異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀

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エピローグ 続いていく日々へ

第167話 最終話 これから始まる日々へ

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 俺達はリビングでその時を待っている。
 俺達とは俺、テディ、ミランダ、フィオナ、ナディアさん、サラ、ジュリアの他にロッサーナ改めフレドリカさん、ソニアさん、レジーナさん、ヴィットリオさん。全部で11人だ。

 時計の分針が一番上まで来た。同時に空間の揺れが部屋の中央に発生する。来たな。

 揺らぎはそのままゆっくりと人の姿になった。長くまっすぐな金髪、羊毛の厚い外套、あの時のままの服装だ。ファブーロの戦場から直接飛ばしたのだから当たり前だけれども。

「お兄様!」

 フレドリカさんが飛び込んでいく。
 
 陛下、いや元陛下は反射的にフレドリカさんを抱きとめ、そして不審そうにまわりを見回した。状況を理解できないようだ。
 俺の方を見て、そして口を開く。

「これはどういう事だい、アシュノール君」

「時間と空間は根本的には同じものです。ですからあの時、俺は陛下を空間とともに時間軸で未来の方向へと飛ばしました。今はファブーロの戦いから半年後の8月5日、場所はご存じの海辺の別荘です」

 元陛下は改めてまわりを見回し、状況を察したようだ。

「そうか。全ては終わったんだね」

「あと陛下、いえ元陛下にお返しする物があります」

 俺は用意していた物を元陛下に差し出す。元陛下はフレドリカさんを右腕で抱きとめたまま左手で受け取った。

「以前いただいた身分証明書は名前が有名になりすぎてもう使えません。ですので代わりにギルドの方に新しい身分証を発行して貰いました」

『ダニエル・ブーン・デイヴィス(26歳) 男 出身地:ゼノア 職業:魔法術士、特例C級冒険者 称号:単独龍狩士、空間操者』

 名前が変わり年齢が1歳上になった以外は以前と同じ身分証明書。さっき言った理由で対策委員会を通じてギルドに発行してもらった物だ。
 以前と同じように生体認証をしていない状態のもの。つまりはそういう事だ。

「いいのかい。アシュノール君のものだろう、これは」

「俺は翻訳業が本職です。もうあんな面倒で危険な仕事はやる気はありません。ゼノアでおとなしくやりますよ」

「もうスカレアに私達の家もありますのよ」

 身を離したフレドリカさんの台詞に元陛下は戸惑った様子だ。

「私達って、それはどういう事なんだい」

 そりゃ元陛下も戦場からいきなりここに連れてこられてこの状態じゃ全てを理解出来ないだろう。
 しかし時間はたっぷりある。陛下としての戦いシナリオは終わったのだから。

「あとは料理でも食べながら話しましょう。でもその前にダニエルさんは着替えた方がいいですわ」

「服は用意してありますわ。さあこちらです」

 元陛下、ダニエルさんはフレドリカさんに引っ張られていく。

「これでやっと全てが終わったのですね」

 ソニアさんの台詞にナディアさんが首を横に振った。

「終わったのではなくこれから始まるのです、きっと」

「さて、私達は先に食堂へ行って待ってよう」

 ミランダの台詞で皆、動き出す。

「食事しながらでも話す事は山ほどありますよね」

「そうだな。ヴィットリオさんあたり、色々と言いたい事がありそうだ」

 彼はうんうんと頷く。

「言うべき事も言いたい事も山ほどありますよ。まずは愚痴ですね。大変だったんだと教えてやりたいですよ。上司がなまじ有能で仕事が多いとこんなに部下は苦労するんだって」

「私も途中で裏切られましたね。まさかいきなり殿下と山の中に飛ばされるとは思いませんでしたから」

 確かにソニアさんはそうだよな。その辺皆さん言いたい事がありそうだ。

「でも陛下、これからはダニエルさんでしたね、ダニエルさんもチャールズ・フォート・ジョウントことアシュノールさんと同じ魔法が使えるのですよね」

「元々は陛下の魔法だったんですよ。俺は教わっただけで」

「なら私も教わればその魔法を身につけられますね」

 その気になっているレジーナさんにソニアさんが一言。

「かなり難しいと事前に言っておきます。私は教えられたけれど無理でした」

 テディもうんうんと頷く。

「私達もですわ。私とナディアさん2人でアシュに教わったのですが理解不能で……」

「おっと、その話は僕は知らないよ」

 そんな事を話しながら食堂へ。
 食堂のテーブルには大皿がいくつも並んでいた。

「蓋をとって仕上げをします」

 サラが大皿にしてあった蓋をつぎつぎと取って、魔法で温度を調節する。
 にぎり寿司なんてものとローストビーフ、ビーフシチューとハンバーグと刺身盛り合わせ、天ぷら、フライドチキン……
 茹でた麺とスープ、タレという勝手ラーメンセットまである。一貫性はまるで無いが美味しそうなのは間違いない。

「これは豪華ですね。しかも見たことがない料理がたくさんあります」

 確かにヴィットリオさんが言うのが一般的な意見なのだろう。俺が翻訳したレシピの料理が半分以上だし。

「サラも本職だしね。料理号外で毎週レシピを発表しているから」

 フィオナの台詞にヴィットリオさんはうんうんと頷いた。

「号外の話は陛下から聞いています。実際あの号外は王宮の調理場でも毎週購入していたそうです。新しくて珍しく、それでいて美味しい料理が載っていると料理長も参考にしていました。いまはあの料理長も王宮を離れてウェネティのホテルにいるそうですけれど」

 その台詞でふと気になったので聞いてみる。

「王宮の皆さんは再就職は大丈夫だったのですか」

「官僚や事務屋はだいたいそのまま新政府で働いていますね。料理人や後宮勤めの女性達も王宮で働いていたという事で就職先には困っていないようです」

 それなら良かった。

 なお一番心配だったテディの実家も今のところ大丈夫らしい。
 かつて領主であった各貴族には新政府による領地解放と引き換えに交付金が出た。また領地以外の商業等の部門については所有したままだ。

 テディの実家、メディオラ侯爵家は以前から北のヘルヴェティアと陸路で交易を行っていた。その部門が好調だと聞いている。

「さて、そろそろ主役が登場するかな」

「結構遅いよね」

 フィオナの台詞にレジーナさんがにやっとした。

「フレドリカさん、かなり本気で服を選んで持ち込んでいましたから。今頃一番似合う服を選ぶために着せては脱がされてを繰り返しているのではないかと」

 うーむ。元陛下、いやダニエルさんもこれから苦労するんだろうな。その辺の苦労は女性に囲まれて暮らしている俺には大変良くわかるのだ。
 何なら今度こっちから愚痴を言いに行ってもいいかもしれない。もう陛下ではなく冒険者のダニエルさんなんだから。

 足音が近づいてきた。ようやく着替えが終わったらしい。
 フレドリカさんとやや疲れた顔のダニエルさんが登場だ。何に疲れたかはまあ置いておいて、取り敢えず皆で拍手で迎える。
 2人が席についたところで、俺はグラスを持って立ち上がった。

「それじゃ、陛下お疲れさまでしたという事と、今後のダニエルさんとしての未来を祝して、乾杯!」

(本編終わり ただおまけがあります)
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