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勇者召喚と逃亡
勇者召喚 ②
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「勇者召喚」として異世界へと拉致された橘家。
勇者らしい小次郎はまだ七歳。巻き込まれ召喚の私たちの能力は、召喚した奴らが鼻で笑う程度。
詰んだ……。
頭はいいが、漫画やアニメに疎く、ゲームもパズル系しか嗜まない長男は「異世界」にピンときていないし、私だってそんなに詳しくない。ただ、オタクで現在の仕事も出版社の編集者という強者である姉がいた。今こそ、その知識を活用すべき!
「あら~、異世界あるあるはわかるけど、今すぐこのお城を抜け出してどうすればいいかなんて、具体的にはわからないわ~」
「……」
私は目を半眼にして姉を見た。相変わらずマイペースな人だ。この異常事態のなかだと不思議に安心感を与えるけど。
「勇者として利用される前には抜け出さないと、小次郎が危ないだろう?」
兄は小次郎の体を抱っこしたまま、難しい顔で唸りだす。
「わたしたちも危ないわよ? 異世界から来たのにたいした能力もなかったみたいだし、放逐されればいいほうで、小次郎ちゃんを脅す人質にされるか……それとも……」
「やだ、お姉ちゃん、怖い!」
整った顔で淡々と怖い話をしないで!
「そうか……俺たちがどうにかされる危険もあるのか……」
私は姉の言葉に、あの召喚された部屋にいたこっちの世界の人たちを思い出してみた。
成金気味な太った国王と意地悪そうな王妃。白いズルズルした服を着た爺さんたち。屈強な体を鎧で覆った無表情な騎士と何も話さない無表情で人形のようなメイドたち。
……ダメじゃない、これ?
「逃げるなら早いうちがいいな」
「そうね、顔を覚えられたら大変だもの」
今ならぼんやりとした顔で印象には残ってないはず。
「でもね、黒髪黒瞳が珍しいって作品もあってね?」
姉の言葉は今回はスルーする。騎士やメイドの中に黒髪はいたし、たぶん黒い瞳もいたと思う。確かに金髪、銀髪だけでなく、ゲームのアバターみたいにカラフルな髪の色と瞳の色だったけど。
私たちは部屋の外に話し声が漏れないように、顔を近づけさせて小声で話し続けた。
翌日の朝。
部屋の寝台で兄と小次郎。私と姉で寝たのだが……よく眠れなかった。
兄も目をショボショボさせているし、小次郎は昨日に続き顔色が悪い。私もさっきから欠伸が止まらない。
「あら、いいお天気」
姉は変わらず。どうして? はたから見て一番繊細で弱々しいイメージなのに、神経が人一倍図太いなんて……生まれてからずっとの付き合いだけど、未だに解せないわ。
コンコンと扉がノックされたあと、昨日のうちに築いたバリケード(移動できた家具一式)がズリズリと動いて扉が開けられた。マジか……。
ガタンと大きな音を立てて開かれた扉から、まずは武器を持った騎士がドカドカと入ってきた。その後ろをワゴンを押したメイドたちが現れる。
ひょいと片眉を上げたメイドの一人が右手を上げると、倒れた家具を直し、テーブルの上に運んできた朝食を並べていく。
この間、橘家の四人は危機感もなくぼんやりと見ていただけだった。
全てが整えられたあとメイドたちは一礼して部屋から出ていき、騎士たちは扉を静かに閉めて部屋の外へ出た。
「なに? いまの」
「あら、おいしそ」
姉の緊張感のなさー。ドッと疲れるー。
「……昨日の昼から食べてない。とりあえず食べよう」
「……」
私たちはテーブルにつき、手を合わせ呟いた。
「「「いただきます」」」
私はフォークを手にオムレツへと手を伸ばし、兄はパンを千切る。姉はオレンジジュースっぽい液体の入ったグラスを持ち上げた。
「あ」
小次郎がじっと見ていたお皿から顔を上げて、声を漏らした。
「だ、だめ。何か入っている!」
……カラーン。
え? もうひと口食べちゃったわよ? 姉はグラスに口を付けた状態で固まっているし、兄は両手に持ったパンと小次郎の顔との間で視線を往復させていた。
「……このスープ。何か……」
スープ? 黄色のスープ。コーンスープかな? って思ってたけど、こ、これに何が入っているの?
よく見てみると私たちの食器は真っ白でなにも装飾はないけど、小次郎の前に置かれた食器だけは青いラインが入っていた。
たぶん、勇者である小次郎の食事にはなにも混ぜられていないのだ。
「こ、これ、飲んだらどうなるのかな?」
私は震える手でスープの皿を指差した。ま、まさか、毒が入っているとかじゃないわよね?
「……たぶん、眠り薬?」
「「「ほおーぅ」」」
一同、大きく息を吐いて胸を撫で下ろしました。よかった……毒じゃない。睡眠薬も一歩間違うと死んじゃうけど……。
「とにかく、スープを飲むのはやめよう。だが、スープだけ残っていると疑われるからどこかへ捨てよう」
そうね。こっちの世界の眠り薬が効かない異世界人と思わせておかないと、小次郎の能力がバレ……ん?
「小次郎。なんでスープに薬が入っているってわかったの?」
小次郎は視線を迷わせてもじもじとしたあと、小さな声で教えてくれた。
「字が見えたの。スープに眠り薬入りって」
なに、それ? 私と兄が小次郎の不思議現象に口を開いていると、姉が興奮したように早口でまくし立ててきた。
「やだぁ! それって鑑定能力かしら? それとも千里眼? いやあぁぁぁん神の眼とか? 小次郎ちゃんのスキル、すっごいわぁ!」
……姉よ、私たちにもわかる言葉で喋ってくれ。
勇者らしい小次郎はまだ七歳。巻き込まれ召喚の私たちの能力は、召喚した奴らが鼻で笑う程度。
詰んだ……。
頭はいいが、漫画やアニメに疎く、ゲームもパズル系しか嗜まない長男は「異世界」にピンときていないし、私だってそんなに詳しくない。ただ、オタクで現在の仕事も出版社の編集者という強者である姉がいた。今こそ、その知識を活用すべき!
