8 / 57
08
しおりを挟む
環境への適応力というのは素晴らしいもので、気が付けば私は眠っていたようだ。ふと目を覚ました時には、すでに夜明けが近かった。昨日は魔力もそれなりに消費していたので、体力と魔力の回復のために長く眠ってしまったらしい。いつもならこんなにも眠ることはないから。
「行かなきゃ」
着まわしているお仕着せの一つに着替える前に、魔法を使って身体を拭うための水を出し。寒い中、布を濡らして冷たい水で身体を拭く。お風呂の代わりくらいにはなれば、と気休め程度ではあるが気持ちが少し上向きになる。
「あ……」
着替える際に、蹴られた場所や踏みつけられた場所が酷く腫れあがって、痣になっているのが見えた。見えないところにある分はまだいいが、手の甲は隠しようがない。でもあの二人はきっと、この怪我についての話をすることはないだろう。この分だと頬も痣になっていそうだけれど、そこはどうしようもないので、彼らのスルースキルに期待する。
そっとドアを開けて、音を立てないように素早く移動する。時間的に使用人も起きていない時間なので、廊下は暗く静かだ。
外へ出るのは玄関からではなく庭から。玄関は非常に音が響きやすいので、庭から出るほうが遠回りではあるが音を立てることなく外に出られる。
「あと少し」
雪が積もって歩きづらいし、履き潰した靴からは雪が解けて染み込み、冷たい。それでも構わず歩き続けて森の小屋を一直線に目指す。
「おはようございます」
小屋周辺に張り巡らせた結界魔法と魔物除けに異常はなく、どうやら誰かがここに来たということはなさそうで安心する。少し乱れた息を整えてから、ドアをノックし声をかけながら入ると、すでに二人は起き上がっていた。
「おはよう、ユーニス」
「おはよう」
「よかった、怪我の具合はもう良さそうですね」
中へ入って二人の怪我の様子を確認したが、大怪我とは思えないほどにあっという間に回復してしまっていた。今すぐにでも出立できるほどの治りようである。
「お二人にはこれを。ただの石ころでできているので……魔力を流して起動すれば、一度きりしか使えません。通常のものと違って、持続時間も短いです。でも、きっと……。きっと、お二人が帰られる間だけでも、役立ってくれるはずです」
着替えた二人に、ポケットから出した巾着袋をそれぞれ渡す。その時に手の甲が見えて恥ずかしくなるが、構わず託した。
「これは……」
「魔法石です。宝石でできているわけではないので、その脆いですが……」
「いいや、ありがとう」
イアン皇太子殿下はお優しい方だ、ただの石でてきた魔法石なのに嬉しそうに受け取ってくれる。ウェイン公爵様も、表情を緩めて受け取ってくれた。
「お二人の旅路が、安全であることを心よりお祈り申し上げます」
一緒にくすねてきていた保存食を持たせ、出立を見送る。ところどころ、豪奢とは言え破れている服を着た二人に比べて、私のお仕着せはそれを上回るボロボロ具合に、恥ずかしいが仕方がない。生きている世界が違う人なのだから。
「ユーニス、君には感謝してもしきれない。この恩は必ず返すよ」
「恩だなんて思わなくてもいいのです。お二人が無事に帰ることが私にとっては重要です。それでも恩だとおっしゃるのなら……怪我無く帰るようにしてください。それが、私への恩返しです」
生意気にもほどがある言葉だが、二人は悲しそうに笑うだけで頷いてはくれない。もう夜明けが近づいている、早くしないと遅くなるのに。
「君は、そういう人だと思った。だから、すまない」
「え……?」
あまり喋らない印象だったウェイン公爵様は、私の前に手をかざした。その動きに一瞬だけ、身体が強ばる。昨日、継母に叩かれた記憶が蘇ってしまって動けない。そうして固まった私に構うことなく、公爵様は何かの魔法をかけた。
「な、に……を……?」
「勝手なことをして、すまない。だが……」
急激に意識が遠のいていくのに抗えない。一体何を、を問おうと言いかけたけれど、それに答えていた公爵様の言葉は最後まで聞こえなかった。
「こんなにも、君を傷つける場所に……置いて行くなどできるはずがないだろう」
「間違いないな、レイフ。後見人は俺がしよう」
「感謝いたします、殿下」
