虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
7 / 57

07

しおりを挟む
あまり魔力の消費をしないように小さめの氷を出し、手で頬に当てる。本物の氷と違って、冷たさの調節がそれなりにできるから、皮膚に張り付くといったことはない。

「いっ……」

それでも急に冷たいものが肌に触れて痛みを感じる。痛みなんて認識してはいけないのに。

「明日には、出発するなら……せめて、これだけでも」

ぺたり、と床に座り込み窓を見やる。外は雪が降っていて、凍えるようなその空気が窓から入ってくる。小屋は厳重に魔法で結界を作っているけれど、もし彼らのことが知られたらと思うと心配だ。

「きっと、魔物が出ると分かっていて森を使うはず。それなら、これを使えば少しは出現率を抑えられる。役に立つといいのだけれど……」

ある程度、頬を冷やし終えると、私は明日二人に渡すための魔法石を取り出す。魔法石、と言ってもただの石ころで作ったものなので一度きりしか使えないもの。本来であれば宝石に魔法を付与することでできるものが魔法石、でもそれは石ころでもできるのだ。

宝石を使った魔法石と違って、一度起動すれば効果が無くなるまでは使えるけれど、無くなれば使えない。効果の持続時間も短いのが難点。でも、この森を抜けて隣国へ行くくらいの時間は稼げる。

私が森へ入るときにはいつも、この石ころで作った魔法石を持ち歩いていた。魔物を寄せ付けない魔法が付与された魔法石だから、効果がある時間は本当に出てこない。本をこっそりと読んで覚えた魔法の一つだ。身を危険から守るためには、こういった道具も必要。死に物狂いで覚えたのは懐かしい。

「……よし」

魔法石用に森で見つけていた石はまだ、付与していないものもある。それらにも一つひとつ、丁寧に魔法を付与して薄汚れた巾着袋に入れて。魔法の付与の際に魔力を込めすぎると、石が割れてしまうのでそれには注意を払って作業を続ける。

「ついでに、これも」

何とはなしに、もう自分では使うことはないだろうと思い、緊急事態のために持っていた結界魔法の組み込まれた魔法石も、予備を含めて三つほど入れておく。魔物除け、結界魔法、それぞれ身に付けられるように二つの巾着袋へ入れる。持ち主に危機が迫った時には、結界魔法の方は勝手に発動するし、魔物除けは持ち主の魔力が入り込んだ時点で起動する。

「どうか、二人の旅路が安全なものでありますように。無事に、帰ることができますように」

袋を握りしめて祈りをささげる。少しでも、二人が早く無事に、国へ帰ることができるように、私にでは願うことしかできないけれど。そもそも、こんな家からはさっさと出るに限る。居残っていたところで、ロクなことにはならない。

「雪が……止まないなぁ……」

しんしんと、というよりはもはや吹雪のようになっている外。轟々と吹き荒れる風と雪は、窓の隙間からも入ってくるので部屋は冷たい。

「夜明け前にはいかないと」

ここを出立するのは早いほうが良いはずだ。念のために、数日分の食料をあの小屋に持ち込んだのは正解だった。おそらく夜明け前に厨房へ行っても、食材は取ってこれない。結局、カミラに見られてしまったから意味はなかったかもしれないけれど、あの二人が食べられるものがあるなら、それでいい。

「……わた、し、は……」

薄い毛布をかぶり、自分の感情にふたをして目を瞑る。どれほど辛くても、心が悲鳴を上げていても、それに気付いてはいけない。気づいてしまえば、せっかく耐えてきた意味がなくなる。私は、上手に感情を隠せる子、そうでしょう、お母さま。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

処理中です...