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勇者召喚と逃亡
勇者逃亡 ①
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真っ白い神様の世界から一瞬で移動した場所は、緑、緑、緑の世界……って、ここ森の中じゃないの?
「あら、転移先がモンスターが生息する森の中って、お約束よね」
呑気な姉の言葉に、ふつふつと怒りが湧いてくるわっ。もちろん、あの少年神様によっ。
モンスターが生息って、まさか、ここでモンスター対峙しまくってレベルを上げましょうって魂胆なの?
「まあ、待て菊華。ほら、あっちに道があって、何人か連なって歩いているみたいだぞ」
冷静な兄の言葉に顔を向けてみれば、木々の隙間から大人子ども、男女の区別なくぞろぞろと歩いてる人たちが見えた。
「とりあえず、あっちに行こう。神様の話では、まだこの森もあの国の中だから、早く脱出しないと」
そうだ! あの国王たちに捕まる前に国境を越えないと、私たちはたぶん処分されてしまう。そうしたら小次郎はこんな世界にひとりぼっちになっちゃうもの。
「行こう。小次郎は歩ける?」
「うん、大丈夫」
コクンと力強く頷いて、小次郎は兄の手をギュッと握った。
「き、菊華ちゃん。お、お姉ちゃんは、あんまり歩けないかも……」
万年インドアでコミケや推し活しか行動しない姉を、冷たい視線で射抜いて問答無用で腕を引っ張っる。
「ほら、早く。タクシーなんてないんだから、自分の足で歩くのに慣れなきゃ!」
「ひ、ひえええぇっ」
欲しい同人誌のために早起きして何時間も並べるなら、ちょっとぐらい歩くの平気でしょ。
グイグイッと姉の腕引っ張り、私たちは森の中から、舗装されていない道へと歩きだした。
さりげなく列の後ろに紛れ込んだ私たちを、警戒する人たちはいなかった。
どうやら、あの神様は前の世界から転移したままだった私たちの服装を、こちらの世界に合わせて変えてくれていた。
兄は生成り色で丈の長いチュニックに茶色のズボン、ショートブーツ。肩から下げるタイプのバッグあり。姉は紺色のワンピースに膝までの編み上げブーツ。腰にウエストポーチ付きのベルトをしている。
小次郎は兄と似た格好でズボンは黒でひざ丈、布で作られた靴。深緑色のリュックを背負っている。丈長のチュニックの裾で見えないがナイフが一本ベルトに挟んであった。
私は茶色のスタンドカラーのシャツに黒のスキニーパンツ、黒のロングブーツ。……バッグはない。なんで?
街道を歩いている人たちの恰好も似ているようだから、この世界の平民としては普通の服装なんだろう。
……なんで、私だけバッグがないのよ? そりゃ、まだ持ち歩くような荷物はないけど……暴力振るったから神様の意地悪かな? ちっ、小さい男ね。
こちらが周りから浮くことはないとわかったけど、困ったのは歩いている人たちの顔がみんな暗いこと。
黙々と歩いてるけど、私たちはなぜ歩いているのかも、どこへ向かっているのかもわからないから、不安でしょうがない。
同じように思った兄が、思いっきって少し前を歩くおじさんに話しかけた。
「あのぅ」
「ん? なんだ、村じゃ見ない顔だな?」
ギクッ! ここの人たちってみんな同じ村で生活している人たちだった?
「ああ、もしかして親戚かなんかを訪ねてきたときに、運悪く当たっちまったか?」
「え? ええ、そうです。訪ねてきたのに……あ、会えずじまいで……」
兄の愛想笑いが引きつっているのを、笑うことはできない。私の背中にもイヤな汗がダラダラと流れている。
「しょうがない。もしかしたら逃げられんかったかもしれん。急なスタンピードだったしなぁ。俺らも逃げるので精一杯だったわ」
おじさんがしみじみと語るが……スタンピードってなに? 逃げるってなに?
「あのね、スタンピードってモンスターが大勢で暴走することなの。ここの人たちの村はモンスターに襲われて逃げてきたのね」
こそっと姉が私の耳に囁いた。
モンスターの暴走?
「お、俺たちですね、そのぅ、とにかく逃げてきたので、ええっと、どこに向かっているのでしょう?」
兄の声が上ずっているが、おじさんはスタンピードによる恐怖だと思ったらしく、兄や私たちに同情してくれた。
「そうか……村に来てすぐにスタンピードじゃ、何も用意できなかったろう。だが、安心しな。領主様が領都に避難民のためのテントを用意してくださる。一か月ぐらいは炊き出しもしてもらえるし、なんなら仕事も斡旋してくれるぞ」
バンバンと兄の背中を叩いて明るく話すおじさんは、兄に引っ付いている小次郎に気が付くと、その大きな手で頭を撫でてくれた。
「……領主様って、そ、その、どこの領地の?」
怪しい! そこまで聞いたら怪しいよっ。私が兄の質問に内心焦っていると、おじさんはきょとんとした顔をしたあと、首を傾げた。
「ははぁん。お前さんたち余所者か。この国に来て知り合いを訪ねてきたってところだろう? ここはトリーア王国だが、これから行くのはお隣の国、ノイス国だ。そこの辺境伯様が支援を申し出てくれて移動しているのよ。正直、トーリア王国じゃケチだから、炊き出しはなかったと思うぞ」
ラッキー! このままこの人たちと移動していれば、無事にトーリア王国からは脱出できそう!
