠らせて貰おうかな。場合によってはオッタービオさんに協力してもらう必要もあるかもしれない』
 フィオナは何かゴーレム関係でやる気のようだ。
 
『私は買い出しと家事一般ですね』
『とりあえずあと1週間は冬休み。だから問題ない』
 冬休みか。
 学校がはじまったらどうしようか。
 サラもジュリアも通う訳には行かないよな。
 念のため未来視で学校について見てみる。
 おっと、思ったよりうまく行きそうだ。

『学校は冬休みを延長する形で休校になるようだ。未来視で見てみた。最低でもあと2週間ははじまらないようだ。
 国立校が非常事態という事で休校になるので、それを受けての措置らしい』

『ならもう少し漫画を描きたい。出来れば新しいものも』
『新しい本の供給はもう少し待ってくれ』
『期待』
『はいはい』
 そんな感じで取り敢えずやる事は決まった。
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