虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
17 / 57

17

しおりを挟む
「お、おはようございます、レイフ様」

「おはよう、ユーニス。アルもおはよう」

大泣きした時に、レイフ様に抱きしめてもらった日から一週間が経った。日を追うごとに、レイフ様の新たな面が見えて、胸がドクリと跳ねる。あの日出会ったアルビスも、今ではアルと名付けられて私の側にいる。今日もアルは美しい身体で自由に部屋の中を飛び回っていて元気そうだ。

「うん、よく似合っている。緊張するとは思うが、大丈夫だ。俺がいるから」

「は、はい! 頑張ります!」

泣いたときに少しだけ、心の傷には瘡蓋ができたらしい。前を向いてこのアルムテア帝国で生きていくことに、何のためらいもなくなった。そして今日は、私の後見人に名乗りを上げているイアン皇太子殿下を含む皇族の方々との面会日。

今まで、そんな高貴な方々にお会いすることがなかったから、緊張でどうにかなりそうだ。この日のために、マナー講習も受けたし、着慣れないドレスに慣れようとダンスの練習までした。

「行こうか」

「はい」

格式ばった謁見ではなく、あくまでも面会なので、気楽にしていいとは言われたが、それはやはり難しい。私はリリム王国の王立アカデミーにさえも通えなかった人間だ、何か粗相があったらと思うと怖くてたまらない。

「ようこそ、アルムテア帝国の皇宮へ。ユーニス、元気にしていたかい?」

「この度は、本当にありがとうございます。ウェイン公爵様に、とてもよくしていただいております。皇太子殿下も、あれからお身体の具合はいかがでしょうか……?」

「元気だよ。ユーニスも、よかった」

「お気遣いいただき、感謝いたします」

さっそく出迎えてくれたイアン皇太子殿下は、すっかりと傷も癒えていて、とても元気そうだ。事前にレイフ様から聞いていたからか、アルが肩にいても気にせず招いてくれる。

「今日は本当に、ただの面会というか、お茶会みたいなものだ。アルも一緒に楽しめるものを用意したから、こちらへどうぞ」

アルのためのおやつも並べてくれているようで、アルもそれが分かったらしい。嬉しそうに鳴いていた。

「初めまして、あなたがユーニスちゃん? 私はアルムテア帝国皇妃……ですが、その前にイアンの母でもあります。息子を助けてくれてありがとう」

「私は、当然のことをしたまでです。それに私は手当てをしただけで……実際に身体を治したのはイアン皇太子殿下ですから、その……私はあくまでもそのお手伝いをしたにすぎません」

「ふふ、聞いていた通りの子ね。ユーニスちゃん、私は助けてくれたのがあなたでよかったと思うわ」

優しい笑顔の皇妃様は、私の左隣の席に座っている。円卓はかなり広く、私の右隣はレイフ様。向かいにイアン皇太子殿下と皇帝陛下、第二皇子、第三皇子が並んで座っている。アルムテア帝国皇族は男ばかりで淋しい、と皇妃様が笑っているが、この場の支配権を握っているのは間違いなく皇妃様だった。

「ユーニス嬢、アルムテア皇室はあなたのことを皇女として迎えたいと思っている。あなたの立場を考えると、皇女の身分があったほうがいいのではないか、と考えたのだ」

「たしかに、私たちはみな兄弟が男ですから、妹がいると嬉しいですね」

「妹ほしかったんだよねぇ」

皇帝陛下ならびに第二、第三皇子殿下も私を普通に受け入れているが……。その受け入れ先が皇女という身分だったとは予想外だ。どこまで私のことを把握しているのかはわからないけれど、この分だとほぼ全て私の力も含めて把握しているだろう。

「陛下、お申し出は光栄ですが……彼女に私は求婚している身です。皇女という身分を得た彼女との婚約となると、他の貴族が許さないでしょう。ウェイン公爵家の力が強くなりすぎるという反発が出るのは、想像に難くない」

「ふむ、たしかに公爵の言う通りだ。しかし、ユーニス嬢の後ろ盾がウェイン公爵家同等の家格となると限られる。さらに言えば、名前だけを快く貸してもらう、となると難しいだろう。それならば、皇女として彼女を迎えたほうが、不要な諍いは防げるはずだ。少しばかりの反発は致し方ない」

「それは……そうですが……」

私のことを知っているレイフ様には、私が持っている力はアルムテア帝国でも秘密にする必要があると念押しされている。諸外国に知られれば、後ろ盾がない私は誘拐される可能性もあると言っていた。

アルムテア帝国は治安がいいとはいえ、貴族間での諍いが全くないわけではないことも聞いている。度の貴族も互いに牽制し合っているから、平和に見えるだけだとも。もしもそこへ私という存在がどこかの家へ養女という形で迎え入れられれば、裏でどんなことになるかはわからない。

表向きは令嬢として扱ったとしても、その裏では利用するだけして捨てられる可能性だって否めない。それを考えると、陛下の皇女として迎え入れるという案は、かなり理にかなっていると見ていい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...