「俺の、恩人でもあるからな」
そんな会話がされていたことももちろん、私は知る由もない。
「行かなきゃ」
着まわしているお仕着せの一つに着替える前に、魔法を使って身体を拭うための水を出し。寒い中、布を濡らして冷たい水で身体を拭く。お風呂の代わりくらいにはなれば、と気休め程度ではあるが気持ちが少し上向きになる。
「あ……」
着替える際に、蹴られた場所や踏みつけられた場所が酷く腫れあがって、痣になっているのが見えた。見えないところにある分はまだいいが、手の甲は隠しようがない。でもあの二人はきっと、この怪我についての話をすることはないだろう。この分だと頬も痣になっていそうだけれど、そこはどうしようもないので、彼らのスルースキルに期待する。
そっとドアを開けて、音を立てないように素早く移動する。時間的に使用人も起きていない時間なので、廊下は暗く静かだ。
外へ出るのは玄関からではなく庭から。玄関は非常に音が響きやすいので、庭から出るほうが遠回りではあるが音を立てることなく外に出られる。
「あと少し」
雪が積もって歩きづらいし、履き潰した靴からは雪が解けて染み込み、冷たい。それでも構わず歩き続けて森の小屋を一直線に目指す。
「おはようございます」
小屋周辺に張り巡らせた結界魔法と魔物除けに異常はなく、どうやら誰かがここに来たということはなさそうで安心する。少し乱れた息を整えてから、ドアをノックし声をかけながら入ると、すでに二人は起き上がっていた。
「おはよう、ユーニス」
「おはよう」
「よかった、怪我の具合はもう良さそうですね」
中へ入って二人の怪我の様子を確認したが、大怪我とは思えないほどにあっという間に回復してしまっていた。今すぐにでも出立できるほどの治りようである。
「お二人にはこれを。ただの石ころでできているので……魔力を流して起動すれば、一度きりしか使えません。通常のものと違って、持続時間も短いです。でも、きっと……。きっと、お二人が帰られる間だけでも、役立ってくれるはずです」
着替えた二人に、ポケットから出した巾着袋をそれぞれ渡す。その時に手の甲が見えて恥ずかしくなるが、構わず託した。
「これは……」
「魔法石です。宝石でできているわけではないので、その脆いですが……」
「いいや、ありがとう」
イアン皇太子殿下はお優しい方だ、ただの石でてきた魔法石なのに嬉しそうに受け取ってくれる。ウェイン公爵様も、表情を緩めて受け取ってくれた。
「お二人の旅路が、安全であることを心よりお祈り申し上げます」
一緒にくすねてきていた保存食を持たせ、出立を見送る。ところどころ、豪奢とは言え破れている服を着た二人に比べて、私のお仕着せはそれを上回るボロボロ具合に、恥ずかしいが仕方がない。生きている世界が違う人なのだから。
「ユーニス、君には感謝してもしきれない。この恩は必ず返すよ」
「恩だなんて思わなくてもいいのです。お二人が無事に帰ることが私にとっては重要です。それでも恩だとおっしゃるのなら……怪我無く帰るようにしてください。それが、私への恩返しです」
生意気にもほどがある言葉だが、二人は悲しそうに笑うだけで頷いてはくれない。もう夜明けが近づいている、早くしないと遅くなるのに。
「君は、そういう人だと思った。だから、すまない」
「え……?」
あまり喋らない印象だったウェイン公爵様は、私の前に手をかざした。その動きに一瞬だけ、身体が強ばる。昨日、継母に叩かれた記憶が蘇ってしまって動けない。そうして固まった私に構うことなく、公爵様は何かの魔法をかけた。
「な、に……を……?」
「勝手なことをして、すまない。だが……」
急激に意識が遠のいていくのに抗えない。一体何を、を問おうと言いかけたけれど、それに答えていた公爵様の言葉は最後まで聞こえなかった。
「こんなにも、君を傷つける場所に……置いて行くなどできるはずがないだろう」
「間違いないな、レイフ。後見人は俺がしよう」
「感謝いたします、殿下」
「俺の、恩人でもあるからな」
そんな会話がされていたことももちろん、私は知る由もない。
38
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる