神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀

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第1章 まずは自分の衣食住 第1話 最初の一杯を、隣神さんと

5 最初の一杯

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 たっぷりの熱湯で茹でて、さっと氷水で洗って締めれば、うどんの完成だ。

 ざるも水場も無いけれど、神様なのでそうなるよう念じればいいだけ。
 出来上がったうどんを1本取りだし、すすってみる。うむ、つるつるとしこしこが両立した、そこそこの出来栄えだ。

 無論完全ではない。至高の一杯なんてのは、まだまだずっと先。
 でも初めての環境で最初に作ったうどんとしては、充分及第点だろう。

 そもそも香川うどん県人にとって、うどんは特別な食事では無い。日常だ。
 だからこの程度の味になっていれば、問題はない。

 麺を器に入れ、貝とカメノテで作った、やや白濁した出汁をかける。
 貝の身とカメノテの身を上に添えて、この世界の最初の一杯が完成だ。
 それではキンビーラを呼ぶとしよう。

「キンビーラ、取り敢えずうどんが出来たけれど、食べてみる?」

「ああ、いただこう」

 私が言い終わるとほぼ同時に出現しやがった。さてはこちらの様子を観察していたな。
 でもまあ、すぐに来てくれたのは悪い事ではない。時間が経つとうどんは伸びるから。

「とりあえず、最初の一杯です。まだ塩以外の調味料が出来ていないから、味は塩と海鮮出汁だけですけれど」

「ありがとう」

 どんぶり&箸セットを渡す際、正面かなり近いところにキンビーラの顔がきて、ついどきりとしてしまう。
 私よりちょい高めで、ある意味ちょうどいい身長。

 私の身長は公称168cm、実際は172cmちょっと。
 この高さだと残念なことに『可愛い女の子』の枠外になってしまうのだ。
 ヒールが無くて、かつ可愛い靴なんて探して履くなんてしても、無駄な努力。

 でもキンビーラの目の位置は、私より5cm程度高い。
 これなら私が並んで歩いても、まったく問題はない。

 しかもキンビーラ、良く見るとなかなか美形だ。
 初見でジャック・スパロウと感じたが、あれは演じているのがジョニー・デップ。
 だからかなり顔が整っているのは、ある意味当然。

 烏帽子に直垂なんて雅な服装に茶色い長髪なんてアヴァンギャルドな出で立ちだけれど、よく見ると素材はかなり上物だ。
 おまけにどんぶり&箸の受け渡しで指が触れたりしたら、大学生の頃までの私なら、赤面して動けなくなること、間違いなし。

 まあ今の私は、世間の荒波に揉まれ過ぎて、面の皮も厚くなっている。だから内面ではどう思っていようと、平然を装うことは可能だ。
 中身は変わらないから、あと3ヶ月で妖精さんだったのだけれど、妖精を通りこして神になってしまった……
 というのは、今は置いておいて。

「座った方が食べやすいだろう。そこの岩なら、並んで座れる」
 
「そうですね」

 男性と相席して食べるなんて……まあ混んでいる職員食堂では、よくあったか。
 なんて事を考えつつ座って、自分用のどんぶりと箸を取り出す。

「それでは食べようか」

「ええ」

 いただきます、と心の中で唱えてから、うどんをたれに絡むよう少しかき混ぜ、そして口に運ぶ。
 うむ、悪い味ではない。充分美味しい。やっぱりどこぞの海鮮塩ラーメンっぽい味だけれど。

 欲を言えばきりがない。醤油が欲しいとか薬味が無いとか。
 それでもそこそこ美味しいとは思う。中に入っている貝やカメノテの身部分も。

「美味いじゃないか。これだけでしっかり料理されていると感じる。冷たいのも、今の気温にはちょうどいい」

 キンビーラもそう言ってくれた。まあ最初だから、お世辞半分といったところだろうけれど、それでも嬉しい。
 ただ讃岐うどんの名誉のために、ここは言っておこう。

「貝とカメノテのおかげで、いい感じの味にはなったと思います。ですが本場の讃岐うどんの味は、こんな物ではありません。
 なのでこの土地に手を加える傍ら、素材を集めたり調味料を作ったりして、より完成度の高いものにするつもりです」

