異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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エピローグ 続いていく日々へ

第163話 殿下救出

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 念の為バジリカタのナディアさんの処へと立ち寄る。
 遠隔視で視た通りこっちは既に決着がついていた。予定通りナディアさん1人で片付いてしまった形だ。

 ただ投降した捕虜を移動魔法で移動させるのにナディアさん1人では足りない。だからサラとジュリアも協力して移動させているようだ。

『済まないがこっちは頼む。向こうも片付いた。俺はこれから殿下を探してくる』

『すみません。その前にお聞きします。陛下は無事なのでしょうか』

 そうだな。それを言うのを忘れていた。

『陛下は無事だ。半年後の未来へ移動魔法で時間を超えて送り出した。だから心配はいらない』

『わかりました。どうもありがとうございました』

 やっぱりナディアさんは陛下の事をかなり気にしていたんだな。そう思いながら俺は今度こそラツィオの王宮へと移動魔法を起動する。

 王宮の国王執務室は広い。40名くらいまでならここで任命等を行うからだ。執務机の他に10人位は使える応接セットもある。

 だが今、主のいないこの部屋はがらんとしている。いるのは今は1人だけ。国王席の横、筆頭秘書官と書かれた席にヴィットリオさんがいるだけだ。
 俺はまず姿を現さずに扉を軽くノックだけする。

「陛下は不在ですが、よろしければどうぞ」

 俺は返事を聞いた後、部屋の中へと直接移動する。ヴィットリオさんは俺を見て軽く一礼した。

「チャールズさんがここにいらっしゃるという事は、陛下は敗北された訳ですね」

「ええ」

 彼は俺の正体を知っている。だから伝達魔法を使う必要はない。
 
「それでは殿下の居場所をお教えします」

 彼はあらかじめ全て知っていたかのように、俺が説明する前に封筒を差し出した。

「場所はこの封筒の中に詳しく記載されています。気を抜くとソニアさんが脱走するそうなので急いで行ってやって下さい」

「ヴィットリオさんは陛下の計画を全て知らされていたのですか」

「ええ」

 彼は頷く。

「今では私だけです。あとはソニアさんとナディアさんも途中までは知らされていました。シナリオが変わった為、途中でこうなってしまいましたけれど。
 それで結末はどうされました?」

「半年後の未来へ送りました」

 少し間をおいて、そしてヴィットリオさんが俺に尋ねる。

「すみません。それはどういう事でしょうか?」

 確かにそう言われてもわからないだろう。だから俺は簡単に説明する。

「陛下の魔法は基本的に何処へでも移動できます。ですので閉じ込めるというのは不可能です。ですから戻って来る事が出来ない場所という事で、未来方向へと飛ばしました。未来から過去へ戻ってくる方法は俺も知る限り存在していませんから」

「うまく結末を見つけられたのですね」

「何とか、という形です」

「安心しました」

 彼は笑みをみせた。

「参考までにいつ頃戻られる予定でしょうか」

「もし何でしたら8月5日の正午前に、ゼノアの俺の家に来ていただけますか。ご案内いたします。家はわかりますよね」

「把握しております。それではそうさせていただきましょう」

 ヴィットリオさんはそういった後、俺に尋ねる。

「ところで王宮へは今日は来られないのでしょうか」

 つまり王宮を占拠して陛下に勝ったと宣言する事か。

「本日は現場の方の処理で手一杯です。明日、近衛騎士団と第一騎士団を押さえた後、改めてラツィオに陛下が崩御されたと発表してから王宮の方へ来る予定です」

「わかりました。それではお待ちしています」

 ヴィットリオさんに一礼して、そして俺はまた移動する。今度は別荘の俺の部屋だ。

 ヴィットリオさんから渡された封筒の中身を出す。縮尺の違うスティヴァレの地図が3枚ほど出てきた。

 地図上に印がついている場所が殿下のいる場所だろう。場所はスティヴァレの最北部、ガンゼル山北側の谷間。

 確かにこれなら逃げるのは大変だろう。まわり三方を標高2000腕4000m級の高山に囲まれた場所だ。唯一谷間になっている北側は所々氷河で断ち切られている。
 これでは確かにソニアさんでもそう簡単に突破はできないだろう。でも逃げられて面倒な事になる前に行ってくるとするか。

 地図と実際の地形を照合しながら俺は移動魔法を起動。移動魔法で出た先はやや大きめのログハウスだった。中に3人の気配を確認した後、俺は玄関扉をノックする。

「どうぞ」

 中からそう聞こえたので扉を開けて中へ。
 
「アシュノールさん、お疲れ様でした」

 入るなり殿下が俺に向かって頭を下げた。そして俺が返答する前に台詞を続ける。

「ぶしつけで申し訳ありませんが教えて下さい。兄はどうなったでしょうか」

 やはり心配だったのだろうな。急に此処に飛ばされて以来状況がわからないのだ。
 しかも殿下は陛下が死ぬつもりだった事に気づいている可能性が高い。早く安心させてやらないと。
  
「無事です。半年後へと飛ばしたので今は会えませんけれど」

「どういう事でしょうか」

 ヴィットリオさんにしたのよりもう少し詳しい説明をする。
 殿下達はヴィットリオさんと違い、飛ばされた後の途中経過を知らない。だからその辺の出来事を含めてより詳しく、かつ出来るだけまとめた形で。

「明日、近衛騎士団と第一騎士団の武装解除をした後、王宮の明け渡し交渉を行う段取りになっております。そんな訳で王宮にお連れする事は出来ません。とりあえず当座はうちの別荘にいていただくのが一番安全でしょう。ご案内します」

 殿下は俺のその台詞を聞いた後、かぶりを振った。

「いえ、それなら第二騎士団にあるという対策本部に先にお願いいたします。いない間についての皆様へのご挨拶もありますし今後の事もあります。王政を終わらせるにせよ私の今の地位はそれなりに有効でしょう。少なくとも王宮の明け渡しや騎士団の武装解除の際には王位継承権第一位の身分は名目として使いやすい筈です。その辺を含めて話し合いをした方がいいかと思います」

 ロッサーナ殿下、頭の切り替えが早い。
 なら最初に案内するのは第二騎士団に借りているうちの部屋にしよう。あそこでテディ達と話し合えばいいだろうから。

「わかりました。それではお連れします。此処はこのままで大丈夫ですか」

「後ほど片付けに参ります。ですが今は早いほうがいいですわ。扉を閉めておけば問題は無いでしょう。ここへ来ることが出来る人はそういないでしょうから」

「わかりました」

 俺は移動魔法を起動する。 
 
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