13 / 57
13
しおりを挟む
私の着替えが終わった頃に迎えに来たレイフ様も、部屋にいた時とは違い少し服が変わっていた。先ほどの服装よりも暖かそうだったので、外は寒いのかな、なんて勝手に考えていたら、あっという間に庭へついていた。
「わぁ……すごい……」
エインズワース伯爵家の庭など比べ物にならないほどに美しい庭。アルムテア帝国も季節は冬であるが、草木や花が少ない冬を楽しめるような作りになっている。噴水なんかもあって、水が凍って氷柱になっていて。でも逆にそれも風情があっていい。
「アルムテアはリリム王国よりも北に位置するから、あちらよりも寒いんだ。帝都は君のいたエインズワース伯爵領に近い……とはいっても、やはり寒いな。まだこちらは少ない方だが、ウェイン公爵領はもっと雪が降る」
「そう、なんですね……あ……」
「どうした?」
「あの鳥は……?」
「ああ、冬は南部に移動する鳥だ。珍しいな、このあたりでは見かけない鳥なんだが……」
「わっ……大丈夫? 寒くない? 君は冬は暖かい場所に行くのでしょう?」
こちらを見るように木に止まっていた美しい模様の鳥は、アルビスというらしい。寒くなると暖かい南部へ移動するので、冬の帝都で見ることはない鳥だそうだ。アルビスは急に飛んだと思ったら、私の肩へ止まった。
人懐っこい鳥なのだなぁ、なんて思って話しかけてみると、クーキュ、クィ、と首をかしげながら鳴いた。その姿はとても愛らしくて、自然と笑顔になる。
「どこかで、飼われているのかもしれませんね。この子、とても人懐っこいから」
飛ぼうとせずにずっと肩にいるアルビス。人懐っこいので、どこかの家のペットかもしれない。
「そう、かもしれないな」
「レイフ様……?」
ぎこちない返事の彼に、不思議に思ってアルビスから彼の顔へ視線を移す。ぎこちないのは返事だけではなかった、顔も少しというか結構強ばっている。
「ユーニス。アルビスという鳥は、アルムテアではとても特別な鳥だ」
「え……?」
「アルビスは、アルムテア初代皇帝を見出したとされる、神の御使いと言われている。そしてアルビス自体、個体数が少ないこともあって、今でも特別視された存在。それに自然に生きる彼らは、決して人間の側に寄ることはないんだ。彼らが巣を作るのは山の中、人が立ち入れないほどに深い場所。季節ごとによって場所を移動することはあっても、これほど近くには寄ってこない」
「そ、そうなんですか……?」
「飼われているかもしれないことは、否定できないが……ユーニス、エインズワース伯爵領の森でもいい、何でもいいから教えてもらいたい。自然の動物が近寄ることはあったか?」
途中で言葉を切ったレイフ様は何かを考えこんで、重そうに口を開いた。森の中に入ることが多かった私は、すぐに返事をしようとして、止まった。
それは、お母さまと約束した隠すことの一つだったからだ。
「あ……」
『ユーニス……あなたは神の子なのでしょうね……。でもね、そのことは誰にも言ってはいけませんよ。悪い人間に悪用されてしまうかもしれませんから。これは、あなたを守るためのお母さまとのお約束ですよ』
ベッドの上で横たわる、日に日に痩せていくお母さまとした約束。神の子、と言ったお母さまの顔は悲しそうだった。私の将来が不安だと、そう心配していたのが今ならわかる気がする。
「誓って、君のことを悪用しようなどとは考えていない。嫌がるようなことも何かを強制させることもしないから、教えてほしい」
「……母と、約束をしました。前から、森に行くとみんなが遊びに来てくれて……その……お腹が空いていたら、木の実とかを分けてくれたりもして……。けど、母はそのことは隠しなさい、と言いました。悪い人に悪用されてしまうから、自分を守るためにも隠しなさいと」
「……ありがとう、教えてくれて。たしかに、君のお母上の言う通りだ。リリム王国では、隠したほうがいい、間違いなく」
強く言い切った彼は、続けてこう言った。
「ユーニス、俺は君が好きだ。あの日、一生懸命に俺たちを看護してくれる姿に一目ぼれだった。たった一日たらずで、話もほとんどできなかったが、それでも俺は、君を好きになった。どうか、俺の側で一緒に生きてほしい」
