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番外編 イアン3
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難なく帰還したことは、城中で祝われた。行方がわからなくなっている、と報告を受けただろうから、余計に心配をかけたのは自覚していたが。まさか、あんなに盛大に祝われるとは思わなかった。
そして助けられた話を、先に伝えていたために、当然ユーニスの事についても根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。ついでに、両親にレイフの恋心も知れ渡っていたのは、さすが三人の息子を持つだけあったか。
「失礼いたします」
「何かあったか」
「先程、皇妃様専属の医師殿が戻られたようです」
「わかった、すぐに向かう」
ウェイン公爵家の専属医師もいるだろうが、こちらが世話になっている医師を派遣したのには理由がある。現在、レイフが主な住処にしているのは帝都。前公爵夫妻は、今はウェイン公爵領の方で領地を管理している状態なので、医師も領地にいる。
帝都へ呼び戻すには、少し時間がかかると思ってのことだった。結果的に、手配して正解だったのは本当によかった。一刻を争うと言うわけではないにしても、怪我の度合いは酷いものだし、早めに医師に見てもらいたい。
「イアン皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
「忙しいのにすまない、仕事を後に回してくれたと聞いた」
「とんでもない! 早急に対応すべきものもあったので、すぐにでも診察をさせてもらえて、正解でした」
ハキハキと話す医師は、ユーニスのことも気兼ねなく託せる同性。しかも母とは皇妃になる前からの付き合いだそうで、まだ立太子前だった俺も大変お世話になった人だ。まあ、頭も上がらないが。
そんな仕事ぶりも丁寧かつ正確で、誰に対してもきちんと自身の意思を伝えられる彼女は、見てきたものを報告してくれた。ユーニスの身体は、見える範囲はもちろんのこと、服で隠れる所も痣が酷かったらしい。
そこはレイフとも予想していたが、一点を集中して暴力を受けたような痕や、自身で治療したと思しき治りかけの状態も確認できたそう。魔法による傷よりも、物理的に与えられた傷の方が多かった、と最後に言われた。それはすなわち、彼女は抵抗をしないで我慢したということだ。
あれだけの魔法の才能であれば、怪我をしたように見せかけることは可能。もし、仮にできなくとも、数年以内に幻で見せることはできただろう。特に魔法攻撃なら、当たったようにして実際は相殺した、なんてこともできる。
けれど、それが物理攻撃となると、また話は変わる。単純に、魔法で防ぐとわかりやすいからだ。特に武器もない手足での暴力、当たったのが身体なのかそうでないのか、違いは一目瞭然。医師は、殴ったり蹴ったりされたのは日常的だっただろう、と言っていた。
言い方は悪いが、ユーニスに怪我を負わせていたのは、殴り馴れたもしくは蹴り馴れた人間。そんな相手が、当たった先の感触の違いに気づかないわけがない。それくらい、わかりやすい違いとも言えるか。
「本当にありがとう。彼女は、私とレイフの恩人だったから」
「あのお方が……身体の怪我は、適切な治療を施し時間が経てば、治ります。ですが、心の方はわかりません。お話を聞く限り、何もないように見えますが、本当に大丈夫とは思えません。きっと、今まで抑圧してきたはずです」
「そう、だろうな……何度か、怯えたような仕草を見た。彼女は無意識だったから、気づいていなかったが」
「痛ましいですね、あのようにまだお若いご令嬢が……」
「全くだ。彼女は正当な貴族家のご令嬢であるのは、わかっているというのに……あんな酷い怪我を」
実の父親と、後妻、その娘。異母妹も父親である辺境伯の娘なのは、間違いない。ただ、調査して判明したこともあった。まず、ユーニスは我がアルムテア皇族の血を引く娘であること。母に当たる女性が、現皇帝の従妹で、先代皇帝の娘。しかし、先代には皇女が一人しかいなかった。
