異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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第20章 バジリカタ親征

第157話 バジリカタ攻防戦(3)

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 陛下は先程までいた場所から姿を消す。俺もすぐ陛下を追う。

 陛下はバジリカタの街門近くにある見張台の屋根の上にいた。むろん通常空間側からは見えない場所だ。しかしここからは戦場全体が見渡せる。

「まだ僕と君とが最終決戦をする状況ではないだろう。だから彼らの勝負がつくまでここで見ていようじゃないか。ただ手出しは無用だよ。僕も手出しはしないから」

「そうですね」

 俺達だけ遊んでいるようで非常に申し訳ない。しかしこれも必要な役割なのだ。
 陛下はチャールズ・フォート・ジョウントを抑えるという役割。俺は陛下を抑えるという役割。

「心配しなくても軽傷者が出るか出ないか程度で済むだろう。今回の戦いも」

「そうですけれどね」

 陛下の言う通りだ。俺達には既に結果がある程度視えている。つまりこの戦闘の結果は始まる前のこの時点でほぼ確定している訳だ。

 互いの戦闘用ゴーレム同士が前進した。陛下側のゴーレムは丸太障壁を動かして侵入していく。こちらのゴーレムは丸太障壁のバジリカタ側でそれを迎え撃っている状態だ。
 更に陛下側ゴーレムの後方からは遠距離攻撃魔法や弓矢による攻撃も始まった。先陣がゴーレムに変わった以外は昔ながらの戦闘のセオリーだ。

 だが遠距離攻撃はゴーレム達の背後上空で無力化されている。矢は飛行途中で何かにぶつかったように落ち、遠距離魔法は消える。
 理由はすぐわかった。ニアとマイアだ。
 龍2頭で障壁魔法を展開している。その壁に阻まれて矢も魔法もバジリカタ側へは届かない。

「やはりそっちの方が強いね。ナディアと龍2頭はまあ想定内だけれど、ゴーレムまでそっちの方が強いとは思わなかったな。こっちの方が倍以上多いのにやっと互角といったところか。今回300体持ち込んだのだけれどね。これでは全滅かな」

「それも予測済みですよね」

「僕としてはね。でもうちの指揮官の皆さんには想定外だったんじゃないかな」

 そうなった理由は簡単だ。俺達のゴーレムは対ゴーレム用に戦闘パターンも武装も防護部分も改良してある。ハードとソフト双方の開発者がいる事の強みだ。
 一方陛下側のゴーレムは本来は魔法武闘会用に作成された状態からあまり進歩していない。無論対騎士等で訓練は積んではいるだろうけれど。

 戦闘用ゴーレムは人間に比べ遙かに頑丈でかつ強力だ。攻撃魔法もかなり効きにくい。だから弱点を突かないとそうそうは倒れない。

 最も大きな弱点は人間なら首の後ろ側にあたる部分。ここに魔法水晶から全身に張り巡らされた魔法導線が集中している。
 この部分に大火力の熱魔法を集中させる、またはこの部分を剣等で思い切りよく叩き切る、または叩き潰すのが一番の方法だ。

 またそれが出来ない場合は各部の関節部分を狙うのも方法のひとつ。特に膝裏部分は力がかかる割に作りが複雑繊細なので少しの損傷で動作不良となりやすい。

 こちらの戦闘用ゴーレムは弱点を出来るだけ防護しなおしている。また弱点をを狙うように教育もしている。それらの効果で性能そのものはほとんど差が無い陛下側のゴーレムを圧倒している訳だ。

「ゴーレム戦の決着がついたら出るよ。ゴーレムはともかく人間の兵の損害は出したくない。龍2頭相手の時点で全滅覚悟の状態だからね。ましてやその背後に無傷の第二騎士団がいる訳だ。冷静に見て勝ち目は無い」

「でも指揮官が退却命令を出しますかね。あれだけ陛下に脅された後ですから」

 その辺が少し心配だ。俺としても死傷者を出すのは本意では無い。たとえそれが敵側であったとしてもだ。

「そこは僕が命令するよ。国王陛下であり派遣部隊最高位である僕がね。そうすれば撤退する名目もたつだろう。
 でもこれで無能な指揮官どもも貴族としてますます焦るわけだ。戦いでも成果を出せなかった訳だからね。結果として本来得意な院内政治に精を出してくれる訳だよ。今度の場合は自分達の仲間を増やすという方向でね。結果、僕の陣営は更に役立たずの貴族どもが増える訳さ」

 それでも疑問がある。

「自分の身が危ういという事で、陛下を狙ったりしませんか?」

「それは大丈夫だよ」

 陛下はにやりと笑う。

「チャールズ・フォート・ジョウントを相手に出来るのは僕しかいないからね。未来視でもその辺は充分確認した。つまり他に君に対抗できるコマが無い以上、僕の思い通りになるしか無いのさ、彼らは」

 なるほど。

「それにしてもそっちのゴーレム、強いね。数の優位で互角に持ち込めると思ったんだけれど完全にこっちの負けだね。そっちのゴーレムが10体程度残るという結果になるようだ。他にも遠距離攻撃をかけない等こっちに比べてかなり余裕がある状態だね。うちの指揮官がそれに気づいているかどうかはわからないけれど」

「こっちとしてはあくまで自衛で、引き下がってくれればそれでいいですからね」

 その辺は会議で意思統一をしておいた。

「今回の戦いのように防衛戦ならそれでいいけれどさ。たとえばラツィオ解放戦のような戦いはそれでは済まないだろう。その場合はどうするつもりだい」

「兵力差で圧倒するまでですね。実際に戦う下士官以下が戦うだけ無意味と思ってしまう位に。こっちが明らかに圧倒しているなら戦いにはならないでしょう」

 そこまでの道筋はある程度未来視で見えている。
 しかし陛下が助かる方法はまだ具体的には思いついていない。

 何か方法があるのは確実だ。それもおそらく俺自身が思いつくべき方法が。そこまでは未来視で視た感覚でなんとなくわかるのだけれども。

「さて、それでは僕はそろそろ戻らせて貰うよ。ゴーレムが全滅するのはいいけれどさ。その後自分だけが可愛い指揮官どもが兵に突撃を命じるのは避けたいからね」

「なら俺も戻ります」

「そうだね」

 移動魔法を使って俺はナディアさんの横へ。同時に陛下も戦闘中のゴーレム部隊の背後に出現した。 

『第二騎士団のギュンター隊長へ、最後にもう一度確認させて貰おうか。第二騎士団は国賊チャールズ・フォート・ジョウントとともに国賊となる道を選んだ。それでいいんだね』

『第二騎士団はかつての陛下の言葉通り、社会を構成するすべての個人の最大幸福を目的とするだけであります』

『かつての僕の言葉とともに僕と敵対するという事だね。理解したよ。僕としてはここで逆賊チャールズ・フォート・ジョウントと決着をつけたい気もするのだがね。でも兵や騎士達を消耗させるのは本意ではない。ここは一度引かせてもらうとしよう。
 遠征部隊戦闘停止、準備が調い次第撤収にかかれ』

『第二騎士団及びチャールズ・フォート・ジョウント麾下の部隊、戦闘停止』

 第二騎士団側から歓声があがる。
 しかし俺は勝利を喜ぶ気にはなれなかった。この勝利はまだシナリオ通りなのだ。

 そして俺はシナリオを超えて陛下を救い出す方法をまだ見いだしていない。制限時間はますます短くなっているのに。
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