「あら~、異世界あるあるはわかるけど、今すぐこのお城を抜け出してどうすればいいかなんて、具体的にはわからないわ~」
「……」
私は目を半眼にして姉を見た。相変わらずマイペースな人だ。この異常事態のなかだと不思議に安心感を与えるけど。
「勇者として利用される前には抜け出さないと、小次郎が危ないだろう?」
兄は小次郎の体を抱っこしたまま、難しい顔で唸りだす。
「わたしたちも危ないわよ? 異世界から来たのにたいした能力もなかったみたいだし、放逐されればいいほうで、小次郎ちゃんを脅す人質にされるか……それとも……」
「やだ、お姉ちゃん、怖い!」
整った顔で淡々と怖い話をしないで!
「そうか……俺たちがどうにかされる危険もあるのか……」
私は姉の言葉に、あの召喚された部屋にいたこっちの世界の人たちを思い出してみた。
成金気味な太った国王と意地悪そうな王妃。白いズルズルした服を着た爺さんたち。屈強な体を鎧で覆った無表情な騎士と何も話さない無表情で人形のようなメイドたち。
……ダメじゃない、これ?
「逃げるなら早いうちがいいな」
「そうね、顔を覚えられたら大変だもの」
今ならぼんやりとした顔で印象には残ってないはず。
「でもね、黒髪黒瞳が珍しいって作品もあってね?」
姉の言葉は今回はスルーする。騎士やメイドの中に黒髪はいたし、たぶん黒い瞳もいたと思う。確かに金髪、銀髪だけでなく、ゲームのアバターみたいにカラフルな髪の色と瞳の色だったけど。
私たちは部屋の外に話し声が漏れないように、顔を近づけさせて小声で話し続けた。
翌日の朝。
部屋の寝台で兄と小次郎。私と姉で寝たのだが……よく眠れなかった。
兄も目をショボショボさせているし、小次郎は昨日に続き顔色が悪い。私もさっきから欠伸が止まらない。
「あら、いいお天気」
姉は変わらず。どうして? はたから見て一番繊細で弱々しいイメージなのに、神経が人一倍図太いなんて……生まれてからずっとの付き合いだけど、未だに解せないわ。
コンコンと扉がノックされたあと、昨日のうちに築いたバリケード(移動できた家具一式)がズリズリと動いて扉が開けられた。マジか……。
ガタンと大きな音を立てて開かれた扉から、まずは武器を持った騎士がドカドカと入ってきた。その後ろをワゴンを押したメイドたちが現れる。
ひょいと片眉を上げたメイドの一人が右手を上げると、倒れた家具を直し、テーブルの上に運んできた朝食を並べていく。
この間、橘家の四人は危機感もなくぼんやりと見ていただけだった。
全てが整えられたあとメイドたちは一礼して部屋から出ていき、騎士たちは扉を静かに閉めて部屋の外へ出た。
「なに? いまの」
「あら、おいしそ」
姉の緊張感のなさー。ドッと疲れるー。
「……昨日の昼から食べてない。とりあえず食べよう」
「……」
私たちはテーブルにつき、手を合わせ呟いた。
「「「いただきます」」」
私はフォークを手にオムレツへと手を伸ばし、兄はパンを千切る。姉はオレンジジュースっぽい液体の入ったグラスを持ち上げた。
「あ」
小次郎がじっと見ていたお皿から顔を上げて、声を漏らした。
「だ、だめ。何か入っている!」
……カラーン。
え? もうひと口食べちゃったわよ? 姉はグラスに口を付けた状態で固まっているし、兄は両手に持ったパンと小次郎の顔との間で視線を往復させていた。
「……このスープ。何か……」
スープ? 黄色のスープ。コーンスープかな? って思ってたけど、こ、これに何が入っているの?
よく見てみると私たちの食器は真っ白でなにも装飾はないけど、小次郎の前に置かれた食器だけは青いラインが入っていた。
たぶん、勇者である小次郎の食事にはなにも混ぜられていないのだ。
「こ、これ、飲んだらどうなるのかな?」
私は震える手でスープの皿を指差した。ま、まさか、毒が入っているとかじゃないわよね?
「……たぶん、眠り薬?」
「「「ほおーぅ」」」
一同、大きく息を吐いて胸を撫で下ろしました。よかった……毒じゃない。睡眠薬も一歩間違うと死んじゃうけど……。
「とにかく、スープを飲むのはやめよう。だが、スープだけ残っていると疑われるからどこかへ捨てよう」
そうね。こっちの世界の眠り薬が効かない異世界人と思わせておかないと、小次郎の能力がバレ……ん?
「小次郎。なんでスープに薬が入っているってわかったの?」
小次郎は視線を迷わせてもじもじとしたあと、小さな声で教えてくれた。
「字が見えたの。スープに眠り薬入りって」
なに、それ? 私と兄が小次郎の不思議現象に口を開いていると、姉が興奮したように早口でまくし立ててきた。
「やだぁ! それって鑑定能力かしら? それとも千里眼? いやあぁぁぁん神の眼とか? 小次郎ちゃんのスキル、すっごいわぁ!」
……姉よ、私たちにもわかる言葉で喋ってくれ。
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