異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第20章 バジリカタ親征

第156話 バジリカタ攻防戦(2)

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『陛下にはお初にお目にかかります。第二騎士団バジリカタ派遣部隊長ギュンター百卒長です』

 ギュンター中隊長も制限無しの伝達魔法で返答した。
 すぐに陛下自身から伝達魔法が発せられる。

『第二騎士団派遣部隊長であるギュンター百卒長、お役目ご苦労。だが貴部隊は今、僕が率いている近衛騎士団・第一騎士団の前に逆賊チャールズ・フォート・ジョウントとともに立ち塞がっている状態だ。逆賊の捕縛に協力するとともに、スベイ伯爵家の領主館を当方に明け渡し、スベイ伯爵家に対する暴動事案の鎮圧捜査に協力してくれないか。これはお願いでは無く国王としての命令だ』

『おそれながら第二騎士団部隊を預かる身として確認したい事がございます。第二騎士団として調査したバジリカタ暴動の詳細、及び今後の当地ですべきと思われる措置について当騎士団長が陛下に上申に向かったと存じております。ですがそれ以降上申に向かった騎士団長は戻ってきておりません。この件及び当騎士団長の上申についての御返答を伺いたく存じます。
 また更に付け加えさせていただきます。当騎士団長が王宮に到着してしばらくした頃、陛下の御命令無く非常事態法を根拠としたという名目で近衛騎士団・第一騎士団合同部隊がこの地に本日と同様の態勢で来襲してきております。この件についての陛下の意見も同時に伺いたく存じます』

 流石ギュンター中隊長だと思う。
 第二騎士団長オイグル伯爵が陛下の元へ上申に向かった事。以前にも近衛・第一両騎士団が不法な名目で此処に来襲した事。そういった事についての説明も兼ねている訳だ。

 この問答は制限無しの伝達魔法でやりとり中。つまり俺達や騎士団だけでなく付近住民や号外記者等も聞いている。彼らもこれで双方の立場と現在までの状況を把握出来ただろう。

 さて、この後陛下がどう返答するか。
 考えられる方向性についての想定は既に対策本部を通じて第二騎士団幹部にも伝わっている。
 だが本当にそういう流れになるのか。つまり内乱状態に突入してしまうのか。 俺だけでは無くかなりの人々がこの先に注目している筈だ。

『第二騎士団派遣部隊長ギュンター百卒長、返答の前にひとつ確認させてくれないか。今のギュンター隊長の言葉は第二騎士団全体の総意ととってもいいのかな。それともあくまで派遣部隊の隊長であるギュンター百卒長の意見なのかな。答えてくれ』

『おそれながら第二騎士団としての意見でございます、陛下』

『あいわかった。ならば僕も国王として返答しよう。オイグル伯は確かに申告書を持ってきた。だがその内容はとうてい僕としては受け入れられるものではなかった。
 この国の国王として国の統治を預かる身としては、どのような理由があろうとも領主への暴動を許すわけにはいかない。これは統治を支える身分制度上絶対の条件だ。
 故にバジリカタの暴動に参加した者、及びそれに協力した者、それらを匿った者全てに厳罰をもって処断する必要がある。故にオイグル伯の行為は利敵行為にも比するものとして僕自らが断罪し、収監させてもらった訳だ。
 またこのように統治の根源をなす身分制度に反する事案はまさに非常事態と認めていいだろう。故に以前の近衛騎士団及び第一騎士団の行動は合法であると国王である僕が宣言する』

 陛下は予想通りこちらの言い分を完全否定した。つまり第二騎士団がここで引かない限り、内戦がはじまる事になる。
 今頃何処でも緊張感が最高潮に達しているだろう。俺もそうだ。ただ聞いているだけなのに握る手に汗を感じている。

『故に僕は国王として再度第二騎士団派遣部隊に命令する。逆賊の捕縛に協力するとともに、スベイ伯爵家の領主館を当方に明け渡し、近衛騎士団及び第一騎士団のスベイ伯爵家に対する暴動事案の鎮圧捜査に協力せよ。以上だ』

『かつて陛下は即位した際、こう仰っておられました。『国政の正当な目的は、社会を構成するすべての個人の最大幸福、換言すれば最大多数の最大幸福である』と。今の陛下の言葉はこの言葉からあまりに遠くなられたかのように感じます。果たして半年前までの国民の方を向いておられた陛下と今我々の前にいる陛下は同一人物でありますでしょうか。部隊を預かる身としてだけでなく個人としても疑いを持たざるを得ません』

『残念だがギュンター百卒長、これ以上貴官の戯言に付き合うのは時間の無駄だと僕は判断させて貰うよ。統治の基本は身分制度であり、そしてその身分制度がなす権力だ。それを今、明らかにさせて貰おう。
 ギュンター百卒長よ。君は知らないだろうが僕は特殊な魔法を持っている。僕が即位した当時の状況を知る貴族は皆さんご存じの筈だ。それをこれからお目にかけるとしよう。
 それでは栄えある近衛騎士団及び第一騎士団の諸君よ。国を正しく取り戻す戦いを始めよう』

 丸太障壁のひとつが消える。異空間経由で第二騎士団部隊の上空へと飛ばされたのだ。勿論これは陛下の魔法。
 だが俺の魔法で上空の丸太障壁は姿を消す。ややずれたが元の場所へと丸太障壁は戻った。

『おそれながら陛下の相手は私、チャールズ・フォート・ジョウントが引き受けよう』

 俺も伝達魔法で宣言する。戦いの始まりだ。
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