虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

文字の大きさ
20 / 57

20

しおりを挟む
あとは若い二人で、とまるでお見合いのような言葉を残して一時退室したお父さまたちは、ニコニコしていて。私の本当の家族のように温かだった。

「ユーニス」

「本当は、こんな形で知らせるつもりではなかったんですが……その。ずっと待たせてしまってすみませんでした」

「いや、いいんだ。聞かせてくれるか?」

「はい……」

二人きりと言ってもアルは同じ場所にいるが、アルはアルでのんびり過ごしていた。そんな静かな空間で、私は自分の思いを溢す。こんな感情も全て隠さないといけないと思っていたけれど、彼だけは隠さなくていいと言ってくれた。彼だけが、私を見つけてくれた。

「嬉しいよ」

きつく抱きしめられて、息が止まりそうだ。でもその苦しさは、私にとって嫌なものじゃない。まるで何かを確認するかのようなそれに、ひどく安心を覚える。

「陛下たちもそろそろ、待ちくたびれているだろう」

「そうですね、きっと首を長くして待っています」

ふふ、と笑みをこぼすと彼も軽く噴き出していて。私たちの周囲を、アルも飛び回っていて、なんだか祝福されているように感じた。

「丸く収まったようで何より。ここからは私が、引き継ぐことになった。イーデンは騎士団に、シリルは研究所へ戻った。父上と母上も対策を考えるらしい。俺はここで出た案を持って二人の対策に追加する役目だな」

「イアン……」

「レイフからそう呼ばれるのは久しいな。学院ぶりか?」

「茶化すな……」

本当に仲のいい関係だったようで、互いの名前を呼び捨てにしあうイアン兄さまとレイフ様。同い年だと言う二人は、帝国内にある帝立学院でもずっと一緒だったと、懐かしそうに兄さまが言った。

「ユーニスは、今回の発表に何か思うこととかはないのか?」

いきなり兄が三人、というか皇帝一家が家族になって自分の皇女になることについて思うことがないわけではない。急に兄と呼ぶのに慣れなくても、無理にでも呼ばないとどこかでボロが出る。そう思って違和感なく呼びなれるように兄さま、お父さま、お母さまと意識をして呼んでいるわけであるが。

「私はまだ、この国の貴族のことをよく知らない。そんな私が言うのも可笑しいかとは思いますが……一般的に自身の利益を優先する者は多くいます。それは貴賤関係なく、あるはずです。だから、このまま私の立場のお披露目と同時に婚約発表をするのであれば、私の背景を利用すればいいと思います」

「利用?」

不思議そうに首をかしげる二人に、私は覚束ない説明ながらも伝えた。実話を脚色して伝えれば、そこまで反発は招かないはずだと。私はリリム王国の辺境伯爵領で育ったが、あまりいいとは言えない環境で育った。それを偶然そちらの方へ魔物の討伐の関係で出向いていた二人に出会う。そしてここに来るに至った経緯を言えば、まあ矛先は変えられるはず。

「なるほど、責任の所在を王国へ投げるわけか」

「はい、王国は十年以上前とはいえ、他国のそれも同盟国から皇女が嫁いできているのに、何もしていない。それは、大きな過失であると私は考えます。通常であれば、少しは気にかけるはずです。何せ、嫁いできているのは他国の皇女なのですから」

同盟国と言えど、アルムテア帝国とリリム王国の関係は仲良しというわけではない。それはリリム王国にいた時から……あの狭い世界にいた時からわかっていた。戦争を起こしたいわけじゃないけど、私の存在を忘れ去り、何もしなかったリリム王国は私がアルムテア帝国にその身を引き取られても文句は言えない。だって、何の支援もしなかったんだから。

「我が妹は、なかなかに賢いようだな」

「母に、たくさんのことを教わりました。その中には少ない情報でも、状況を把握する術が含まれていましたので……私は、教わったことを忘れたくない」

「……ユーニス」

母との記憶は、本当に数少ない。でもその一つひとつは、私の大切なものだ。忘れたくない、一つも取りこぼしたくない。その思い出は、私と母の大切な時間。

「ユーニスの言う通り、王国側へその責任を押し付けると言うのもいい案だ。しかし……国家間の諍いは免れない。それはどうするつもりなんだ」

「何か、国家間でいい材料となる取引があれば、それで代替するのがいいかと。私はリリム王国とアルムテア帝国の間で何か交易などがあるのかは、さすがにわかりません。なので、そのあたりを使うのも手ではあると。あとは……リリム王国内の情勢を考えると……」

伯爵家の屋敷の側からほとんど出たことがないが、遠き思い出の母との外出で、昔の事ではあるけれど一応は領地の景色が残っている。その時に感じた、悲しい気持ちも。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...