虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
49 / 57

49

しおりを挟む
「一応、聞いておこうと思うが……その……旧王族たちや、捕縛された貴族たちがどうなったか、知るか?」

言いづらそうにレイフ様が口を開いた。クーデターが成功したということは、悪政を敷いた者たちは例外なく辿る道はほぼ同じ。それは、数ある歴史がすでに証明しているものだ。

「……名ばかりとは言え、辺境伯家の者として育ちました。私には、知る義務があります。どうか、包み隠さずお伝えください」

「わかった」

内容が内容だけに、気遣って濁してくれようとしたのだろう。けれどそれは、私が逃げてもいい事にはならない。何一つ役に立てなかった、エインズワースの名を持ちながら。それならば、私はあの国の辿った未来を、正しく知る必要があるのだ。

「まず現国王含む王族だが……」

一瞬だけ顔をしかめたものの、彼は一つひとつ丁寧に話をしてくれた。国王と王妃、皇太子は、新たな国王が開いた国民裁判によって、公開処刑となった。旧王族には、結婚した者や未成年がいなかったため、一番政治に近かったのがこの三人だった。

次に、捕縛された貴族たちも同様に、国民裁判にかけられた。程度によって判決は別れたが、エインズワース辺境伯家のように重税ばかりを課した貴族は、軒並み旧王族たちと同じ公開処刑。重税ではないにしても、生活が苦しいとわかっていながら、改善しなかった者たちは、労役刑となったそう。

「皇太子には、婚約者候補とされたご令嬢が複数いたんだが……」

困ったような表情で、彼は皇太子が夜遊びの激しい割に、慎重な部分があった、と述べる。それを聞いて、言いづらかったから、この表情だったのだと察した。どうも、あの皇太子は連日連夜、部屋に女性を呼んで侍らせていたらしい。

ただ侍らせていたと言っても、相手は高級娼婦。皇太子自身は婚約候補に上がるような貴族令嬢は、好みから離れていた。そのために、あくまでも婚約候補にしかならず、ご令嬢たちは別のご子息と婚約に至った。

結果的に、旧王族と考え方の合わない貴族令嬢たちは、その時点で候補から外れた。彼らに付き合うことのできる、似たような者たちが今回のクーデターで、捕縛対象となったわけだ。

「呼ばれていた娼婦たちは、どうなったのですか?」

「一旦、捕縛はされたが、取り調べで問題ないと判断された者から解放されている」

彼女たちは商売だ。それ以上の気持ちを持って通うことは、ほとんどないだろう。レイフ様が私に言ったように、解放された娼婦はあくまでも仕事として行っている。稀に野心がある者もいるとは聞くけれど、暮らし方が違う時点で、お互いに手を出さない。

娼婦になる女性たちは、事情は様々あれども、美しく聡明であることが多い。王族に呼ばれるくらいになるなら、間違いなく引き際はわかる人。

「王族に下賜されたものを、わざわざ他国で換金して、市井で分け合っていたとも聞いた」

「優しい方々だったのですね……どちらに転んでも危険だというのに……」

王族に好かれていて、金目のものを下賜されるほどのお気に入り。もしクーデターで捕縛されれば、自分たちの身だって危うい。逆に、王族に下賜されたものを売ったと知られれば、処罰は当然免れない。

「市井の苦しさを知っていたから、だろうな。王都の民が比較的、地方よりもまだマシだったのは、彼女たちや娼館の女性たちが遊びに来る貴族から与えられたものを換金していたからだそうだ」

「欲に溺れることは、罪深いですね」

何もかもを知らぬ存ぜぬ、で自分の好きなように生きた代償。告げられた刑罰は、その罪の重さを考えたものであったけれど、国民の怒りがそれで終わるわけもない。

今後、あの国を統治することになる王たちは、此度の件を胸に刻んで王となることが定められた。口ではいくらでも言える、あのようにはならないと。実際にどれだけ民を思い、国をより良くしていこうと動けるか、国民は見ている。

いや、国民だけじゃないか。周辺国だって、統治者が愚かでないかを見ている。それは戦という火の粉をかけられないため、また自国を巻き込まれないようにするために。

私はリリムの生まれだけど、アルムテアに皇女として迎え入れてもらえた。母が皇女だったから。そして、私には皇位継承権は第四位と低い。すでに皇太子として、イアン兄さまが立太子されているし、第二、第三皇子もいる。

皇女である私に求められるのは、皇位を継承することよりも他国との繋がりを強くする外交力。ただ、それは私のことを外部に嫁がせた場合のみ。レイフ様の元へ降嫁が決まっている現在なら、兄さま達のように国も民も守ることが義務。

「私も、今度は守ります」

「俺も国を守る臣下として、ユーニスの伴侶として、取りこぼしたりはしない」

もうあの頃の私とは違って、力も立場もある。道を踏み外さないように、己を戒めて歩いていくのだ、レイフ様とともに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

処理中です...