「わぁ……すごい……」
エインズワース伯爵家の庭など比べ物にならないほどに美しい庭。アルムテア帝国も季節は冬であるが、草木や花が少ない冬を楽しめるような作りになっている。噴水なんかもあって、水が凍って氷柱になっていて。でも逆にそれも風情があっていい。
「アルムテアはリリム王国よりも北に位置するから、あちらよりも寒いんだ。帝都は君のいたエインズワース伯爵領に近い……とはいっても、やはり寒いな。まだこちらは少ない方だが、ウェイン公爵領はもっと雪が降る」
「そう、なんですね……あ……」
「どうした?」
「あの鳥は……?」
「ああ、冬は南部に移動する鳥だ。珍しいな、このあたりでは見かけない鳥なんだが……」
「わっ……大丈夫? 寒くない? 君は冬は暖かい場所に行くのでしょう?」
こちらを見るように木に止まっていた美しい模様の鳥は、アルビスというらしい。寒くなると暖かい南部へ移動するので、冬の帝都で見ることはない鳥だそうだ。アルビスは急に飛んだと思ったら、私の肩へ止まった。
人懐っこい鳥なのだなぁ、なんて思って話しかけてみると、クーキュ、クィ、と首をかしげながら鳴いた。その姿はとても愛らしくて、自然と笑顔になる。
「どこかで、飼われているのかもしれませんね。この子、とても人懐っこいから」
飛ぼうとせずにずっと肩にいるアルビス。人懐っこいので、どこかの家のペットかもしれない。
「そう、かもしれないな」
「レイフ様……?」
ぎこちない返事の彼に、不思議に思ってアルビスから彼の顔へ視線を移す。ぎこちないのは返事だけではなかった、顔も少しというか結構強ばっている。
「ユーニス。アルビスという鳥は、アルムテアではとても特別な鳥だ」
「え……?」
「アルビスは、アルムテア初代皇帝を見出したとされる、神の御使いと言われている。そしてアルビス自体、個体数が少ないこともあって、今でも特別視された存在。それに自然に生きる彼らは、決して人間の側に寄ることはないんだ。彼らが巣を作るのは山の中、人が立ち入れないほどに深い場所。季節ごとによって場所を移動することはあっても、これほど近くには寄ってこない」
「そ、そうなんですか……?」
「飼われているかもしれないことは、否定できないが……ユーニス、エインズワース伯爵領の森でもいい、何でもいいから教えてもらいたい。自然の動物が近寄ることはあったか?」
途中で言葉を切ったレイフ様は何かを考えこんで、重そうに口を開いた。森の中に入ることが多かった私は、すぐに返事をしようとして、止まった。
それは、お母さまと約束した隠すことの一つだったからだ。
「あ……」
『ユーニス……あなたは神の子なのでしょうね……。でもね、そのことは誰にも言ってはいけませんよ。悪い人間に悪用されてしまうかもしれませんから。これは、あなたを守るためのお母さまとのお約束ですよ』
ベッドの上で横たわる、日に日に痩せていくお母さまとした約束。神の子、と言ったお母さまの顔は悲しそうだった。私の将来が不安だと、そう心配していたのが今ならわかる気がする。
「誓って、君のことを悪用しようなどとは考えていない。嫌がるようなことも何かを強制させることもしないから、教えてほしい」
「……母と、約束をしました。前から、森に行くとみんなが遊びに来てくれて……その……お腹が空いていたら、木の実とかを分けてくれたりもして……。けど、母はそのことは隠しなさい、と言いました。悪い人に悪用されてしまうから、自分を守るためにも隠しなさいと」
「……ありがとう、教えてくれて。たしかに、君のお母上の言う通りだ。リリム王国では、隠したほうがいい、間違いなく」
強く言い切った彼は、続けてこう言った。
「ユーニス、俺は君が好きだ。あの日、一生懸命に俺たちを看護してくれる姿に一目ぼれだった。たった一日たらずで、話もほとんどできなかったが、それでも俺は、君を好きになった。どうか、俺の側で一緒に生きてほしい」
42
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる