26 / 57
26
しおりを挟む
「君はもっと、自分の容姿が整っていることを理解したほうが良い」
「あっ、え、あ……」
「ほら、俺みたいな悪い奴に捕まる」
「レ、レイっ」
誰もいないバルコニーで、レイフ様に頬を撫でられる。その動きに固まってしまっていると、抱き寄せられて、耳元でささやかれて。誰かに見られるという不安と、極度の恥ずかしさで腕から抜け出そうとしても、彼の力が強くて抜け出せない。
「ど、どりょくします……」
己の顔が、カアーっと赤くなったのがわかる。その顔を隠したくて、俯いて返事をすれば彼は身体を震わせて笑っていた。こんなにたくさんの人が集っている場所から、少し離れているとはいえ、人がいないわけではない。そんなところで、こういう行動をされるとは思わなくて。
「俺だって、余裕がないんだ」
「レイフ、様……」
大人の男性である彼にこの表現はおかしいかもしれないが、まるで大人になる前の少年のようにも見える、苦しさをも感じる表情。余裕がない、と言うその表情は、傷ついているみたいにも見えて。
「私だって……余裕なんてありません。表面上、受け入れてくれていますけど、心の中ではどんなことを考えているのかわからない。私からあなたを、奪おうとしている人だっていると思います。私は、怖いです」
レイフ様はきっと、不安なんだ。そう気づいて私は、自分の胸の内を溢す。この人が隠さなくていいと言ったから、私は彼の前でだけ言える。
怖い、私はアルムテア帝国の皇室の血が流れているけど。育った国はリリム王国だし、環境はまともじゃなかった。いつか、私の過去はレイフ様の重荷になる日が来る。何より、私が彼にふさわしくないと言われる日が来るのが、怖い。
「俺は、側にいる」
「……はい」
彼の側にいるための力をつけるのに必死で、毎日が戦場にいる気分。何一つ、取りこぼしてはいけない。何一つ、失敗してはいけない。
「戻ろうか、あまり遅くなってはよくない」
「はい、お願いします」
「ああ、任された」
戻るためにエスコートをしてもらう。私よりもずっと背が高い彼の肩は私の頭よりも高い位置にある。足も長いのに、歩くスピードの差を感じさせないのは、彼がいつも私の歩幅に合わせてくれているからだろう。
「遅かったね、ユーニス」
「イアン兄さま、遅くなり申し訳ございません」
「いや、全然いいよ。むしろこのまま帰ってもいいと言ってあげたいけど、ちょっとね」
「……後ほど、お話していただけますか」
「もちろん」
もう皇族席にはイアン兄さましか残っておらず、お父さまとお母さまは皇宮に戻ったとのこと。シリル兄さまとイーデン兄さまは、それぞれ外交的意味合いも強い他国の使者たちと話をしているとのこと。イアン兄さまもおそらく、席にいる間に何かしらの情報を掴んだのだろう。表情が少し硬い。
「ユーニス、その話は……」
「予想はあっているかと」
「なるほど……」
イアン兄さまの表情を見たレイフ様も、私が以前伝えた内容に近い話だと予想しているようだ。ほぼその予想は当たっていると確定していいだろう。予想通り、リリム王国の人間が来たと。ただ、その来訪者がレジスタンスメンバーなのか、王家の使者なのかはわからないけれどね。
「レイフ様……?」
「……一人では戦わせない」
「ありがとうございます……」
そっと手を握ってくれる彼に連れられて、私は会場を後にする。もう皇族全員が会場にいる必要はない、後の時間はイアン兄さんが仕切るらしい。会場内にはイーデン兄さまもシリル兄さまもいるので、私までいる必要がない、ということだ。
「個人的には、メンバーであればいい、と思います。でも、そうではない可能性が……高いでしょうね……」
「そうだな……メンバーであれば、イアン殿下があんな顔をすることはないだろうから」
「……申し訳ありません、面倒なことに巻き込みました」
「面倒なんて思っていない。きっちりと、これは始末をつけるべき問題だ。何よりも大事なユーニスに関わる問題だからな」
「……でも」
無益な争いが起こるのが一番怖い。これから起こるのは、その可能性もある話し合いだから。私に、常に最善が選択できるとは限らない。怖いくても、進まないとけないから。立ち止まってはダメだ。