「なるほど、それは楽しみだ」

 イケメンの笑顔は、破壊力が凄い。近くにいるだけでも、取り敢えず価値はある気がする。
 なんて思ったところで、キンビーラは私の方を向く。

「さて、ご馳走になったお礼は、何がいい? 海にあるもので一抱え程度のものなら、何でもいい」

 そう言えば、そんな事を言っていたなと思い出した。
 それなら、うどんの出汁に不可欠な、アレだろう。
 私はうどんの残りを汁ごとすすって、箸とどんぶりを収納してから、キンビーラに尋ねる。

「ならすみません。ここの海には、この位の大きさの、細身の小魚は数多くいるでしょうか。太さはこれくらいで」

 指で8cm位の長さと、1cmに足りない位の太さを作って説明する。

「ああ、この魚か?」

 キンビーラの、うどんを食べ終わって空になったどんぶりの中に、すっと海水と魚が入った。

『地球のカタクチイワシとほぼ同様の魚です』
 
 全知が教えてくれた。なら間違いない。

「そうです。この魚を、そこそこ多めに欲しいです。ただ、大量の命を奪うのは良くないという考えなら、別の物にしますけれど」

「いや、この魚なら我がセート海域に大量にいる。一抱えくらい獲っても全く問題はない。しかしいいのか、もっと大きな魚や珍しい魚もあるのだが」

 いや、讃岐うどんの出汁はいりこが一番だ。
 鰹節や雑節、昆布もあれば嬉しいが、無くても大丈夫。
 しかしいりこが無い出汁は、讃岐うどんの出汁ではない。

 出来れば伊吹いりこの大羽がいいのだが、異世界に伊吹島はきっと無い。でもこの魚なら、充分代用できそうだ。

「わかった。なら生きたまま、直接そちらの収納に入れた方がいいだろう。小魚は傷みやすいから。右手を出してくれ」

『神同士ならば、相手の承認がある場合、互いの直接接触により相手の収納に直接ものを送り込む事が可能です』

 なるほど、親愛の情ではなく、ものを送り込む方法としての握手なのか。
 まあイケメンとの握手なんて、断る訳はないけれどな。強いて言えば手汗が出ていないか、気になる程度だ。

『神だから、手汗が出ていないと意識すれば問題ありません』

 全知のアドバイスに従って、『手汗なんて出ていない綺麗な右手です』と意識しつつ、右手を出す。
 一回り大きな手が出され、がっちりと握られた。

「それでは送る」

 同時に、大量の小魚が収納内に送られた。まだ生きてピンピン状態だ。時間停止収納内なので動かないけれど。
 あとイケメンとの握手、プライスレス。
 おっと、『手汗なんて出ていない綺麗な右手』の意識、忘れないで継続してと。

 思った以上に大量に送られてきたようだ。一抱えなんてものではない。重さにして、20kg以上ある。

「ありがとうございます。こんなに大量に」

「この魚は大量にいるから、全く問題無い。美味しく使ってくれるなら、こちらとしても楽しみだ」

 勿体ないけれど、手が離れる。

「明日を楽しみにしている。それでは、また!」

 キンビーラの姿が消えた。
 私はふっと息をつく。元が陰キャだから、異性、それもイケメンと一緒だと緊張するのだ。
 年の功でいつも通りを装えるけれど。

 別にキンビーラとどうこういうような仲になるつもりは、多分ない。
 生活環境の酷さと性格故、もうじき妖精さんになりそうだった私は、甘い夢など見ないのだ。

 ということで、キンビーラの件は今は終了。
 新鮮なカタクチイワシで、いりこを作ろう。
 そう思ったところで、全知から警告が入る。

『魚は時間停止の収納に入っている限り、傷みません。それより衣食住の三番目、住処を作る方が先です。
 まもなくこの地も暗くなります。神ですから暗くて困る事はありませんが、神力を無駄に費やさない為にも、人間時代と同じ生活サイクルを送る方が無難です』

 私が人間だった時代と同じような生活サイクルを送ると、余計に消耗しそうな気がする。
 いや、今はもう、あの世界ではない。だから大丈夫、問題は無い。

「わかったわ。それじゃ当座の寝場所を作りましょう」

 私は寝場所をつくるべく、周囲を見回す。

※ 大羽いりこ
  いりこ(煮干し)は、使用するカタクチイワシの大きさによって、ちりめん、かえり、小羽、中羽、大羽にわけられる。大羽とは全長が8cm以上のもの。
  観音寺港沖約10kmにある伊吹島は、日本一のいりこの産地だ(と、香川県民は信じている。なお長崎県では……以下略)。
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