そこで次期皇帝として選ばれたのが、ウェイン公爵家と同格の公爵家に降嫁していた姉君の子。先代の皇女の名は、エルシー・アルムテア。第一帝位継承権を持っていたのを、彼女は返し政略結婚でリリム王国へ嫁いだのだ。そういう経緯から、帝位継承権が繰り上がり、現皇帝が選出されている。
そして、ここからは調べるまでわからなかったことだが、エルシー皇女の結婚相手は現エインズワース辺境伯ではなかった。お相手は、ユーニスが生まれる前に、馬車の事故で亡くなっていたらしい。
現辺境伯はエルシー皇女の御夫君の弟で、訃報が届いた瞬間に辺境伯家を仕切り、使用人たちも入れ替えた。皇女も政略結婚とはいえ、仲は悪くなかった。子を生む日も近かったからか、ショックも大きかったのだろう、日に日に衰弱。ユーニスを出産後は、寝たきり生活のようなもの。
そうして数年後、エルシー皇女も亡くなり、ユーニスは誰も味方のいない辺境伯家に残されることになったのだ。自分自身、記憶している中でエルシー様とは、直接の面識はなかった。ユーニスに対して、どこかで見たことがあるような、と感じていたのは、やはり残された肖像画と伯母に似た面影があったからだ。
アルムテア皇族は、他国への輿入れや国内貴族に降嫁したとしても、帝国内では皇子・皇女という身分が残る。例えば公爵家への降嫁であれば、呼ばれるのは公には公爵夫人になるが、皇族のみの場では元の身分が優先される。
故に、エルシー様もリリム王国へ嫁いだとあっても、皇女としての身分がある状態で、家系図に名を連ねている。そこへ、新たにユーニスの名が刻まれればいいな、なんて思うあたり自分の変化に笑ってしまいそうだ。
皇太子である己は、国民を守る次代の皇帝。時として、国民のために大切な誰かを切り捨てなければならない立場。常に冷静であれ、常に公平であれ、そう幼少期より教育を受けてきた。今もありとあらゆる情報を取捨選択し、皆にとって最善を尽くせるよう、努力している。
厳しい覚悟も胸のうちにあるのは、間違いないはずなのに。ユーニスを見ると、それと同時に守ってやりたいと思う。どちらか一方を選べ、と言われるなら、どちらも選ぶ。今までの考え方ではありえない、まさにユーニスによってもたらされた思考。
そして助けられた話を、先に伝えていたために、当然ユーニスの事についても根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。ついでに、両親にレイフの恋心も知れ渡っていたのは、さすが三人の息子を持つだけあったか。
「失礼いたします」
「何かあったか」
「先程、皇妃様専属の医師殿が戻られたようです」
「わかった、すぐに向かう」
ウェイン公爵家の専属医師もいるだろうが、こちらが世話になっている医師を派遣したのには理由がある。現在、レイフが主な住処にしているのは帝都。前公爵夫妻は、今はウェイン公爵領の方で領地を管理している状態なので、医師も領地にいる。
帝都へ呼び戻すには、少し時間がかかると思ってのことだった。結果的に、手配して正解だったのは本当によかった。一刻を争うと言うわけではないにしても、怪我の度合いは酷いものだし、早めに医師に見てもらいたい。
「イアン皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
「忙しいのにすまない、仕事を後に回してくれたと聞いた」
「とんでもない! 早急に対応すべきものもあったので、すぐにでも診察をさせてもらえて、正解でした」
ハキハキと話す医師は、ユーニスのことも気兼ねなく託せる同性。しかも母とは皇妃になる前からの付き合いだそうで、まだ立太子前だった俺も大変お世話になった人だ。まあ、頭も上がらないが。
そんな仕事ぶりも丁寧かつ正確で、誰に対してもきちんと自身の意思を伝えられる彼女は、見てきたものを報告してくれた。ユーニスの身体は、見える範囲はもちろんのこと、服で隠れる所も痣が酷かったらしい。
そこはレイフとも予想していたが、一点を集中して暴力を受けたような痕や、自身で治療したと思しき治りかけの状態も確認できたそう。魔法による傷よりも、物理的に与えられた傷の方が多かった、と最後に言われた。それはすなわち、彼女は抵抗をしないで我慢したということだ。
