36 / 57
36
しおりを挟む
帝都直前の領地とあって、さらに地方の領地から考えると栄えているガードナー侯爵領。たくさんの人々の出入りがある分、トラブルだってあるだろう。しかし、路地裏に至るまで、そういったものは見当たらない。路上のゴミなどの問題も、大きなゴミ箱を設置することで対策。そのゴミ箱を掃除する仕事を新たに作ることで、仕事がない、ということを無くす。上手く組み込めている。
「こちらは孤児院のようです」
「ここが……」
どこにでもあるとはあまり言いたくないが、様々な事情で身寄りがなくなってしまった子どもたちを保護している孤児院。建物はそこまで新しくはないものの、しっかりとした造りで雨風が吹き込んでくるような場所ではない。
「こんにちは!」
「こんにちは」
庭で遊んでいる子どもたちが見えて、様子を見ていると女の子が声をかけてくれた。笑顔がまぶしい彼女は、まだ十歳ほどに見える。それとなく暮らしの状況などを聞いてみると、不遇な扱いを受けている様子は見られない。
いつの間にか集まってきていた子どもたちに囲まれ、どこから来たのか、などの質問が飛び交う。元気に過ごせているのがよくわかる光景だ。子どもたちはきちんと養育されているようで、本当に安心する。
「そろそろ……」
「はい、行きましょう」
途中で孤児院にいるシスターたちも話に加わり、最初の視察としては十分な成果が得られることになった。シスターからもたくさんの話を聞かせてもらい、現状の不安なども聞かせてもらった。やはり今後の子どもたちの仕事などを不安に思っているようで、学校などの教育機関に行けるなら、とも漏らしていた。
「アラン」
「はい、ユーニス様」
「あなたは平民出身だと言っていましたね。ぜひ、正直な意見を聞かせていただきたいのですが……この国の教育機関の在り方について、どう思いますか?」
現在、アルムテア帝国には教育機関があるものの、実態はお金に余裕のある平民と貴族しか在籍していない。私もそのことについては気になっていて、もっと広く開放できたらと考えていた。しかし、いきなり全員どうぞ、というのも難しい話で、貴族の中には平民に学は必要ない、と言う者たちもいる。
「私は、幸いにしてそれなりに富んだ暮らしをしている商家に生まれました。後を継ぐ兄もいて、妹もいて、十分に生活ができる環境でした。ゆえに、騎士となるための養成学校にも入学することができましたが……正直に申しますと、それでも大きな格差がありました」
移動中にアランにも聞いてみると、思っていた以上に教育機関に入ることの難しさを知ることになった。そして、入ってからもその格差は大きいことも。
「商家とはいえ、平民。周囲の生徒たちはどこぞの貴族のご子息や、上級貴族の分家筋のご子息が多く、私のような立場の生徒はほとんどいませんでした。なので、その……」
言いづらそうに口ごもった彼は、意を決して言葉を紡いでくれた。騎士としての教育を受けていても、同じ生徒だと言う貴族位の子息たちに馬鹿にされる。騎士として配属されてからは、イーデン兄さまや側近にいる各騎士団長クラスのおかげで訓練に参加ができたと言う。そうでなければ必要な訓練にさえも参加できなかったらしい。
「こんなことを言うのは立場上、許されないことですが……。あなた様に選ばれたときに、諦めなくてよかったと思いました。殿下のおかげで、私は救われたのですから」
「アラン……」
自分を認めてくれる人たちがいても、仕事を与えられなければ成果は残すのが難しい。それにアランは帝国騎士団の中で初めての平民出身者。彼の入団以降は少人数ながら、騎士団へ配属される平民出身の人もいる。
「では、なおさら……変えていかねばなりませんね」
アルムテア帝国は基本的に治安も良く大変栄えた国。諸外国からのその評価を、帝国全体がそうである、というように変えていかなければならない。教育の機会なども、変えていく一つ。
「殿下、微々たるものですがお力になれればと思います」
「ありがとうございます、アラン」