「あら、転移先がモンスターが生息する森の中って、お約束よね」
呑気な姉の言葉に、ふつふつと怒りが湧いてくるわっ。もちろん、あの少年神様によっ。
モンスターが生息って、まさか、ここでモンスター対峙しまくってレベルを上げましょうって魂胆なの?
「まあ、待て菊華。ほら、あっちに道があって、何人か連なって歩いているみたいだぞ」
冷静な兄の言葉に顔を向けてみれば、木々の隙間から大人子ども、男女の区別なくぞろぞろと歩いてる人たちが見えた。
「とりあえず、あっちに行こう。神様の話では、まだこの森もあの国の中だから、早く脱出しないと」
そうだ! あの国王たちに捕まる前に国境を越えないと、私たちはたぶん処分されてしまう。そうしたら小次郎はこんな世界にひとりぼっちになっちゃうもの。
「行こう。小次郎は歩ける?」
「うん、大丈夫」
コクンと力強く頷いて、小次郎は兄の手をギュッと握った。
「き、菊華ちゃん。お、お姉ちゃんは、あんまり歩けないかも……」
万年インドアでコミケや推し活しか行動しない姉を、冷たい視線で射抜いて問答無用で腕を引っ張っる。
「ほら、早く。タクシーなんてないんだから、自分の足で歩くのに慣れなきゃ!」
「ひ、ひえええぇっ」
欲しい同人誌のために早起きして何時間も並べるなら、ちょっとぐらい歩くの平気でしょ。
グイグイッと姉の腕引っ張り、私たちは森の中から、舗装されていない道へと歩きだした。
さりげなく列の後ろに紛れ込んだ私たちを、警戒する人たちはいなかった。
どうやら、あの神様は前の世界から転移したままだった私たちの服装を、こちらの世界に合わせて変えてくれていた。
兄は生成り色で丈の長いチュニックに茶色のズボン、ショートブーツ。肩から下げるタイプのバッグあり。姉は紺色のワンピースに膝までの編み上げブーツ。腰にウエストポーチ付きのベルトをしている。
小次郎は兄と似た格好でズボンは黒でひざ丈、布で作られた靴。深緑色のリュックを背負っている。丈長のチュニックの裾で見えないがナイフが一本ベルトに挟んであった。
私は茶色のスタンドカラーのシャツに黒のスキニーパンツ、黒のロングブーツ。……バッグはない。なんで?
街道を歩いている人たちの恰好も似ているようだから、この世界の平民としては普通の服装なんだろう。
……なんで、私だけバッグがないのよ? そりゃ、まだ持ち歩くような荷物はないけど……暴力振るったから神様の意地悪かな? ちっ、小さい男ね。
こちらが周りから浮くことはないとわかったけど、困ったのは歩いている人たちの顔がみんな暗いこと。
黙々と歩いてるけど、私たちはなぜ歩いているのかも、どこへ向かっているのかもわからないから、不安でしょうがない。
同じように思った兄が、思いっきって少し前を歩くおじさんに話しかけた。
「あのぅ」
「ん? なんだ、村じゃ見ない顔だな?」
ギクッ! ここの人たちってみんな同じ村で生活している人たちだった?
「ああ、もしかして親戚かなんかを訪ねてきたときに、運悪く当たっちまったか?」
「え? ええ、そうです。訪ねてきたのに……あ、会えずじまいで……」
兄の愛想笑いが引きつっているのを、笑うことはできない。私の背中にもイヤな汗がダラダラと流れている。
「しょうがない。もしかしたら逃げられんかったかもしれん。急なスタンピードだったしなぁ。俺らも逃げるので精一杯だったわ」
おじさんがしみじみと語るが……スタンピードってなに? 逃げるってなに?
「あのね、スタンピードってモンスターが大勢で暴走することなの。ここの人たちの村はモンスターに襲われて逃げてきたのね」
こそっと姉が私の耳に囁いた。
モンスターの暴走?
「お、俺たちですね、そのぅ、とにかく逃げてきたので、ええっと、どこに向かっているのでしょう?」
兄の声が上ずっているが、おじさんはスタンピードによる恐怖だと思ったらしく、兄や私たちに同情してくれた。
「そうか……村に来てすぐにスタンピードじゃ、何も用意できなかったろう。だが、安心しな。領主様が領都に避難民のためのテントを用意してくださる。一か月ぐらいは炊き出しもしてもらえるし、なんなら仕事も斡旋してくれるぞ」
バンバンと兄の背中を叩いて明るく話すおじさんは、兄に引っ付いている小次郎に気が付くと、その大きな手で頭を撫でてくれた。
「……領主様って、そ、その、どこの領地の?」
怪しい! そこまで聞いたら怪しいよっ。私が兄の質問に内心焦っていると、おじさんはきょとんとした顔をしたあと、首を傾げた。
「ははぁん。お前さんたち余所者か。この国に来て知り合いを訪ねてきたってところだろう? ここはトリーア王国だが、これから行くのはお隣の国、ノイス国だ。そこの辺境伯様が支援を申し出てくれて移動しているのよ。正直、トーリア王国じゃケチだから、炊き出しはなかったと思うぞ」
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