虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

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『ユーニス、私の可愛い子。忘れてはいけませんよ、感情はうまく隠しなさい』

『どうしてですか、お母さま?』

『いつか、表に出した感情はあなたにとって悪いものになります。私が、いなくなっても……あなたが少しでも自分を守れるように……』

『お母さ、ま……』

『あなたはとても賢い子だから、わかっているでしょう。私がもう長くはないと』

『嫌です、お母さま!』

ああ、そんなことを言わないでください、お母さま。ずっと、私の側にいてください。本当は淋しいのです、苦しいのです、お母さまが恋しいのです……どうして、側にいてくれないのですか。

『ユーニス、あなたの側に私はいつでもいます。あなたは、とても優しい子。これから辛い日々が始まるかもしれません。それでもいつかきっと、幸せになれる日が来ます。お母さまは、ユーニスの幸せを誰よりも、願っていますからね』

いかないで、お願い。神様、お母さまを連れて行かないで。連れていくなら、私も連れて行ってよ……一人に、しないで。

*****************

「っは!」

眠りながら、泣いていたらしい。フカフカのベッドに寝かされているこの状況がイマイチ、理解できないが眠る直前の記憶は思い出せる。ウェイン公爵様に魔法で眠らされた、そして現在に至るというやつだ。

「……どう、いう……こと」

久しく見ることなかったお母さまの夢。柔らかくてお日様の匂いがするお母さまに抱き着いた、幸せな記憶。あの数日後に、お母さまは神様の元へ召されてしまった。どれほど悲しくても、泣き叫びたくても、お母さまが最期に言った言葉を守り、私は感情を表に出すことはしなかった。

「目覚めたか、ユーニス」

「あ、えっと、はい……?」

お母さまが亡くなられて、他の貴族たちが弔問に訪れるのを、黙ってみていた。泣くこともなく、ただじっと感情を殺して。

「傷の具合はどうだ、って、これでは先日と逆だな」

「あ……」

半分ほど身体を起こしている私の手を取った公爵様、その時に初めて私はその手が包帯に包まれていることに気が付いた。痣が酷かった手の甲、今は白い包帯に包まれて何も見えはしない。

「あの……こ、公爵様。これは……その……どういう状況でしょうか」

痛ましい、とでも言いたげな表情の公爵様に状況説明を願う。私はエインズワース伯爵領の森で、彼らと別れるはずだった。でもそうでないということは、ここは間違いなく隣国のアルムテアだろう。

「ここはアルムテア帝国、ウェイン公爵家が所有する帝都の屋敷の一つだ」

「どうして、私をここに……」

先日とは逆になった立場、今度は私が公爵様に保護らしきものをされているようだ。その理由がわからなくて、混乱してきた。一応場所がどこかはわかっても、連れてこられた理由を理解していないがゆえに、私の頭の中はぐるぐるとまわっている。

「君を、こんな酷い目に遭わせる場所に、俺は置いて行けない」

「なっ……」

やはり、言わなかっただけでわかっていたのか。私の状況は見ればわかるし、触れられたくない話題だというのはすぐに察せられる。だから、ずっと彼らは言わなかったのだ。

「ここにも、痣があったな」

私に近寄りベッドへ腰かけた彼は、手を離したと思ったら今度は私の腹へ置いた。言葉は耳の近くで囁かれて。

「ひっ」

急なその動きにびっくりしたし、耳に吹き込まれるような声にゾクゾクする。今まで感じたことのない感覚に、自然と身体が強ばった。

「すまない、怖がらせるつもりはなかった」

スッと離れた彼は、ベッドに座ったままだ。私を優しく見つめる彼の瞳、あの日見た美しいミッドナイトブルーは、変わらずキラキラしている。吸い込まれそうなのは、変わっていなくて。

「ここに君を傷つける奴はいない、まずは休んでくれ。食事は、消化にいいもののほうが良い、と聞いた。これなら食べられるか?」

サイドテーブルから取ったのはリゾット。そんなところに食事が置いてあるとは思わなくて、ギョッとした。しかも消化にいいものを、と指定されたということは、私の状態は余計にモロバレである。
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