虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
6 / 57

06

しおりを挟む
屋敷へ戻り、与えられている部屋へ早々に引っ込む。誰の目にも触れないようにしていれば、むやみに身体を痛めつけられることはないから。

「……もう、行ってしまうのね」

私の存在は疎まれている。この屋敷に居場所なんてないから、普通に接してくれたイアン皇太子殿下とウェイン公爵様との時間は、自分が思っている以上に贅沢な時間だった。でも、私は忘れなくてはいけない。こんな思い出を抱えて生きていくのは、この先厳しいのは考えなくてもわかる。

「優しい人たちだった」

屋敷の端、倉庫のような場所の隣にある私の部屋。隙間風はすごいし、窓の建付けも悪いから天気が悪いとそこから雨や雪が入ってくることもある。伯爵令嬢として扱われているカミラとは大違いだ。

「……感情はうまく隠しなさい。ええ、わかっています、お母さま。感情を表に出せば、もっと苦しくなる。ちゃんと、私はわかっています」

自分を納得させるように、一人つぶやいていると、突然廊下から激しい足音が聞こえ始めた。この足音は継母とカミラだ。何か粗相が見つかっただろうか、まさか食材をくすねたのがバレてしまったのだろうか、と不安になる。

「このネズミ! 厨房に忍び込んだ挙句、食材を盗むとは何事です!」

ドアをバンッと開け放った継母は、開口一番、そう叫んだ。後ろにいるカミラは嫌な笑みを浮かべていて、あの瞬間をカミラに見られていたのだと察するに難くない。

「申し訳ございません、森の小屋への備蓄がっ」

必要で、と言い切る前に蹴られた。女性にしてはあまりの威力に、床へ倒れこんでしまう。起き上がろうと手をつくと、その手をヒールで踏まれ。

「そんなもの、なぜ必要なの! どうせ、お前が食べるためでしょう! 言い訳は必要ないのよ、この盗人が!」

言えない、保護した人たちがいるなんて。この家はあの二人にとって害悪にしかならないのは目に見えている。きっとエインズワース伯爵家が助けたと恩着せがましく、二人に詰め寄るはずだ。そんなことでいらない苦労をかけたくない。

二人はとても顔立ちが整っているから、カミラの婚約者に、とか言い出しかねない。そうなれば余計にややこしくなる。

継母は怒鳴りながら叩いてくるが、これも私をいじめる理由ができて喜んでいるだけ。本当に怒っているわけじゃないのは、経験からわかる。私が惨めな思いをすればするほど喜ぶ、そんな人だもの。

気が済むまでこのままにしよう。感情を表に出さないように、心を閉ざして。

痛覚はそちらへ意識を向けなければ誤魔化せると気づいたのは、いつだったか。そうやって痛いとも言わず、泣かず、無の状態で継母からの暴力を受け流す。全てを閉ざしてしまえば、大丈夫。

「このことは、きっちり当主であるあの人にも報告しておきますからね」

私が何の反応も返さないからか、それとも気が済んだからなのかはわからないが、父である伯爵に報告すると言って出ていく。カミラも継母に続いて出ていったので、ここはもう一人だ。

「……いたくない、いたくない」

思いっきり蹴られたお腹、ぐりぐりとヒールで踏まれた手の甲、ひたすら叩かれた頬。きっと頬は赤くなっているだろうし、手の甲やお腹は明日には痣になっているだろう。ああ、誤魔化せるかな、なんて意識は痛みへ向かないようにする。

「困った、なぁ……」

この部屋に隠しておいた魔法薬は、二人の治療に使ってしまった。自分の手当てに使えるものは、ここには置いていない。

「誰もいないし、いや、でも……誤魔化しがきかなくなる……」

魔法で治療をするか、とも考えたが、継母たちは私が魔法をそこまで使えることは知らない。そもそも、私に魔法の適性があるかどうかさえも知らないはずだ。そんな状態で身体を癒してしまえば、どうして治った、と余計に酷い目に遭うこと間違いなし。

「仕方がないな」

薬は使えない、治癒魔法も使うとよくない、苦肉の策で出したのは、氷魔法で出した氷を頬に当てることだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

処理中です...