あれだけの魔法の才能であれば、怪我をしたように見せかけることは可能。もし、仮にできなくとも、数年以内に幻で見せることはできただろう。特に魔法攻撃なら、当たったようにして実際は相殺した、なんてこともできる。
けれど、それが物理攻撃となると、また話は変わる。単純に、魔法で防ぐとわかりやすいからだ。特に武器もない手足での暴力、当たったのが身体なのかそうでないのか、違いは一目瞭然。医師は、殴ったり蹴ったりされたのは日常的だっただろう、と言っていた。
言い方は悪いが、ユーニスに怪我を負わせていたのは、殴り馴れたもしくは蹴り馴れた人間。そんな相手が、当たった先の感触の違いに気づかないわけがない。それくらい、わかりやすい違いとも言えるか。
「本当にありがとう。彼女は、私とレイフの恩人だったから」
「あのお方が……身体の怪我は、適切な治療を施し時間が経てば、治ります。ですが、心の方はわかりません。お話を聞く限り、何もないように見えますが、本当に大丈夫とは思えません。きっと、今まで抑圧してきたはずです」
「そう、だろうな……何度か、怯えたような仕草を見た。彼女は無意識だったから、気づいていなかったが」
「痛ましいですね、あのようにまだお若いご令嬢が……」
「全くだ。彼女は正当な貴族家のご令嬢であるのは、わかっているというのに……あんな酷い怪我を」
実の父親と、後妻、その娘。異母妹も父親である辺境伯の娘なのは、間違いない。ただ、調査して判明したこともあった。まず、ユーニスは我がアルムテア皇族の血を引く娘であること。母に当たる女性が、現皇帝の従妹で、先代皇帝の娘。しかし、先代には皇女が一人しかいなかった。
そこで次期皇帝として選ばれたのが、ウェイン公爵家と同格の公爵家に降嫁していた姉君の子。先代の皇女の名は、エルシー・アルムテア。第一帝位継承権を持っていたのを、彼女は返し政略結婚でリリム王国へ嫁いだのだ。そういう経緯から、帝位継承権が繰り上がり、現皇帝が選出されている。
そして、ここからは調べるまでわからなかったことだが、エルシー皇女の結婚相手は現エインズワース辺境伯ではなかった。お相手は、ユーニスが生まれる前に、馬車の事故で亡くなっていたらしい。
現辺境伯はエルシー皇女の御夫君の弟で、訃報が届いた瞬間に辺境伯家を仕切り、使用人たちも入れ替えた。皇女も政略結婚とはいえ、仲は悪くなかった。子を生む日も近かったからか、ショックも大きかったのだろう、日に日に衰弱。ユーニスを出産後は、寝たきり生活のようなもの。
そうして数年後、エルシー皇女も亡くなり、ユーニスは誰も味方のいない辺境伯家に残されることになったのだ。自分自身、記憶している中でエルシー様とは、直接の面識はなかった。ユーニスに対して、どこかで見たことがあるような、と感じていたのは、やはり残された肖像画と伯母に似た面影があったからだ。
アルムテア皇族は、他国への輿入れや国内貴族に降嫁したとしても、帝国内では皇子・皇女という身分が残る。例えば公爵家への降嫁であれば、呼ばれるのは公には公爵夫人になるが、皇族のみの場では元の身分が優先される。
故に、エルシー様もリリム王国へ嫁いだとあっても、皇女としての身分がある状態で、家系図に名を連ねている。そこへ、新たにユーニスの名が刻まれればいいな、なんて思うあたり自分の変化に笑ってしまいそうだ。
皇太子である己は、国民を守る次代の皇帝。時として、国民のために大切な誰かを切り捨てなければならない立場。常に冷静であれ、常に公平であれ、そう幼少期より教育を受けてきた。今もありとあらゆる情報を取捨選択し、皆にとって最善を尽くせるよう、努力している。
厳しい覚悟も胸のうちにあるのは、間違いないはずなのに。ユーニスを見ると、それと同時に守ってやりたいと思う。どちらか一方を選べ、と言われるなら、どちらも選ぶ。今までの考え方ではありえない、まさにユーニスによってもたらされた思考。
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