侯爵邸への移動中も話をしながらありとあらゆる場所を見た。この侯爵領が、私の知っているエインズワース領と違って、栄えているのがよくわかる。あの地では外出もほとんどしてこなかったが、領地に住まう民の声は聞こえていた。そこから状況を察することは、十分可能。
「こちらは孤児院のようです」
「ここが……」
どこにでもあるとはあまり言いたくないが、様々な事情で身寄りがなくなってしまった子どもたちを保護している孤児院。建物はそこまで新しくはないものの、しっかりとした造りで雨風が吹き込んでくるような場所ではない。
「こんにちは!」
「こんにちは」
庭で遊んでいる子どもたちが見えて、様子を見ていると女の子が声をかけてくれた。笑顔がまぶしい彼女は、まだ十歳ほどに見える。それとなく暮らしの状況などを聞いてみると、不遇な扱いを受けている様子は見られない。
いつの間にか集まってきていた子どもたちに囲まれ、どこから来たのか、などの質問が飛び交う。元気に過ごせているのがよくわかる光景だ。子どもたちはきちんと養育されているようで、本当に安心する。
「そろそろ……」
「はい、行きましょう」
途中で孤児院にいるシスターたちも話に加わり、最初の視察としては十分な成果が得られることになった。シスターからもたくさんの話を聞かせてもらい、現状の不安なども聞かせてもらった。やはり今後の子どもたちの仕事などを不安に思っているようで、学校などの教育機関に行けるなら、とも漏らしていた。
「アラン」
「はい、ユーニス様」
「あなたは平民出身だと言っていましたね。ぜひ、正直な意見を聞かせていただきたいのですが……この国の教育機関の在り方について、どう思いますか?」
現在、アルムテア帝国には教育機関があるものの、実態はお金に余裕のある平民と貴族しか在籍していない。私もそのことについては気になっていて、もっと広く開放できたらと考えていた。しかし、いきなり全員どうぞ、というのも難しい話で、貴族の中には平民に学は必要ない、と言う者たちもいる。
「私は、幸いにしてそれなりに富んだ暮らしをしている商家に生まれました。後を継ぐ兄もいて、妹もいて、十分に生活ができる環境でした。ゆえに、騎士となるための養成学校にも入学することができましたが……正直に申しますと、それでも大きな格差がありました」
移動中にアランにも聞いてみると、思っていた以上に教育機関に入ることの難しさを知ることになった。そして、入ってからもその格差は大きいことも。
「商家とはいえ、平民。周囲の生徒たちはどこぞの貴族のご子息や、上級貴族の分家筋のご子息が多く、私のような立場の生徒はほとんどいませんでした。なので、その……」
言いづらそうに口ごもった彼は、意を決して言葉を紡いでくれた。騎士としての教育を受けていても、同じ生徒だと言う貴族位の子息たちに馬鹿にされる。騎士として配属されてからは、イーデン兄さまや側近にいる各騎士団長クラスのおかげで訓練に参加ができたと言う。そうでなければ必要な訓練にさえも参加できなかったらしい。
「こんなことを言うのは立場上、許されないことですが……。あなた様に選ばれたときに、諦めなくてよかったと思いました。殿下のおかげで、私は救われたのですから」
「アラン……」
自分を認めてくれる人たちがいても、仕事を与えられなければ成果は残すのが難しい。それにアランは帝国騎士団の中で初めての平民出身者。彼の入団以降は少人数ながら、騎士団へ配属される平民出身の人もいる。
「では、なおさら……変えていかねばなりませんね」
アルムテア帝国は基本的に治安も良く大変栄えた国。諸外国からのその評価を、帝国全体がそうである、というように変えていかなければならない。教育の機会なども、変えていく一つ。
「殿下、微々たるものですがお力になれればと思います」
「ありがとうございます、アラン」
侯爵邸への移動中も話をしながらありとあらゆる場所を見た。この侯爵領が、私の知っているエインズワース領と違って、栄えているのがよくわかる。あの地では外出もほとんどしてこなかったが、領地に住まう民の声は聞こえていた。そこから状況を察することは、十分可能。
40
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる