迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお

文字の大きさ
4 / 52
勇者召喚と逃亡

勇者召喚 ④

しおりを挟む
「やっほー」

やけに軽い声で、見知らぬ誰かに呼びかけられた。
眩しくて閉じていた目を開けると、真っ白な部屋。白い天井、白い壁、白い床……ここは部屋なの? ただ白いだけの空間にポツンと存在している私たち。

え? なにここ。やっぱり、死んじゃった?

「やだなぁ。死んでないよ」

フヨフヨと胡坐状態で空中に浮かんでいるのは黒髪の少年。少年? 浮かんでいる? あれ? 幽霊?

「だから違うって。ぼくは幽霊じゃないし、ここは死後の世界でないよ」

目の前で手を横に振り振り否定されても、正体不明なお前の存在が不安を駆り立てるのよっ。

「あ、お兄ちゃんたち」

左右を見回すと座り込んで頭を摩っている兄と、お互いを抱きしめ合った姉と小次郎の姿が確認できた。
よかった……怪しい場所だけど、家族はバラバラにならないで一緒だった。

「怪しい場所って、君は失礼な子だな」

空中に浮かんでいる少年は、口では文句を言いながら楽しそうに私の顔を眺めている。

「も、もしかして、神様ですか?」

姉が恐る恐る少年に話しかけたが、「神様」ってそんなわけないでしょ。

「やっぱり、君は異世界の知識があるから聡いね。そうだよ。僕がこの世界の神だよ」

……この子、頭大丈夫かしら?

私がそう心の中で呟くと、少年は頬をぷくっと膨らませて私へ抗議してきた。

「頭は正常だよ。僕は正真正銘、神様だよ。だから殺されそうになった君たちを、この部屋に隔離して助けてあげることができたんだよ。橘菊華ちゃん」

「私の名前……」

「神様だから、なんでも知っているのさ。橘葵、橘桜、そしてこの世界の勇者、右近小次郎くん」

ぜ、全部バレている……。

「大丈夫よ、菊華ちゃん。神様はねこの世界に召喚してしまったことを謝ってくれて、その世界でも問題なく暮らしていけるように、異世界転移者にチート能力を贈ってくれるのよ」

姉が上気した頬でやや興奮気味に喋りまくる。本当にそんな出過ぎた話があるのか? 私は当然疑いの目だ。

「あ、ごめん。それはムリ」

ほら、やっぱり。この世界の連中はろくでもない奴らしかいないんだっ!





























胡坐でフヨフヨと空中に浮いていた自称神様は、私から迸る害意に少しビビッてちょこんと地上に降りてきた。

「とりあえず。話をしよう」

パチンと指を鳴らすと何もなかった空間にテーブルと椅子。お茶とお菓子が用意された。

「わっ!」

突然の現象に後退って驚く常識人の兄と、魔法みたいな手品に大喜びの姉。私は呆然としている小次郎の手をしっかりと繋いだ。

促されるままに椅子に座り、姉がお茶をひと口飲んだのを確認してから、私もカップに口をつけた。
……美味しい。毒とかヤバい薬は入ってなさそう。上目がちに神様の顔を窺い見ると、こちらの思考は読まれているせいか、ニッコリと笑顔で返された。

「異世界の君たちにまずは謝罪を。僕の世界の住人が許されざる召喚魔法を使って世界を渡らされたこと、謝罪する」

ペコリと神様は頭を下げたあと、勢いよく顔を上げて真っ直ぐに小次郎を見つめる。

「この世界に誕生した勇者よ。君をこの世界の神である僕は歓迎するよ」

「それで……やっぱり私たちは元の世界には帰れないんですか?」

兄が恐々と質問すると、神様は重々しく頷いた。

「そう。君たちの世界と僕の世界は異質すぎる。行き来はできない。この世界で生きていってほしい」

……そうか。なんとなく覚悟はしていたが、悲しい。鼻の奥がツーンとしてきたが小次郎の手前、大人である私がみっともなく泣くわけにはいかない。
グッと堪えてる横で姉がグスグスと鼻を鳴らし始めた。

「それじゃあ、姉が言っていたチート能力は?」

ムリって言われても、こんな世界で家族が一緒に安穏と暮らす手立ては欲しい。

「能力は無理だよ。この世界に渡ったときに得たスキルを伸ばしていくしかない。小次郎は勇者だからチート能力だけど」

「「「……」」」

それって、あの国の白いズルズルした服を着たおっさんが鼻で笑った能力よね?

神様の調べてくれたら、兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」があった。

「わ、私は?」

「君はね……「手芸創作」ってあるけど、なんだろうね? あははは」

笑ってごまかすな! この世界の神様でもわからない能力ってなんなのよ!

「小次郎は勇者としての能力は歴代の勇者の中でもズバ抜けている。でも子どもだから、今は眠っている状態だ。成長する体に合わせて強くなっていくよ。それまでは「勇者」とはわからないように隠しておこう」

神様が小次郎の目を手で閉じさせる。一瞬、神様の手から光が放たれると、スウーッとその光が小次郎の体の中へと吸い込まれ消えていった。

「勇者であることは隠蔽したから、どんな魔道具でも鑑定スキルでも、見破ることはできない」

これで、この世界の人に小次郎が勇者だとバレる心配はなくなった。

「僕は異世界の者に個別にスキルを与えることはできない。僕はこの世界になるべく干渉しないとルールを決めてしまったから……」

へにょりと情けない顔になった神様。少年の姿をしているけど長い時間を生きているんだろう。でも、そんな幼気な少年姿でしょんぼりとされると心が痛むのよっ。決して神様の名に相応しい美少年だからではない。

「でも抜け道はあるんだ。それは、君たちが努力をしてスキルを極めることだ。わかるように言うとレベル上げかな?」

レベル上げ? なんか急にロールプレイングゲームみたいな話になってきたぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良
ファンタジー
「俺は人外じゃないし、女神の子供でもないし、救国の英雄でも、治癒を司る神でもないし、権力も信仰も興味無いから錬金術だけやらせてよ。」 女神の事情でVRゲームの元になった異世界に転移した男子高校生が何故かめちゃくちゃ勘違いされる話。 **** またもや勘違いものです。 主人公に対して各キャラ(男女問わず)から矢印を向けられる総愛され気味ですが、本編で特定の誰かとくっ付くことはありません。 目指せ毎週月、金16時更新。(1話と2話のみ同日更新です。) どうしても間に合わない場合はXにて告知します。 感想!貰えたら!!嬉しいです!!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...