「あっ、え、あ……」
「ほら、俺みたいな悪い奴に捕まる」
「レ、レイっ」
誰もいないバルコニーで、レイフ様に頬を撫でられる。その動きに固まってしまっていると、抱き寄せられて、耳元でささやかれて。誰かに見られるという不安と、極度の恥ずかしさで腕から抜け出そうとしても、彼の力が強くて抜け出せない。
「ど、どりょくします……」
己の顔が、カアーっと赤くなったのがわかる。その顔を隠したくて、俯いて返事をすれば彼は身体を震わせて笑っていた。こんなにたくさんの人が集っている場所から、少し離れているとはいえ、人がいないわけではない。そんなところで、こういう行動をされるとは思わなくて。
「俺だって、余裕がないんだ」
「レイフ、様……」
大人の男性である彼にこの表現はおかしいかもしれないが、まるで大人になる前の少年のようにも見える、苦しさをも感じる表情。余裕がない、と言うその表情は、傷ついているみたいにも見えて。
「私だって……余裕なんてありません。表面上、受け入れてくれていますけど、心の中ではどんなことを考えているのかわからない。私からあなたを、奪おうとしている人だっていると思います。私は、怖いです」
レイフ様はきっと、不安なんだ。そう気づいて私は、自分の胸の内を溢す。この人が隠さなくていいと言ったから、私は彼の前でだけ言える。
怖い、私はアルムテア帝国の皇室の血が流れているけど。育った国はリリム王国だし、環境はまともじゃなかった。いつか、私の過去はレイフ様の重荷になる日が来る。何より、私が彼にふさわしくないと言われる日が来るのが、怖い。
「俺は、側にいる」
「……はい」
彼の側にいるための力をつけるのに必死で、毎日が戦場にいる気分。何一つ、取りこぼしてはいけない。何一つ、失敗してはいけない。
「戻ろうか、あまり遅くなってはよくない」
「はい、お願いします」
「ああ、任された」
戻るためにエスコートをしてもらう。私よりもずっと背が高い彼の肩は私の頭よりも高い位置にある。足も長いのに、歩くスピードの差を感じさせないのは、彼がいつも私の歩幅に合わせてくれているからだろう。
「遅かったね、ユーニス」
「イアン兄さま、遅くなり申し訳ございません」
「いや、全然いいよ。むしろこのまま帰ってもいいと言ってあげたいけど、ちょっとね」
「……後ほど、お話していただけますか」
「もちろん」
もう皇族席にはイアン兄さましか残っておらず、お父さまとお母さまは皇宮に戻ったとのこと。シリル兄さまとイーデン兄さまは、それぞれ外交的意味合いも強い他国の使者たちと話をしているとのこと。イアン兄さまもおそらく、席にいる間に何かしらの情報を掴んだのだろう。表情が少し硬い。
「ユーニス、その話は……」
「予想はあっているかと」
「なるほど……」
イアン兄さまの表情を見たレイフ様も、私が以前伝えた内容に近い話だと予想しているようだ。ほぼその予想は当たっていると確定していいだろう。予想通り、リリム王国の人間が来たと。ただ、その来訪者がレジスタンスメンバーなのか、王家の使者なのかはわからないけれどね。
「レイフ様……?」
「……一人では戦わせない」
「ありがとうございます……」
そっと手を握ってくれる彼に連れられて、私は会場を後にする。もう皇族全員が会場にいる必要はない、後の時間はイアン兄さんが仕切るらしい。会場内にはイーデン兄さまもシリル兄さまもいるので、私までいる必要がない、ということだ。
「個人的には、メンバーであればいい、と思います。でも、そうではない可能性が……高いでしょうね……」
「そうだな……メンバーであれば、イアン殿下があんな顔をすることはないだろうから」
「……申し訳ありません、面倒なことに巻き込みました」
「面倒なんて思っていない。きっちりと、これは始末をつけるべき問題だ。何よりも大事なユーニスに関わる問題だからな」
「……でも」
無益な争いが起こるのが一番怖い。これから起こるのは、その可能性もある話し合いだから。私に、常に最善が選択できるとは限らない。怖いくても、進まないとけないから。立ち止まってはダメだ。
32
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる