虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ

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「まもなく、休憩に入ります」

「わかりました」

次の領地は少し離れているらしく、近くの宿で一泊予定だが、その前にも一度休憩になった。人目がない山の中にある街道は、主に商人たちが使う交易路らしく、一応近くにギルドも存在しているし、領地を守る騎士の駐在所もあるとのこと。

盗賊などもこのあたりにはいないと、以前報告があったくらい安全な道である。たまに別の場所だけど、そういうのに襲われるケースもあり、その場合の対策としてギルドに所属する傭兵を雇ったりするのだそうだ。

「殿下、体調はいかがですか?」

「気遣いをありがとう。少し緊張はありますが、あなたのおかげで快適です」

その都度、体調は悪くないかどうか、変化はあったかなど、護衛対象としてもしっかりと安全を確保しつつ、こちらを確認するアラン。優秀すぎる人材に、騎士団のトップである元帥のイーデン兄さまが彼を見つけてくれてよかったと思う。明らかに、身分が低いという理由で、燻ぶっていい存在ではない。

「私は、あなたを見つけられてよかった。実はイーデン兄さまにも、あなたを選んだことを褒められたくらいですよ」

「そこまでの評価を頂けるとは、身に余る光栄です」

「そんなことはありません。あなたの実力は、元帥であるイーデン兄さまも認めるほどです。お兄さまは騎士には見えづらいけれど、実力は国内でトップ。そのお兄さまが、あなたのことを手放しで褒めるのは、それだけあなたがすごいのです」

照れくさいのか顔は赤いが、表情は嬉しそうなアラン。苦しい思いをした、と本人から聞いていたが、私が思っている以上に彼は酷い扱いをされることもあったのだろう。イーデン兄さまも、大半の騎士がきちんとしているが、それでも良くない輩はいる、と悩んでいた。

たいていが甘やかされて育った貴族の次男や三男など、跡取りとして家で教育をされていない子息が多いらしく、同じ貴族でもしっかりと勤めている者たちからは風評被害になるからと嫌われているんだとか。まあ、そのあたりは言いたいことはよくわかるので、どちらにせよ厄介者集団がいる、というやつ。

「それに、あなたはここまでたゆまぬ努力を重ねてきました。いつか、を信じて続けることは難しいことです。それを貫き通し、今でも実行するあなたを、私でなくても誰かはちゃんと見ています」

騎士団の中に現在、チーム厄介者、と影で呼ばれている部隊があり、そこは完全に件の面倒くさい坊ちゃんたちの集まりなんだそう。それ以外は適性に沿った部隊への配置なので、アラン以外に苦しい思いをしている者は少ないと信じたい。

アランもたまたま目をつけられてしまったがゆえに、こうなってしまったと言っていたが、栄誉職みたいな部隊に権力なんぞ存在はしないので、イーデン兄さまがちゃんと締め上げていることだろう。貴賤関係なく、みんなが所属でき、かつ実力を評価する騎士団を目指している兄さまにとって、チーム厄介者など必要ないし。

「私は辺境伯家の娘として育ちましたが、いつか変えられると信じることはできませんでした。知っているとは思いますが、平和そうに見えてかの国の内情は腐り落ちているので」

「はい、存じております。騎士団の遠征に参加することがありまして……その際に……」

「滑稽でしょう。ハリボテの世界で、外を知らない。私利私欲のためなら、他者はどうでもいいなんて」

この国にはまだそういう考えを持っている人に、私は直接会ったことはないけれど、隠しているだけかな、と思った人はいる。誰かの大切な人を大事にできない人なんて、上に立つ資格はない。だからあの国は内部がすでに崩壊しているのだ。

「恐れながら申し上げますが、皇女殿下は何もしていないと仰る、しかし私は違うと思います。何もしていないなら、そもそも興味も抱かないのです」

たしかに、と思った。何もしていない、力がなくてできないと諦めてしまえば、それ以降罪の意識を感じてもアクションを起こすことはないし、それ以前に興味もわかない。アランもよく見ているなぁ、と私も思う。

「私は、殿下の御心のままに動きます」

言葉には出さずとも、含まれる意味合いを正確に読み取れるくらいには彼の気持ちが伝わってきた。私が興味を持っていないなら、何もしていないの前に今も憂うことはない、悩むということは変えたいという気持ちを今でも持っているからだ、と改めて他者に言われると、自分の中にはまだそういうのが残っているんだな、と気づかされる。

お母さまは、私に対して感情を隠せと教え込んだ。内に秘めた感情を悟らせずに、自分の中でそれらを上手く扱いなさいと。最初、私はそれは持たないようにしないといけないのかな、と考えたこともあって。
相手にわかるほどの強い感情は、自分の本心さえも偽るように、私の中で隠していた。

でも、そうじゃなかった。アランからの言葉もあって、確信した。お母さまは、私があの家で酷い扱いをされるとわかっていたから教えた。その中には、諦めずに貫くことも含まれていたんだ。

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